#34 いろいろ見つけた、廃鉱山 3
落下に入る前空中で制止した瞬間ホールに響いた声の発生源を一瞥すると大蛇の首が分かれる根元付近に、鱗模様で体のラインがはっきり分かる服を着ているように見える髪の長い女が立っていた。
一見では肌の色以外トロスにいるような普通の人間に見えるがこんな所にいる以上魔人と思っていいだろう。
なら先程の声は無視し落下の勢いを乗せて大蛇の首へ刀を振り下ろすと、
「お願いこの子を殺さないで!何でもいう事を聞くから!」
そう悲痛な叫び声を再び女魔人があげたので思わず大蛇の鱗を引き裂いた所で刀を止めてしまった。
甘い、とは思うが極悪人でもない命乞いをしてくる相手を問答無用で切り殺すのは後味がかなり悪くなるだろうから話くらいは聞いてやろう。
女魔人へ睨みを効かせながら念話をつなぐ。
(バルバス、こいつ等の話を聞いてやろうと思う。槍を回収してティータやティーエの壁役に回ってくれ。)
(御意ですが、よろしいのですか?止めを刺す絶好の機会ですぞ?)
(確かにそうだけど、このまま止めを刺すときっと後味が悪い。話を聞いて回復のための時間稼ぎが目的だと分かったら、その時は心置きなく問答無用で叩き潰すさ。)
(差し出がましい事を言いましたな、二人の護衛お任せくだされ。)
バルバスを一瞥するとなんだか嬉しそうに槍を回収し大蛇とティーエ達の間に位置取りを変えてくれた。
俺も続いて大蛇の首から刀を離すとバックステップで距離を取り正面から女魔人を見据えると向こうから口を開いた。
「この子を見逃してくれて、ありがと。」
そう女魔人が喋り終えるころには大蛇の傷はほとんど癒え、頭を動かそうとするが女魔人が慌ててジッとしててと声を掛け大人しくさせた。
今の様子だと本当に話し合いをする意思がありそうだ。
そうなると何処を落とし所にするかだがここから追い出して見逃すのは不味いだろうな。
こいつからがこの坑道を出れば人間と接触する可能性が高いしそうなれば必ず人間に被害が出る。
また俺達の活動範囲が広がれば再度戦いに可能性もある。
拒否されかもしれないがこいつ等は中々強かったのでまずは仲間に勧誘してみよう。
「見逃すかどうかはお前の返答しだいだ。先ほど言った何でもいう事を聞くっていう言葉に嘘は無いだろうな。」
「ええ、出来る事なら何でもする。」
「なら、その大蛇と一緒に俺の配下になれ。」
無条件でここの瘴気泉を明け渡せ位を要求されると思っていたんだろう女魔人の表情に驚きが浮かぶが、すぐに表情を引き締めて口を開いた。
「分かった、あなたの配下になってあげる。でも一つ条件があるの。この子とずっと一緒にいさせて。これを守ってくれるならあなたの命令になんでも従うから。」
多少遠目だが女魔人の表情は真剣そのものなので嘘は言っていないようだが、言葉だけでは流石に信用できないので強制的な命令権は持たせてもらおう。
そうなると隷属刻印を打ち込むか眷属化するかのどちらかになるが、魔人のままだと魔物を倒してもほとんどポイントを得られない筈なので今回は眷属化しよう。
「分かった。その条件は認める。だが嘘を言っていないか確かめさせて貰うぞ。俺が許可するまでそのまま動くな。」
女魔人を見ているとゆっくり頷いていたので格納領域から鞘を出し刀を納めてまた戻す。
魔力を全身に纏い女魔人へ向かって歩き出すとバルバスから念話が飛んできた。
(リク様、武装を解除して近づかれるのは少し不用心ですぞ。鞘に納めたままでもよいのでせめて刀を手にお持ちくだされ。)
(バルバスの言う事ももっともだけど上位者としての度量を示す演出も必要だと思うんだ。魔力を纏って体の強度を上げてるから、もし不意をうたれても致命傷を受けずに間合いを開ける位は出来るさ。)
(仕方ありませんな、そこまでお考えならもう何も申し上げませんが、十分ご注意くだされ。)
忠言を送ってくれたバルバスに視線を送って答え、より集中して女魔人へ近づいて行く。
レッサーヒュドラの頭の横を通り過ぎる時はかなり緊張したが大蛇は大人しいままで4つの首の根元近くに立つ女魔人の前まで進んだ。
魔力を流し眷属化するため胸元に手をかざすと女魔人はビクッと一度震えたが後はもう動かなかったので魔力を流し込んでいく。
