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ひとりぼっちの少女と、虚影の魔王  作者: 遠野九重
中編 わたしはもうひとりじゃない
14/25

第十二話 ずっとここに居てもいいですか

 人間がこわい。

 何を考えているか分からないから。


 生きているのがつらい。

 毎秒ごとに、自分が周囲とずれていることを思い知らされるから。



 

 わたしは有沢くんに抱きすくめられながら、そういうことをポツリポツリと話しました


「……真川さんはいままで頑張ってきたんだね」


 彼はとても穏やかな声で囁きかけると、ぽんぽん、とわたしの頭を撫でました。


「これからは僕がいる、もう無理なんてしなくていい。誰にも会いたくないなら、ずっとずっと、ここに居なよ」

「迷惑じゃ、ない、ですか」

「ううん、とても嬉しい。本当はね、真川さんを影のなかに閉じ込めてしまいたいんだ。だれの目も手も届かない場所で、きみをひたすら独占したい。そういうスキルがあったら、きっと迷わず取ると思う」

「……えっと」

「遠慮しなくていいよ。教えて?」

「わたしは、ですね」

「うん」

「有沢くんが好きでいてくれるなら、その、ええっと…………」

 

 こんなことを言ってしまっても、大丈夫でしょうか。

 頭のおかしい人間と思われたり、距離を置かれたりしないでしょうか。

 けれどもう、言葉は止まらなくって。

 わたしは続きを口にしていました。


「いっそ閉じ込めてください。――有沢くん以外の誰もやってこないような場所に」





 * *




 決して短くない時間を、わたしは有沢くんの腕のなかで過ごしました。

 そのあと一緒に朝ごはんを食べて、ひと休み。

 

「見て見て真川さん、ひとりエグザイル」


___________________________________


影分体(ドッペルゲンガー)Ⅴ】

 自分の影に実体を与えて操る。影の得た情報・経験は己のものとして還元

 その能力は本人のおよそ「1/6-スキルランク」程度

「スキルランク×2」時間持続

 また影を「スキルランク-1」体まで分割可能(数に応じて能力低下)

 本スキルはランクⅤまでしか取得できない

___________________________________


___________________________________


【マルチタスクⅣ】

 「スキルランク+1」個まで並列に思考が可能となる

 「スキルランク×2」時間持続

 次回発動には「10-スキルランク」時間のインターバル。

 スキルランクⅢからは魔法の同時多重発動も可能となるが、要【無詠唱】

___________________________________


 

 有沢くんはわたしを元気づけようとしてくれているのか、スキルのとんでもない無駄遣いを披露してくれました。

 影から自分の分身を作って、歌ったり踊ったり。

 ただ、チョイスが微妙に古い (ゴダイゴの『ガンダーラ』とか) のはなぜでしょう。


「うーん、最近の音楽ってほとんど知らないんだ。真川さんはどう?」

「わたしもちょっと分からないです……」

「ゲームのインストなんかはよく聞くんだけどね」


 そうやってとりとめのない話をしていると、時計はいつしか10時を過ぎていました。


「あっ」

「どうしたの、真川さん」

「たしかダンジョンへの転送魔法って、10時までですよね……」


 その時刻を過ぎると宮廷魔術師のひとたちは王宮に帰ってしまいます。

 10時以降は自分の足でダンジョンに向かわねばなりません。


「それなら大丈夫、今日は休みのつもりだし。それにさ、真川さんはもう戦わなくていいんだ」

「けど、迷宮に行かないと寮から追い出されるんじゃ……」


 わたしたちは勇者として色々と優遇してもらっていますが、それは迷宮でモンスターを退治しているからです。

 ずっとなまけていれば勇者の加護が少しずつ弱まっていき、最終には王都からの追放が待っています。


「心配ないよ。他のみんなは王様とのあいだに色々と取り決めをしてるみたいだけど、僕、それに入ってないしね」

「……そうなんですか?」

 

 それはわたしたちがこの世界に召喚されて間もないころの話です。

 クラス委員の角田さんを初めとした頭のよさそうな人たちが『勇者条約』なるものを作成し、この国の王様に突きつけました。

 条約の内容としては、


・衣食住に関する保証。

・ダンジョン探索以外の戦闘行動 (特に戦争) の拒否。

・国からの干渉の拒絶。 (勇者間でもめごとが起こった場合、勇者だけで解決する)


 という三点にまとめられ、さらに平たく言えば、


 ――ダンジョンは攻略してやる。だから贅沢な生活をさせろ、こっちの事情に口を出すな。


 といった感じです。

 

「僕の場合は『勇者条約』を通さず、ダイレクトに国から雇ってもらってる形なんだ。だから宰相さまの依頼で盗賊狩りとかもやってるわけ。

 かなり勝手が効く身分だし、真川さんについてもなんかこう、いい感じにしておくよ」


「すみません、色々としてもらってばっかりで……」


「いいよいいよ、真川さんがここにいてくれる。それだけで僕は幸せなんだから。

 ……         ら、                          ね」


 有沢くんが最後に何と言ったのか、わたしにはよく聞こえませんでした。

 とても小さく低い呟きだったのです。

 できればもう一度言ってほしかったのですが。


「というわけで、今からちょっと宰相さまのところに行ってくるよ。お昼ご飯までには戻るつもりだけど、食べたいものはある?」

「えっと……お任せでもいいですか?」

「オーケー。それじゃあ適当にお城の厨房から貰ってくるよ。料理長のおじさんとは仲良しなんだ」


 


 * *




 そうして有沢くんは宰相様のもとへ向かいました。

 部屋に残っているのはわたしと、


「フニャーゴ」


 相変わらず有沢くんの影に帰りたがらない黒猫くんの二人 (一人と一匹?)。

 なぜかこの子は有沢くんに対抗心を抱いているらしく、


「フニャニャニャニャ! フニャニャニャニャ! フニャニャニャニャ! フーニャーニャニャーニャーャー!」


 わたしたちが召喚される数年前に流行ったバンドのモノマネを繰り返していました。

 ちなみに本体と同じくかなり音痴で、身振り手振りから元ネタを当てるゲームと化しています。

 ここまでのレパートリーは、最近はアニメ中心に活動してる革命的な人の夏の歌だったり、ゴールデンでエアバンドな窓拭きダンスだったり。

 

 ……もしかして有沢くん、家ではこういうのをマジメに練習してるタイプなのでしょうか。分身であるはずの黒猫ですら、なんだかやたら動きにキレがあります。

 

 そういう姿を眺めて和んでいると、急に。



「――有沢くん、いる!?」



 昨晩と同じ、無遠慮なノックが鳴り響きました。


真川さんが聞き取れなかった呟きについては、有沢くん視点をお待ちください。

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