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#75 踏み入った、氾濫した森 16

 流石に虚を衝かれ新しく現れた全身鎧と戦斧へ看破眼を向けるとそこからは瘴気の気配が見て取れ、現れる前の状況と併せて考えると瘴気を物質化して5本角が作り出したんだろう。

 見えなかったアビリティはこの瘴気物質化の能力で、俺に武器を壊されても5本角が嫌な笑みを浮かべていられた理由だ。

 そう考えを纏めている隙に先手を取られ、ここまでの身の熟しを明らかに上回る速度で5本角が突っ込んできた。

 横薙ぎに振り込んでくる戦斧の速さも上がっていて何とか刀を合わせたが、力も格段に強くなっていて受け止めた姿勢も悪く弾き飛ばされてしまった。

 それでも何とか姿勢を崩さずに着地し5本角が間合いを詰め追撃として放ってくる頭上からの戦斧の振り下ろしも紙一重で回避する。

 この攻防で5本角は自分の優位を確信したようで、余裕の表情を浮かべたまま躊躇いなく俺の間合いに踏み込んで嵐のように戦斧を打ちかけてきた。

 俺に休む間を与えないよう繰り出される連撃を何とかいなしていくが、実際に攻撃を受けてみてはっきりした。

 あの瘴気が物質化し鎧にはラザの鎧と同様にパワーアシストが間違いなくあるし、打ち合った手応えからみて戦斧の強度も先の鉄製の物とは比べ物にならないほど高く破壊は望めそうにない。

 技量の差を埋めて余りある怪力で繰り出される戦斧の連撃に俺は防戦一方になっていった。

 

 手に余りそうになる重い一撃を何とか逸らせ紙一重で避けて防戦を続けているが、このまま戦斧の間合いで戦うのは不味い。

 密着する間合いに飛び込んで戦斧の攻撃を抑えようと考えたんだが、これが悪手だった。

 大振りの一閃をいなしたタイミングに合わせて懐に飛び込んでいくが、そこに膝蹴りを合わされてしまう。

 戦斧ばかりに注意を払い5本角が体術を使えるのを失念していたせいで反応が遅れ、とっさに体をひねって打点をずらそうとしたが脇腹を捉えられてしまう。

 その上いつの間にか鎧の膝当てに出来ていた突起でラザの鎧を貫かれそのまま脇腹をえぐられてしまった。

 腹部に激痛が走るが意識を集中してその痛みを噛み殺す。

 突起が刺さったことで吹き飛ばされず、突き上げられた5本角の膝の上に乗り上げたままなのですぐに顔を上げる。

 見上げた5本角は戦斧を捨て両手を振り上げており、その両腕を覆う鎧の内側には幾つもの突起が見て取れた。

 咄嗟に鯖折りもしくはベアハッグがくると理解でき、ここにいては不味いと5本角の膝の上から俺自身を引きはがすため突起が刺さっている脇腹へ全速で刀の柄を振り下ろす。

 ガキッという音と共に鉱物を砕いたような手応えが剣の柄越しに返ってきて、自分で自分の腹を砕いたみたいだが俺自身の体は地面へ向けて吹き飛ばせた。

 俺を捉まえようと5本角の両腕が迫っていたが間一髪でその間をすり抜け地面へ叩き付けられる。

 そのまま勢いを殺さずに地面を転がって5本角から離れ、十分距離を取ってから腕の反動を使って膝立ちに起き上がった。

 気配が追って来ないので追撃は無いと分かっていたが、5本角は鷹揚な仕草で手放した戦斧を拾っていた。

 その余裕の態度が癪に障るが、おかげで間合いが取れ準備している手札が使える。

 非常時円滑に退却出来るよう用意した手だが、ここは時間稼ぎに使うとしよう。

 戦闘開始から変わらず周囲を警戒してくれているガロとウォルトへ念話をつないだ。

(ガロ!ウォルト!準備している術で5本角を足止めしてくれ!)

