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ひとりぼっちの少女と、虚影の魔王  作者: 遠野九重
中編 わたしはもうひとりじゃない
15/25

有沢慎弥(2) レルネ城にて

※軽度のBLめいた表現あり 苦手な方は読み飛ばし推奨

 寮を出て、徒歩十五分。

 小さな森を抜けた先に、白亜の城が(そび)え立っている。

 レルネ城。

 僕たちを召喚したハイドラ王国の中枢部だ。

 

 宰相さまから通行証は貰っているから、入口でのチェックはすぐに終わった。

 薔薇を(かたど)ったアーチをくぐり、城内へ。

 赤い絨毯が敷かれた廊下を左に進み、魔導エレベーターに乗り込む。

 目的の場所――宰相さまの執務室は12階だ。

 

 エレベーターのドアが閉じようとする、その直前。


「ちょ、ちょっと待った!」


 長身の、王冠のようにきらめく金髪の青年が駆け込んでくる。

 僕はすぐに「開」のボタンを押した。

 間一髪。

 ドアが左右に開き、その向こうにはホッとした顔の青年が立っていた。


「悪い悪い、助かったよ」

「何階ですか?」

「22階だ、オヤジに呼ばれてるんだ。そういやキミ、初めて見る顔だが……もしかして、異世界の勇者ってヤツかな」

「はい、シンヤ・アリサワと申します」

「へえ!」


 青年はやたら大声で相槌を打つと、こっちに寄り掛からんばかりに身を乗り出してくる。

 え、なにこの距離感。

 やけに顔が近い上、壁際に追い詰められている。

 青年は右手を伸ばすと、僕の顎をクイと持ち上げていた。


「そうかそうか、君が『宰相閣下のお気に入り』か! 確かにドレスが似合いそうな顔だ」

「あの、勘違いしてませんか? 僕、男なんですけど……」

「分かってるさ。だが綺麗なものに性別は関係ないだろう? 可愛いドレスに興味は? 女の子みたいに着飾ってみたいと考えたことは?」


 えーと。

 世間的に見ると僕の容姿は整っている方らしく、これまで女の子から告白されたことも結構ある。

 けれど男の人が迫ってくるというシチュエーションは初で、ええっと。


「お姫様みたいに扱われてみたいと思ったことは? ――ここでキスしても?」

「っ!」


 青年の唇が近づいてくる。

 ……僕はほとんど反射的に、ガラ空きの腹部へ膝蹴りを叩き込んでいた。

 

「ぐぅっ――」


 よろめく青年。


「ははっ、こいつは威勢がいい。嫌いじゃないよ、そういうの……ゴホッ、ゴホッ」


 虚勢で笑みを浮かべてはいるものの、かなりダメージを受けているらしい。

 その場に膝を衝いて、噎せ込む。

 チーン!

 試合終了のゴングのごとく、エレベータのチャイムが鳴った。

 12階に到着したのだ。

 僕は逃げるようにして外へ出る。

 その背中に。 


「また会おう! ――オレはラギル、ラギル・リア・ハイドラ。この国の第三王子だ。よろしく!」


 衝撃的な自己紹介が、追いかけてきた。

 第三王子、だって?

 ハッと振り返ると、すでにエレベーターは上の階へと向かっていた。

 22階には王様の執務室がある。

 オヤジに呼ばれているというのは、つまり、そういうことなのだろう。


「大丈夫かな、この国……」


 僕はちょっと不安な気持ちになりながら、宰相さまの部屋へと急いだ。





 * *





 ちなみに。

 この魔導エレベーター、中には監視カメラめいたものが設置されていたらしい。

 後に僕とラギル王子の映像がダビングされて王宮のメイドたちの間に出回ったりするのだけれど、その騒動については別の機会に語ろうと思う。




 

