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ひとりぼっちの少女と、虚影の魔王  作者: 遠野九重
後編 わたしはあなたのことをあいしています
19/25

第十五話 暗闇の中で焚火

前半が三人称笹川さん寄り


そのあと有沢くん視点。

雰囲気はかなり「虚影の王は彼女をあいしている」に近いです。

《虚影領域Ⅰ 笹川優花》



 笹川優花は、パチパチと音を立てて揺れる焚火の前に座っていた。

 

 あれ? と首を傾げる。

 自分は何故こんなところにいるのだろう。

 さっきまで真川詩月で遊んでいたはずなのに、ああそうだ、有沢慎弥が横から入ってきて――。


「やあ笹川さん、元気してる?」


 いきなり話しかけられ、優花はビクリと身を震わせた。

 あたりは不自然なまでの暗闇に包まれている。

 焚火が燃えているというのに、ゆらめく炎と自分の姿しか見えないのだ。


「なにコレ、ワケわかんないんだけど?」

 

 優花は吐き捨てるように呟いた。

 普段どおり居丈高に、しかし普段と違ってやや早口ぎみに。


「アリサワなの? ちゃんと説明してよ、ヒナは? ミクは?」


 しかし彼女の問いかけに答えるものはいない。

 代わりに、背後の暗がりから「ホホホホホホ……」とフクロウのような鳴き声が聞こえてきた。

 

 優花は思わず「ヒッ」と小さな悲鳴を上げ、やがて、周囲が少し明るくなっていることに気付いた。


「森……?」


 大きな木々が立ち並んでいる。

 彼女は少し開けたところで暖を取っている形だ。

 空は遠近感を失うような黒一色であり、ここが尋常な空間ではないことを示していた。


「ここは影の中、まあ、結界とか亜空間みたいなものだよ」

「っ……!」


 優花は目を剥いた。

 さっきまで誰も居ないはずだった真正面の空間に、有沢慎弥が座っていたからだ。


「あたしを拉致しようってワケ? 犯罪じゃん、マジでキモいんだけど」

「笹川さんに対してそういう興味はないよ。というか、君が真川さんにやろうとしてたことも、わりと犯罪だと思うけどね」

「は? こっちは単にリツを手伝おうとしただけだし。つーかまだ何もやってねーし」

「ふうん」

「なに? 言いたいことあんならハッキリ言いなよ」

「いやー、高校生でも『トカゲの尻尾切り』ってあるんだなーって」

「意味わかんないんですけど」


 舌打ちする優花。

 彼女は苛立ちとともに違和感を覚えていた。

 有沢慎弥はこうも他人のカンに触る人間だったろうか?

 ――黙っていれば校内有数なのに。

 彼は確かにそう言われているが、別に、誰かを煽るような言動をしていたわけではない。

 ゆえに。

 

「……あんた、本当にアリサワなの?」


 優花は探るような調子で問いかけていた。

 

「もちろん僕は有沢慎弥だよ。サインいる?」

「どーでもいい。じゃ、それがあんたの素ってワケ?」

「どーでもいいんじゃない?」

 

 本当に、心底興味がなさそうに呟く慎弥。


「人間いろんな面があるわけだし、どれが素とか定義するのは無意味だよ」

「もっと分かりやすく喋れし。アタマ悪いんじゃないの? つうか何、じゃあ、これまでは猫かぶってたってわけ?」

「えーっと」


 慎弥はふと背後の暗闇に手を伸ばすと、そこからなにやら大きなものを引っ張り出した。

 丸々と太った黒猫である。

 自分の頭に乗せた。


「妖怪猫かぶりー」

「――はぁ!?」


 声を荒げる優花。

 激昂のままに立ち上がった。

 あるいは平手打ちの一発でもするつもりだったのかもしれない。

 だが。


「ヒナ! ミク! なんで邪魔すんの!?」


 優花の左右には、何の前触れもなく二人の少女が現れていた。

 半田ひな。

 鯛谷美玖。

 彼女たちはひどく冷たい表情のまま、優花を両側から抑え込んでいた。


「ちょっと、何かいいなよ!? ウチらトモダチっしょ!?」


 優花は叫ぶ。

 しかし二人は何の反応も見せようとしなかった。


「ねえねえ、笹川さん」


 そんな少女たちを睥睨しながら、有沢慎弥が問いかける。

 

