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第五話「初めまして、ご主人様」

―――王都に向かう道の途上


 村を出てからどれくらい経っただろうか。俺達は 現在、林道の脇で休憩を取っていた。


 近くの木陰に座り、受け取った水を口に含む。馬に座っていただけとはいえ、生まれてこの方乗馬経験なんてない自分にとっては、落ちないように気を使うやら振動で腰と尻が痛いやらで、結構な体力を使う破目になった。目的地まではまだまだ先が長そうだが、これは思っていた以上に過酷な道のりになりそうだ。

 ……まあ、こっちの世界に来てからのことを考えてみれば、物剥ぎだのなんだのと出くわしたりしない平和な行軍というだけで有難いのだが。


 水を飲み干して一息ついたところで、背負っていたバッグを下ろす。キルシェが預かっていてくれたらしく、先程水と一緒に渡された。君の荷物を返しておくよ、と言われたとき、ポケットに入れていたはずの財布とスマフォまでいつの間にか取られていたことに初めて気付いたのはここだけの秘密だ。状況が状況だったし荷物まで気を回す余裕がなかったんだよ、と誰に言うでもない言い訳をしておく。


 バッグの方に目立った傷などはなさそうだが、問題なのは中身である。勝手に壊されたり捨てられたりしてたらたまったものではない。早速、入っているものを目の前に広げる。


 洗濯する為に入れた仕事用ジャージ。飲み終わった空のペットボトル。常備している頭痛薬と腹痛薬。電池式の簡易型スマフォ充電器と、それ用に買ったばかりの単三電池セット。折り畳み傘。それから財布とスマフォ。


 うん、どうやら全部無事のようだ。見た感じでは壊れたりなくなったりした物はない。スマフォの電源を入れ軽く操作をしてみたが、確認できる範囲では変な挙動などもない。買い換えたばかりの新機種だから、雑に扱われて壊されてたりしてなくて一安心だ。

 現在の時刻は13時前。電波は……まあ圏外だよな。あわよくば電話ワンチャンあるかと思ったが、流石にそんなうまい話はないか。

 と、がっかりしたのもつかの間。改めて待受画面を見ていると、あることに気付いてしまった。


「……あっ!」


 待受画面に大きく表示された、数字の羅列。いわゆる電波時計というやつだが、そこには1月2日・・・・の文字があった。


 電波時計の仕組み自体を詳しく知っている訳ではないが、確か「常に受信している電波から自分の時刻を自動調整し、電波を受信できない間は通常の時計機能に従って時を刻む」……とかいう感じだったと思う。この認識が合っているならば、ただ圏外になっただけでは時刻がリセットされることはないはず。つまりこちらに来る直前の日付、日本の9月を指していなければおかしい。


 壊れていないと思っていたが、衝撃か何かで一部故障したのか?異世界に飛ばされたことで、機能に狂いが生じたのか?はたまた、異世界電波的なナニカを受信しておかしくなったのか?……理由は分からないが、とにかく今確かなのは「この時計の時刻機能はほぼ役に立たない」ということだ。

 幸い、内部機能としてのタイマーは使えるようだ。しかし、正確な日時が分からない、という事実は中々にショックではある。いつでも時計に頼って生きている現代人のサガというやつだろうか。


 そして、もう一つ。電波が届かない以上は当たり前だが、オンラインゲームの類が起動すらできなくなってしまった。

 これが何気にかなりキツイ。何というか、昨日とは違うベクトルの涙がこみ上げてくる。


 そりゃあ、こんな状況下で画面をポチポチする暇と余裕があるのかと言われればそうなのだが……考えてみてほしい、最近の自分がそれはもうどっぷりと嵌っていた娯楽が、唐突に一切封じられるということの意味を。こういう状況だからこそ、そういったものに逃避しなければやってられない、と思うところもあった訳で。辛い何かを忘れていられる、ということは結構重要だと思うのだ。……今までは辛いことと言えば、十中八九は仕事絡みだった訳だけど。


