第一話 異世界に召喚されてすぐのこと
ネット小説を読んでいる人なら、わたしたちの状況は三行で理解できると思います。
・クラスまるごと異世界召喚。レベルとスキルがあります。
・勇者として八つの地下迷宮をクリアするよう頼まれました。
・一年以内に攻略できないと世界滅亡、攻略できれば日本に帰れるそうです。
なんだかフィクションじみてますけど、これが現実だから驚きです。
まあでも世の中って、わりと「ありえないこと」があふれてますから。
たとえば第一次世界大戦のきっかけになったサラエボ事件、フェルディナント大公の暗殺。
あれの犯人って、かなり偶然に助けられてるんですよね。
元々の暗殺計画が失敗したあと、街でサンドイッチを食べていたらターゲットが通りかかった――とかなんとか。
他にも、ベルリンの壁が崩壊した経緯も面白いんですよ。
よくよく調べると「勘違いもの」みたいな流れになってますし。
あっ。
ごめんなさい、いきなり話が逸れてびっくりしましたよね。
歴史とかけっこう好きなんです。
なんだかこう、たくさんの人の存在が近くに感じられるような気がしませんか?
すみません、本題に戻りますね。
異世界に召喚された時、わたしこと真川詩月は内心でちょっとわくわくしていました。
アニメやゲームみたいに魔法を使って大活躍、そんな自分を想像していたんです。
実際わたしのスキルツリーには魔法系のものがたくさんあって、まるでクリスマスツリーみたいにキラキラ輝いて見えました。
でも、迷宮ではじめてのレベルアップを経たあと。
「はぁ? シヅキ、魔法スキル取んの? ちょっと自己中すぎない?」
クラスメイトの笹川さんがそう言ったんです。
「あたしもヒナもミクもさ、みーんな前で戦うスキルばっかりなんだよねー。シヅキだけ魔法使いになって後ろで眺めてるとか冷たすぎじゃんありえなくない? あたしらトモダチっしょ、トモダチ? 空気読もうよ、そこはさあ」
笹川さんは金色に脱色した髪がキレイな、クラスでもかなり目立つ女の子です。
着崩した制服やデコレーションしたスマートフォンはすごくおしゃれで、物腰だって堂々としています。
そんな笹川さんが、わたしみたいに地味で取り得のない相手と仲良くしてくれているのは何故でしょう。
ダンジョン攻略のパーティにもわざわざ声を掛けてくれましたし、少しでも恩が返せたらいいな、と思います。
「笹川さんの言う通りだよー。シヅキさん、わたしたちを見捨てたりしないよねー?」
「別にシヅキが私たちと組みたくないなら、好きにしてくれてもいいのだけれど」
他にもメンバーは二人います。
いつも明るく元気いっぱいの、半田ひなさん。
すらりとしたクール系の、鯛谷美玖さん。
どちらも笹川さんとは大の仲良しで、そこにわたしが並ぶのは少し申し訳ない気がしました。
「シヅキ、あんたは【ウォー・クライ】っての取ってよ。んで、あたしらがヤバくなったらそれで助けんの。いい?」
「わかりました……。で、でも、わたし、あんまり大きな声とか出すの苦手で――」
「出せる出せないじゃないの、出して」
わたしがあんまりにも弱気な態度だからでしょうか、笹川さんはびくっと眉根を動かしました。
声もどこか苛立っているように思えます。
「ご、ごめんなさい……。じゃあ、【ウォー・クライ】にしますね……」
本当は【水魔法】とか【風魔法】に興味がありましたけれど、わたしが好き放題するとみんなに迷惑がかかってしまいます。
意識を集中させると、脳裏に四角いパネルが浮かびます。ゲームみたいなステータス画面。そこからスキルツリーを開きました。
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【ウォー・クライⅠ】
「スキルランク×2」体までの敵を引き付ける
効果時間は「スキルランク×2」分
次回発動までの間隔は「10-スキルランク」分
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「取りました……」
「トロい」
チッと舌打ちする笹川さん。
「フツーならこれくらい何も言わなくてもできて当然だから。あんた、ほんとに組む気あんの? あたしはシヅキのことトモダチって思ってるけどさあ、そっちはどういうつもりなワケ?」
「そんな、わたしだって笹川さんのことは友達だって――」
「ふーん」
どこか疑うような調子で頷く笹川さん。
「じゃあさ、【ウォー・クライ】もあるし先頭歩いてよ。で、あんたが敵を引きつけて、あたしらが倒すの。わかった?」
それは、わたしのパーティ内での役割が決まった瞬間でした。
人物紹介
真川詩月:主人公。気弱な読書家
笹川優花:クラスの中心的な人物のひとり、威圧感がある
半田ひな:笹川の取り巻きその1、明るい系
鯛谷美玖:笹川の取り巻きその2、クール系 有沢慎弥の元恋人