「トモダチって、何?」


 あんたバカっしょ、トモダチはトモダチに決まってんじゃん。そんなん考えてるからミクにフられるし、絡む相手もほとんどいないんだよ。つうかもういい加減に帰して。あとで女子全員にチクるし、男子にはマジで殺させに行くから。あんたもう終わりだから覚悟しなよ。

 ……優花はそう答えようとした。しかし、何も言えなかった。

 

 原因は、有沢慎弥の瞳。

 スキルの影響であろうか、黒かったはずのそれは不気味な青色を帯び、ひどく冷淡な視線でもって彼女を貫いていた。

 そこには人間味というべきものが完全に欠けている。

 まるで遠い宇宙の彼方から飛来した異質な生命体のような――。

 そういう、ひどくおそろしい目付きであった。


「笹川さん、本当はトモダチなんか信じてないよね」


 声も、どこか歪んで聞こえる。

 まるでカマキリやナナフシのような多足生物が這い寄ってくるような、不気味な響きを伴っていた。


「もしかすると小学校とか中学校あたりで、親友に裏切られたりしたのかな? あるいは最初から()()いう人間だったのかもしれないね。……ま、どっちでもいいよ」


 慎弥はふうっ、と焚火に息を吹きかけた。

 するといとも簡単に炎は消え、あたりは薄闇に包まれる。

 その中で、いまや真っ青に染まった彼の瞳だけが煌々と輝いていた。


 ……優花は、寒気に身を振るわせた。


「他人が何を考えているか分からなくって、それが恐ろしくって――征服することを選んだんだろう? 

 反乱を起こされたくないからなおさら強権的に振る舞って、ああ、けれど真川さんをターゲットにしたのはまずかったね。彼女は、君の抱えているものを理解してくれたかもしれないのに」


 一対の青眼が垂直に動いた。

 有沢慎弥が立ち上がったのだろう。


「さて、以上で僕のくだらない心理考察は終わりだ。いろいろ言ってみたけど、要するに、さ」


 フッ、と。

 今度はあたりが昼のように明るくなった。

 しかし慎弥の姿は忽然と消えている。

 後に残ったのは優花、そして、半田ひなと鯛谷美玖。

 二人は相変わらず無表情なままだ。


ヒトの恋人(真川詩月)に手をだそうとした報いを受けてもらおうかなーって。ま、せいぜい頑張ってよ」


 慎弥の声だけがどこからか遠く響く。

 果たして何を頑張れというのか。

 優花がそれを問う前に、答えは、あまりにもハッキリと目の前に提示された。


「……《ファイア・ボール》」

「……《アイス・アロウ》」


 至近距離での魔法発動。

 それを行ったのは半田と鯛谷である。


「えっ、ちょっ――!」


 間一髪のところで身を捻る優花。

 火炎球が衣服の脇腹を焦がし、氷矢が右頬をギリギリでかすめた。


 慎弥は続ける。


「太田くんとの決着がつくまで生き延びたら助けるし、ま、せいぜい鬼ごっこを楽しんでよ」

 



 * *



 

 さて、問題です。

 笹川さんは無事でいられるでしょうか。

 マルバツでどうぞ。

 難易度は僕の脳内当て、ヒントは真川さんのリクエスト。


 

 うん、もちろん答えは「〇」だ。

 

 

 最初の《ファイア・ボール》と《アイス・アロウ》はただの脅し、半田さんと鯛谷さんはここでこっそり退場だ。

 笹川さんは何も知らないまま、恐怖心に駆られて逃げ惑う。

 ま、そんな感じ。


 一応言っておくと、ここで出てきた半田さんと鯛谷さんは影から作った偽物だ。

 けれど笹川さんにしてみればどうだろう?

 彼女は僕のスキルをきちんと把握していない。

 ホンモノの二人に襲われたと勘違いする可能性が高いわけで、さてさて、今後の笹川パーティはどうなるかな?

 ギクシャクしながら続くのか、崩壊するのか。

 いずれにせよ、しばらくはこっちにちょっかいも出せないだろう。

 

 個人的には三人が内輪揉めを経て真の友情とかを見つけ出したりしてくれると素敵だけど、ま、そのへんは経過観察ってことで。


 次は……そうだね、角田さんとの「面談」を紹介しようか。


Q.なんで有沢くんの眼が青いの?

A.分体を一度に増やし過ぎたせいで、なんか別の生命体になりかかってます。

  あるいはそれを魔王と呼ぶかもしれない。

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