「今はお休み。俺の、愛しいキャラクター達」


 涙を飲んで、スマフォの電源を切る。

 時計も娯楽も使えないとなれば、いっそのこと電源を切ってバッテリーの消費を極力抑えておこうと思ったのだ。考えてみれば、電気やそれに近いもの、コンセントの類がこの世界にあるとは限らない……というか恐らくないだろうし、もしかしたら残っているバッテリーが重要な役割を持つことがあるかもしれない。この状態でも徐々に減ってしまうだろうが(自然放電とかいうんだっけ)、無駄に付けっぱなしにしておくよりはマシだろう。


 広げた荷物をバッグに戻していると、ふとキルシェが自分を呼ぶ声が聞こえた。どうやら休憩は終わりのようだ。バッグを掴んで立ち上がり、手を振って了解の合図を送ると、意図が伝わったのか頷くのが見えた。


 ……しかし、キルシェのすぐ後ろ。モルトがこっちを物凄い形相で睨んでいるのが、ここからでもはっきりと分かる。相変わらず、あいつからは嫌われているようだ。そこまで露骨な態度をとらなくてもいいだろうに、と思うが、文句は口に出さないでおく。物理的に勝てない相手である以上、変に刺激して悪化するよりは黙ってやり過ごす方が賢明だろう。こっちが反抗しなければそのうち収まるかもしれないし、それまでの辛抱と思っておこう。


 こちらに刺さってくる視線を極力スルーしつつ、兵士に手伝ってもらって馬に跨る。さて、またしばらくは腰と尻を苛めなければならない。気を引き締めていこう。




―――――

――――――――――

―――――――――――――――


 再出発して一時間程進むと、少しずつだが道が開けてきた。地面を見ると大きな石や凹凸のない整然としたものになっており、馬の揺れも最初に比べると随分と小さい。恐らく街道的な場所に入ったのだろう。

 道の周囲は開けた草原になっており、遠巻きに木々がぽつぽつと生えているのが見えるが、人や家などは見当たらない。何というか、ゲームでいうところの平原ステージのような印象だ。これでライオンとかがいればまさにサバンナって感じだな。


 そんな道を更に30分程進んだ頃、今度は何やら道の先に盛り上がった影が見えてきた。最初は小高い丘か何かと思ったが、だんだんと近づくにつれて影の正体が明らかに人工物、それも巨大な石壁だということに気付く。手綱を握る兵士に尋ねてみると、あれが王都エルデですよ、王都は外壁で守護されているのです、とのこと。……RPGのようなファンタジー世界だと都市が外壁に囲われているイメージがあったが、まさしくその通りという訳か。

 遠巻きに見た感じでも、高さは数十メートルはありそうだ。多少のビルならすっぽりと隠せてしまえるだろう。所々に見える小さな穴のようなものは見張り用の窓かな。


 石壁のすぐ近くまで来ると、キルシェが城門前の兵士(恐らく門番だろう)の元へ何やら指示をする。兵士がそれに応えて門の方に槍を掲げると、ギギギ……という重低音と共に門が開いた。


 そして、門が完全に開け放たれ……その先に見えた光景に、思わず息を呑んだ。


「おわぁ……」


 石造りの家や店が立ち並び、街道には人々が行き交い、所々に露店のようなテントが構えられている。昔、テレビか何かで見たヨーロッパの古都がこんな感じだっただろうか。門から延びる広い道の奥は広場の様に開けており、中央には大きな噴水が見えた。そのさらに奥は小高い丘になっているようで、大きな城と湖、小さな森が見える。あれが王城だろうか?

 まさしく、映画やゲーム、漫画の世界で見たような、ファンタジーの街そのものだ。しばらく呼吸するのも忘れて見入ってしまう。こんな光景を目にして、オタクだったら感動しないはずがない。やべ、ちょっと涙出てきた。


(そう、これだよ!これ!!これこそが俺が望んだものなんだよ!!)


