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#89 舞い込んだ、指名依頼 1

 結局昨日は酒場の閉店近くまでみんなと飲んでいたんだが、日の出とともにすっきり目が覚めた。

 部屋を出るとみんなも起きて朝食や出発の準備を進めてくれていた。

 食事後クライフの研究室へ足を運んで借家は任せ、見かけ上は留守になるので厳重に施錠して傭兵ギルドへ向かう。

 早朝まだ人が疎らな街中を通り抜けて着いたギルドの建物の前にはサラへ頼んだ通り2頭引きの馬車が御者つきで用意されていて、早速全員乗り込んでトロスを出発した。

 途中休憩を挟みながらだが馬車は快調に街道を飛ばしてくれ、昼過ぎにはアルデスタの城門を潜れた。

 伝言が来た筋からいうとここの傭兵ギルドへ顔を出してグライエンさんの元へ向かうべきなんだろうが、恐らくガルゴ・アルデスタ男爵の息が掛かった職員がまだまだいる筈だ。

 積極的ではないだろうが邪魔をされると面倒だしアルデスタの傭兵ギルドへは行かない方がいいだろう。

 ただ場所を知らないグライエンさんの邸宅への案内役は欲しいのでギラン商会へ馬車を向ける。

 尋ねた商会で対応してくれた番頭が快く下男を俺につけてくれ、その案内でグライエンさん宅へ向かった。


 ギラン商会を出た俺達の乗る馬車はアルデスタの中心付近を進んで行き、こじんまりした城館の前で案内人は馬車を止めた。

 表札のような物は無かったがここがグライエンさんの家なんだろう。

 魔人結晶を貸し出す話だけならすぐに終わると思うので、案内と御者にはここまま待ってもらい皆を引き連れ門を潜りドアのノッカーを叩く。

 流石に貴族の家だけあってすぐに執事が対応に出てきて、名乗ると丁寧に応接室へ通されほとんど待つ事無く呼びに行った執事を連れてグライエンさんがやってきた。

「よく来てくれた、リク殿。呼び出し応じてくれ感謝する」

「ギルドからお呼びだと伝言を聞き、急ぎ参上したんですが間に合いましたか?グライエン様」

「実はその事でリク殿へ謝らねばならんのだが、続きは座って話すとしよう」

 俺の対面にあるソファーへグライエンさんは腰を下ろし、出迎えのため立ち上がった俺も同じソファーへ座り直した。

「さてリク殿へは例の件という形で魔人結晶を持って来て欲しいと伝言させてもらったし、討伐の正式な報告もまだなのだがその報告の際に魔人結晶の提示は必要ないと御当主様かすでに内示を頂いておる。理由があるのだが虚言を用いての呼び出しをまず詫びさせた欲しい」

 グライエンさんは座したまま深々と頭を下げてきた。

 魔人結晶が必要ないならそれを伝言してくれば済む話で正直少しムカっときたが、それをぶつける変わりに呼び出した理由は正直に喋ってもらうとしよう。

 気付かれるかもしれないが嘘を見抜けるようグライエンさんが頭を下げている内に看破眼を起動した。

「謝罪は受け入れますが、呼び出した本当の理由は偽りなくお教えください。あと魔人結晶の提示が必要なくなった経緯も加えて頂けるならお願いします」

「当然の話だな。勿論答えさせてもらう。では先に魔人結晶が必要なくなった理由から話そう。経緯は簡単で過日略式の報告を行ったのだが、その場で魔人討伐の証左は儂やギルド職員の証言で十分と御当主様から認めて頂いたのだ。まあリク殿が討伐の報償を求めなかったので御当主様の側近や領内の他の貴族が口を出して来なかったというのが最大の理由なのだがな」

 この言葉の裏を返せば魔人討伐の報償を何か要求していたら、どんな横槍が入ってきたか分からないという事だろう。

 廃坑へのちょっかいが出されたり魔人結晶を売れと圧力をかけれた可能性もあっただろうから欲をかかなくて正解だったな。

「次はリク殿を呼び出した本当の理由なんだが、今日の話の本題でもある。折り入って内密にリク殿へ依頼がしたかったのだ。故にどうしても周りを欺く表向きの理由が必要だったので魔人結晶の件を直接伝え改めて感謝するという口実で呼び出させてもらったのだ」

