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#97 儲かった、海路 2

 そういえばこの魔体をもらい始めて目覚めた頃の俺に色々教えに来てくれたあのリンから貰った地図情報にも半島の南端に漁村があると載ってたな。

 多分今見えているあの村が地図に載ってる村なんだろう。

 今は低調だと聞いてるトロスとパルネイラ間の海運を盛んに出来ればあの村も途中の寄港地として賑わいそうだ。

 今回は無理だがいずれまた訪れてこの辺りも占有領域におこうと思っていたら、まだ昼前なのに船が減速を始め漁村の沖合で止まり錨を下ろして停泊した。

 続けて小舟を下ろす準備を始めた所でアリス嬢もメリエラ女史を従え甲板に上がってきたんで、何をするつもりなのか聞いておこう。

「アリスさん、小舟を下ろすみたいだが何をするつもりなのか聞いていいか?」

「はい、構いませんよ。私達はこれからあの村へ出向いて水と食料を分けてもらえないか交渉してくるつもりです。機会あるなら逃さず補給しておくのが海を行く鉄則ですから」

 確かに時化にあうなど海上で不測の事態に陥ったら、船に乗せてある物資だけが頼りとなる筈でそこに余裕を持たせておきたいというのは分かる話だ。

 加えて今回は俺の要請でいつもより多くの船員を乗せているんだろうし余計に気を遣うんだろう。

 それにあの漁村へアリス嬢達が行くんなら護衛の名目でついて行けば、次回ここの訪れる時の参考になるだろうし、上手くすれば気づかれずに楔を打ち込める可能性もあるな。

「そういう事なら、俺達も一緒に行こうか?交渉だけといっても護衛は必要だろう?」

「確かに助かりますが、よろしいのですか?」

「ああ、任せてくれ。あの男の監視もあるから俺とティータにティーエがついて行こう」

「分かりました。ではお願いします。上陸の準備はもう終わるので、リクさん達も用意を急いで頂けますか?」

「分かった。すぐに2人を呼ぶ」

 一応バルバス達にも護衛で船を離れると念話で伝え、ティータとティーエに俺についてくるよう指示を出した。

 2人から了解の返事が返ってきて甲板へ上がってくると上陸の準備も終わったようで用意された小舟へ乗り込んで行く。

 アリス嬢とメリエラ女史に小舟の漕ぎ手の水夫2人に俺達3人を加え計7人を乗せた小舟は固定さていた場所からゆっくり海面へ下ろされた。


 水夫の2人がオールを漕いで小舟は動き出したんだが、あんまりゆっくりなんで途中からはティータとティーエに水の精霊術で動かしてもらい自転車並みの速さで漁村へ向かって行く。

 漁村に近づくと流石に減速して1つだけあった浮桟橋に小舟をつけていると村人が数人寄って来たんでアリス嬢が代表して村長への面会を要請した。

 俺達が先に浮桟橋に上がり水夫達は船に残ってアリス嬢とメリエラ女史を引き上げているとまた村人が数人近づいて来る。

 後ろに若者を引き連れた先頭の老人が多分村長で一団のまま浮桟橋に上がり俺達の前までやってきた。

「儂に面会したいというのはお前さん達か?」

 一番前にいた俺が対応しようと思ったが、アリス嬢が俺の横まで来て口を開いた。

「失礼ですが先に確認させてください。あなたがこの村の村長さんでよろしいのでしょうか?」

「そうじゃ、儂がこのボボス村の村長じゃ。で、お前らは何者なんじゃ?」

「出向いて頂きありがとうございます。私共や沖に停泊している船はコランタ商会に属していて、この一団の責任者を任されているアリスと申します」

 そこでアリス嬢は優雅に一礼して見せ、明らかに警戒していた村長たちの気勢を見事に削いだ。

「迂遠な話はお嫌いのようですから、早速本題に入らせて頂きます。私共に水と食料を分けて頂けないでしょうか?勿論正当な対価を払わせて頂きます。細かな条件交渉が必要ですが、その前にお受け頂けるか否かだけでもお答え頂けませんか?」

