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#48 鉢合わせた、アルデスタ 2

 老騎士の宣告が終わると一瞬ギルドの中が静まり、カウンターに向かって歩く老騎士の足音だけが建物に響く。

 だが次の瞬間には先程以上の喧騒に包まれ大半の傭兵が注目する中、並んでいた連中が自主的に明けた受付の前に老騎士が立った。

「用件は今言った通りだ。ギルド支部長に取り次いでくれ。」

 老騎士の前にいた受付嬢が一礼して奥に向かう姿を見ていると俺達に対応してくれた受付嬢が戻ってきた。

「まずこちらが納品代金と納品証書になります。お確かめください」

 むこうの様子を気にした風もなく俺の前に差し出されたトレーに乗っている証書の内容とロブロ硬貨の数を確認して格納庫にしまう。

 受付嬢へ頷くと地図を一枚手渡してくれた。

「そちらが紹介する宿屋への地図になります。紹介状を兼ねておりますので宿の者にそのままお渡しください」

「分かった。手間をかけたな」

 手を挙げて礼を伝え受付嬢の前から退く。

 老騎士が口にした依頼の内容も気になるがトロスの傭兵ギルドは夜遅くでも開いていたので、先に宿の部屋を押さえて確認に戻ればいいだろう。

 受付嬢に背を向けみんなに視線で合図を送って数歩足を踏み出した所でいきなり横から声が飛んできた。

「待て、お前達はここに残れ」

 その声を聴いて誰が言ったか分かったが、一応声の方へ視線を向ければやはりあの老騎士だった。

 何で待てと言われたのかは分からないが、騎士を無視したり邪険に扱うのは不味いだろう。

「申し訳ありませんが、我々を引き留めた理由をお教え頂けますか?」

 丁寧に対応したつもりだが、俺の問いかけに老騎士は明らかに不機嫌になった。

「いいだろう、答えてやる。お前達は気配を押さえてはいるが、かなりの使い手だろう。何か事情があるのかもしれんが、どうあってもこの依頼には参加して貰う」

 なるほど、この老騎士は俺達がギルドの所属と勘違いして強制依頼を外れる為出て行こうとしたと思ったようだ。

 ティータに聞いた話だとギルドに登録している傭兵は、ギルドから出される強制依頼を受ける義務があり、断ると登録の失効や悪くすると抹消され数年は再登録を認められないらしい。

 まあ強制依頼が出てる間中ギルドに寄り付かず依頼を受けられなかったと言い訳して報酬の3倍以上の罰金で済ませることも出来るそうなので、この老騎士にそう勘違いされたなら不機嫌になった理由もよく分かる。

 貴族と対立して目の敵にされ俺達の周辺を嗅ぎまわられても鬱陶しいし、これ以上心証が悪くならないよう勘違いは解消しておくべきだろう。

「どうやら騎士様は思い違いをなされているようです。我々はギルドには登録していません。それに別件の依頼を遂行中なのでそもそも他の依頼を受けられませんし、今日アルデスタについたばかりで宿の手配をしたいのです。これで失礼してもよろしいでしょうか?」

「嘘をつくな!今そこで報酬を受け取っていたではないか!」

「それは知人が頼まれた納品依頼の品を代わって納めて受け取った代金です。お確かめください」

 老騎士への釈明中にちょっと思いついたので言葉を続ける。

「それでもまだお疑いならギルドへの登録をしていないと確認してもらっても構いません」

 ギルドが登録の有無をどうやって判断しているのか興味が出たのでそうセリフを追加してみた。

 老騎士が俺に対応した受付嬢へ視線を向けると機知に富む人だったようで質問をされる前に俺の返答を肯定して頷く。

 老騎士は渋い表情を浮かべ、それでも俺に視線を戻した。

「嘘は言っていないようだが、一応登録の有無も証明してもらおう」

「構いません」

 俺も興味があるので今対応してくれた受付嬢の前に戻る。

「聞いてたと思うが登録の有無を確認してもらいた。何かする事があるか?」

「では、どちらでもいいので手を出して頂けますか?」

 受付嬢へ頷いて左手を出すとその上にカードをかざした。

 見ただけでは訳が分からないし看破眼を使うより聞いた方が早そうだ。

「何をするのか聞いてもいいか?」

「はい、いいですよ。このカードに魔力を吸わせてその反応を見せてもらいます。カードを持ったことが無い方と、現在持っているか過去にもったことがある方の反応は全く違うので登録の有無が分かるんです」

 説明を聞いて左手に意識を向けると確かに魔力を吸われているようだ。

 暫くかかるかと思ったか5秒程で受付嬢はカードを仕舞い俺に一礼して老騎士の方を向いた。

「確認しました。この方はカードを持ったことはありません。よってギルドへの登録はないものと判断致します。」

 一礼した受付嬢に続いて俺も渋い表情をしたままの老騎士へ向き直る。

「これで騎士様の疑念は晴れたと思います。知人から受けた依頼が継続中ですし、先ほど言ったように今日の宿の手配もまだなのでこれで失礼します」

 俺も目礼して老騎士の出方を伺うが渋い表情を変えずただ俺を睨んでくる。

 これは下手に言葉を重ねて余計に心証を悪くするよりさっさとギルドを出て行った方が良さそうだ。

 傍に控えてくれていたバルバス達にもう一度視線で合図を送りギルドの出口へ歩き出すが、それでも背後から老騎士の鋭い視線を感じる。

 ただそれもギルド支部長がお会いになりますという受付嬢からの呼びかけで感じなくなり内心ホッとしてギルドを出た。


 地図を頼りにアルデスタの町中を歩きギルドからそう遠くない場所に目的の宿を見つけられた。

 客の呼び込みをしていた女将に紹介状変わりだという地図を渡すとあっさり4人部屋を確保でき、まだ夕方前だったが今日はもう夕食を取る事にした。

 夜にもう一度ギルドへ出向き強制依頼の内容を聞くため、一息つくと宿の食堂へ移動し食事を頼む。

 俺の考えにつき合ってアルデスタまでついてきてくれたバルバスやティータとティーエを労って多めの食事と酒を頼んでゆっくり食事を取る。

 そうしているとギルドが紹介する宿だけあっていかにも傭兵といういでたちの客が増えてきて自然とその人達の会話が聞こえてきた。

 周りに警戒されないよう聞き流すが皆似たような話をしていて同じような単語が何回も聞こえてくる。

 正確に聞き取れた会話の内容だけを繋ぎ合わせてみるとあの老騎士がギルドに出した強制依頼について話しているようでどうやら魔物討伐のようだ。

 具体的には大地竜山脈の麓に広がる森からゴブリンとオークの群れが溢れ出たようだ。

 群れの総数は不明だが最低でも1000以上がもう森を出ており、その森沿いにある出城の守備兵が城へ誘引して応戦しているようだがかなり劣勢らしい。

 それでアルデスタから援軍を送る事になり傭兵ギルドへも派兵を命じたみたいだ。

 トロスへ帰る時にでも強制依頼内容の確認が必要だが、依頼の内容がそれで断片でも俺達の力を察したなら確かにあの老騎士は俺達を雇いたいと思うだろう。

 ただ俺達の諸々の事情を考えると軍隊には向かないと思うので暫くは静観だな。

 情報をくれた周りの傭兵たちに内心で礼を言い、ギルドへの様子見は取りやめて食事を平らげた後は部屋に引き上げて休んだ。


お読み頂きありがとうございます。

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