 感動に打ち震えていると、こちらを振り返っていたキルシェがクスリと微笑んだ。っとと、流石にはしゃぎすぎたかな。何だか急に恥ずかしくなり、目線を逸らす。

 キルシェはこちらに近づくと、おもむろに仰々しくお辞儀をしてみせた。突然のことに驚いて視線を戻すと、お辞儀をしたまま悪戯っぽく微笑む彼女と目が合う。呆気にとられた俺の顔を見て、キルシェはどこか嬉しそうな声色で告げた。


「ようこそ、我が国リーデへ。ここが王都エルデだ。歓迎しよう、異世界からの訪問者よ」


 こちらの反応を面白がっているのは分かっているが、それでもそんなことを言われたら胸が高鳴らずにはいられない。オタク心の扱い方が上手いな、こいつ。

 ……まぁ、別の国(というか別の世界なんだけど)から来た人間に、祖国を自慢したいという気持ちは分からないでもない。王族だっていうなら尚更だろう。


 と、そんなやり取りをやっていると、それを黙して見ていたモルトが冷ややかな声を上げる。


「……姫様。報告をしなければなりませんので、先を急がせていただきます」

「ん?ああ。頼んだ。私達もすぐに戻る」

「では」


 モルトは頭を下げると、馬を走らせて一足先に城へ向かっていった。明らかに面白くなさそうな顔をしていたが、もう今更なので気にしないでおく。

 モルトの姿が見えなくなったのを見届けると、キルシェは踵を返して行軍を再開した。ただし馬を走らせることはせず、ゆっくりと歩かせる。俺に街を見れるよう気を使ってくれたのだろうか。


 そうして街中を進んでいると、道行く人々が次々と自分達の方へと集まって来た。普通の人間っぽい人もいれば、明らかにエルフやドワーフのような姿の人、中には獣人と思しき人までいる。

 人々が集まった理由は簡単だった。キルシェだ。彼女が帰ってきた、それだけでまるでお祭りのように喜び、歓迎の声を上げる。それだけ、この街の人達がキルシェのことを慕っているということだろう。キルシェは笑みを浮かべながら、軽く手を振り応える。


 一方、後ろからついて来ている自分には、一体何だこいつはとでも言いたげな視線が向けられている。「あいつは誰だ?」「捕虜か何かか?」といった声も聞こえてくる。……仕方ないとはいえ、この注目のされ方は中々堪えるな。正直、街を見ているどころじゃなくなってしまった。


 視線から逃げるように体を縮こまらせながら進んでいると、いつの間にか城にだいぶ近づいてきていた。


 城は白い城壁に青い屋根が映える見事な造りをしており、所々に豪奢な装飾が施され、街の石壁と同じような外壁が周囲を守護するように囲っていた。外壁の上にはボウガンの様な物と、巨大な黒いビーチパラソルのようなものが据え付けられているのが見える。……ボウガンは何となく理解できるが、あの傘のようなものは何だろうか。

 手綱を握る兵士にそれを聞こうとすると、ちょうどキルシェに呼び止められた。


「ミヤグニ、君にはこれから王に謁見してもらわなければならない」


 ………Why?


「いくら此度の戦いの立役者といっても、流石に外部の人間を簡単に通す訳には行かないんだ。まずは客間に案内するから、そこで休んでいてくれないか。その間に、お父様達に話は通しておくから」


 キルシェにそう説明され、促されるままに馬を降りる。王に謁見?俺が?突然すぎて、頭が上手く回らない。と、取り敢えず客間に向かえばいいんだよな。……どうやって?

 落ち着きなくあたふたしていると、さっきまで自分と一緒に馬に乗ってくれていた兵士が声をかけてくれた。どうやら、客間への案内もこの人がやってくれるようだ。よかった、さっきまで道中色々と質問をしてきたから、この人なら多少は安心できる。



 さて、城の中はというとこれも凄い内装だ。あきらかに民家とは違う上等な作りに加えて高そうな鎧やら剣やらが飾られて、壁に付けられている垂れ幕みたいなものも歴史的雰囲気をかもし出している。廊下なんてこれまた高そうな敷物が敷かれて下手に汚せない。まるでどこかの歴史的建造物の中に入った感じだ。

 兵士さんはそんな事を気にせずスタスタと歩いていく。全く、少しは余韻に浸らせてくれても良いと思うのにな。

 それを感じたのか自分の挙動不審な態度にどう見えたのか兵士さんが窓に向って、見てみろよ、と言って指で窓を指した。何か?と思いその先を見てみるとこれまた仰天。先にはでかい湖があり、反射でキラキラと輝いていた。