 俺から指示に即座に反応してくれたガロとウォルトが5本角を挟み込むように素早く位置取りを変え、同調して精霊術を発動してくれる。

 ここでようやく精霊達の動きに気づいた5本角を取り巻くように水と風の竜巻が現れ、まとわりつく水と風を引き剥がそうと5本角はもがくが問題なく内部に閉じ込め動きを抑えてくれた。

 普通のゴブリンやオーク程度なら飲み込めば楽に引き裂いて行く水と風の渦が5本角へはすぐに回復される程度の傷しかつけられないが十分足止めは出来ていた。

 ガロとウォルトへ分けた魔力が尽きるまで2〜3分ある筈で、精霊達が時間を稼いでくれている内に回復を済ませてしまおう。

 傷の具合を見るため下を向いてみれば5本角の膝当てから突き出ていた突起が脇腹に刺さったままになっていた。

 戦斧の強度を考えると何故この突起を砕けたのが不思議だが、たぶん最初に瘴気を物質化した時と比べて十分に瘴気を練っていなかったせいで鋭利だったが強度は出ていなかったんだろう。

 今これ以上深く考えるのは貴重な時間の無駄になるので、回復魔術による治療と魔力をラザに分けて鎧を修復するのに邪魔な突き刺さったままの突起を強引に引き抜く。

 そのまま放り捨てようとしたが、手の中にある砕いた突起へ視線を向けた瞬間あの惹かれる感覚がした。

 この感覚に今まで外れは無かったので、ためらいなく手を覆っているラザの鎧を解除し溶融同化で取り込んだ。


新しい因子を取得しました

保有している因子と連結し発現時の能力が拡張します

アビリティ龍気具装を取得した


 思った通りに新しい力が手に入った。

 視線を上げると5本角への足止めはまだ出来ていて、この時間を無駄にしないよう素早く傷の治療とラザの鎧の修復に並行して新しいアビリティを確認していく。

 俺がさっき予想したように看破眼で見えなかった5本角なアビリティは身の内に貯めた瘴気を物質化し武具として身に纏う瘴気具装というもので間違いなかった。

 この能力で出来た物質を溶融同化で取り込んで能力を得た訳だが瘴気を扱うつながりで地脈炉と連結し、霊気や地脈の中で瘴気と霊気が反発せず増幅し合っている状態の龍気も物質化して纏える龍気具装へアビリティが強化されたようだ。

 ただ龍気はその状態に持って行くだけでも制御が大変そうで具装化するには結構な訓練がいると思うが、霊気や瘴気のどちらか単体ならすぐにでも扱えそうだ。

 たなぼた的に過ぎると思うが劣っている力を補う術が手に入った。

 後はアビリティ内にある専用の格納領域に物質化するのに必要な霊気や瘴気を何処から持ってくるかだが、これもすぐに解決する。

 回復作業の最後に少しでも消耗した魔力を作り出そうと地脈炉を起動したら、昨夜の強化でほとんど底をついていたポイントが十分以上の量貯め込まれていた。

 手早くポイント入手の履歴を確認すると仲間達が倒した2本角から地脈炉がポイントを回収してくれたみたいだ。

 仲間達の戦果に感謝しながらポイントを消費して消耗した魔力を全快まで補充していく。

 続けて回復作業の最後にアビリティ龍気具装の格納領域へ限界までポイントから変換した霊気を満たして立ち上がった。


 5本角はまだ水の竜巻に拘束されておりガロとウォルトはしっかりと仕事を果たしてくれていたが、丁度分けた魔力を尽きたようで呼び出した分体が自然分解していった。

 それに合わせて水の竜巻も威力が衰えていくが、まだ少しは5本角を抑えておけそうでこの間を利用して俺も霊気具装を発動する。

 ラザが武装化した鎧と溶岩体の間に鎧下や厚手のウェットスーツのような霊気の衣を作り出し、ケルブが変わってくれている炎の刃と刀の本体の間に刀身を覆う霊気の刃も物質化する。

