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幕間「我らは■■■」

―――????




 そこには、一面の闇が広がっていた。


 大地も空もない、広大な空間。周囲には小さな光が僅かに浮かぶのみで、生物はおろか、人工物も自然物も一切が見当たらない、暗黒の世界。無、というものがあるとするなら、この場所のことを指すのではないかと思えるほど、そこには何もなかった。


 そして、その空間に一人、佇む者がいる。


「―――――」


 外見は年若い女、というべきか。両の瞼を伏せ、何かに思いを馳せるかのようなその姿は、神秘的ですらあったが……もしもこの場に普通の人間・・・・・がいたならば、彼女の纏う異質な空気に気付くことだろう。


 ふと、何かに気付いた女が振り向く。いつの間に現れたのか、そこには新たに二つの影が立っていた。


 一人は年老いた男で、立派な白髭を蓄えた姿は宛ら昔話に出てくる魔法使いのようだ。もう一人は中年くらいの大男で、鋭い眼光と鍛えられた肉体からは静かな威圧感を放っている。

 女は恭しくお辞儀をし、彼らを迎える。


「お待ちしていました」

「ふぉっふぉっ、おぬしは相変わらず丁寧よの。もう少し、あやつ等のように軽くで良いというのに」

「……相変わらずですね」


 老人はからからと笑い、それに対して女も笑みを零す。この空間には似つかわしくない、和やかともいえる雰囲気がそこに合った。


「それで、我らを呼んだ張本人達は?」


 大男の方が尋ねると、女は首を横に振った。大男は呆れたように溜息を吐く。


「またか……大方、予想はしていたが。あいつらには集合時間という考えがないのか」

「いつものことですよ」

「ふぉっふぉっ」


 女は怒るでもなく平然と答え、老人は相変わらず笑っていた。いつものことだ、という女の言葉には、諦めのような感情が含まれていたが。

 と、誰かが来るのを察知し、三人が誰もいない方向へ振り向く。そこには、何もない空間から文字どおり飛んでくる・・・・・影があった。


「いやあ、遅れてごめんね!」「めんごめんご」


 影は二人組の子供だった。口を揃えて謝罪の言葉を告げるが、片や朗らかな笑顔、もう片方に至っては悪びれた様子が全くない。とても反省しているようには見えないが、大男はその対応に慣れているのか、溜息を一つ吐くと理由を尋ねた。


「で、我らを呼んだ理由は何だ?」

「あのね、許可が欲しいの!」「とっとと許可をよこせ」


 子供達は、態度こそ異なるが同じように目を輝かせて言った。それを聞いた三人は、それだけだとよく分からないと続きを促す。


「人間に会うんだ!」「話をしてやるんだよ」


 人間、という言葉を聞いた三人の目の色が変わる。


「ほう、人間とな?」

「うぬらが直接会うと……?それ程の者なのか?」

「その人間というのは、一体どういう方なのですか?いずこかの国の王か、聖者とか」

「ううん、普通の人間の男だってさ」「正真正銘ただの人間だよ」


 三人は、理由が分からないと首を傾げる。わざわざ自分達に許可を求める程、ただの人間一人に会うことが重要だとでもいうのか、と。だが、次の子供達の言葉に、その疑問は打ち砕かれる。


