#33 いろいろ見つけた、廃鉱山 2
楔のナビゲートに従って幾つもの横穴が開いている立坑を下りいく。
一番底まで下りてようやく楔が横方向へ引き合うようになったので目的の方向へ一番近い横穴に入った。
上層の坑道より狭くはなっているがそれでも十分すれ違えるだけの広さがこの横穴にはあり、多少動きが良くなったスケルトンやゾンビが行く手に立ちふさがるが問題なく排除して進んで行った。
幾つかの分岐点を過ぎて奥へ進んで行くとまた少しずつ楔の引き合う向きが下へ振れていく。
もう少しで真下になるという所まで来ると急に坑道が開け、かなり広い半球状のホールのような場所へ行き当たった。
注意深くホールの中を見渡してみるが魔物の姿はなく、楔が引き合う場所へ視線を向けると邪竜の遺体を封じていたりタリンダの卵から力を吸い上げていた要石とよく似た惹かれる感じの岩がある。
楔の刺すにはあの岩を動かす必要があるし溶融同化で取り込めば新しい力が手に入ると思うが、看破眼で見てみると封印の要石と見える。
何を封じているかまでは今の看破眼じゃ見えないので戦闘と逃走の準備をして、まずはあの岩を動かしてみるとしよう。
「あそこにある岩の下が干渉地みたいだ。念のためバルバスは擬人化を解いて付いてきてくれ。後の皆はここに残って退路の確保を頼む。」
「御意、お供します。」
「分かりました。」
「お気を付け下さい」
バルバスに続いてティータやティーエが返事をしてくれクライフも頷き返してくれる。
戦力の追加にラザとガロを召喚するとバルバスが服を格納庫に納めてマグマの鎧姿に戻ってくれていた。
楔を一旦格納領域にしまい俺も体を溶岩体に換装して先を歩きバルバスと二人で問題の岩へ近づいて行く。
慎重に問題の岩へ手で触れてみるが特に何もなく、動かしてみようと力を入れるとかなりの抵抗を感じる。
人外になった俺の力でそれ程大きくない岩なのになかなか動かせず、魔力を纏って力を上げるとやっと草や木の根を千切るような感覚と共に問題の岩が干渉地の上から動いた。
すぐには何も起きないがそれでも集中を解かず警戒していると地面が小刻みに揺れ始める。
さらに警戒を強め周囲に気を配っていると干渉地を囲むように4カ所の地面に亀裂が入り、そこから俺の身長位の大きさがある蛇の頭部が飛び出し襲い掛かってきた。
包囲攻撃されるのは不味いしティータ達への壁になるため出て来た頭を避けてホールの入口方向へ移動すると干渉地周りの地面にも亀裂が入る。
その割れ目が地中から爆ぜると4つの頭をつなぐ胴体部分も現れ干渉地付近に4頭の大蛇が地中から現れた。
バルバスが俺の前に立って警戒してくれるので看破眼をホールの中央付近にいる大蛇へ向けるとレベル18のレッサーヒュドラと見える。
スキルは持っていないが詳細を見通せないアビリティを持っているようで全員で戦えば勝てるだろうが油断は禁物だ。
(バルバス、俺とお前が挟み込むようにして注意を引き付けながら戦おう。ティータ達はここを確保して退路を維持してくれ。後援護射撃を頼むかもしれないからその心積りはしておいてくれ)
(御意、ではお先に参りますぞ。)
(リク様、いつでもご指示を。)
(十分お気お付け下さい、リク様。)
念話を返してくれたティータとティーエへ頷き返して先に動いているバルバスに俺も続いた。
ホールの壁に沿ってバルバスとは逆回りに走り大蛇を挟んで反対まで来ると一気に間合いを詰めていく。
4つある頭は全てバルバスを警戒していたが俺が近づくとその内2つが俺の方を振り返り、水のような何かを吐きかけてきた。
猛烈に嫌な予感がし、それ程早くないので大蛇が吐きかけてきた物を回避するとそれが落ちた地面が煙を上げて解けだす。
この惨状を見ると恐らく溶解性の毒液を吐きかけて来たんだろう。
続けて2つの頭が毒液を吐きかけてくるが十分回避可能なので再度大蛇へ向けて距離を詰めていく。
刀が届く間合いに入ると頭が一つ噛みついてくるが回転するように身をかわし首元へ飛び込むと全力で一太刀斬りつけた。
魔力を纏わせて刀の切れ味を上げていたが深手を与えただけに留まって、もう一つの首の追撃を受けないようにバックステップで距離を取る。
