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#56 救援した、目的地の出城 1

 輸送隊の横を通りサイデルさんがいる筈の先頭へ向かう途中で目にした目的地の出城は、ゴブリンやオークに取り囲まれ激戦の最中にあった。

 まだ距離があり正確な数は分からないがそれでも1000近い人型の魔物が城壁を取り囲んでいるように見え、特に城門の辺りへ激しく殺到した何体ものオークやゴブリンが門を破ろうと突撃を繰り返している。

 出城の兵も城壁に上がり弓に魔術や投石などで必死に応戦しているが、欲目に見ても戦況は一進一退といった所だろう。

 もしここであの木製の城門が破られれば、一気に落城しかねない勢いが魔物達に見て取れる。

 この状況だととてもじゃないが輸送隊は出城へ入れないし、魔物がこちらへ向かって来る可能性だってある。

 急いで対応を決めなければならないので、聞くべき内容は変わったが再びサイデルさんを捜して輸送隊の先頭へ出ると部下へ指示を飛ばしている本人がいてくれた。

 その内容も輸送隊の責任者をここに集めろというものだったので、指示を伝えに行く部下が離れるのを俺から声を掛けた。

「輸送隊が予定外に止まったんで理由を聞きに来たんですけど、あれは不味い事態ですね」

「リク殿か。素早い対応感謝する」

「もうこの後の対応を決めているんですか?」

「ああ。ここにいるとあの魔物達の注意を引きかねん。一旦ここから離れるつもりだ。リク殿には悪いがここに残って状況を監視し、もしもの時は殿を頼みたい」

 アルデスタからの出発時に口頭ではあるが最後尾の護衛と非常時の殿を引き受ける約束をしたのでサイデルさんのこの要請に異存はない。

 輸送隊の安全を考えれば一旦退避も仕様がないと思うが、俺達には実力を証明し今出城にいる連中へ恩を売って、ギラン商会の後ろ盾だけではなく実力で自由行動を認めさせる良い機会だ。

 ここから見ただけだが勢いはともかくそれ程の強さを魔物どもからは感じないし、参戦して蹴散らしついでにポイントも荒稼ぎさせてもらおう。

「悪いんですが俺達はあの出城の防衛戦へ参戦します。俺達への本筋の依頼は魔物の討伐ですから。勿論輸送隊が安全域へ退避するまで待ちますし、最悪撤退するとしてもこちらとは別方向へ誘導しますからその隙に出城へ入って下さい。なので戦場の監視と殿はサイデルさんの部下にお願いします。あとここら辺のなるべく詳しい地形図を貰えませんかね?」

 俺の宣言が意外だったのかサイデルさんはほんの一瞬驚きを浮かべるがすぐ引き締め、厳しめの表情で数秒考え俺へ頷いてくれた。


 一応念話を秘匿するため輸送隊の最後尾に残した仲間達の所へ戻りながら、今見た出城の状況と俺達の参戦を伝えると全員気合を入れて賛成してくれる。

 戦支度そのものは整えてあるので今回誰がグリアへ騎乗するかのジャンケンはアグリスが勝ち、連れて行っても無駄死にさせそうな馬を護衛していた馬車の御者へ引き渡した。

 シャドウフレイム達はどうするか迷ったが戦力としては使えないので輸送隊に何か会った時の連絡用に最後尾の馬車の幌の上に隠れさせた。 

 準備が終わり先頭へ戻る途中で輸送隊が動きだし、すれ違うサイデルさんから頼んでおいた地形図を受け取り互いの武運を祈って別れる。

 出城の方へ進んで行くと先程まで輸送隊の先頭がいた辺りにサイデルさんの部下が3人いて輸送隊が十分離れるのを待って仕掛けて欲しいというので快諾し出城の戦況へ目を向けた。


