表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/142

#82 手をつけた、交易の準備 3

 早速移住の準備も始めるとザイオが休憩室を出て行き俺は置いてきぼりにされたが、まあこれで持て余し気味だったあの廃坑から取れる鉱石を有効に活用できるだろう。

 交易の準備も進むと思うが、ふと隠れ里の獣人達の事が頭に浮かんだ。

 あいつ等も俺の配下なんだし希望があるならこの砦ぐらいとは転移を使った取引をさせてやるべきだろう。

 まだ今は無理かもしれないがもう少しして食料の生産が増えてきたらザイオ達と取引して魔法薬や武具を欲しいと思うかもしれし、今でも瘴鬼の森で狩った魔物の素材を取引の材料にできる。

 一方ザイオ達この砦に暮らす者達も食料が手に入る当てが増えて困る事は無いだろうし、もしもの時は脱出先の候補となるので普段から接触を持っておいて損はない筈だ。

 そうするとドワーフ達の採掘や人員交替も合わせて楔で転移を頼まれる回数がかなり増えてきそうだな。

 これまではティータ達や眷属達位しか転移を使ってなかったので転移する者自身で楔を操作させてきたが、各集落の住人にそれをさせるのは安全上不味い。

 これからは警備と並行して転移の管理もロックガーディアン達にやってもらうとしよう。

 ただロックガーディアン達に各集落の住人全員の顔を全て覚えろというのも酷なので、魔力か何かで識別できる許可証のような物がいる。

 盗難や紛失対策として許可証は半年から1年位の更新制にして、容量の大きな格納庫も用意して一緒に貸し出してやれば転移の回数も減ってロックガーディアン達の負担を減らしてやれるだろう。

 今考えたような許可証や格納庫を用意するならクライフへ相談するのが一番手っ取り早いな。


 考えが纏まったので置き去りにされた休憩室を出て楔の元へ向かい転移でトロスの借家へ飛ぶ。

 楔の打ち込んである地下の部屋から続きにあるクライフの研究室を覗くと部屋の主がちゃんといたので作業の手が止まるのを待って声をかけた。

「少し時間をくれるか?クライフ」

「これはリク様。どんな御用でしょう?」

「実は作って欲しいのもがあってな」

 首から上だけ180度旋回して返事を返していたクライフがきちんと俺へ向き直った所で、今考えた楔の転移機能の管理変更やそれにまつわる許可証や格納庫の制作依頼を話した。

「どうだ、出来そうか?」

「そうですな、その許可証というのは指輪か首飾りにリク様の魔力を半年程貯めておけるようにしてそれをロックガーディアン達だけが感じ取れるようにすれば良いでしょう。格納庫の方もミスリルあたりで作った腕輪などを土台にすれば中々良い物が作れると思います。材料はあの廃坑で取れるようですし腕輪などはドワーフ達に依頼すれば良い物を造ってくれると思いますが、彼らは凝り性ですからな。少しお時間を頂けますか?」

「構わない。砦か廃坑へ出向いてドワーフ達に話を通して納得するのを作ってくれ。ただ許可証については首飾りにしてくれ。首にかける紐や鎖の調整で誰にでも掛けられるようにな」

「分かりました。早速ドワーフ達と制作に掛かりますが、1つおねがいしてもよろしいですか?」

「何だ?取り敢えず言ってみてくれ」

「では、わたしの下に助手をつけて欲しいのです。」

「助手か。別にかまわないが必要な理由は教えてくれるか?」

「勿論です。これからドワーフ達が交易を始めれば彼らの品の価値を少しでも高めるためわたしも錬金術や魔道具作りの技術で手助けしたいと思っています。ただどうしても作業が増えでしょうから研究と両立のため早めに手を確保しておきたいのです」

「あ〜なるほどな。納得した。確かにいるな、助手が。そうなるとクライフと同じスキルを与えたスカルウィザードを新しく追加で作るか?流石にレベルやスキルレベルが高いやつは作れないから狩りや修練で鍛える必要が出てくるけどな」

「確かにそれも良いのですが、ミシェリをリク様の配下として引き込み、助手とするのはどうでしょうか?」

「そういえば彼女は人間だった頃のクライフの弟子だったんだよな。でも強引に配下にしも大丈夫なのか?もう自分の店を持ってるし、裏切りは隷属刻印か眷属化で防止できても不満に思って役に立たないんじゃ意味ないと思うが」

「そこは心配ないと思います。わたしの元にいた頃のあの娘は金や名誉より自己研鑚により重きを置いておりました。過日の鉱石の件やリク様があの娘より買われた魔法薬から判断して腕はまだまだわたしの方が上のようですし、リク様の配下となればドワーフと共作で魔道具を作れます。わたしの指導を受けられ、より高度な物が作れるとなれば、自分の店などに頓着する娘ではないと思いますよ。勿論それを納得させるための準備もリク様がドワーフ達とこちらに戻るまでに終わらせておきます」