 ニヤケ顔で、すげぇだろ?と言ってきた。確かにすごい。この湖はこの城の裏側にあって、この国の自慢の一つらしい。ヤバイ。これは、だんだんと帰りたい気持ちが薄れていくのがジワジワと来る。この国は理想のRPG国じゃないか。どうしよう。


 と、なんやかんや思っている間に客間に着いた。ここまでの道のりは周りのせいで全く覚えていない。後で呼びに来るから中で待ってろ、と言われて中に入った。

 もう、どう言ったらいいのか。上質なソファー、机や家具、退屈しないような本棚まできたもんだ。

驚き疲れてしまって、言葉がない。ソファーに座って見るとやはり上質だとわかる。高級ホテルに泊まっている感じで落ち着かない。落ち着くために、時間潰しに本を手に取って開いてみたが残念。言葉は通じるが、文字に至っては見たこともない字で書かれていたので読めなかった。しょうがないのでソファーに座って待つことにした。


 ため息を出してこの後どうなるのか頭を切り替えて真剣に考える。でも、何も浮かばなかった。安全を約束してくれたとはいえ、どう帰る方法を見つけたらいいかわからない。そもそも安全ってどう安全なのかも保証が無い。あの時のキルシェの間が一層憂鬱にさせる。

 その後だいたい20分位不安な気持ちで考えていたらいきなりドアが開き、キルシェが入ってきた。


「準備ができたぞ。さ、一緒に行こうか」


 また元気に勢い良く自分の手を掴んで引っ張っていく。だから痛いって。

 手を離してもらって謁見の場へとついていく。なんでも、これから昨日の出来事の報告と自分の国のことをもう一度話してくれという。そして自分のこれからのことを決めるらしい。


「ああ、そうだ。これから会う人は私の父にして国の王と第一王女のミーネ姉様だ。くれぐれも無礼の無いようにしてくほしい。それと、何人か貴族の方々も君を見ることになる。心してくれ」

「わ、わかった」


 としか言えなかった。王に会うと言っても自分には雲の上の話だし、色々言えるものでもなかった。でも、無礼なことは厳禁と気をつけなければと思った。

 しかし、話しながらも厳しい顔つきが「貴族」とその単語を口にした途端一層強くなった。


(やばい相手なのか?とにかく気をつけよう。)


 緊張と不安が一気に膨らんでいくが、ここは仕方がない。とりあえず面接感覚で失礼の無いようにしていこう。まぁ、この汚れている格好からして無礼をしているわけだが。

 と、謁見の間に着いた頃には何人かは既に集まっていた。正面にある2つの玉座は空いているので残りの周りに集まったのが、数は大体15人位で、着ている服からして貴族と呼ばれる奴なのだろう。しかし、


(うげっ!な、何だアイツは!)


集まっている奴らは他種族もまざっている。その中にエルフがいるのだが、見た目が子供みたいでニコニコ笑っている奴がいるのだがそれは別に良い。エルフは長命で成長が遅いのが特徴ってのをゲームとかで知っている。でもだ、その中に異様というか変種みたいなエルフがいた。

 金髪で耳長はそのままなのだが、体格が激太りで、イケメン顔が見る影もなく醜い。息遣いも立っているだけでフー、フーと鳴らしている。オークかトロルと例えても間違いじゃない。自分の中にあるエルフ像が崩れていく。

 しかし、目線は自分に注がれているのはわかる。そいつだけじゃない。他の貴族達以外にも目線は集中して自分だ。ああ、居たくない。これならさっきの待合室の方がマシだと思った。


 と、一斉に全員が玉座に向いて頭を下げた。いきなりのことだったので慌てて同じように礼をした。王様の登場だ。座ったと思われたと同時に全員頭を上げた。自分もそうだ。

 さて、どんな人が王様なのか?キルシェの姉はどんな美人さんなのか?


 王様は一言で言えばオジ様風エルフだった。金髪のショートで良い具合の髭を生やして王冠を被っている。しかし、なんだろう。失礼だが、目を見るとなんというか、その奥がギラギラしている感じがしてあまりお近づきしたくはない。例えるなら、自分の出世しか見ていない上司だ。

 んで、もう一人。こちらもエルフだがおかしなことに子供が座っていた。見た目は先ほどの子供の感じで10~15歳位で、ピンク色のドレスを着ていてツインテールにリボン。確かに可愛いし愛らしい。人形のようだ。


(え?まさか、あれが姉!嘘だろ!年いくつだ!?)


