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#71 踏み入った、氾濫した森 12

 俺個人としては楔へ回りこまれる心配をしなくていいくらい十分距離を取って戦場を設定できると思っていたんだが、歩き始めて30分と経たない内にかなりの数の魔物の気配を捉えた。

 これは下手に出し惜しみをして魔物達に後ろへ抜かれたり回りこまれたりすると禍根を残しそうなので初手から全開で行った方が良さそうだ。

 内心で気合を入れ直していると獣人の戦士達も魔物の気配を捉えたようで周りのエルフやドワーフ達へそれを伝え戦士たちの緊張が一気に高まっていった。

 そこからは皆ほとんど無言で足早に10分程歩いていると一団となってこちらに向かって来る魔物の群れを視界にとらえ全員足を止めた。

「ザイオ、手筈通りに始めるからそちらの展開が終わったら合図をくれ」

「心得た。すぐに準備させる」

 俺の傍にいたザイオの号令で集落の戦士達は予め決めておいた班に分かれて俺の左右に移動していく。

 俺を中心にほぼ横一列に布陣した所で、布陣完了じゃとザイオから合図がきたがそれとほぼ同時に魔物達も俺達を見つけたようでこちら向かって突撃してきた。

 開戦の初撃は俺が撃ち込むと取り決めてあったし出し惜しみしないと決めた通り精霊達を周りに実体化して新しく身につけたアビリティ精霊武装を発動する。

 これは精霊石体を手に入れた時に身についた能力で、契約している精霊を自身の武具に変えられるというものだ。

 精霊を自由に働かせる事は出来なくなるがその分以上に強力な武具になってくれるのはこの能力を手に入れてすぐに確かめてある。

 ここではとにかく数を討てる力が必要だろうから掃討力に優れたダルクの真似をさせてもらおう。

 詳しい内部機構なんてしらないんだがこの前の試しでは上手くやれたので精霊達をみな重機関銃のように変化させ両手両肩へ纏いその四つの砲口から一斉に射撃を開始した。

 威力よりも発射数へ重きを置き秒間2〜3発のペースで撃ち出す精霊弾が空気を引き裂く音を響かせ森の木々を吹き飛ばしながら魔物の群れの先頭にいるゴブリンやオークへ殺到していく。

 威力が抑え目とはいえこの群れのオークを一撃で仕留める位の力は込めてあるので、先頭の魔物を残らずなぎ倒せた。

 そうやって初撃は問題なく成功したが俺にダルク程の射撃の腕はないので俺が撃ち出している精霊弾の圧力により魔物達が横に広がり始めるとどうしても取りこぼしが出てきてしまう。

 10匹に1〜2匹位が射界をすり抜けてしまうがこれは班を組んだ集落の戦士達が素早く対応し陣の後ろへ抜かせないよう仕留めてくれた。

 

 そうして俺が射撃を始めてからしばらくは問題なく魔物を掃討で来ていたが段々1本角のオーガが前衛へ姿を見せ始める。

 速射性の重視し威力が抑え目の精霊弾では傷をつけられるが仕留めきれず半分位のオーガに射界を抜かれてしまう。

 ゴブリンやオークのように集落の戦士達がすぐに捕捉してくれるが流石にオーガだけあって簡単には止めを刺せない。

 ゴブリンやオークへの対応もあり手が足りなって魔物に陣を抜かれそうになってしまうが、俺の護衛をしてくれていたバルバスが対応に動いてくれる。

 グリアに騎乗して遊撃に動いてくれ、集落の戦士達が苦戦するオーガを溶岩の槍による一撃で仕留めて回ってくれた。

 同時にネイミにも動いて貰いオーガとの戦闘で負傷した集落の戦士達を治療して即座に戦線へ復帰させてくれた。


 精霊石体での長時間戦闘はこれが初めてだが魔力の回復力が思ったより高く、ポイントでの回復もほとんど必要なく射撃を続けられている。

 戦闘開始から暫く経っても何とか陣を抜かれず戦況を有利に進めているが、魔物の群れもやられるばかりではなく数を頼りにした単純な力押しから戦術を変えてきた。

 制圧射撃を続ける俺を最優先目標に定めたようで精霊弾を浴びても簡単には倒れない1本角のオーガが20体以上多層的に並んで壁を作り、その後ろに魔術を使うゴブリンやオークか集まって魔術による遠距離攻撃を俺へ集中させてきた。