 話の間中看破眼で見ていたグライエンさんの顔から嘘は読み取れないのでここまでの話は信じてよさそうだ。

「なるほど、そういった事情なら理解できます。依頼の話もお聞きしますが、お受けすると確約はできませんよ?」

「無論それは承知している。虚言を用いた儂の依頼を聞いてもらえるだけでも十分ありがたい。早速だが具体的な話に入ってもいいだろうか?」

 頷き返した俺にグライエンさんが頼んできた依頼はもうすぐ王都へ向かう事になるアルトン・アルデスタ伯爵を護衛して欲しいという話だった。

 そもそもグライエンさんの主筋に当たるアルトン伯爵の王都が向かう理由には俺達の戦功が遠因にあるらしい。

 俺は知らなかったんだがアルデスタ伯爵が属するラルバイア王国では各領地ごとに魔石の保有量に上限があるそうだ。

 まあ魔道具の材料や燃料となる魔石は軍事物資と見なされ、反乱を抑制したいだろう王家から保有量が制限されるのはよく分かる。

 アルデスタ領も枯渇したり上限を超えないよう魔石の量は管理しているそうで、今回の魔物の氾濫でもそうならによう調整はしていたそうだ。

 けど今回の討伐は当初長引くとグライエンさんも含めてこの領の首脳陣は予想しており魔石の放出量は抑え気味で、その上俺達が短期間に数千という数の魔石を納めた所為で完全にその保有量が定められた上限を超えてしまったらしい。

 本来なら王命違反で反逆罪にさえ問われかねない不味い事態だが魔物の討伐で上限を超えた場合にだけは特例が適応されるそうだ。

 その条件は領主自身が討伐で得た魔石をそのまま王家へ上納するというもので、特例が認められると問題を不問にするだけじゃなく勲章や報償まで出るみたいだ。

「なるほど。アルトン・アルデスタ伯爵様が王都へ向かう理由は分かりましたし、仕える家の御当主様が自領を離れるとなればグライエンさんが護衛をつけたいというのも分かります。ただ何故この護衛依頼が内密でないといけないんですか?」

「それはアルトン様が王都へ向かうルートが問題なのだ。これはエクトールが教えてくれた情報なのだが、アルデスタを出発した後は陸路で大地竜山脈の北を大きく迂回し王都へ向かうようガルゴ様が裏でもう動いているようなのだ。すでに道中の諸領へ勝手に通行の先触れも出してしまっているようだ」

「えっと、王国の地形はうろ覚えですが、王都はこの半島から東の沿岸部にありましたよね。海の状況によるんでしょうけどトロスから海路で王都へ向かった方が断然早くて、時間が掛からない分安全なんじゃないですか?」

「確かにリク殿の言う通りだが、表向きの理由としてまだ年若いアルトン様に今回の魔物討伐の武勲を背景にして王都へ行くまでに通る領地の領主や貴族へ顔と名前を広めろとガルゴ様は言ってくるのだろう。確かに理のある話なのだが裏の目的など分かりきっている」

「道中でアルトン・アルデスタ伯爵様を暗殺してガルゴ・アルデスタ様がこの領地の実権を握り、いずれは伯爵の座に着くという事ですか。加えてより時間が掛かり陸路を行く方が暗殺の成功率が上がるという訳ですか」

「儂もそう睨んでいる。ガルゴ様も流石にご領地内で仕掛けては来ないだろうが領外へ出れば何が起きても不思議ではない。儂も護衛として同行するつもりでおるがリク殿達にも領外へ出た時点で護衛に加わり以降王都へ行きアルデスタへ戻って来るまでアルトン様を護衛して欲しい」

「ああ、その時点での合流を希望しているからここでの話を内密にしたいんですね。いずればれるんでしょうけど俺達の護衛への参加がガルゴ様に伝わるのを少しでも遅らせて出来るだけ対策を先送りしたいんですね」