 そうやって俺の準備が終わると5本角も完全に自由になったようで顔や全身から感じられる苛立ちを隠そうともせず俺との間合いを詰めてきた。


 俺も臆さず前に出て行くと守勢に回らない俺の態度が気に入らないのか5本角はさらに表情を不機嫌にゆがめ戦斧を振り下ろしてくる。

 俺も正面から受けて立ち瘴気の戦斧と霊気の刃を纏わせた刀が激突した。

 霊気の衣はきちんの能力を発揮して俺の力を底上げしてくれ、そのおかげで拮抗した鍔迫り合いになりお互いの刃が衝突している個所では俺の思った通りの事も起きている。

 それでも確実に予想した通りの事が起きるか確かめるため5本角の戦斧をいなし、密着間合いに踏み込んで左拳を振るった。

 俺の打撃を取るに足らないと思ったようで5本角は俺の頭を狙って拳を振り上げるが構わず左腕を振り抜く。

 俺の拳と5本角の瘴気の鎧が接触する瞬間、左手首より先を覆う霊気の衣が分解する感覚と共に接触部分の瘴気の鎧も霧散し左拳が5本角の脇腹へめり込んだ。

 大したダメージにはなっていないと思うが5本角は体をくの字に曲げ驚きに顔を歪めてよろめくように数歩後退った。

 これで確信が持てた。

 龍気具装を調べた時に分かった通り同調していない霊気具装と瘴気具装は接触する程近づければ互いに対消滅して物質化が解けるようだ。

 霊気や瘴気を物質化するには魔力も使うし霊気具装と瘴気具装をぶつけていけば、確実に5本角へ消耗を強いて行けそうだ。

 戦闘力でも拮抗出来そうだし欠損した衣と刃の霊気具装を補填して俺から5本角へ切り掛かっていった。


 そうやって戦斧と刀を打ち合わせ打撃をぶつけ合い、お互いの霊気や瘴気に魔力を具装の対消滅で削り合う消耗戦へ強引に持ち込んだ。

 俺としてはこの展開は望む所でどちらかのスタミナが尽きるまでこの消耗戦を続けるつもりだったが、俺の思った以上に瘴気や魔力の保有量が少なかったんだろう、5本角が勝負に出てきた。


 強引に鍔迫り合いを弾くと大きく2度3度とバックステップをして俺との間合いを取る。

 続けて体を覆う瘴気の鎧が霧散していくので一瞬何をするつもりか戸惑ったが、その疑問もすぐに解けた。

 霧状だった瘴気が両腕に集まって行き先程より2回りはごついガントレットへ姿を変え、残りは戦斧へ流れ込んで刃の厚みが増していた。

 その両腕と戦斧へ5本角は魔力を集中して行く。

 防御を捨てた1撃勝負を5本角が仕掛けてくるのは明白で、時間稼ぎに徹するなら魔術でも打ち込んで妨害し勝負を回避するべきだろうが、真っ向から受けて立つことにした。

 流石に俺は捨て身にはなれないので魔纏術の出力を目一杯高め、最大限に練った霊気で刀を覆う刃を作り出し、俺と5本角はほぼ同時に地面を蹴った。

 双方小細工なく走るスピードも威力に上乗せした刀と戦斧が正面から激突し双方軋みを上げる。

 ぶつかり合い対消滅していく刃をお互い全力で修復し続けるが俺の霊気の刃にひびが入り始めついには砕けてしまう。

 だが一瞬遅れて5本角の戦斧と両手のガントレットも共々砕け散って霧散していった。

 俺の霊気の刃は砕けて消えたがケルブの炎の刃は健在で刀の刀身にも傷は無い。

 一息の間も置かず5本角の拳撃や蹴撃が飛んでくると警戒するが、この激突で瘴気だけではなく魔力も枯渇したようで5本角は戦斧を振り抜いた姿勢で完全に硬直してしまっていた。

 隙だらけのその姿に最後の礼として返す刀を全力で斬り上げ、一刀の元に両断出来た5本角の上半身と下半身が足元へ順に転がった。


お読み頂きありがとうございます。

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