 あの子供が姉だとするならばキルシェと比較すぎる。姉ではなく妹だと思った。


「余の愛しい娘よ。よくぞ戻ってきてくれた。ご苦労だった」


 王は口を開いてキルシェの帰還を労った。さっきは酷評したが、やはり自分の娘に向ける顔は穏やかで優しい。やはり親は親だ。


「有難うございます父様。ぜひ聞いていただきたい事が」

「わかっている。その者か?異世界から来たというのは」

「はい。彼のおかげでテル村は救える事ができたのです。それはそれは見事な策でした」


 いやいや、そう褒めないで欲しい。あれは自分の作戦じゃないから別段凄いわけじゃないんだと照れくさいながらも悪い気はしなかった。でも、次の言葉は自分よりもキルシェが驚いた。


「?どういう事だ?テル村はそなたの働きで救ったのだろう?報告はそう聞いたぞ。なぁ、ミーネ」


 こくんと姉は頷いた。自分とキルシェは、え?と一瞬硬直した。周りもざわついてきて、互いに報告の確認をしている。おかしい。別に手柄とかには気にしないが何で報告の伝達が上手くいってないのかが気になる。それはキルシェも同じだった。

 

(あ、そうか。そういえばそうだった)


 自分にはどうしてこうなったのかおおよその理由がすぐわかった。しかし、キルシェはわからなくて王にどうしてそうなっているのかと理由を問いただした。案の定、こんなふうに報告したのはモルトだと答えた。

 ま、実際撃破したのは彼女達なので別に間違ってはいない。ただし内容は全部キルシェの手柄ということで自分は途中で拾われただけという事になっている。嫌われているこの上ない。気にはしないが。

 それを聞いたキルシェは全力で否定して事実を伝えたが、あまりに報告と違うのでこの件は後にと保留する事になった。彼女は怒りに顔を少し歪ませている。気にする必要はないと言いたかったがそれは火に油だと思ったので控えた。


「では、異世界からの人。たしか、ミヤグニ・リュウイチ?ですか?あなたの話をしてくれますか?」


 ミーネが初めて喋った。その声はなんか儚げな感じというか落ち着いた感じだった。

 その質問に自分は答え、内容はキルシェ達に言ったのとほぼ同じ自分の世界のものだ。質問も同じようにされて答える。しかし、大半は信じてもらえてないようだ。姉に至っては驚いてすらない。静かに聞いているだけ。いきなり信じろは無理な話か。


「なるほど、ニホンとはそのような世界だとは…」

「父様。私は彼の安全を保証すると約束をしました。この国で保護します」


 彼女は強く主張してくれているが、王本人はどうすべきかと黙って考えている。他は正気か?とざわついてきて不穏な空気がしてきている。


 …結果として、自分の処遇についても保留という事になった。どれだけ彼女が主張してもこの場では結論が出ないということだった。

 これによって謁見は終了となり、キルシェは王に呼ばれ、場に来るように、と言われた。自分の処遇はそこで決めるからさっきの客間で待ってろと言われた。

 なんか話とだいぶ違うがキルシェの頑張りに期待するしかない。せめて、ここで殺されないようにしてもらいたい。そう思って兵士さんと待合室に戻っていく。



 私はこの「場」が嫌いだ。

 いつもいつも私の神経を逆なでしてきて、いっそ全てを塞いでしましたいと思わせる。これならば辛い訓練か戦いの方がましだ。

 謁見の場での保留を決議するために限られた者しか参加できない特別な部屋に来ていた。通称「場」。

 そこには父様を中心に姉様、他の貴族を入れ合計8人が座っている。


 本来この部屋は国の政治、大事の時に使うものだが今回は後者のため集まっている。全員揃って問題無いことがわかり早速議題に入った。

 最初は報告の件からだ。謁見の場で説明したものよりも鮮明に、より細かくに事実を伝えた。皆、黙って聞いていたが信じられないと顔に出ていた。一部例外を除いて。確かに今思い出しても私自身信じられない。身近に戦いはなく、参加すらしたことすらないと言っていたのに彼は何処であの知識を学んだというのか未だに疑問は尽きず謎のままだ。

