#90 舞い込んだ、指名依頼 2
最初に対応してくれた執事に見送られグライエンさん宅を出たんだが、屋敷内を移動中も引き受けた護衛依頼について考えていた。
色々準備が必要になるがまず解決しないといけない問題が二つあると思う。
アルデスタ領を出たアルトン伯爵とすぐに合流するためどこで待ち伏せるかと、どうやってそこまで隠密に先回りをするかだ。
迅速に合流出来ればその分報酬の交渉を有利に進められると思うので重要な事なんだが、正直アルデスタ領外縁の地理には疎い。
こういう時は無駄に悩んだりあちこち調べ回るより、詳しい人へ対価を用意してでも素直に教えを乞うた方が早くて正確だろう。
となると話は早い方がいいので予定以上に待たせてしまった案内人と御者に礼を言って馬車を出して貰った。
空が段々赤く染まっていく街中を進み、案内人を送ったり宿の手配も頼むためギラン商会で戻ってくると一番の目的である合って話を聞きたかったその人が出迎えてくれた。
「ようこそ、リク殿。昼間お出で頂いたそうですね。話は番頭に聞いております。案内につけた者はお役に立ちましたか?」
「勿論です。迅速な対応ありがとうございました、エクトールさん。大変助かったんですがまたお願いがあって宿の手配をお願い出来ませんか?後少し相談させてほしい事があるんです」
「お役に立てたのなら幸いでし、宿泊先がお決まりでないなら今回も当商会へお泊り下さい。そうして頂けるならゆっくりお話も伺えますし、どうでしょうか?」
「ご配慮感謝します。有り難くお世話になります」
「では、お入りください」
そう言ってエクトールさん自ら店の奥へ先導してくれ、夕食の準備が終わるまで話をしようと執務室へ通されるとそのエクトールさんの方から話を切り出してきた。
「単刀直入にお伺いします。ご相談というのはアルトン様の外遊の件についてですね?」
内心少し驚いたが、まあ推察するのは簡単か。
グライエンさんはアルトンさんが外遊へ行かされるという情報をエクトールさんからもらったと言ってたしな。
「ええ、グライエン様からアルトン様の護衛を依頼されました。しかもアルデスタ領を出た所で合流して欲しいという注文も付けられたので、まずアルトン様の外遊ルートを今決まっているだけでもいいので教えてくれますか?」
「なるほど。グライエンはリク殿の護衛参加を出来るだけ隠しておきたいのですな。ですが今決まっている外遊ルートにほとんど意味はないと思いますよ」
「どうしてですか?」
「ガルゴ様が必ず裏で動くからですよ。アルトン様への嫌がらせに外交先の急な変更や追加を平気な顔で画策してくるでしょうから」
「あ〜ルートが確定しないんじゃ今の予定を聞いても意味ないですね。エクトールさん、こちらも率直に聞きますけど直前まで周囲に気づかれず、アルデスタ領外へ出た直後のアルトン様の一行へ上手く合流するいい方法に心当たりがあったら教えて貰えませんかね?」
「そうですね、アルトン様の一行の先回りをして待ち伏せ、見つけたらその後を尾行し領外に出た所で合流するのが無難でしょう。それをやる打って付けの場所にも一か所心当たりがありますが、お教えする前に確認させてください。リク殿はこのルメラエ半島から大陸へ抜ける陸路をご存知ですか?」
その陸路の事なら以前奴隷商人や海賊を潰した前後にバルバスから教えて貰ってちゃんと覚えている。
「確か半島の付け根辺りの西海岸に1本だけあるんですよね。海岸と崖に挟まれた街道で大きな荷馬車も何とか通れるので人や物資の往来が絶えないって聞いています。もしかしてこの街道が打って付けの場所ですか?確かに見つけやすいでしょうけど、地形的に隠れる場所がほとんどないでしょうから目立たず待ち伏せするには向きませんよね?」
「リク殿の仰る通りですし、地形までご存知なら話が早い。今リク殿が言われたその街道を大陸側へ抜けた所にパルネイラという港町があるので、アルトン様の一行の待ち伏せはそこをお勧めします」
木を隠すなら森の中と言うし人通りの激しい街道よりは街中の方が待ち伏せに向いていると思うが疑問もある。
「まあ人を待つなら街が最適ですけど、アルトン様の一行が必ず通りますか?もしそうだとして上手く見つけられますかね?」
「そこは問題ありません。アルデスタ領から陸路で他領地へ向かう場合は何処へ向かうにしてもパルネイラは領内最後の街になりますし規模もアルデスタを上回るものが在ります。領内での最後の休息を行わず、重要な街を任せている代官を労いもせずに素通りするなどありえませんから、代官の屋敷の動きを見張っていれば必ずアルトン様の一行の到着を掴めるでしょう」
俺の疑問を全否定するように鷹揚とエクトールさんは頷いてきた。
かなり自信がありそうだから信用して良さそうだ。
「なるほど。じゃあ、ついでにもう一つ教えて欲しいんですが、そのパルネイラへ出来るだけ目立たず移動できる裏道なんかをご存知ありませんか?」
「道ではありませんが、よい移動手段がありますよ。ガルゴ様を欺くため一旦トロスへお戻りでしょうから海路でパルネイラへ向かわれてはどうですか?リク殿達は傭兵なのですからパルネイラ行の船へ護衛として乗り込むのが一番目立たないでしょうし、乗り合わせが悪く最悪ご自身で船を手配する事になってもガルゴ様の目が何処にあるか分からない陸路を行くより気づかれ難いと思いますよ」
エクトールさんの言う通り護衛の直接引き受けて、早朝辺りに船へ乗り込んでしまえばまず行先はばれないだろうな。
でも便よくパルネイラ行で護衛が必要な船があるとは限らないし、もしもの時船の手配が楽になるよう悪いが一筆書いて貰うとしよう。
「良さそうな手ですから使わせてもらいます。ただ船の手配なんてやった事がないんでどうしても便が無い時円滑に準備出来るよう紹介状のような物を書いて頂けますか?」
「勿論ご用意いたします。加えてトロスで船の差配をしている者も何名かお教えしましょう。そうだ、パルネイラでもお困りにならないよう傭兵団エンザンを当商会で保障する添え状も合わせて書かせて頂きます。代官屋敷近くの宿を押さえるのにお役立てください」
「感謝します。エクトールさん」
「なに、今回の討伐でリク殿達の傭兵団エンザンが上げてくれた戦功のおかげで以前よりも商売がやり易くなりました。持ちつ持たれつですよ。さて書状は明日の朝までには必ず用意しておきます。もう準備も思っているでしょうからご一緒に夕食をどうですか?」
エクトールさんの勧めに頷き応接室を後にした。
急に用意してくれたとは思えないほどの歓待をしてくれて一夜明け、エクトールさんへ出立の挨拶と書状をもらいに行く前に朝食を取っている俺達へ顔色の悪い商会の番頭が声をかけてきた。
ガルゴ・アルデスタ男爵から俺達への呼び出し状が届いていると。
お読み頂きありがとうございます。