 城門を挟んだ守備兵と魔物達の戦況は一進一退を続けており、門を破れず魔石へと変わるゴブリンやオークが出ているが魔物からの投石や魔術で打ち倒される守備兵も出ている。

 待っている間に仲間達と大まかな作戦も立てたし、振り返れば輸送隊の最後尾はもう大分離れたのでそろそろいいだろう。

「じゃあ俺達は行くからな」

「分かりました。俺達は隠れます。御武運を」

「ああ、お前達もな」

 一礼して去っていく見張り役の3人が離れるのを待って、ティータとティーエがやったと見えるよう俺との間に精霊達を実体化していく。

 俺と契約している地水火風の意思ある精霊、ラザにウォルトやケルブにガロが各々の属性の体で現れた所でグリアの騎乗からアグリスが口を開いた。

「じゃ、先に行きますよ、リク様。早く来ないと俺達だけで終わらせますからね」

「ああ、すぐに追いつくさ。ケルブ、ラザ、アグリスについて行って指示に従え」

 炎の大狼と岩の犀が頷いたのを見てアグリスはグリアへ合図を送り、三頭は猛然と駆け出し始め残る俺達もすぐに後を追って走り始めた。

 四足獣特有の速さと完全装備をしている所為で先を行く三頭とは少しずつ距離を開けられていくが、レベルと共に上がった体力のおかげで俺達も息を切らさず走って後を追えている。

 出城の城門へ続く街道に沿って数キロ程をあっという間に駆け抜け、その間に隊列を整えたアグリス達は魔物の群れの最後尾へ迫っていった。


 激戦が続いているおかげか間近まで近づいてもアグリス達は魔物に気づかれず、大槌を振り上げたアグリスを乗せているグリアを先頭にラザ、ケルブの順で一列となり魔物の群れへ突っ込んで行く。

 大鎚を振り下ろすのと同時にアグリスは雄叫びを上げ、気づいて振り返り動きの止まったオークの1体を1撃で叩き潰し魔物の群れへ飛び込んだ。

 体表を滑らかにしたグリアが行く手のゴブリンやオークを次々に跳ね飛ばして進み、アグリスも縦横に大鎚を振りまわし進路をふさごうとする奴なぎ倒していく。

 続くラザは4基の土ライフルを背中に作り左右へ2基ずつ振り分けて土の弾丸をばら撒き、最後のケルブは先の2騎が倒し損ねてまだ息のある奴らへ止めの炎弾をばら撒いている。

 城門へ殺到していたゴブリンやオークの群れはまともな抵抗も出来ずアグリス達に引き裂かれていった。

 

 城門が近づいてくるとアグリス達はスピードを殺さないよう城壁へ沿って獲物が多い方へ方向転換し蹂躙を続けていく。

 魔物の群れを引き裂き突っ込んだ勢いをそのままに一旦アグリス達が魔物の群れを突き抜けた所でようやく俺達も間近まで近づけた。

「このまま我々もしかけましょう、リク様。アグの奴ばかりに手柄を立てさせるのはしゃくですから」

「自分も同意です」

「分かった。そうしよう。アグリス、ガディ。ティータとティーエは決めた通り距離を取って精霊術や魔術で援護してくれ」

 後ろに続いてくれていたティータとティーエへ振り返り、二人が頷いて足を止めたのを確かめて走るスピードを上げた。

 横を走っているアグリスとガディも俺に合わせてスピードを上げてくれる。

 流石に今回は斬り込む前にゴブリンやオークも俺達に気づき、無事だった連中の一部が雄叫びを上げながら向こうからも向かってきた。

 刀の間合いに入るまで僅かな時間、魔物の数体を看破眼で見てみるとレベルは10〜12位で恐らく強さは坑道の最下層に出るロックゴーレムやロックリザードよりは下だ。

 この程度なら多少手を抜いても50や100は余裕で仕留められそうだが、魔物の勢いを完全に砕くため刀を抜き全力で魔力と炎を纏わせ剣の間合いへ踏み込んだ。

 俺目掛けて石斧を振り下ろしてくるオークの懐へ飛び込み胴薙ぎに一閃する。

 刀を振ると同時に纏わせた炎を伸展させ目標のオークだけじゃなく後ろに続いていた別のオークやゴブリンもまとめて5匹程両断し上下に別れて地面へ転がるのを横目に周囲の様子を確かめる。

