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#49 鉢合わせた、アルデスタ 3

 一夜明けて宿で朝食をとり女将にもう一泊今の部屋に泊まる予約を入れて宿を出た。

 まだ朝早い時間のせいか道行く人の姿は昨日に比べて疎らだったが、地図を頼りに納品先の商会へ近づいて行くと荷馬車や荷車の往来が段々増えてくる。

 それらの邪魔にならないよう道の端によって進み地図の示す場所へ着いてみるとこのアルデスタ伯爵領最大級の商会というだけあってかなりの大きさの建物があった。

 外から商品のような物が見えないのでここは小売りの店舗や倉庫ではなく事務所のような場所なんだろう。

 建物内に足を踏み入れると何人もがせわしなく行き交っていて一瞥し一番下っ端そうな人を捕まえて声を掛けた。

「すまない、すこしいいか?」

「はい、どのような御用でしょうか」

 従業員へきちんとした教育が行き届いているようで俺に正対して対応してくれた。

「トロスのミシェリさんの代理で魔法薬を納めに来た。担当の者に取り次いでもらえないか?」

「分かりました。ここでお待ちください」

 一礼して去っていく従業員を見送り言われたように暫く待っていると別の従業員が近づいて来て一礼した。

「魔法薬の商いを担当している者です。ミシェリさんの代理で魔法薬を納めに来たとの事ですが、証明できる物を何かお持ちですか?」

「ああ、委任状を持ってる確認してくれ」

 格納庫から委任状の方のミシェリさんの手紙を取り出して手渡す。

 手早く解いた手紙に素早く担当者は目を通してくれ俺達がミシェリさんの代理だと納得してくれたようだ。

「はい、確かな委任状ですね。では、こちらのテーブルに納品の品を全て出して頂けますか?」

 担当の者が指定したテーブルに預かってきた魔法薬を全部取り出していく。

 テーブルに置く端から数えてくれていたようで取り出し終わるとすぐに担当の者は口を開いた。

「数はきちんとあるようですね。間違いはないと思いますが一応検品させてもらいます。代金と納品証書は暫くお待ち頂けますか?」

「そうか、だったら先にこの手紙を読んでくれないか?」

 訝しがる担当の者に格納庫から紹介状の方のミシェリさんの手紙を取り出して手渡す。

 今度も手早く目を通してくれた担当の者は内容を見て得心してくれたようだ。

「なるほど、こういう事ならただお待ち頂くのは時間の無駄ですね。案内の者をつけるのでその者について行き、その先でもう一度この手紙をご提示ください」

 折り畳んで返してくれる紹介状を受け取ると担当の者が声を掛け呼び寄せた従業員が近づいて一礼してくる。

 この方たちを会頭の所へ案内してくれと言う担当の者のセリフに違和感を覚えるが従業員に促されたので大人しくついて行った。

 

 建物の奥へと案内され一番奥まった所にある扉を従業員が叩いて在室を確認して中へと通される。

「会頭、お客様をお連れしました」

 部屋の中には恰幅の良い初老の男性がいて書類仕事をしていた。

 温厚そうだが力のある視線を俺達に向けてくるので悪印象を持たれるのは不味そうだ。

「初めまして、トロスで魔物専門の傭兵をやっているリクと言います。今日は知人の紹介でこちらを訪ねてきました。紹介状もあるので目を通して頂けますか?」

 俺から先に名乗りながら近づいて紹介状を格納庫から取り出すと初老の男性は鷹揚な仕草だったが確かに受け取ってくれた。

「拝見しましょう」

 さっきの人と同じように素早く紹介状目を通してくれ初老の男性は顔を上げてくれた。

「なるほど。トロスの海運への投資をお考えなのですね。詳しい話は座って致しましょう。そちらにお掛け下さい」

 応接セットへ促されたので俺は座るがバルバス達は後ろに控えてくれる。

 初老の男性は執務机から俺の向かいに移動して腰を下ろした。

「では、わたしの方も名乗らせて頂きましょう。当ギラン商会の会頭を務めておりますエクトールと申します。見知りおきください」

「会頭ですか、・・・あの俺達は海運の責任者の紹介をお願いしたのですが?」

「間違ってはおりませんよ。海運は私の直轄部門になっているんです」

 エクトールさんの答えに得心がいって頷き返していると廊下から足音が近づいてきていきなり扉が開かれた。

「エクトール、頼みがある。邪魔するぞ」

 昨日の老騎士が勢いよく部屋に入ってくるが俺達へ視線が向くと動きを止めた。

 俺達も硬直してしまうが機転が必要な商人らしくエクトールさんが最初に口を開いた。

「グライエン。頼みの内容は大体察しがつきます。後で相談に乗りますから少し待っていてください」

「・・・いや。儂もこの者達と話がしたい。同席させてもらう」

 部屋に1歩踏み込んで立ち止まっていた老騎士がエクトールさんの横まで移動して腰を下ろした。

「まずは昨日の無礼を詫びさせてもらう。緊急事態で焦っていたとはいえ、無体な言い掛かりをつけてすまなかった。儂は当地のアルデスタ伯爵家に仕える騎士でグライエン・ガーレンという。よろしく頼む」

