表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとりぼっちの少女と、虚影の魔王  作者: 遠野九重
後編 わたしはあなたのことをあいしています
23/25

第十九話 二人の温度

 さすがに人前でお姫様抱っこは恥ずかしすぎるので、途中からは自分で歩くことにしました。

 まるで迷路みたいな薔薇の庭園を抜けて、レルネ城へ。


 中に入るのは、二ヶ月前の召喚以来の事です。


「わたし、こんな格好でいいんでしょうか……」


 お城の中は高級そうなフカフカの絨毯が敷かれ、蔦を象った燭台や、いかにも値が張りそうな花瓶なんかが飾ってありました。

 わたしはというと気軽な普段着のまま、薄青色のチュニックワンピースなので少し気後れしてしまいます。

 うう。

 周囲から「なにあの貧乏くさい格好」なんて思われてはいないでしょうか。


「大丈夫だよ、真川さんは元がいいし。ほら行こう」


 有沢くんに連れられ、魔導エレベーターに乗り込みます。


「部屋は20階だし、かなり眺めはいいと思うよ。向こうもあと少しで片付くし、そうしたらお昼ごはんにしようか」

「寮よりも豪華なんでしたっけ」

「しかもルームサービスだよ。高級ホテルに泊まってる気分になるね」

「ホテル……。一緒の部屋、なんですよね」

「別々のほうがよかったかな?」

「いえっ、そうじゃなくって――」


 昨夜はまだ“有沢くんの(部屋)でお世話になった”という認識でした。

 けれど、今夜は……有沢くんが「ホテル」なんて言うから、なんだか妙に意識してしまって……つい、そっぽを向いてしまいます。

 エレベーターは途中の階に止まることなく動き続け、いま、5階を過ぎました。

 あまり速度ははやくありません。


「ねえ、真川さん」

「は、はいっ!?」

「どうしたの、そんなに緊張して」

 

 ふっと 微笑む有沢くん。


「手、握っていい?」

「ど、どうぞ……」

「ありがとう」


 有沢くんの左手がゆっくりと近づいて、わたしの右手を包むように握りました。

 まるで氷のように冷え切っています。

 わたしを助けるため、色々とスキルと使ったせいでしょう。

 

「有沢くん、手、暖めてもいいですか……?」

「うん、お願い。――昔はどれだけ冷たくても平気だったんだけどね、うん、真川さんのせいだよ。君の手がとても暖かいから、僕はもう寒さに耐えられない」

「じゃあ、その」


 【分度系】を発動させつつ、わたしは。


「これから先もずっと、有沢くんのこと、暖めてあげますね」


 自分でも照れくさくなるようなことを、口にしていました。

 かあっと頬が熱くなります。

 彼のほうを見ていられなくなって、視線を足元に落としました。

 

「……うん。ずっと、側にいてくれたら嬉しい」


 有沢くんの左手が――細い指がそっと動きました。

 ちょっと閉じぎみだったわたしの右手を開いて、指を絡めてきます。

 恋人つなぎ。

 【分度系】で体温を共有しているせいでしょうか、密着した互いの手はその境界線を失っています。

 とても甘い時間でした。


 


 * *




 やがてエレベーターが20階に到着して、廊下に出ると。


「げっ……」


 いつもやわらかな表情の彼にしてはめずらしく、引き攣った表情を浮かべていました。

 その視線の先には。


「よお、シンヤ……と、もしかして恋人さんかな?」


 有沢くんよりもさらに長身の、なんだか小洒落た雰囲気の男性が立っていました。


「オレはラギル・リア・ハイドラ。この国の第三王子なんかをやってます」


 その人はわたしの目の前にやってくると、ごくごく自然な動作でその場に膝をつき、そして。


「どうぞよろしく、可憐なお嬢さん」


 有沢くんと繋いでいないほうの手――わたしの左手に、そっとキスを落としました。


 ……えっ?


「へえ、なかなか初心でかわいいじゃない。なるほど、シンヤの好みはこういうのか、そりゃオレなんか望み薄だな、うんうん」


 一方で、ラギル王子は何事もなく平然としていて。


「お近づきのしるしに耳寄り情報をひとつ。シンヤのやつ、キミが危ないからって窓をブチ破って外に――」

「ラギル王子」


 混乱するわたしを庇うように、有沢くんが前に出ます。


「王子はたしか剣の腕も達者と聞いていますし、ここで一手指南願えますかね」


 彼の顔は見えませんでしたが、全身からはものすごい威圧感が漂っていました。

 足元の影がざわざわと蠢き、狼や竜のかたちに変わっていきます。

 今にも飛び出してきそうなほどの存在感でした。


「おお恐い恐い、冗談だよ、冗談。さすがにキミの恋人を盗る趣味はないさ」


 肩をすくめるラギル王子。


「ま、オレもこういう子が好みだし、シンヤに親近感は沸いたがね。 それじゃあ失礼するよ」


 ハハッと軽い調子で笑い声を上げると、すり抜けるようにしてエレベーターに乗り込んでしまします。

 そのドアが閉まる寸前にウインクしたのは、わたしに向けてでしょうか、有沢くんに向けてでしょうか。


 ともあれ。


「あの王子、いっそ暗殺されないかな……」


 いつもは泰然とした様子の有沢くんが、めずらしく拗ねたような表情を浮かべていて。

 なんだかちょっと可愛いな、と思いました。







 ゲストルームは廊下の奥にあって、、寝室、リビング、応接間の三部屋がひとつに繋がっていました。

 リビングからは王都全体を見下ろす形になっていて、ちょっとした絶景でした。


「素敵、ですね」

「このままお城に済むのも悪くないかな」


 応接間はまんなかに黒塗りのテーブルが置かれていて、座り心地のよさそうなソファが両側を挟んでいます。


 そして、寝室。

 ここからは別の角度で王都を眺めることができるのですが、その。


「ベッド、ひとつですね……」


 部屋には天蓋付きのベッドがひとつだけ。

 キングサイズなので二人で寝転がる分には支障ないのですが、えっと、わたしたちはまだ付き合って1日も経ってないわけで……。


「ごめん、真川さん。宰相さまにツインの部屋がないか聞いてくるよ」


 そういって有沢くんは急いで出て行こうとします。

 わたしは。


「……待ってください」

 

 咄嗟に、その左手を、強く、握っていました。


「有沢くん、スキルの副作用で、手が冷えちゃうんですよね。夜、寝る時に辛くないですか」

「ああ、まあ、それなりに、ね」

「だ、だったら――」


 わたしは彼の眼……を見るのは恥ずかしかったので、うすい唇を見ながら。



「これからは寝る時、わたしが【分度系】で暖めますから、あの、一緒のベッドでも、別に――」


 

 







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] く。。。下部広告が癒し系オトコノコ漫画(Web)なのはワタシのせい、主人公は女の子のはず。。。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