 4〜5m程横ではアデルファが炎を纏わせた戦斧を流れるように振り回し、近づいてくる魔物をことごとく両断している。

 反対側ではガディが全力で暴れていて、大剣を核に炎で作られた刃が俺と同じように一振りごとに複数のオークやゴブリンを仕留めていた。

 これはうかうかしているとポイント収集役で終わってしまいそうだ。

 気合を入れ直し俺から間合いを詰めて次の一太刀でも数匹纏めて両断すると一番オークやゴブリンが集まっている城門前で魔力が高まっていく。

 オークから頭一つ上位の中空に現れた水が風を巻き込んで渦を作り始め、それが一気に加速して上下に伸びその場にいたオークやゴブリンを巻き込んで水と風が荒れ狂う竜巻へと成長した。

 魔力の感じからティータとティーエに精霊達が作り出したと思うその竜巻は、取り込んだ多数のオークやゴブリンをズタボロにしながら巻き上げ、2分程で消えた竜巻の後には一匹も立っている魔物はいなかった。

 これでは本当にポイント収集役だけになってしまいそうなので、積極的に前へ出てオークを中心に仕留めていった。

 10分程の間襲ってくるゴブリンやオークを切り捨てていると城壁に取りついていた大きめ一団が動くのを目の端で捉えた。

 向かう先へ視線を送ればティータ達がいる方なので援護に向かおうかと思ったが、2度目の突撃を終え加速しながら方向転換していたアグリス達がその一団へ突っ込んでくれる。

 通り道をふさぐ奴を潰しながら問題の一団を足止めしてアグリス達が通り抜けた後足の止まった残りの連中はティーエ達の精霊術の魔術の集中砲火であっさり全滅し俺の出番はなかった。


 ティータ達へ視線を向けていて隙があると思ったんだろう、短剣を突き出して掛かってきたゴブリンを一刀で切り捨てると手近な獲物は仕留め終え状況確認のため軽く周囲を一瞥する。

 城門付近へ集まっていた奴らの掃討はほとんど終わっていてアデルファとガディが最後に残った個体を仕留め、倒した奴の魔石化も始まっている。

 他には飛び道具や魔術を使う個体が城門から少し距離を置いて幾つかの集団を作っていて、城壁に上がっている守備兵とやり合っているだけだ。

 ここまでくれば後は戦力を集中し残った集団を順に潰して行けばいいだろう。

 みんなを集める為念話を開こうとした所で城門が開き始め中には隊列を組んでいる守備兵が見える。

 俺達の参戦で状況が好転したので出城側は攻勢へ出る事にしたんだろう。

 無用な衝突を回避し最低限の連携を取る為にも出てくる連中と話しをするべきだな。

 改めて念話でみんなに集合を掛け、俺の元へ仲間達が集まる間に出城の守備兵も門から出てきて掃討を始め、装備から見て傭兵だろう3人が近づいて来た。

「助勢を感謝する。あんた達の所属と参戦した目的を教えて欲しい」

 3人の内先頭の男が問いかけてきたので俺が答える。

「俺達はギラン商会に雇われている傭兵だ。補給物資の輸送隊を護衛してここまで来たんだが、さっきの状態じゃ荷物を運び込めないんでな。あんた等の手柄を横取りして悪いが、俺達で掃除させてもらった。」

「別にそれはかまわないさ。ただそういう事ならもう少し手を貸してくれないか。まだ北門に魔物どもが張り付いていてな、それの排除にも手を貸してほしい」

「まあ、この出城へ物資を運びこむのも依頼の内だから魔物排除にはもちろん手を貸すが、いきなり連携を取るのは無理だぞ?」

「城壁の上から戦闘は見てた。こっちもあんた達ほどの腕利きに混ざれるとは思ってない。俺達は左回りに城壁へ添って張り付いている奴等を仕留めながら北門へ向かう。あんた等は右回りで同じように北門へ向かってくれ。タイミングを合わせるのは無理だろうが北門へ張り付いている魔物どもを挟撃してやろう。どうだ?」

「妥当な策だな、了解した。すぐに動く」

「では北門でまた会おう」

 部隊へ戻っていく三人を見送って俺達も移動を開始した。


お読み頂きありがとうございます。


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