 * *





「災難だったな、【虚ろなる黒き太陽の影】よ。ラギル様は男女問わぬ漁色家、惑わされんよう努々(ゆめゆめ)気を付けることだ」

「本当にビックリしましたよ。彼女のいる男はモテるとは言いますけど、まさか同性からアプローチされるなんて思ってませんでした」

「ふむ、これは貴殿の二つ名を新しくすべきかもしれんな。【傾国の美女、ただし男】――どうだ、そう悪くなかろう」

「ネーミングセンスに絶望しました。国外逃亡します」

「なんだと……」


 さて、僕はいま宰相さまの執務室にいる。

 当然ながら話している相手は宰相さまだ。

 テリオス・リベラ・【赫夜の黎明を告げたる紅竜】・シオン。

 ちなみにこの【】はテリオス様が勝手につけた二つ名だ。

 

 この宰相閣下はもう30歳を越えているというのに、(日本的な言い方をすれば) 重度の中二病を患っている。

 けれど世界が違えばセンスも異なってくるわけで、世間では「ロマンチストな詩人宰相」という認識だ。

 銀髪の儚げな美男子であることも多分に影響しているだろうけど……話をしているとあちこちがムズ痒くてしかたない。


「しで、今日(こんにち)はいかなる用件かな? 我が勇者よ」

「ひとつ、大きな報告がありまして」

「ほう?」

「女の子と一緒に暮らそうかな、と」


 僕は説明する。

 真川詩月という女の子が投身自殺を図ったことに始まり、昨日の委員長とのやりとりについて。

 

 ――僕が魔王で、真川さんがお姫様だ。さてさて勇者役は誰だろうね?


 もちろんこのくだりも (恥ずかしいけれど) 話題に出した。

 テリオス様の趣味嗜好から考えるに、高確率で琴線に触れそうな気がしたからだ。


「おお……素晴らしい……! 素晴らしい……!」


 実際、その通りだった。

 まるで崇高な宗教画を前にしたかのような表情で、テリオス様はじいんと目を閉じていた。


「愛する者のために敢えて泥を被ろうする。成程、実に見事だ、感動的だ。ならば私は全力を以って支援しよう。さあ、何を望む、【虚ろなる黒き太陽の影】――いや、貴殿には新たな二ツ名を送ろう。【月の詩姫(うたひめ)を護りたる虚影の魔王】よ」


 うわあ。

 おめでとう、ただでさえひどかった二つ名が、より悪い方向に進化しちゃったぞ。

 Bボタンキャンセルできませんかね。

 直前のセーブポイントからやり直したいんですが。

 死に戻りのチートください。

 恥ずか死からのリトライ。

 

 えーと。

 何が嫌って、コレ、公式の場でも口にしないといけないんだよね。

 ――シンヤ・【月の詩姫(うたひめ)を護りたる虚影の魔王】・アリサワ。

 勘弁してください。


「どうした【月の詩姫(うたひめ)を護りたる虚影の魔王】」


「大丈夫です。ちょっとパルスのファルシのルシがパージでコクーンでして」


 何を言ってるか意味不明だって?

 そりゃそうだ。適当にそれっぽい単語を並べただけだ。僕もよく分からない。

 分からなくてもFFは遊べる。前に最上くんがそう教えてくれた。


「なるほど」


 ふむ、と深く頷くテリオス様。

 ちなみに両手を組んで、意味もなく口元を隠している。

 「シンジくんのお父さんがよくやってるポーズ」と言えばイメージしやすいだろうか。


「ならば卿のことを二ツ名ではなく、真名で呼ぶとしよう」

 

 さっきのパルス云々をどう解釈したのか知らないけれど、なぜか僕の思っていることは伝わったらしい。


「二人きりの時は真名がよい、か。――卿はまるで我が妻のようなことを申すのだな」


 違う、そうじゃない!


登場人物紹介


ラギル・リア・ハイドラ

 ハイドラ王国第三王子。とても奔放。

  

テリオス・リベラ・シオン

 自分を【紅竜】とか呼んでしまう感じの中2病。

 「詩姫」と書いて「うたひめ」と読ませる。書いてて辛い。

 政務能力はとても優秀なのだが……

 妻帯者。娘が二人いる。6歳と3歳で、どちらも (色々な意味で) 手遅れ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 待て、三才で手遅れってどうなってるんだ?! [一言] 逆だ! 貴様が二つ名と呼ぶモノが真名なのだ。 それは他者に晒す類いのモノではない!
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