#7 強者と出会った、山頂溶岩湖 1
楔に手をかざして繋がりを構築し体内と楔内のポイントを足し合わせ、それを消費して地脈炉の能力の一つを発動させる。
対価として消えていく500ポイントの感覚に多少の未練を感じるが、体に満ちる新たな力感がそれを打ち消してくれた。
「よし、これで目標のレベル5クリアだ。」
レベルを上げた高揚から出たつぶやきだったが、周りにいた眷属たちが喜びの感情を送ってくれた。
ミストガイアに転生して2週間、岩石弾を撃ち込まれたり爆破されたりしながら集め楔の部屋や洞窟の出入り口に配置した防犯装置代わりのロックカノンモスやバーストロックを除いて、俺には今5体の眷属がいる。
最初に融合昇華で作ったハイドロックゴーレムのハックは、今もきちんと出入り口を封鎖してくれている。
外からはまだ人も魔物も侵入して来てはいないが、外へ出ようとするフレイムファントムやロックリザードを、周りにいる者達と協力して確実に仕留めポイント化してくれた。
他にも融合昇華で作り出しギャルド、ガディ、ダルク、グリアと名前を付けた眷属がいる。
ギャルドはフレイムファントムとマグマスライムを融合させて作ったフレイムジェルマジシャンという個体で、人の上半身の形をしている赤色のスライムという姿をしている。
ギャルドが浮遊するさまはシュールだが凄い奴で、火と土を操る魔術が使えこの二つを複合させた溶岩の魔術も扱えて、俺もギャルドから魔術を習っている。
ガディは最初に造ったマグマゴーレムとフレイムジェルマジシャンを融合させて作ったマジックマグマアーマーという個体で、身長は2m強と縮んだが鎧系統なら外見をある程度選べるようで今は西洋の全身鎧の姿をさせている。
ゴーレム時代のパワーはそのままに動きが早く滑らかになり、ギャルドには劣るが同系統の魔術も使える万能型の戦士になり、格闘戦の訓練相手なってくれている。
ダルクはハックを作る時選択肢として現れたロックカノンゴーレムにバーストロックをさらに融合して作ったロックブラスターゴーレムという個体で、普段の見た目はロックゴーレムと変わらない。
ただ戦闘になると両肩に大口径長銃身のライフル状のものを隆起させ、そこから岩石弾やバーストロックから受け継いだ能力で生成できる榴弾を発射し遠距離で相手を圧倒する。
初めは球形の弾体を使っていたので、消えた丼の事もあったがダメ元で弾体を流線型ライフル弾に変えさせ銃身にライフリンクを作らせてみると、弾速も上がり射線もより安定した。
そのお蔭かは分からないが榴弾の威力も上がったので、洞窟の崩落を防ぐため使用を制限している。
最後のグリアは再度遭遇して今度は眷属化したロックリザードとロックカノンモスを融合して作ったアームドロックリザードという個体で、元のロックリザードより一回り大きくなった。
他にも爪の長さや外皮の形状をある程度変更できるようになり、額に衝角を作ったり尻尾の先端を鋭利にしたり鈍器にする事が可能になった。
俺としては背中を平らにして魔物の素材を運んでくれる事が、一番有り難かったりする。
眷属の数を絞るのは、転生魔人の記録を精査して得た情報を元に決めた。
この世界には数の力を独力で覆す個体が記録から判断するとそこそこ居るようで、狭い占有領域に引き籠る以上少数でも精鋭の方が緊急時に対応しやすいと考えたからだ。
名前を付けたのも同じような理由で、転生魔人のコミュニティに接触出来た人の記録の中に、名前を付けた方が自我の発生が促され知性が強化されるという助言を見つけたからだ。
これは効果を実感できていて眷属たちの対応が画一的なものから、高度な人工知能が制御しているような柔軟なものに変わってきた。