予想外に抵抗は無く魔力を送り込めたが眷属化に必要な魔力量も予想外に多く枯渇寸前でようやく女魔人を眷属に出来た。
魔力を流し終えるとどうやらレッサーヒュドラはこの女魔人の眷属だったようで芋づる式に俺の眷属になった感覚が伝わってくる。
魔力が枯渇気味だったので一石二鳥になったとホッとしていると女魔人が口を開いた。
「私達を眷属にしたの?」
「ああ、流石に言葉だけじゃ信用できないからな。今日からお前達も俺のために働いて貰うが、捨て駒のように扱うつもりは無いから安心しろ。俺はリクって名乗ってる。お前達にも名前はあるか?」
俺が問いかけると女魔人は首を撫でてレッサーヒュドラへ合図を送る。
一瞬緊張したがレッサーヒュドラの4つの頭が俺を囲み恭順を示すように瞳を閉じると女魔人が口を開いた。
「わたしはネイミで、この子はマドラよ。さっき言った通り何でもいう事を聞くから約束通り一緒にいさせてよね。」
「勿論、約束は守る。」
俺が確約するとネイミはホッとしたように表情に変わり頭をすり寄せてくるマドラをそっと撫でていた。
問題なく眷属化が済んだのでバルバス達にこっちへ来るように声を掛け、ネイミ達とお互い自己紹介するよう言い俺は格納領域から楔を取り出す。
マドラが地中から出てきた所為で分からなくなった干渉地をもう一度探しだし楔を打ち込む。
続いて占有領域を展開し全ての坑道を含めて鉱山全体を領域下に治められた。
それでも一応領域化が上手く行ったかの確認とマドラの飛び抜けた回復力の訳を確かめるため看破眼を向けてみる。
戦闘中よく見えなかったマドラのアビリティがレッサーヒュドラボディとはっきり見えるようになっているので領域化は上手く行ったようだ。
ただマドラのこのアビリティに再生能力はちゃんとあるがあそこまで強力じゃないように見える。
そうなるとネイミにも何かあるかと看破眼を向けてみると疑問が氷解した。
ネイミのアビリティとスキルに瘴気炉、魔力支配、回復魔術というのがあり瘴気炉で干渉地から取り込んだ瘴気を魔力に変換し、その魔力を魔力支配で増幅して再び瘴気炉を発動させると同時にマドラへの魔力の供給や回復魔術で再生を後押していたんだろう。
俺の疑問が解けるとバルバス達とネイミ達、お互いの自己紹介は終わっていたが俺にはまだやる事が残っているので待ってもらう。
マドラの溶解液で溶かされていないか多少心配だったが、あの惹かれる感覚を頼りに探してみると無傷の封印の要石を見つけ出せた。
すぐに取り込みたいが魔力が枯渇寸前なので多少勿体ないがここに来るまでにスケルトンやゾンビを倒して得たポイントを消費して魔力を回復し封印の要石に手を触れる。
溶融同化を発動し掌から要石を取り込むと
1体の精霊を吸収しました。
契約及び分解してのポイント化が可能です。
そう頭にアナウンスが響き力の塊が体内に入ってきた。
精霊もこれで四体目なので手間取る事無く意思疎通してみると5000ポイントで契約してくれるようだ。
奴隷化の首輪を取り込んで得たポイントが10000強残っているのでそれを使って契約し試しに分体を実体化させてみる。
大きさではマドラに劣るがそれでも十分大きな龍によく似た頭部をしている蛇が俺の足元に現れるとまた頭にアナウンスが響いた。
特定の因子がそろいました。
新しい魔体が発現します。
現在の魔体が最上位級のものである為、魔体の上書きはキャンセルされました。
換装神造魔体の能力が発動し新しい魔体を換装体の因子に変換します。
因子を解放し新しい換装体を取得するには50000ポイント必要です。
アナウンスの一文毎に一喜一憂していたが最後の一文を聞いて内心ガクッとへこむ。
新しい換装体はきっと戦力になるんだろうが流石に50000ポイントなんてまだ俺個人のために消費できるポイントの量じゃないんで、残念だが新しい換装体は因子のままで当分保留だな。
気を取り直して足の元の新しい精霊へ看破眼を向けると水蛇型の水の中位精霊と見えるのでこいつにも名前を付けてやるとしよう。
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