「分かった。正直半信半疑だが、まあ有能な人材が配下にいて困る事は無いな。トロスに戻ったら交渉してみよう。スカルウィザードの追加をどうするかはミシェリさんとの交渉結果次第でいいな?」

「十分です。早速諸々の準備を始めようと思うのですがよろしいですか?」

「ああ、頼む」

 俺の返事に一礼して作業台に向き直るクライフを一瞥し研究室を後にした。


 それから10日程してギラン商会の補給隊がグライエンさんの出城へ到着する予定日の前日となった。

 眷属達や表向きトロスへ移住する40名程のドワーフ達に交渉役のザイオやヘムレオンに加えてその護衛としてヴォーガイ達も一緒に砦を朝出発し夕方ごろ出城に着いたんだが、もうギラン商会の補給隊は到着していて出城の兵に聞くと昨日の昼ごろにはもう到着したらしい。

 取り合えず移住するドワーフ達には城壁内で野営の準備を指示し、補給隊の馬車の周りで目に付いた商会の人間に名を告げて予定より早く着いた理由を聞いてみた。

 どうやらザイデルさんの報告を聞いたエクトールさんが檄を飛ばし予定を前倒ししたそうで、話を聞いている途中でその本人が馬車から出て話かけてきた。

「これはリク殿お久しぶりです。ご無事そうで何よりですし、大きな戦功をあげたとか。見事なお働きですな」

「戦功をあげるのは傭兵として当然ですよ。エクトールさんこそ出向いて頂いてありがとうございます」

「なに機を見て敏なのは商人として当たり前の事。それよりドワーフの方達ご一緒なのはどういう訳なのですか?」

「ご存知かもしれませんが俺はトロスの近郊に廃鉱山を持ってるんです。手元に残っていたそこの鉱石を見てもらったら試掘をしてみたいというんで任せてみる事にして、まずは集落のドワーフの半分がトロスへ移ってくれる事になったんですよ」

「なるほど。そういう事でしたか」

 頷いた納得してくれたエクトールさんは続けて後ろのザイオ達に挨拶をしていった。

 大人数のドワーフ達を連れている表向きの訳を話した後は出城の城塞内に借りて交易の話し合いに移る。

 口を挟むつもりのない俺は立会人になるだけだと思っていたんだが、交易の話が大体終わった所で急にエクトールさんが俺に話を振ってきた。

「ところでリク殿。今もお仲間とパーティーで動いていられるようなので、正式に傭兵団を旗揚げしてみませんか?」

「・・・どういう事ですか?」

「ご説明すると、リク殿は今回の討伐で魔人を討たれた訳ですが、その事実はまだほとんど広まっておりません。今このタイミングまでの旗揚げならばリク殿だけでなく率いる傭兵団の名も合わせてこの領地に広まるでしょう。それがどう有効に働くかというと今の話を例にすればザイオ殿達とお話してアルデスタ伯爵家へ納める税は我々との取引で出る利益の中から私がグライエンと交渉して納めるのが良いように感じました。許可して頂けるならですが魔人を討伐したリク殿もこの話に噛んでいるとなれば強気に交渉できるでしょう。その上率いる傭兵団に里のドワーフ達が雇われているとなればより強気に出られます。このように実を伴う武名というのは色々と有用な物なんです」

「つまり俺達が魔人を仕留めた事でこれから得られるだろう名声を今ならリーダーの俺個人だけじゃなくて旗揚げした傭兵団にも持たせられてより有効に活用できるって事ですか?」

「その通りです。いかがですか?」

 エクトールさんの今の話は魔人討伐でついてくる名声を効率よく利用してはどうかという提案だ。

 秘密を抱える俺に名声は諸刃の剣だが、魔人を討ったとグライエンさんへ報告した以上この領内で名が広がるのは仕様がないだろう。

 ならそれを最大限利用しないのは損だな。

「悪くない話ですが、当分は名前があるだけになると思いますよ。それでもいいんですか?」

「ええ、アルデスタ伯爵へ討伐成功をお伝えするまでに傭兵団の名前が決まっていれば十分ですし、それさえあれば無理に組織作りをする必要も無いと思いますよ」

 そうか、確かに俺や眷属だけで魔物討伐の依頼を受けるだけなら今のままでも小規模だが傭兵団と変わりない。

 後は傭兵団の名前だが験を担いで俺を転生させてくれた神様からもらうとしよう。

 確か火山を担当している神様だったと思うがそのままだと芸がないな。

「分かりました。じゃあ、・・・炎山。俺の傭兵団の名前は炎山にします」

「エンザンですね。では今回の討伐は傭兵団エンザンにギラン商会から依頼したという事にさせてもらいますね」

 エクトールさんが笑顔で頷いて俺の傭兵団の名前が炎山と決まった。

 この後は税の交渉を正式にエクトールさんへ任せると決め、ドワーフ達の移住も手伝って貰う事になって話し合いは散開した。


お読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