#40 呼び出された、トロスの高級住宅街 1
周囲の人間達へのカモフラージュのため面倒だがバルバス達とトロスから歩いて坑道に向かい、下層で魔物狩りを終えて立坑を上っているとボルトン達が最上層近くの横穴から出てくる。
むこうも上層で魔物狩りをしていたようで貸し出している不死特効の剣を持つボルトンに護衛の壁役だろう木製の円盾を持った男二人が付き従っていた。
「よう、ボルトン達も魔物狩りに坑道へ入ってたんだな。」
「はい、そうです。リクさん達は狩りが終わって上がりみたいですね。戦果はどうですか?」
「まあぼちぼちだな。そう言うボルトン達はどうなんだ?」
「貸し出して貰ってるこの剣のおかげで順調ですよ。」
ボルトンは右手に嵌めている奴隷化の首輪を改造した腕輪に鎖でつながっている剣の柄を叩いて見せる。
「そう言えば今日はリクさん達にこの剣の賃料を払う日でしたよね。俺達も狩りを一旦切り上げますから外の小屋まで一緒に来てもらえますか。」
「勿論、ついてくよ。」
上層の魔物を仕留める役はボルトン達へ譲るべきなので俺達が後ろまわり立坑を上がって行く。
坑道を出るまでにスケルトンやゾンビの群れと2度遭遇したが盾を持つ二人を両脇に従えボルトンが堅実に全て仕留めて見せてくれた。
外に出るとボルトンとその仲間達が寝泊まりに使ってる坑道の入口付近にある廃屋の一つに案内される。
中に入ると皆真面目に坑道で狩りをやっているようで残っていたのは食料や水の輸送役と全員の荷物の番をしている2人だけだった。
ボルトンは俺達が床に設置して固定したクライフ謹製の台座付の鞘に貸したしている剣を納める。
すると鞘が動いて剣を固定し、続けてボルトンの右手首にはまっていた腕輪が音を立てて外れた。
剣を手放したボルトンが荷物番の一人に目配せすし、その男が懐に仕舞っていた袋を二つ取り出してボルトンへ手渡す。
受け取った袋を二つともそのままボルトンは俺へ差し出してきた。
「一つは貸し出して貰っているあの剣4本の1週間分の賃料で魔石105個です。もう一つは融通してもらった魔法薬代の今週分で魔石50個です。納めてください。」
ボルトンへ頷いて袋を二つとも受け取り左腕の格納庫へ仕舞った。
「あの、前回もそうでしたけど数を確認しなくていいんですか?」
「1〜2個借りない位なら次回に追加で請求するし、俺への支払いを誤魔化してそこの剣を使えなくなるなんて馬鹿をお前達はやらないだろう?」
ボルトン達へ順に視線を向けると全員真剣な表情で頷き返してくれた。
「それにしてもボルトンへ声を掛けてから20日、今日で2回目の払いの日だがさっきも言ってたように魔物狩りは順調そうだな。そういえば後遺症回復の薬を用意してやった奴はその後どうなんだ?」
「そっちも順調ですよ。まだ魔物狩りをやれる程の動きは出来ませんけど、食料や水の運搬役位ならやれるようになりました。動きや体力は段々良くなってきてるんで、あの剣を使ったここでの魔物狩り位ならそう遠くない内にやれるようになると思いますよ。」
「そいつは良かったが、ボルトン達を含めて無理をしないようにしろよ。つまらん怪我をして狩りが滞るのがお互いに一番の損になるんだからな。」
「勿論、分かってますよ。それにリクさんから最初にもらった外傷用の魔法薬がまだ残ってますし、リクさんっていう伝手があって稼がせて貰ってますから怪我をしたらケチらず使わせて貰いますよ。じゃあ、おれ達は狩りに戻ります。」
「くどいかも知れないがその剣を身に着けたままこの台座から不必要に離れるなよ。物凄いペースで魔力を絞り取られた最後は干物のようになって死ぬからな。」
ボルトンと組んでいた男二人は分かっていますよと俺達に頭を下げ、片方の男からボルトンが盾を受け取る。
盾を手放した男は不死特効の剣につながる腕輪を右手に嵌め、鞘の固定が外れると剣を引き抜いて3人で廃屋を出て行った。
俺達も荷物番に残った二人へ声を掛け、その二人に頭を下げて見送られ廃屋を出た。
歩きながら楔で作り格納領域に貯蔵してあるサンドイッチをみんなに配って昼食を済ませ、夕方前に門を潜ってトロスに入ると真っ直ぐギルドへ向かう。
