#5 行く道を決めた、洞窟入口 1
ドンという大きな音がして飛び起きてみると、押さえつけたロックリザードにマグマゴーレムが止めの一撃を撃ち込んでいた。
周囲を見回すとロックリザード三体分程の素材が散乱していたので、指示の通り守ってくれたようだ。
止めを刺したロックリザードが素材に変わると、マグマゴーレムは楔を守る位置に戻ってくれる。
近づいて様子を確認すると、あちこちに傷がついていたが自己修復も始まっていた。
それでも俺の手で傷を治してやりたくてアビリティや楔の機能を調べてみると、楔とポイント使った復元法と眷属創操を使い魔力を消費して行う治療法とが見つかった。
楔を使った復元法は部位欠損まで直せるようだが、体表に牙や爪の後があるだけなので魔力を使った治療で十分そうだ。
ゴーレムに手を当てアビリティの誘導に従って魔力を送り込むと、マグマゴーレムの傷は綺麗に消えた。
ついでに周囲に散らかっている魔物素材の片付けをしようと思うが、楔に吸収させるとポイントになるとリンは言っていたので試してみよう。
楔の該当機能を探して起動し魔石の一つを楔に近づけみると、吸い込まれるように素材が消えてポイントが増えた。
作業としては簡単なので風呂敷代わりの外皮を一枚残して全てポイント化した。
散らかっていた素材が片付いたのでリンから貰った情報に目を通しておきたいが、小腹がすいたので何か食べながら情報を確認しよう。
楔でサンドイッチ具現化し、それを食べながらアビリティ完全記憶領域を起動して情報を呼び出す。
5切れ合ったサンドイッチを食べ終わった後は座って壁にもたれながら目を通していき、リンから貰った情報全てを確認し終わるとすぐにやっておくべき事が分かった。
壁から離れて立ち上がり、マグマゴーレムに楔の守備をもう一度命じて俺は目的の場所へ向かった。
情報の中にこの洞窟の地図があったので迷う事は無さそうだが、弱い魔物の位置情報は無かったので避けて通るのは無理だった。
歩いていると赤いスライムのような奴に上から襲いかかられ、曲り角では赤色の幽霊のような奴に出合い頭に炎を撃ち込まれたりしたのでかなり驚いた。
どちらの攻撃でも傷を受けずに済み、昨日と同じように魔力を纏わせた手刀の一撃で相手を倒せたので、改めてこの体の高性能ぶりを思い知った。
そのお陰で余裕を取り戻せポイント取得のアナウンスが頭に響かなかった事に気づけた。
地脈炉に魔物を倒した得たポイント自体は加算されていたので、アナウンスがしなかった理由を探してみると、完全記憶領域内にポイント収支という新しい項目が出来ていた。
中身を確認してみると、先程倒した魔物のポイント取得の履歴だけではなく、楔に魔物の素材を吸収させて得たポイントの履歴もあった。
さっきリンの情報を確認した時はポイント収支の項目は無かったので、魔物を倒した時に俺の中で何故か仕様の変更があったんだろう。
理由は不明だが、声がするだけより履歴が残る方がポイントの管理がしやすいだろうから、有り難い変更だ。
疑問が解け魔物の襲撃が途切れて退屈になったので、移動しながら情報を思い返してみる。
転生魔人の行動記録は、確かにリンが言うように酷く30人中25人が1年持たず死んでいた。
記録から原因を読み解いてみると、貰った体の余りの高性能に酔って手当たり次第に暴れまわり、二つあるどちらかの状況に陥って殺されていた。
一つは転生した地域に君臨していた魔物に手を出して返り討ちにあう。
もう一つは小説などに出てくる勇者のような人族を引き寄せてしまい討伐されるの、二通りだ。
たった3度だが魔物と戦って、貰った体の高性能ぶりを体感しているので力に酔うのもよく分かる。
上には上がいると自戒するのを、忘れないようにしよう。
一年生き残った5人のうち1人は、討伐される寸前まで追い詰められており、行動は殺された25人と大差ない。
次の一人は担当した厄神様の恩恵で完全な擬人化能力を転生した時点で持っており、人族の社会に溶け込んで力を蓄えていた。
もう一人は転生直後に転生魔人の互助会のようなものに接触でき、そこから支援や助言を貰っていた。
後の二人は転生した場所の立地条件から占有領域を限定してそこに引き籠り、他者との接触を出来るだけ抑えて難を逃れていた。
俺には擬人化能力は無いし、リンからの情報通りなら近くに転生魔人はいないので、すぐに転生魔人の互助会と接触するのも無理だろう。
成功例に倣うなら最後に上げた二人のように取り敢えず引き籠って力を蓄え、きちんと情報を収集してから他者との接触を増やしていくべきだろう。
そう決め地図を頼りにこの洞窟から外へと続く出入り口にやって来た。
20m程離れた出口の向こうに青空が見える。
最悪天井を崩して出入り口を塞がなければいけないかと覚悟していたが、通路が細くなっている場所が出入り口近くにあった。
ここを岩などでふさげば、出入り口を再利用可能な状態で行き止まりと偽装できそうだ。
気合を入れて大きめの岩を周囲から運んで積んでいると、ロックゴーレムを創造してその体でふさいで貰えばいいのではと閃いた。
ロックゴーレムに動いて貰えば岩で封鎖するより利用しやすいし、侵入者を警戒する門番にもなる。
魔物の襲撃が心配だがマグマゴーレムは強かったし、倒されたならその時は新しい個体を配置するか、岩で完全に塞ぐか考えればいいだろう。
ロックゴーレムを作りに楔まで戻ろうかと思ったが、楔から離れても魔物を作れるかついでに試してみよう。
体に溜まっているポイントでは足りないので楔から引き寄せようとすると、洞窟全体に広がっている占有領域を通して楔と繋がりを構築できた。
無理にポイントを引き寄せる必要は無さそうなので魔物リストを呼び出すと、フレイムファントムとマグマスライムという名前が追加されていた。
この二つは恐らくここに来るまでに倒した幽霊とスライムの名前で、倒した魔物は自由に創造できるようになるのだろう。
新しい発見もあったが本題のロックゴーレムの創造を念じると、マグマゴーレムの時のような変色は無いが地面が盛り上がる。
湧き上がった地面から手や頭が生えていき、マグマゴーレムと同形の人型を取ると俺に頭を垂れてくれた。
膝をつき頭を下げてくれているロックゴーレムに出口の監視と封鎖を命じると、一番狭くなっている場所で出口に背を向けて座り、左右の隙間に俺が集めた岩を置いて通路を封鎖してくれた。
外側から見ても多少の不自然さがあると思うが、ゴーレムが動く場合を考えると許容範囲だろう。
もう一度頼むとロックゴーレムに声を掛け、楔の元へ歩き始めた。
この目でこの洞窟を直に確認する為、行きとは違う道をたどって楔へ元へ帰っていると、いきなり背中に衝撃が走った。
お読み頂き有難う御座います。