彼女・・が見つけて、教えてくれたんだ」「異世界から別の人間が来たとさ」

「「「!」」」


 三人の表情が驚愕に染まる。そこには、そんな馬鹿な、異世界からの来訪人などあり得ない、という心中がありありと見て取れた。


「お主等の言う彼女が、かの?ふぅむ……」

「彼女……ああ、あれ・・か」


 老人は髭を一撫でし、考え込む。大男は老人の言葉に何か納得したのか、一つ溜息を零した。


「それでね、助けてあげたんだよ。優しいよね」「オッサンとは大違いだな」


 子供達は無邪気に続ける。大男はその言葉に反応するでもなく、腕組みをして何かを考え込む。他の二人も沈黙を保っていたが、老人がふと子供達に尋ねる。


「それは、真実なのかの?……いやなに、主らの友を疑っておる訳ではないが、の」


 子供達は顔を見合わせると、声を揃えて答える。


「まあ、そう思うのも無理はないよねー」「いきなり現れたらしいからな」


 再び、場に沈黙が満ちる。


 彼等(子供達を除く)にとっても、この事態は予想外だったということだろう。皆、長く深い思考の海に落ちる。何を考えているのかは見た目だけでは分からないが、深刻そうな表情からは子供達の言葉をただ事ではないと受け取っていることが分かる。


 最初に沈黙を破ったのは老人だった。


「……ワシは許可しよう。いや、ワシも会ってみたい」


 その言葉を聞いた子供達は、やった!と手を合わせると嬉しそうに老人の周りを回る。一方の老人は、残る二人に視線を投げかけ、おぬしたちはどうする?と問いかける。


「……我は反対だ。許可はできん」


 大男は伏せていた目を開き、静かに言葉を返す。子供達はその答えにブーブーと反論していたが、大男がじろりと一睨みすると慌てて老人の背中に隠れる。

 老人は大男の答えに気に入らないものがあったのか、眉間に刻まれた皺を深くする。一方の大男は答えを変える気はない、とでも言うように老人に視線を返す。二人の間に不穏な空気が漂い、その場に殺気が満ちていく。

 ビリビリとした緊張感が頂点に達しようとした刹那、澄んだ声が響いた。


「お待ち下さい」


 女の冷ややかな言葉に、先程までの張りつめた空気が一気に拡散していく。殺気が消えたことを見計らうと、女は言葉を続けた。


「まず、■■■。貴方達の許可は……出せません。これは私達全員の総意が必要ですよ」

「えー!そんなあ」「反対なのかよ、ケチ」

「勘違いしないで下さい。私自身は反対という訳ではありません」


 子供達は、心底残念そうにうなだれた。その様子に、女は少し困ったような表情を浮かべる。


「最も、賛成とも言えませんが。正直に言えば……この件は、私達では手に余ります」


 何とも煮え切らない答えであったが、それは紛れもなく女の本心であった。また、その答えに老人と大男も肯定するように頷く。先程はそれぞれの答えを出した二人だが、内心では迷いがあったということだろうか。


「ですので皆さん。暫くは直接では無く、間接的に様子を見守りましょう」

「間接的……とな?」


 老人が首を傾げる。残る三人も皆同じように疑問符を浮かべ、女に説明を求めた。


「私達が今、直接干渉してしまえば……要らぬ混乱を招くでしょう。そこで、眷属達にその人間を監視させながら情報を集め、その人間を見極めるのです。そして改めて、その人間に直接会うかの是非を決めましょう」


 どうでしょうか?と、女は反応を伺う。


「……良かろう。我に異存は無い」

「ま、妥当じゃろうて」


 老人と大男が賛成の意を示す。女は頷くと、子供達に視線を投げかける。


「……うん。僕達もそれで良いよ」「しょうがねえな」


 全員の賛同を得られたことを確認すると、女は改めて子供達に尋ねる。


「では、その人間は今何処に?」

「リーデの王都に向かった、って聞いたよ」「妹姫と一緒だとさ」


 女はそれを聞くと、再び全員に向き直り、宣言するかのように言葉を発した。


「では皆様。これよりは、各々で異世界からの人間を見極めることとしましょう。……もし、運命が彼の者と共にあるのならば。その時は……受け入れましょう」


 その言葉に全員が頷き、一人、また一人とその姿が掻き消えていく。そうして、またこの場に静寂が戻る。

 だが、ただ一人。女だけはその場に佇んだまま、呟きを零した。


「………異世界」




 彼女は、嘘を吐いていた。あの場ではあのような提案をしたが、彼女の中では既に、ある答えが浮かんでいた。

 彼女の答えは………


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