 同調して放たれる巨大な火球が幾つも飛来して来て、直接俺を視認できないせいか照準は甘く半数以上は俺の周囲に着弾して爆ぜるが直撃コースで落ちてくるものも勿論ある。

 だが傍で待機していてくれたギャルドが即座に対応してくれ同じような火球を放ち空中で落着前に迎撃してくれた。

 俺もお返しに魔術を放ってくるゴブリンやオークへ両肩にいるケルブとウォルトが武装化した重機関銃、これからは精霊機関銃から絶え間なく放ち続けている精霊弾を魔術を使うゴブリンやオーク達へ向ける。

 ただその集中斉射でも回復する時間を稼ぐため位置を入れ替えながら後ろを守るオーガの壁を抜けなかったがゆっくり近づいてきていたその前進は抑え込めた。

 そうやって距離を置いての砲撃戦は膠着状態に陥ったが、ラザとガロが武装化した両手の精霊機関銃では突撃してくるゴブリンやオークを仕留め続けており砲撃戦の決着がつく前にその数が尽きてきた。

 集落の戦士達だけでも対応できそうなほど疎らになってきたのでザイオを見つけて声をかけ、そちらは任せてしまう。

 両手の精霊機関銃もオーガの壁へ向け、そのオーガが前衛に出てこなくなり手の空いたバルバスも加勢してくれる。

 加速したグリアの背中からバルバスが放つ渾身の投槍でオーガの壁に次々穴が開いて行き、そこへの精霊機関銃の集中掃射で後ろにいた魔術を放ってくるゴブリンやオークを一掃できた。

 続けてバルバスがオーガの列へ突撃してまだ生きていた者へ止めを刺し、密集していた魔物達も大半は仕留め残りは散っていった。


 撤退も視野に入れていたが何とか魔物の群れを押し止めきり、これで戦闘終了かと思った所で大きな魔物の気配が感じ取れた。

 魔術を使ってきたゴブリンやオーク達のさらにその後ろから2本角のオーガを2体引き連れ、それより一回り力感で勝る3本角のオーガが近づいて来る。

 精霊機関銃の威力と速射性のバランスを調整してこのまま遠距離で叩いてもいいが、強敵を相手にした精霊石体での接近戦も試しておくべきだろう。

 そう考えている間にグリアに騎乗したままバルバスが対応へ動こうとしたので慌てて念話をつないだ。

(待った、バルバス。その3本角は俺が接近戦で相手をする。ドグラに乗ってすぐそっちへ向かうからグリアやドグラと連携して取り巻きの2本角を仕留めてくれ)

(御意。ではリク様と共に仕掛け、取り巻き共を3本角から引きはがしましょう)

 そう答えを返してきてグリアの背から下り並んで3本角にオーガへ向かうバルバスを見て、俺も護衛として傍にいたドグラへ飛び乗ってすぐに駆け出して貰った。

 移動中ガロ以外の精霊達への武装化を解除して残敵の掃討へ回ってもらい、右手で扱っていたガロにはもう一度精霊武装を発動する。

 いつも使っている刀と同じサイズの刀へガロに変化してもらうと丁度バルバス達のすぐ近くまでドグラは掛けてくれていた。

 そこで地面へ下りバルバス達へ後ろから合流すると3本角達も間近に迫っていた。


 ドグラと並んで追いついた俺を横目に確かめたバルバスが一息の間に取り巻きの2本角の1体へ仕掛ける。

 事前に念話で策を練っていたようでグリアもすぐに動きだし、もう1体の2本角へ仕掛けて注意を引いてくれた。

(ドグラはグリアと協力して2本角を仕留めてくれ)