 そう言ってグライエン騎士は深々と頭を下げてくれた。

 昨日も思ったが騎士と遺恨を持ってもいい事など無いので気にしていないと流すのが吉だろう。

「分かりました。グライエン様の謝罪を受け入れます。俺達はトロスで魔物退治専門の傭兵をやっている者で、リーダーのリクといいます。こちらこそよろしくお願いします。俺達とエクトールさんの話はごく私的な事なのでグライエン様の要件からお聞かせください。」

「承知した。と言っても儂の話は昨日と同じでギルドの強制依頼に参加して欲しいというものだ。依頼の内容はもう知っているか?」

「はい、ゴブリンとオークが大地竜山脈の麓にある森から溢れたとか。御味方が劣勢で援軍への傭兵派遣を要請されたと聞いています」

「その通りだ、だからこそ貴殿たちのような腕利きの助勢がどうしても欲しい。満足な報酬は払えんかもしれんが、どうか援軍に参加してくれないか」

 老騎士が深々と頭を下げてくれるが、俺達には秘密が色々ある上大規模な集団戦の経験はない。

 ポイントや大規模集団戦の実地経験を得る良い機会になるかもしれないが、この様子だと切り札扱いされかねずここは引くべきだな。

 そうなるとグライエン氏に出来るだけ不快感を与えないよう俺も深々と頭を下げた。

「申し訳ありませんがお断りします。魔物退治専門の傭兵と言いましたが、俺達本来の戦闘スタイルは魔物を見つけだして仕留めるという狩人のそれに近く、少数対少数規模の戦闘しか経験がありません。大規模戦闘の実地経験というのは魅力的ですが、グライエン様の口ぶりだと俺達を切り札のように考えていると見受けます。そのような大役到底引き受けられません」

 グライエン氏が動く気配がして俺もゆっくり顔を上げその表情を見る。

 渋い表情だがグライエン氏は黙ったままなので俺の反論の理を認めてくれたようだ。

 これでこの話は流れるかなと思ったけど、エクトールさんの方が口を開いた。

「リク殿、そういう事なら当商会に傭兵として雇われて頂けませんか?」

 不意の提案に多少驚いてエクトールさんの方を見るが柔和な表情を崩さず俺を見返してくる。

「申し訳ありませが、もうすこし説明してくれますか?」

「勿論です。前置きになりますが横にいるこの男が当商会を訪れた本来の目的は、恐らく件の援軍への物資支援の要請です。この男との付き合いも長いですしアルデスタ伯爵家のために物資支援はやらせてもらうつもりでおります。ここからが本題なのですが、リク殿は戦地まで物資の護衛して頂きその後は自由に魔物狩りをして頂きたいのです。報酬は定額の護衛料と倒した魔物の数に比例した討伐料の合計に加えて、ご相談の件を当商会が全力で後押しするというのでどうでしょう」

 今の説明からエクトールさんの思惑を考えるとグライエン氏の目利きを信用し俺達を戦力化するため渋る点を排除するので討伐に参加して欲しいという事だろう。

 投資への援助も確約してくれるみたいだしエクトールさんの依頼は受けても良さそうだが、大きな話になりそうだしこういう事情に詳しい相談相手もいるので意見を聞いておこう。

 目を閉じて考えるふりをして念話をつなぐ。

(バルバス、エクトールさんの依頼をどう思う?)

(そうですな、本当に行動の自由が保障されるなら受けてもいいかと。あと引き受けるおつもりなら数が心許ないのでアグリスやアデルファを擬人化し後で増員として加えられるか確認して下され)

了解とバルバスへ念話を送って目を開いた。

「依頼を受けるかの是非を答える前に、幾つか質問をさせてください。物資輸送の後は本当に魔物狩りを自由にやっていいんですか?」

「はい、討伐の実績さえあげて頂ければ構いません。本来の少数精鋭で動こうと討伐部隊に合流しようと戦地での自由行動は当商会の名を持って保障致しますのでリク殿の判断にお任せします」

「後一つ依頼を受けるにしても納品依頼の代金を届けに一度トロスに戻らないといけないので、使えそうな奴を何人か連れてきてもいいですか。あと報酬と相殺で構いませんから装備や魔法薬みたいな消耗品を融通して欲しいです」

「どちらも構いませんよ。リク殿が使えると判断した者なら十分な強者でしょう、50名でも100名でもお連れ下さい。装備品や消耗品も当商会が責任を持って無償でご用意しましょう」

 この条件なら上手くやれば討伐先でも干渉地を確保できそうだし、せいぜい暴れてポイントを荒稼ぎさせてもらおうか。

「分かりました。今回はギラン商会の傭兵として働かせてもらいます。ただ先ほど言ったように一度トロスに戻ります。ついでに準備もしてくるのでいつまでにここへ来ればいいですか?」

「そうですね・・・。アルデスタ周辺の余剰物資を集めた第二陣の輸送隊が今日から5日目以降にここを出ると思いますので、それまでにはお戻りを。すぐに商会の馬車を用意させるのでそれを使ってトロスに向かってください」

「了解です。なるべく早く準備を済ませてきます」

 俺が立ちあがるとエクトールさんも続き、グライエン氏も立とうとしたがエクトールさんが手で制し、彼を残して全員この部屋を後にする。

 検品待ちだった魔法薬の代金と納品証明を受け取っているとエクトールさんが馬車の手配を済ませてくれていて、宿への予約のキャンセルを頼みそれに乗って慌ただしくアルデスタを後にした。




お読み頂きありがとうございます。

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