 ともあれ報告に関しては以上で終りを告げた。しかし、問題はここからだ。

 彼を保護すること。結論から言うと大反対が多数。父様に至っては考えがまとまっていない。


「当たり前だよね~♪」

「と、とうでんだふ~」


 それはこの二人を筆頭にだ。見た目は最悪のエルフ。ブルガフ卿。常に脂汗をかいているこの男は国の財政等を取り仕切っている。見た目以上に性格は最悪だ。一言で言うなら強いものにしっぽを振り、弱い者には鞭を振る貴族。そんな男が普段より強気なのには理由がある。


 それ以上に私を不快にさせるこの男が共にいるからだ。エルガ卿。常に笑い顔を絶やさないで愛想は良い、同じエルフで身体も姉様と同じように子供なのだが、中身が泥のように汚れている。


 私は正直言って政務のことはあまり得意ではない。しかし姉様は別だ。常に国のことを考え、貴族達を牽制し政務をこなしている。政務に関して姉様は化物だ。

 しかし、この男も化物。生まれ持った才能は姉様を凌いでこの国の政務に自分の都合のいいように動かすことがある。それなのに父様は困り事があると相談役として重用していて幾つか黙認までしている。


 姉様が努力と才能で政務をこなすなら、エルガは才能だけで上り詰めた。そして、一番嫌なのが私達と血縁の繋がりがあること。唯一の救いは貴族としてはまっとうに責務をこなしていること。

 話はそれたが当然納得がいかなかったのでその理由を問う。


「簡単だよ。彼の話を信じるに値しない。どこかの間者だったらどうするんですか?しかも僕らに断りもなく保護とか勝手にも程があるよ」


 無論反論した。確かに断りもなく約束した非は詫びた。しかし、あの場はでは方法が無かったため彼の条件を飲むしかなかった。しかし、信用ならば彼は私の試練を達成させた。結果村は救われ国にとっても大きな損害は皆無だ。

 では、何故反対なのかの意見は、信用、保護しても国のためにならないこと、決定的なのは敵を倒すほどの知識を持っていることだ。ならばどうするのかと聞いたら、


「殺すのが一番さ。異世界から来た人間なんていなかった。ほら、国は平和なままさ」

「わだじもぞうおぼいまず」

「残念だが、テル村からここまで時間がたっている。もう噂は広まっているさ」


 やはり私の怒りを誘う事を言ってきた。だが、そう簡単には引き下がれない。これで保護は免れないと半ば勝った気になっていたが、


「なら、戒厳令を出そう。もし、噂を流した者がいたら、それも殺そう♪あ、そうならテル村全員かな?」

「そんな事を…私が許すどでも思っているのか?」


 油断した。この男がこういう者だったということを。しかし、断じてそんな事はさせないと殺気立たせて食い下がる。気が付けば剣に手をつけている。このまま斬ればどれだけ楽か。結論が出ず、父様に結論を促した。しかし、どっちがいいかまだ迷っている。これだけ熱弁しても伝わらないとは、父様のこの優柔不断は悪い癖だ。


「はぁ…おやめなさい」


 今まで黙っていた姉様がため息と共に口を開いた。恥ずかしい限りだ。余程頭に血が上っていたようだ。姉様はそんな私を諌め、言葉を続ける。


「キルシュ。…彼を保護するのはあくまでも村の恩義あってのもので、私的ではないのですね?」

「…はい」

「……わかりました。では、決議を決めましょう」


 私を含め全員が姉様を注目する。


「…彼を、保護しましょう」


 それを聞いて私は安堵した。しかし、やはり納得がいかない貴族達はその理由を姉様に問いただした。理由としては、テル村からここまで時間をかけ過ぎていることでいずれ噂が広まってしまうこと。それによって下手に処断してしまうと国の名に傷をつけてしまう。ならば追放と提案があったが、何処かの国にわたって敵にしてしまったら厄介になる可能性がある。それよりはこの地で監視をして様子を見るという事のほうが良いという。そしてその責任を任されたのが私ということになった。父様もこれに文句もなく姉様の提案に賛同した。それによって周りには文句を言えることができなくなり静かになった。


