#4 魔人になった、火山洞窟 4
「何を選べっていうんだ?」
「説明しますね。実はここ最近魔人に転生された方の早期死亡率が急上昇していて、厄神様たちの間で梃入れが必要なのではないという話になったんです。それで今までは説明が終わった時点で8000ポイント前後を楔に注いで私は消えていたんですが、他にも有益なものを用意して選ばせてはどうかという事になったんです。何を与えるかとまた厄神様たちの間で議論になったんですが、取り敢えず今回は各種の情報とプラスして500ポイントという事になりました。ですから7980ポイントか、各種情報+500ポイントかを選んで貰えますか?」
「大体の事情は分かったが、選ぶ前に教えてくれ。各種って具体的にどんな情報なんだ?」
「それはですね、ランダムに抽出した30名の転生魔人の方の転生後1年間の行動記録と、この洞窟を含む周辺の地形情報や、それに付随した要注意個体の位置情報ですね。後はリクオさんが寝ている間にわたしが調べた周辺の情報なんかもあります。こんな所ですが、まだ質問がありますか?」
「いや、ありがとう。参考になった。少し考えさせてくれ。」
梃入れが必要という事は、よほど死亡率が高いんだろう。
なら時間をかければ確実に貯まるポイントより、その時間を稼ぐための危険を避ける情報の方が良さそうだ。
考えを纏める為下げていた視線を、リンの方に戻した。
「決めた。情報と500ポイントの方にするよ。」
「決定すると変更できませんが、よろしいですか?」
「ああ、頼む。」
俺の返事を聞き終えると、リンは頷いてゆっくり目を閉じた。
するとリンの体から一気にポイントが溢れだし、楔へと蓄積されていく。
同時にリンから漏れ出した光が、俺の目の前で収束し結晶化していった。
リンからのポイントや光の放出が収まると、目の前の結晶が浮力を失ったように見えたのでとっさに掴んだ。
ホッとしてリンへ視線を戻すともう目を開けていた。
「わたしが消えたらその結晶を砕いてください。そうすれば結晶内の情報がリクオさんに流れ込みますから。これで私の役目は終わりです。後はリクオさんの自己責任において、この世界を自由に生きてください。」
「分かったが、消える前に俺の質問に答えてくれないか?」
「答えられない事もありますが、いいですよ。何がお聞きになりたいですか?」
「まずは確認なんだが、俺はもう元の世界には戻れないんだな?」
「はい、残念だと思いますが、その通りです。ただ気休めにもならないと思いますが、その体が滅びた後魂だけは元の世界の輪廻の流れに戻す事が決まっています。」
「そっか、まあ生き返らせて貰っただけでも、十分すぎる位有り難いよ。でもリンの話の中に俺が生き返らせて貰った理由や、この世界での使命みたいな話は無かったよな?その辺はどうなんだ?」
「厳密な理由はお教えできませんが、目覚めた時点でリクオさんは厄神様からの使命を果たしていますから、先ほど言いましたがこれより後はお好きに生きればいいですよ。それでも何か恩返しをと、お考えになるなら出来るだけ長く生き強くなってください。それが厄神様の利益になりますから。」
「分かった、覚えておくよ。教えてくれて有り難う。」
「お役に立てたのなら幸いです。代わりと言っては何ですが、私個人のお願いとしてアンケートに協力をお願いできませんか?」
「構わないけど、何を答えればいいんだ?」
「次回以降の転生者の方へ送る最後のギフトの参考にするので、どうして情報の方を選んだのか教えて貰えますか?」
「それはリンが転生魔人の早期死亡率が上がってるって言ったから、転生後1年間の行動記録からその原因が分かると思ったんだ。原因さえ分かれば、避ける事も可能だからな。」
「なるほど。あともう一つお願いします。ギフトの贈呈について何か改善点を思いつきますか?」
「そうだな。・・・たとえば情報ごとにポイントを設定して、ギフトのポイントから転生者が望む情報分のポイントを差し引くようにしたらどうだ。そうしたら転生者自身で欲しい情報と貰うポイントの量を調整できて、より納得してくれるんじゃないか?」
「確かに、参考になりました。アンテートにご協力有難う御座います。お礼にわたし個人として助言させて貰いますね。先程は決まりに沿ってその結晶を砕くように言いましたが、時間が掛かったとしてもリクオさんのアビリティ溶融同化でその結晶を体内に取り込む事で情報を得てください。その方が必ずリクオさんの利益になりますから。ではこれで失礼します。今度リクオさんにお会いするのは、亡くなったリクオさんの魂を元の世界に戻す時なので、再開が永劫の彼方となる事を祈っています。」
ゆっくり一礼したリンが光の粒へと解けていき、その粒は打ち込んだ楔を通って地脈へと消えていった。
リンを感じられなくなり、一気に情報を詰め込まれた反動か暫く呆然としていたが、いきなり腹が減ってきた。
リンの助言に従って楔にただ食事をと意識を向けると、家族でよく行ったラーメン屋でお気に入りだった味噌ラーメンが箸つきで手の上に実体化した。
空腹感に負け結晶を地面に置いて怒涛のごとくラーメンをすすると、馴染の味がして懐かしくなったのかそれとも別の感情か少し泣きそうになる。
その感情もスープまで全て飲み干して満腹になり、手を合わせごちそうさまと口にすると不思議と収まった。
残ったどんぶりと箸を地面に置いてリンから貰った結晶を手に取ると、どんぶりと箸が音も無く消えたので物理の法則がかなり違うと変な所で改めて実感出来た。
一つ息を吐き気合を入れ直して、リンから貰った結晶へ意識を向ける。
折角リンが助言してくれたのだから、それに沿ってアビリティ溶融同化に意識を集めると、結晶が手の中に沈んでいく。
元人間として多少の気味悪さを感じるが、それを抑え込んで結晶が消えるのを待つと、
アビリティ完全記憶領域を取得した
そう頭に響いたがリンが言っていた情報が頭に浮かんでこない。
慌ててアビリティ完全記憶領域に意識を集中すると、頭の中にPCがあるような感覚になりそのなかにリンの言っていた情報を見つけた。
ホッとすると今度は抗いがたい睡魔が急に襲って来る。
とても起きていられないのでマグマゴーレムに楔と俺を守るように命じると、胸に手を当てさらに深く一礼してくれたので俺は潔く睡魔に負けを認めた。
お読み頂き有難う御座います。