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東条茜、うんこをする 2

 △


 ここは『肛門』……人体でもっとも固く閉じられた門である。

 荘厳な構えの鉄の門だった。槍を持った門番が厳しい表情で門の前に立ち、全力を持って脱走者を止める構えを見せていた。

 そんな固き門に尋ねて来たものがいる。小柄で気弱そうな少女だ。茜の幼馴染の双子姉妹の妹の方に似ていた。似ているというか額に『うんこ』って太いマーカーで書いてある以外完全に緑子だった。誰がこんなかわいそうなことを。ここはぶっちゃけ腹痛のあまりに茜の見た白昼夢の中の世界なので、登場人物も茜の数少ない友人たちで占められているのだろう。数少ないというかあの双子以外友達いないんだけど。

 「なんや自分? 名を名乗れ」関西弁ともちょっと違う独自のイントネーションで門番は言った。門番は案の定紫子だった。でかい西洋甲冑風のヘルメットを頭の上に乗っけて、手には槍を持っている。

 「お、おならです!」額に『うんこ』と大きく書いてある緑子は大声で嘘を吐いた。

 「えぇ……。いや、自分うんこやろ? 額に書いてあるやん。すまんけど今うんこは通れん時間でな。トイレ行くまでちょっと待ったって。あかねちゃんに恥かかすんもかわいそうやろ」

 「うう……でもお姉ちゃん。わたし、本当に今すぐに出ていかなくちゃいけないの。なんか変なお薬みたいなのが流れて来て、腸にいられなくなっちゃって……。どうしてもだめ?」

 「どうしても言われてもなぁ……」門番の紫子は腕を組む。「……まあ、しょうがないやろ。今回だけやで? おならっちゅうことにしといたるわ。通ってえぇで」

 「本当! 助かったぁ。お姉ちゃん大好き! 行って来るね」

 「気ぃつけてなー。夕飯までに帰るんやでー」

 開かれた肛門から立ち去っていく妹を、紫子は手を振って見送った。


 △


 「うむむむ。ふぅ……あ。やってしまいましたねこれは」

 廊下で壁に手を突いていた茜はやらかしたことに気付いて腕を組む。「これは不覚です。生きているとこういうこともあるんですね」

 「どうしたの、東条さん」話しかけて来たのは茶園だった。「次、違う教室でやることになったらしいよ」

 「ああこれは茶園さん。『ぼっち』である私にそんなことが自然に伝わる訳がないので、先生から特別に指名を受けた茶園さんが直接言いに来てくれたんですね。ありがとうございます」

 「そういうこと見抜いて言っちゃうから東条さんは友達いないんだと思うけど……。というか、どうしたの? なんか様子が変だったけど」

 「ああいや、実はおならをしたつもりが派手にビチクソもらしましてね」茜はあっけらかんと言ってのけた。

 「は?」茶園は目を剥く。「え? は? え? ごめん、ちょっと何言ってんのか分かんないんだけど」

 「いやだからうんこ漏らしたんですよ。言ってることは単純でしょう?」

 「あ? え? いや……」茶園は一瞬軽蔑したような表情を茜に向けてから、すぐに平静を装って小さな声に切り替える。「それはしょうがないけど、ダメでしょ、そんな大声で」茶園はかわいそうなくらい狼狽えて周囲の視線を気にしていた。

 「何を隠す必要があります? 私に言わせればクソ漏らしたくらいのことをいちいち小声で知らせたり、狼狽えたり恥ずかしがったりする方が人間もケツの穴も小さいですね」茜はやれやれと肩を竦める。「しかし困りました。このままだと肛門周辺の肌が荒れてしまいます」

 「き、着替え買って来てあげるから、向こうのトイレで待ってて!」茶園は廊下を駆け出してその場を去って行った。

 「……良い人ですね、茶園さん」茜は言った。「しかしこれ、本当、どうしてくれましょうか? 行動は監視されていたはずです。私に恥をかかせるつもりなら、向こうのトイレの近くで何人か待ち伏せていると考えるのが妥当ですが……」

