#42 呼び出された、トロスの高級住宅街 3
ギヌーボとの面会で交渉が決裂し2日が経った後の翌朝、あの態度から考えて折衝には1週間位の時間がかかると思っていたがギルドから呼び出しの連絡がきた。
サラのしていた話や俺の提案を考えるとギルドが選んだ傭兵の技量の見極めや俺達自身がまた鉱石の採取を頼まれる可能性もあるのでバルバスだけじゃなくティータやティーエも連れて家を出た。
ギルドに着いたのは朝方を過ぎていたので傭兵の姿は疎らで、ただ今日は受付ではなく入り口近くでサラが出迎えてくれた。
「呼び出しに応じて頂きありがとうございます。リクさん。」
「前置きはいいから、ギヌーボとの交渉がどうなったかだけ教えて貰えるか?」
「分かりました。結果だけお伝えすると今回の納品分はギヌーボ様が集めた者によって採掘される事になりました。つきましては立坑に施している壁というのを彼らに同行して解除して頂けますか?」
「まあ、それは構わないがその集められた奴らっていうのがどれほどの腕前か自分の目で見極めたいんで、どこにいるか教えてくれるか?」
「それならもうあちらに集まっておいでです。」
サラが視線を向けた先を俺も見てみると壁際に15人程の男達が一団を作っていた。
5人が革鎧に身を包んで帯剣をしており他の10人程は不慣れな手つきでつるはしを持っている。
恐らく前者がギヌーボ子飼いの魔物からの護衛役で、後者はスラム辺りで集めたほとんど鉱石採取など未経験な工夫役の男達だろう。
安全確保の要になる護衛役達の力量を看破眼では狩ってみるが、5人共レベルは8〜10で剣術スキルも持ってはいるがレベルは皆1だ。
ギヌーボからどの辺りでの鉱石採取を命じられているかはしらないが、家を出る前に今日は坑道で魔物狩りはしないよう眷属達へ命じてあるので最下層へ向かえば確実に湧いているロックゴーレムやロックリザード達と遭遇して返り討ちにあうだろう。
そうなると一つ嫌な事が起こる可能性に今気づいたので取り敢えずそれは潰しおこう。
「サラ、悪いがあいつらを見て一つ頼みたいことが出来た。聞いてくれるか?」
「はい、どのような事でしょう。」
「俺の見立てだとあいつら程度の力量じゃ坑道の中層以降へ下りたら全滅しかねない。立坑の事があるから俺達がついて行くのに異存はないが、まず起こるだろう失敗の責任を俺達に擦り付けられたら堪らない。ギルドから監査役を出してくれないか?」
サラは目を見張り一瞬沈黙するがすぐに表情を戻して答えてくれる。
「なるほど、では私が監査役として同行しましょう。ただし二つお願いがあります。まず一つ目は私の護衛を無償でお願い出来ますか?」
「何だ、それ位なら問題ない。俺達の方から頼んでついて来てもらうんだ、勿論無償で護衛はやらせて貰う。ただもう一つのお願いって何だ?」
「それは、ギヌーボ様配下の方達も窮地に陥るようなら助けて頂けませんか?」
「あ〜まあただ見捨てるのも後味が悪いから何かあったら助けるが、流石に無償でっていう訳にはいかないぞ?」
「それは勿論です。もし救助して頂けるなら、掛かった費用や報酬はギルドが責任を持ってギヌーボ様から回収いたします。この条件でお願いできませんか?」
「確認するが、本当にギヌーボから取り立てが出来る算段があるんだな?」
多少疑念の目で見るが、サラは自信を持って頷いてくれた。
「そういう事なら、サラの要請を二つとも引き受けさせて貰おう。」
「ありがとうございます。ではあちらの方々を紹介するのでついてきて頂けますか?」
今度は俺の方が頷いて案内してくれるサラに続いた。
サラは紹介と言ったが俺と護衛役のリーダーが握手をするだけでそれは終わり全員でギルドを出発する。
工夫役達の体力が思ったよりなかったので途中食事休憩を取り昼を少し過ぎて目的地の坑道の前についた。
工夫役達の体力を考えれば正直な所今日はここで一旦休むと思ったがギヌーボの配下達は坑道へ入る準備を始める。
かなり無謀な気がするが文句を言える立場でもないのでその様子を見守っていると今日の魔物狩りを終え
たのだろうボルトン達が坑道から出て来た。
軽く手を挙げて挨拶をしてボルトン達も会釈をする位で寝泊まりをしている廃屋に向かうと思ったが向こうから近づいて来た。
「リクさん、あの連中何者なんですか?」
俺に質問した後ボルトン達はギヌーボの配下をみるがその視線はどことなく懐疑的に見える。
「鉱石を掘り出しに来た鉱山主の配下だが、何かあるのか?」
「実はあの連中一昨日もここへ来たんですよ。坑道へ入って立坑を下りていったんですけどリクさん達の作ったあの壁に阻まれて何もせずに帰ったから、何しに来たんだろうと思ってたんですよ。まあ鉱石掘りに来てたんなら納得ですね。」
ボルトンは言葉通り納得の表情を浮かべるが俺に少し疑問が湧いた。
「ボルトン、今度は俺から聞くがあいつ等無事に立坑までは行けたんだな?」
「ええ、そうですよ。あの連中が坑道へ入る前にあの日の魔物狩りは終わってましたから。」
「そういう事か、ならボルトン達がここにいるって事は今日の魔物狩りも終わってるか?」
「はい、そうですけど何かあるんですか?」
「いや、ギルドからの要請であいつらについて行って立坑の封と解かなきゃいけないんだよ。まあボルトン達の狩りが終わってるんなら多少は楽が出来そうだな。」
「なるほど、ご苦労様です。リクさん。それじゃあ俺達はこれで。」
「ああ、またな。」
ギヌーボの配下達の準備が終わるのが見えていたようで、頭をさげて俺達の前を辞するボルトン達を見送った。
工夫役達に火を灯したランプを持たせて従え地図を持ったギヌーボ配下の護衛役が坑道へ入って行く。
俺達はいつのもカモフラージュに通り火の精霊であるケルブを召喚して明り代わりにその後ろをついて行った。
ボルトン達はきちんと言葉通りに魔物掃討をやってくれたようで戦闘なく立坑まで着き下へ向かって階段を下りていく。
ティータとティーエに立坑の中部位にある土壁を一旦除去して貰いさらに下って行くがギヌーボの配下達は真っ直ぐ最下層を目指すようだ。
俺達からすると実力に見合わない無謀な行為なんだが、監査役のサラもついて行くので取り敢えず静観してその後に続いた。
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