「・・・お前さん達の話は分かった。食料はダメじゃが水だけでよければ売ってやろう。ただし!水場は明かせんのでな、村の若い者に水を汲ませるからここまで樽や瓶を持って来い。こちらにも事情があるんじゃ、悪く思わんでくれよ」

「お話は分かりました。値は後で決めるとして水の受け渡しについては異存ありません。でもどうして食料は分けて頂けないんでしょうか?麦や肉などと無茶を言うつもりはありません。干し魚の類で十分なのですが」

「その干し魚さえ今の儂らには貴重じゃからじゃよ。忌々しい魔物共が近くに巣食ったせいで不漁が続いておるんじゃ。お前さん達もここを離れる時はせいぜい気をつけるといい」

 これはいい事が聞けた。

 魔物の巣があるなら恐らくそこには瘴気泉がある。

 それにこの村の近くにあるみたいだし魔物を片付けても住人は不用意近づかないだろうから楔を打ち込むには絶好の場所だろう。

 ただ巣の制圧にかけられる時間は水を補給する間しかないだろうから、短時間でもやれるか村長が知っている事を余さず喋ってもらおう。

「ちょっといいか?村長さん、その魔物どもの事を分かっているだけでいいから全部教えて欲しい。あの船の護衛として対策が必要になるかもしれないから知っておきたいんだ」

 唐突に会話へ割り込んだんだが一応俺の主張は認められたようで、アリス嬢は頷いて村長を促してくれた。

「良かろう。教えてやる。奴らは海蛇と海蜥蜴が混在しておってな。しばらく前から漁に出た儂らの船を襲って来るんじゃ。余りに度重なるのでな、どこから湧いてくるのか確かめようという事になって、船を襲って引き上げる所を隠れておった船につけさせて巣穴になっておる洞窟を見つけたんじゃ。そのあとで里の若いの総出で討伐しようとしたんじゃが、洞窟の外におった海蜥蜴を数匹仕留めるだけでも重傷者が多数出て手を引かざるおえなんだ」

「それでその巣穴の洞窟ってどんな所にあってここからどれ位離れてるんだ?」

「確かその洞窟は海岸に面した岩場に入口があって海水も流れ込んでおり、この村からは歩いて1時間と離れておらんそうだ。儂が教えてやれるのはこれ位じゃ」

 魔物の巣が洞窟になっているのは都合がいいな。

 中に入ってしまえば気兼ねなく魔体を換装して戦えるし、楔を打ち込んで隠れ家にするのにも丁度良い。

 ただ魔物の群れの規模はこの話だけ分からない。

 こうなるとあとはどれだけその巣の制圧に時間をかけられるかだ。

「アリスさん、確認したんだが、ここを立つのは最短だといつになる?」

「そうですね。どんなに早く作業が進んでも明日の朝になると思います」

 そうなると移動時間を差し引いて制圧にかけられる時間は正味半日強くらいだな。

 十分とはいえないが、不可能じゃないだろうからやってみるとしよう。

「それだけ時間があるならいけそうだな。アリスさん、護衛として提案したい。この村で水を補給している間にその魔物の巣を出来るだけ掃討してくる。あの船の護衛を任されている者としては不確定でも危険があるなら排除しておきたいんだ。勿論あの男の監視もあるから掃討へ出るのはここにいる俺にティータとティーエ3人だけだ。無理をするつもりはないから許可してくれないかな?」

「護衛の仕事だと言われるなら口を出しはしません。ただ明日の朝までには必ずここへ戻ってきてください」

「分かった。時間は厳守するよ。あと村長。報酬を出せなんてケチな事は言わないが、そっちにも利益はある筈だし魔物の巣への案内役位は出してくれないか?」

「良かろう。若い者を一人連れて行け」

「感謝する。早速出向いて片付けてくるよ」

 誰でもよさそうだったので村長の後ろにいた男を案内に指名し魔物の巣へ向けて出発した。

 バルバス達に黙って魔物討伐へ向かうのは不味いので念話で報告したんだが、4人ともものすごく悔しそうだった。


お読み頂きありがとうございます。

今週の投稿はこの1本です。

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