 「あぁーっ! 東条、あれ飲んだんだってね?」などと言いながら、廊下の向こうから歩いてきたのは取り巻きを連れた白石だ。「体調どうよ? ねえ? 言うまでもないと思うけど、トイレに行けるなんて思わないでよね? うん? なにこの臭い? あ、もしかして、もう……」

 「くらいなさい」茜は淡々とパンツの中に手を突っ込み、その中の『あるもの』を手に取った。「ドン・アッカーネ最大最終禁断の超兵器です」

 160キロ出す時の大谷翔平ばりの投球フォームで投げ放たれた『それ』は、鋭い軌道で白石の胸元にぶちまけられた。あちこち爆ぜた『それ』に周囲は驚愕し、蜘蛛の子を散らしたようにその場を離れる。

 茜の経験上、こういう時に最初に考えるべきことは、相手や周囲に舐められない為の最大の行動は何かということだ。これには白石も凍り付いた表情でその場を硬直するしかない。茜はほほ笑みながらゆっくりパンツを脱ぐと、クソ塗れのそれを白石の顔面に向けてぶん投げた。

 「い、いやああああ!」

 はっとした白石は顔面に向かって来るそれをどうにか回避しようと足をばたつかせ、その拍子に転んでしまう。その為幸いにもパンツは白石の頭上を通過した。クソ塗れのパンツを弾幕に、茜はその場を踏み込んでノーパンで飛び上がる。そして転んだ白石の左右に足を置いて着地して組み伏せにかかった。鍛えてあるので喧嘩なら負けない。

 「ちょ……なにすんのよあんた! アタマおかしいんじゃないの? 汚い!」

 「汚いのはお互いさまです。よくも大切な友達からのプレゼントに下剤なんて仕込みやがったものですね」言いながら、茜は組み伏せた白石に〇〇ター〇ッパーを突きつける。「まったく。うんこ漏らしたのなんて小学校二年生の遠足の時以来ですよ」

 「はん! いい気味だわ!」白石は虚勢を表情ににじませて吠える。「あんたは生き恥かいたのよ! 人前で漏らして、とち狂ってそれを手に取ってぶん投げるなんて! 二度と学校に来れると……」 

 「一つ教えてさしあげましょう」茜はにっこり笑う。余裕の笑みだった。「本当に気高い人間は、たとえビチクソを漏らしていても気高いんですよ。……まあ、あなたのような薄っぺらな人間には、とうてい耐えられないことでしょうけどね」

 「どういう意味……?」

 「ところでみなさん。割り込もうとするなら、分かってますね?」言いながら、茜は傍に落ちていた自分のパンティを手に取った。「いくら私が美少女だからって、ビチクソ食らいたくはないでしょう? ね?」

 周囲のギャラリーたちは怯えた様子で茜たちから距離を取る。それに満足して、茜はパンツを置いた。それから白石の頭をがっちりと左手で掴んで、右手でペットボトルを口元に突きつける。

 「は? いや、待って! おかしいでしょこんモガガガっ!」茜は白石の口を強引に押し開いてその中に下剤入り〇〇ター〇ッパーを注ぎ込んだ。

 口の中にペットボトルの口が押し入れられてしまっている以上、人体の構造上どんなに抵抗しようとも体内に入っていくのを止められはしない。入っていた分全部きっちり飲ませてやった。

 「さあて。あなたの幸運が試されます」茜はとても楽しそうな口調だ。「度胸のある大人がこの状況を止めにやって来てあなたを救うのが早いか、この強力下剤入り〇〇ター〇ッ〇ーによってあなたが脱糞するが早いか。ドキドキワクワクですね」

