#45 教えて貰った、ミシェリ魔法薬店 1
新しく最下層の一部になった最後の未拡張坑道の天井へ向けて土魔術を二重に放つ。
地面を操る術の応用で必要な分だけ天井や壁を崩し、新しく現れた天井には地面から石壁を作り出す術でこれ以上崩れないよう強度を上げた。
「これで新しくつながった坑道の拡張は終わりだな。」
廃坑道の表の所有権もギヌーボから手に入れて5日、メウロから聞き取った坑道の最下層に新しくつながったこいつの元巣穴をマドラも入れるように拡張している。
天井を砕いて出来た岩石の内使えそうな鉱石は回収し、鉱石の含有がほとんどない物はメウロが制御しているロックモール達に食わせてやった。
そういえば今足元にいるメウロも看破眼で見るとメタルモールというロックモールの上位種だった。
岩石も好物だが鉱石の方がより好物だそうなので良く働いた分少し分けてやるとしよう。
「メウロ、今回の件でのお前への褒美だ。受け取れ。」
格納領域から取り出したそこそこの質で拳大の鉱石を幾つかメウロに放ってやると、嬉しそうに全部口に含んで噛み砕き一気に飲みこんだ。
「おおきに、リク兄さん。せやけど自分の住んどったここをこんなに広げる意味があるんですか?」
「ああ、あるぞ。鉱石を手に入れるってだけじゃなくて、ここも俺の坑道とつながって同じように魔物が湧くようになったから眷属達が掃討に来てるだろ。マドラも入れるようにしてやらないときっと拗ねる。その不機嫌の解消にメウロお前が付き合ってやれたか?」
俺の問いかけにメウロは一瞬で硬直する。
「絶対無理ですわ。もしマドラ兄さんの溶解毒なんて掛けられたら自分なんて一発ですよ。」
「まあ、そういう事だ。残った岩石を食べ終えたら坑道全体へ均一に散らばるようロックモールに指示を出してくれ。それじゃあ、引き上げるぞ、メウロ。」
「了解です、リク兄さん。」
まだ岩石を食っているロックモール達は残してメウロとこの場を後にした。
楔まで戻りメウロにも次の仕事を指示してトロスの家へ転移する。
昼を回っていたので楔で作った軽い食事を食べギルドへ向かった。
到着し時間帯のおかげで中は閑散としており待つ事無く受付をしているサラの前に立てた。
「いつもご利用ありがとうございます、リクさん。お願いしていた鉱石の納品でしょうか?」
「ああ、そうだがついでに集まった魔物の素材も買い取ってくれ。」
「承りました。まずは素材をここにお出しください。」
サラに従って今回売る魔石などの素材をカウンターの上に出し奥にいた他の職員の鑑定が始まる。
今度は壁際に鉱石を出すよう頼まれそれにも従い鉱石を指定の場所に積んだ。
せわしなく動き始めたギルド職員の邪魔にならないよう待っていると重そうな袋と抱えてサラがやって来た。
「リクさん、今回の買い取り代金端数を繰り上げて20万ロブロ丁度になります。お確かめください。」
袋を受け取りギルドが誤魔化すとも思えないが一応開け10000ロブロ大銀貨が20枚入っているのを確かめて頷いた。
「急ぎの鉱石納品は無事完了でいいな?」
「はい、ただ以前の取り決め通り継続した納品はお願いします。」
「分かってる、じゃあ、今日はこれでな。」
お辞儀をしてくれるサラに手を挙げてギルドを辞した。
家へ帰りながらギルドで売却代金を受け取った時浮かんだ戸惑いを深く考えてみる。
ここ最近カモフラージュやミシェリさんとの取引のためよくギルドへ素材や鉱石を売却していてそこそこの現金を手にしている。
一方食料購入程度でしかお金を使っていないのであの奴隷商から得た分と合わせて結構な貯金がある。
ここ最近の獣人の隠れ里から得るポイントの推移から考えて活動が活発になると得るポイントも増えるようなので、この貯金もトロスが活性化するように使いたい。
この街には大きな港があるので海運関係が良いと思うが、ただ何かを買うにしても誰かに投資するにしても俺にはまだこの街についての情報が少ない。
何をするにしてもこの街の事情通の人から情報を仕入れるのが先だろう。
そうはいっても一人しか事情通に心当たりはないし、膳は急げというので行先を変更した。
花街の外縁まで足を延ばしミシェリ魔法薬店の扉を開ける。
店に入りカウンターに着くまでに目的の人物も奥から出てきてくれた。
「いらっしゃい、リク。魔法薬の補給にきたの?」
「いやそうじゃないが、先にこれを渡しておく。検品してくれ。」
格納庫の中から高純度で拳大の特殊金属鉱石を10個程取り出してカウンターに並べる。
怪訝な表情を浮かべていたミシェリさんだが、持ってきた鉱石へすぐに興味が移ったようで一つずつ楽しそうに鑑定していった。
「どれも手を加え甲斐がありそうね。それでこれらの対価に私は何をすればいいの?」
「ちょっと思いついたことがあってな、それについての情報提供と助言を頼みたい。今渡した鉱石は、まあ情報料って所だな。」
俺が用件を切り出すと上機嫌だったミシェリさんの表情が多少曇った。
「この鉱石は嬉しいし頼ってくれるんだから答えたいけど、わたしは情報屋じゃないわよ。」
「取り敢えずは傭兵である俺の考えが、商人でもあるミシェリさんにどう見えるか教えて欲しいんだ。それでもし俺の話を聞いてミシェリさん以上に詳しい知り合いがいるなら紹介して欲しいんだよ。」
「そういう事。なら一応話は聞かせて貰うけど、リクの得になる話が出来るとは限らないわよ?」
「ああ、別の視点からの意見が聞ければそれで良いよ。その鉱石を返せとも言わないから頼む。」
「分かったわ。でも店先じゃ落ち着かないでしょうから、奥で話しましょう。ついてきて。」
頷くとミシェリさんは店の奥へ俺を促した。
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