ただ俺の指示はきちんと伝わるし眷属の喜怒哀楽も感じられるが、俺以外眷属たちは喋れないので厳密な意思疎通が出来ていないのが今の課題だ。
それでも俺のレベルが5、ハック以外の眷属たちのレベルが3という目標をクリアできたので、予定していた計画を実行に移そう。
「皆、聞いてくれ。」
俺が声を掛けると眷属たちは動きを止め注目してくれる。
「これから縄張りを広げるため、新しい場所へ行ってみる。楔が少し手薄になるが万全期してガディ達は全員ついてきてくれ。」
一斉に頭を下げてくれた眷属を引き連れて俺を先頭に出発した。
リンから貰った地図情報を頼りに、まだ足を無味入れた事の無い山頂部分へ向かう。
洞窟が終わり、視界が開けると山頂火口の底にある溶岩湖の畔に出た。
この辺りも既に俺の占有領域下だが、リンの情報によると少し強力な魔物がいるという事で手出しを控えてきた。
だがその魔物もレベルを3まで上げれば問題なく討てるとリンの情報にあったので、より安全マージンを取って様子を確認しに来た。
元の世界だとすぐに冷えて黒くなっていそうな赤色の湖の畔を、俺を先頭に進んで行く。
暫く歩いて情報が示す場所に近づくと、そこには大きめ横穴がありマグマのような外皮を持った大蜥蜴がいて、他にも取り巻きだろうロックリザードが10匹近くいる。
むこうもこちらに気付いたようで、立ち上がり問答無用で襲いかかってきた。
俺もすぐに迎撃を眷属たちに指示し、先頭で襲いかかってきたロックリザードが噛みついてくるのに合わせて魔力を纏わせた右手刀で首を跳ね飛ばすと、間髪を置かずマグマの大蜥蜴が仕掛けてくる。
見上げるような位置から頭を振り下ろすように噛みついて来たので、左腕に魔力を纏わせ防御した。
噛みつかれた左腕が痛いが、ガディのパンチを防御した時ほどではないのでこちらからも打ち返す。
どうしてか自分でもよく分からないが、いつもなら手刀で首を狙う所を魔力を纏わせた拳を首元に打ち込んでマグマ大蜥蜴を引きはがした。
むせるように俺の左腕を離し、よろけるように大分下がると目一杯頭を持ち上げ俺を見下ろして来るがそこで動きを止めた。
疑問に思い今度は俺の方から近づくと同じ距離だけ下がり、よく見るとマグマの大蜥蜴の爪や尻尾が震えていて脅えているように見える。
ならばこいつには知性があり、他のロックリザードもそうかと見回してみるが、狂ったようにガディ達に襲い掛かり返り討ちにあっているさまを見ると、このマグマの大蜥蜴が特別なんだろう。
知性を持ち自我が獲得した魔物は特異な能力を発現しやすいと情報にあったので、こいつも眷属に引き込みたいが戦いのけじめは必要だろう。
最後のロックリザードをガディが仕留めるのを横目で確認して、マグマの大蜥蜴へ声を張った。
「お前で最後だ、どちらか好きな方を選ばせてやる。俺と一騎打ちで決着をつけるか、俺に服従するか。お前が選べ。」
ガディ達についてこないよう命じ、一歩ずつゆっくりマグマの大蜥蜴へ向かって歩いてく。
今度は下がらない代わりに全く動かないマグマの大蜥蜴の前まで進み見上げると、びくっと一度震え五体を地面に投げ出した。
頭も地面につけ小刻みに震えているので、さっさと眷属化を済ませるため俺もしゃがんで首に手を当て魔力を流す。
ほとんど抵抗なく眷属化が済み、能力を確認してみると火や溶岩弾を吐けるマグマリザードという種だと分かった。
俺が立ち上るとマグマリザードも体を起こすが、頭は下げたままで俺を見上げてくる。
「お前の名前は、ドグラだ。襲ってきた事は水に流してやる。働きに応じて力を分けてやるから、役に立てよ。」
声を掛けると同時にすまなそうに下げている頭を撫ででやると、ドグラから謝罪と感謝の気持ちが伝わってくる。
行くぞとドグラに声を掛け、ガディ達の元へ戻った。
お読み頂き有難う御座います。