 自分があれを飲んでから腹が痛くなるまでの間隔を思い出せば、この下剤が超即効性のものであると分かる。こんなものどこで手に入るか分からないがおそらく数分とかかるまい。白石は茜の拘束から逃れようとその場をじたばたするが、茜は絶対に離さない。地面に組み伏せて脱出を許さず、校則を超えて短くしたそのスカートをさりげなく翻してやった。

 「良く見えますよ。携帯電話で撮影してくださってる方もいるようです。嬉しいですね」

 「た、助けて!」白石は顔面蒼白で絶叫した。「助けて! 謝るから! 土下座でもなんでもするから! 見逃して! トイレ行かせて!」

 「おひぃさまがみつめるぅう♪」十八番の歌を歌いながら、白石の腹をぐりぐり押して蠕動運動を促した。「ひなたぁのかえるぅをわらってるぅうう♪」

 「や、やめて! それをやめて。あ、ああ! やめ、やめて……やめ……っ! ああ、あああああ!」

 白石の絶叫が廊下中にこだました。


 △


 「……勝ちました。私の勝利です!」自分の名前と同じ茜色の空を見ながら、茜は上機嫌に言った。「おまけに停学になって夏期講習に出なくても良くなりましたし、本当に良い気分ですね」

 夕焼け空の茜色がやけに綺麗に見える。一暴れした後の静寂はとても濃密だ。夏の夕方の生ぬるい風は不思議な柔らかさがあり、茜を清々しい気持ちにさせた。

 「お? あかねちゃんやん。おーい」良い気分で道を歩いていると、向こうから紫子と緑子の姉妹が連れ立って歩いてきた。「あのジュースどうやったー? まずかったやろー」

 「あ、いやすいません。実はあれ飲めてないんですよ。バカが中身を捨てやがりましてね。多少は私の胃にも入ったんでしょうけど味わえてはいません」

 「なんやもったいないことする奴がおるなー」紫子は言った。「まあえぇわ。これから銭湯に行くとこなんやけど、一緒にどうや?」

 「おや、これは好都合」茜はにこりと笑った。「ノーパンで原付乗るのは流石に抵抗がありますからね。かといって茶園さんがくれた着替えを汚すのも悪いですし、どうしようかと思っていたんです。なるほど銭湯という手がありますね」

 「……どういうこと?」紫子の背後で緑子が首を傾げて言った。「あかねちゃん、何かあったの?」

 「ああ、実はビチクソ漏らしまして」茜はあっけらかんと言った。

 「マジで? そういやそないな臭いするわ自分。あっはっは。なんや一糞漏らしたんか自分、まーぬけぇ。えんがちょー」紫子が笑う。

 「これですよ、これ!」と茜はにっこり。「こういうリアクションがもらえないと、ビチクソ漏らした甲斐がないってものですよ。茶園さんは真面目すぎるんですよねぇ」

 「お、女の子がビチクソとか言っちゃだめだよ二人とも……」緑子が控えめな口調ですごく恥ずかしそうに言った。「あかねちゃん、あんまり気にしないでね。うんちなんて私も漏らす時は漏らすから」

 『ビチクソ』という表現はアウトで、『漏らす時は漏らす』というカミングアウトはセーフなのか。この子の感性はちょっと良く分からない。とても良い子なんだけど。

 「せやせや。生きてりゃそんな日もあるで」紫子はそう言って笑った。「まあ銭湯行こうか。あ、でも流石に今のあかねちゃんは入店拒否かもわからんでぇ、あんまり臭くてな! ははは!」

 「おや? 良いんですか今の私に逆らっても」そう言って茜は両手を出す。何でとは言わないが汚れている。「お姉さんと握手させてあげてもいんですよ? ん? ん?」

 「は? いや、なんで手ぇにクソついとるん? マジ何があった?」

 「クソ塗れでレスリングしましたからね。ちなみにこれ、二人分です」

 「二人分!?」

 「顔に塗りつけてやったんです。ほら、ほら」

 「ほ、本気でやめろ! うわわ!」

 本気で逃げまくる紫子を茜が嬉々として追いかけて、この話はおしまい。

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