 頷くドグラを横目に俺も3本角のオーガへ向けて間合いを詰める。

 取り巻きに仕掛けたバルバス達を挟み込もうと動き出していた3本角だが、飛び込んでいく俺へ標的を移し手に持っていた巨大な棍棒を振り下ろしてくる。

 俺もそれを迎え撃つがガロの刀の切れ味は大したもので石の棍棒を簡単に両断しそのままの勢いで3本角のオーガの胸板を引き裂いた。

 剣閃に添って血飛沫が舞うがそちらへ一瞬視線を取られている間にもう胸の傷は塞がっていて、棍棒の柄を放った3本角が拳を振り込んでくる。

 避ける事も刀を切り返して迎え撃つことも出来たが、この精霊石体の防御力を実際に確かめるため魔力を纏わせた左腕で受け止めた。

 両手持ちの戦鎚を高速で振り込まれたような衝撃が左腕を抜け、体が浮き上がりそうになるがそれに合わせて咄嗟に地面を蹴り、吹き飛ばされながらも体勢を崩さず着地出来た。

 開いた間合いを詰め3本角が追撃して来るかと思ったが、迎撃の構えを取っているので打撃を受けた左腕の具合を確かめてみる。

 体表にひび等は入っていないが多少痺れが残っており、打撃の威力からして溶岩体なら痺れも残らないと思うのでやはり接近戦では溶岩体に精霊石体は及ばないようだ。

 まあまだ散った魔物達を掃討している集落の戦士達への支援もあるし3本角の拳撃はこのままでも避けられそうなので精霊石体で戦闘を続行するとしよう。

 拳を握り構えを取り続けている3本角へもう一度俺から間合いを詰めていく。

 飛び込む俺目掛けてくりだされる拳を躱しながらその間合いに留まって今度は腹を引き裂くがこれもまたすぐに回復された。

 続けて両腕からくり出される拳撃を躱しこちらの打撃を当てていなしながら何度も斬りつけるが、流石に首や心臓といった急所への攻撃は筋肉を固めた腕を盾にして防がれ他の個所への切り傷はスタミナを奪う前に回復されてしまった。

 実戦経験を積み増すためにこのやり取りを暫く続けても良さそうだが、あまり時間を掛けすぎると2本角を仕留めたバルバスが手を出してきそうだ。

 ここはリスクを取ってでも決めに行くとしよう。

 勿論取るリスクを最小に抑えるのは当たり前で、遊撃に出ている精霊達を呼び戻した。

了解の意思が返ってきて精霊達がここに着くまでの間は3本角と全力で拳撃と剣撃の応酬を繰り返していく。

 実際には5分と経っていないだろうが、数時間にも感じられた近接間合いで接近戦を続け、傍まで近づいて来た精霊達に指示を出し念話の合図で勝負に出た。

 ケルブが3本角目掛けて巨大な炎弾を吐きだし、ラザがその足元を爆ぜさせ土埃を舞い上げる。

 その精霊達が起こした目くらましに乗じて気配を頼りに3本角へ飛び掛かり、首を狙って両手持ちで切り掛かった。

 俺の魔力を纏わせたガロの太刀は切れ味を増し3本角がとっさに上げてきた腕ごとその首を落とすが、ほぼ同時に全力が込められたアッパーがカウンターで俺の鳩尾を捉えた。

 だが土煙と爆炎の中で纏ったウォルトを武装化した水の鎧が拳撃の威力を散らしてくれ数センチ浮き上がるだけで済み、着地する俺の足元へ3本角のオーガは沈んだ。

「お見事でしたな、リク様」

 そう声をかけてきたバルバスも2本角のオーガを仕留め終えていて、周囲を一瞥すればグリアやドグラもそれは同様だった。

「ありがと、バルバス。褒めてくれるのは嬉しいんだが、率直に答えてくれ。この3本角がこの森を溢れさせた元凶がと思うか?」

「いえ、あれほどの勢力を誇った群れの頭にしては弱いですな」

「やっぱりそう思うか。それに前回の戦闘時に撤退していく群れは少なくとも6〜7000は下らない数がいた筈なのに、この戦闘で仕留めた数は俺の体感だと4000にも届かない位だと思う。あの時撤退した後に別れた本命の主が率いる群れが別にいると思った方がいいかな?」

「そう考えるのがよいでしょうな。その事について報告がありますが、それはここから引き上げてからにしましょうぞ」

「そうだな、分かった。ならさっさと後始末をしてしまおう」

 頷いてくれたバルバスがグリアに騎乗し集落の戦士達へ伝言に走ってくれ、負傷者を除く戦闘に参加した全員で魔石を回収し終えるともう周囲が明るくなっていた。


お読み頂きありがとうございます。

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