 これにて「場」での決議は終了となり各々全員持ち場に戻っていく。しかし、姉様に一緒に部屋に来いと呼び止められ、共に向かう。


 部屋には私達姉妹以外誰もいない。ここには侍女や父様でさえ滅多に入らせない。私か許可があった者以外は決して汚してはならない城の聖域の様な場所だ。そこでこの城の庭で採れたお茶を二人で飲む。

 ああ、姉様に入れてもらうお茶はなんと香りが良く美味しく、落ち着くことだろうか。そして一息ついた所で、


「ん~、はぁ~。疲れたわ。相変わらずあの二人は嫌いだわ。見るのもイヤ!」


 全身だらけて愚痴を言って子供のように頬を膨らませる姉様がいる。

 実はこれが本来の性格で見た目と精神が一致して甘える姿が本性。本人にとって普段は侮られないよう冷静にしているが、私達家族の中で一番の子供なのだ。


「でもね、キル。今回ばかりはエルガ達の言う通り少し迂闊だわ」

「…はい。申し訳ありません」


 だらけきったままだが口調は真面目に言葉を続ける。


「貴女には責任を任せたけど、監視は別にさせるから。場所は、貴女の別荘を使いなさい。ここは逆に危険だから」

「わかりました。で、誰を監視につけさせるので?」

「………気は進まないけど、…レイヴンにつけさせるわ」

「!?、そんな!」

「仕方ないの。…大丈夫よ。何も無ければ守らせるから。でも、もしもの時は覚悟してね」


 それ以上は何も言えなかった。ただでさえ保護してもらう許可が下りた以上さらに我儘は言えるはずもない。そこからは彼の行動しだいだという事だ。でも、不安はだいぶ残っている。ここに連れてきたことが間違いであったと思い始めた。

 お茶を飲み干した後、最後に許可を出して頂いたことを感謝して部屋を出た。


 この不安を抱えたまま歩いていくと、モルトに出会った。彼は普段と変わりなく真面目な態度のままだ。不安が怒りに変わってモルトを睨む。


「……何か言うことはあるか?」

「いえ、ありません」

「なら、何故だ?」

「………国のため。ひいては姫様のためであります。」


 等と口にした。私のため?そんな望んでもない事を誰が言えと命じたのか。だが、モルトは続ける。


「貴女様には人望がある。そしてこの国の将軍にして王族です。それが何処の者かも知れない輩、まして戦いの素人に助けられたなどと、国や貴女の名に関わります。それゆえの報告です」

「……私がそれを望んだと?」

「……現在、噂を村領域内に留めるよう兵を送りました。……失礼します」


 礼をしてモルトは去っていく。私はそれを見送りもせず怒りで壁に拳を叩きつけた。

 悔しい。私はいい。でも「国」と出されたとき不覚にも言い返せなかった。こんなものを望んだのではない。あの時の彼の慟哭になんと詫びれば良いのであろうか。彼に言った言葉が薄っぺらいものなったように感じてならない。今、恥ずかしくて彼に会うことがとても辛かった。



―――城の客間


 待合室に戻ってからは暇の言葉に尽きる。処遇の不安はあったが何もすることが無いのでソファーの上で寝てることにした。つい軽く昼寝をしていた所にノックがして飛び起きる。落ちそうになったが急いで立ち上がり返事とともにドアの方向へ向く。


 入ってきたのは別の兵士で自分の処遇を伝えに来たらしい。ドキドキしながら言葉を待つと、保護するという決定になったと言った。自分は軽くガッツポーズをとり、不安から解放された。心の中でキルシェに何度も感謝の言葉を言っていた。

 でも、ここでは住めないから今から別の場所に向かうといわれて、荷物を持ってついて行く。


 場所は城から出て裏側の湖の近くにある屋敷に行くとのことだ。馬に乗せてもらいその屋敷に向った。距離は城からそこまで離れておらず、せいぜい1~2km位だった。そこにポツンと民家よりも少しでかい家が建ってあった。着いた時家の前に二人の人物が自分を待っていた。

 一人はキルシェだ。だが、もう一人は初めて見る。


「待っていたぞ。ここが今日から君が住む家だ。紹介しよう。君の世話係をするレイヴンだ。」


 紹介とともにそいつは自分にお辞儀をした。

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