一番混み合う時間帯の前にギルドへ着けたのでサラの対応する受付に並んでもそれほど待たずに俺達の順番が来た。
「いつもご利用ありがとうございます、リクさん。今日も魔石と魔物素材に鉱石の買取りですか?」
「ああ、よろしく頼む。」
サラが頷いてくれた所で昼間ボルトン達から受け取った魔石や普段の狩りの後楔に吸収させず残しておいた魔石をカウンターの上に取り出す。
他にもカモフラージュ用に残しておいたロックリザードの外皮や爪牙にミシェリさんへ渡すのとは別にクライフと採取した少し質が低めの鉱石もそこそこの量を取り出した。
どうしてギルドにも鉱石を売っているかというとミシェリさん経由でギルドから買取りの要請があったからだ。
俺もミシェリさんもあまり乗り気じゃなかったんだが、その雰囲気がむこうへ伝わったようで条件を付けくわえてきた。
ある程度の量の鉱石を売ってくれれば俺達の間での取引を黙認するというものだったので俺の土魔術の練習と坑道の拡張を兼ねて鉱石を掘り出す量を増やしてギルドへ卸すようになっている。
流石にカウンターの上がいっぱいになったので後ろから応援の職員が出てきて、鑑定をしながらバケツリレーの要領で奥へ買取り品を運んでいく。
邪魔にならないようその様子を少し離れて眺めながら清算を待っているとバケツリレーの監督を離れてサラが近づいて来た。
「リクさん。鑑定と精算が終わるまでの間、少しお話をしてもいいですか?」
「別に構わないが、ギルドから何か依頼でもあるのか?」
「はい、ボルトンさんやそのお仲間にリクさんが貸し出されている剣の事です。」
特にボルトン達へ口止めはしていないのでギルドが知っていてもおかしくはない。
ただどうしてあの剣の事を聞いてくるのかは分からないのでサラの顔色をうかがうが、特に変化は見てとれなかった。
ギルドが何を知りたいのか分からないがクライフの事は絶対明かせないので製作者だけは秘密にして、後の質問は必要以上に疑念を持たれないよう正直に話してしまおう。
「さすがギルド、耳が早いな。それで、あの剣の何が知りたいんだ?」
「警戒なさらずとも製作者を教えろなどと言うつもりはありません。あの剣を私共にお売り頂きたいのです。もしそれがだめなら貸し出すだけでもして頂けませんか?」
「もしかしてギルド所属の駆出しをあの坑道で鍛えるのに使うつもりか?」
「ご明察恐れ入ります。買取り、貸し出しどちらでも十分な報酬をお支払いいたしますがどうでしょうか?」
傭兵ギルドならボルトン達に貸している剣と同様の物ぐらいは自前で用意出来ると思うので、恐らくこの話はアイデアを閃いた先駆者へ報酬を払って黙認を取ろうというのが主目的だろう。
あの坑道を占有する転生魔人の俺からすると一日に湧く魔物をきちんと全て狩ってくれるならボルトン達だろうとギルドの傭兵だろうとどちらでもそう大差はない。
だがスラムの縮小のためと俺から声を掛けた義理の分だけはボルトン達の方を持つとしよう。
「悪いが今の時点ではNOだ、ただし将来的には一考してもいい。具体的な理由を言うと今ボルトン達は任せている範囲の魔物をきちんと狩っていて人手は必要ないからだ。ただしあの坑道は湧いてくるロックモールの影響で湧く魔物の数が増えているから頭数が足りなくなったり、もしボルトン達に何か事故があって手が足りなくなった時はギルドへも声を掛けよう。それで納得してくれないか?」
「分かりました。上の者にはそう伝えておきます。あとあの鉱山の管理や採掘権を委託されている組織としてリクさんに連絡事項があるのですが、あの鉱山の持ち主が話があるそうなので面会に出向いて頂けませんか?」
面倒な話だが断って出禁にされてはかなわない。
一応顔だけは出しておくべきだろう。
「分かった。俺から会いに行ってみる。どこに住んでるか地図に書いてくれないか?」
俺が頼めば事前に用意していたようでサラは間をおかず一枚の紙を手渡してくれる。
確認するとその紙の表裏へ地図の他に鉱山主のプロフィールが書いてあった。
丁度精算が終わって売却代金が出て来たので纏めてサラへ礼を言ってギルドを辞した。
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今週の投稿はこの1本です。