「その通りだ。リク殿達程の腕利きをかい潜り標的を仕留められる討ち手など簡単には見つからんだろう。もし雇えたとしても遅れた分だけ仕掛けてくる機会が減る筈だからな。依頼内容の補完はこんな所だが報酬の話をする前に聞いておきたい。そちらの要望通りの額は払えんかもしれんがアルトン様の護衛引き受けて貰えるだろうか?」

 看破眼で見ていたここまでの話に嘘はないし、確かに報酬のすり合わせ前にこの護衛依頼を受けるか断るかを先に決める必要があるな。

 まず断ったとしてもグライエンさんやエクトールさんは俺達との付き合い方を目に見えて変えはしないだろう。

 不満に思うかもしれないが俺達位の腕前の傭兵と簡単に縁は切れないと思う。

 ただもしもアルトン・アルデスタ伯爵が暗殺されてしまえばガルゴ・アルデスタ男爵がこの領地を仕切るようになる。

 既に揉め事を起こしている俺達が暮らしにくくなる可能性は十分あるな。

 そう考えるとこの護衛依頼は受けた方がよさそうだが、その場合はどんなデメリットがあるんだろうか。

 まずガルゴ・アルデスタ男爵と完全な敵対関係になるだろうが、すでに向こうから喧嘩を売られているのでこれは今更だな。

 雇われる討ち手の力量が分からないのは不安要素だがこれは仕方ない。

 移動ルートから考えて最低で2か月以上、途中や王都での社交が長引けば3か月以上トロスを離れる事になるが、廃坑はドワーフ達とメウロが管理してくれるだろうし道中でも楔を使って頻繁に顔を出せば問題はないか。

 現時点で致命的なデメリットは無さそうだからこの依頼は引き受けてもいいと思うが、デメリットがゼロじゃない訳でそれを上回る報酬として何を要求するかだな。

 相当額の金銭が無難なんだろうが他にいい物がないか少し考えて一つ閃いた。

 俺としてはいい考えだと思うんだがどこかに穴がないか確認しもらうため知恵袋へ念話をつなぐ。

(バルバス、この依頼は受けてもいいと思うんだが何か問題があると思うか?)

(そうですな、受ける事に異論はありませんが、1つご注意くだされ。護衛対象は絞り明確にすべきですぞ。外遊する伯爵一行ともなれば多数の側仕えや文官も同行するはず。その者達も護衛対象にされてしまうと我らでは明らかに手が足りませんな)

(確かにはっきりさせとくべきだな。後は報酬なんだが、単純な金銭じゃ面白くないんで期間の交渉は必要だろうけど廃坑やその周りの治外法権を要求しようと思ってる。これについての意見も聞かせてくれ)

(貴族の走狗と揉め事がありましたからな、良いお考えだと思いますぞ。ただグライエン殿ではなくアルトン殿の名で治外法権は認めてもらった方がより権限が強いでしょうし、きちんと書面も作るべきですな)

(助言感謝する。バルバスの意見も取り入れて交渉してみるよ)

 バルバスとの念話を切り忠告された点を盛り込んで護衛を受ける場合の対象の限定や要求する報酬を伝えた。

 グライエンさんも相槌を打って話を聞いてくれていたが報酬の話になると暫く固まってしまった。

「・・・勿論護衛の対象はアルトン様だけでよい。ただリク殿が報酬として要求する治外法権に関してはこの場で即答出来ん。アルトン様へ上奏してみるが無理だった場合は相応の金銭で手を打って欲しい」

「まあ、妥当な所ですね。じゃあ、こうしましょう。アルトン様やグライエン様が領外に出たらなるべく急いで俺達から合流します。そのまま護衛を引き受けるか否かや任務の詳細に報酬はその時にアルトン様を含めて改めて詰めましょう。どうですか?」

「異存はない。できるだけ目立たずそのように動いてくれ。外遊のルートについてはエクトールの方が詳しいのでそちらで確認して欲しい。あともし大幅なルート変更があった場合もエクトールを通じて連絡しよう」

「分かりました。今日はこれで引き揚げてすぐに準備を始めます」

「よろしく頼む」

 頭を下げてきたグライエンさんへ俺も一礼を返してみんなと応接室を出た。


お読み頂きありがとうございます。

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