首は落とせなかったがもう頭は動かせないだろうと大蛇を牽制しながら様子を窺っていると俺のつけた傷がみるみる塞がっていく。
攻撃を無駄にしないため慌てて距離を詰めようとするけど無事だった方の頭が毒液をまき散らすように乱射してきて、不用意に近づけないまま30秒ほど経つと俺が付けた傷が完全に塞がってしまう。
その間バルバスの方へ視線を向けてみると毒液を俺より上手く回避し何度も槍を突き込んでいるがたちまちの内に回復されている。
どうやら様子見を止めて全力の一撃で首を落とさないと切りがないようだ。
刀に追加で炎も纏わせ炎熱支配で焼き切るのに適したように調整すると大蛇の頭の一つが俺に向けて口を開いた。
毒液を吐いてくるのかと思ったが簡単には避けられない速度で球状の水弾を撃ち出してくる。
仕方なく刀で迎撃すると早いがただの水弾だったようで刀の炎に触れて爆散するが、刀を振った隙を狙うようにもう一つの頭が毒液を吐きかけてきた。
これは出の早い炎弾を炎熱支配で最大限強化して撃ち出し空中で迎撃に成功するが次の水弾が撃ち込まれてくる。
大蛇の二つの首が連携し水弾で俺の動きを止め毒液で止めを狙う連続攻撃を刀や炎弾で迎撃しながらその威力やタイミングを計った。
段々と仕掛けてくる挙動が分かるようになり何度目かの毒液攻撃を炎弾で相殺すると大蛇目掛けて突撃する。
すかさず撃ち込まれてくる水弾を魔力を纏わせた左腕で防御しダメージを受けるが走る速度は落とさず大蛇の懐へ飛び込む。
慌てて毒を吐きかけてきた頭が俺に噛みついてくるがそのタイミングに合わせて正面から全力で斬りつけ首の辺りまで蛇の顔を両断した。
すぐにもう片方の頭へ視線を向けると俺に向かって口を開けていたが水弾を撃ってくるには溜めが長い。
一瞬訝しく思うと次の瞬間全てを押し流す濁流のような水のブレスを吐きだしてきた。
とっさに刀を芯にして炎で俺の前に防壁を展開するが圧倒的な水量に押され一気に間合いを離されてしまう。
ブレスが途切れるまで防御しきったがホールの壁際まで押し出されてしまいもう一度間合いを詰めようと炎の防壁を解除すると大蛇は連続して水弾を撃ち込んできた。
刀で水弾を相殺しながらそれでも大蛇に少しずつ近づいて行くと顔を両断した方の頭の傷が先程よりはゆっくりとだが治っていっている。
また攻撃を無駄にしないため大蛇と距離を詰めようとするが炎の防壁を解除して1分強で俺のつけた傷は消え水弾と毒液の連続攻撃が再開された。
これ程の再生能力となると4つある頭を全て同時に黙らせ首が集まる辺りにあるだろう心臓も同時に潰さないとこの大蛇は倒せないような気がする。
それでも回復してくるようなら撤退するしかないだろう。
そうなると俺だけでは4つの頭を同時に潰せないのでみんなの力を貸してもらおう。
水弾と毒液を捌きながら味方全員へ念話をつないだ。
(聞いてくれ。これ程の回復力を持ってる奴相手にばらばらに戦って持久戦に持ち込まれたら俺達がジリ貧になる。全員で一斉に仕掛けて4つの頭を同時に潰して心臓を止めそれでも回復してきたら潔く撤退しよう。ティータ、ティーエ精霊たちの力を使っていいから二人も頭を一つずつ受け持ってくれ。)
(リク様。今の二人では精霊達の助力を得ても協力して頭一つがやっとでしょう。私が2つ受け持ちますぞ、お任せあれ。)
(分かった。バルバスの提案を採用する。ティータとティーエで頭を一つ潰してくれ。仕掛けるのに溜めがいるだろうから二人が攻撃開始の合図を出してくれ。)
(では、準備に入ります。)
(少しお時間を下さい。)
ティータとティーエの返事を受けて念話を切り二人の様子を一瞥してみると、ケルブとラザの協力を受けて溶岩弾を練り始めていた。
バルバスの様子も一瞥するといつもの愛槍に加え溶岩でもう一本を作り出し2槍流で応戦している。
俺も準備中の二人へ大蛇の注意が向かないよう炎弾で手数を増やして俺の方へより意識を向けさせていると二人から念話が送られてきた。
(攻撃、行きます。)
ティータとティーエの声が重なるように頭に響くと俺が押さえていた頭の一つ目掛けて等身大規模の溶岩弾が飛んできた。
俺も大蛇へ向かって走り出し着弾する直前むこうも気付いたようだが避けられず直撃した頭がぐちゃぐちゃになる。
それとタイミングを合わせてバルバスが炎を纏わせた投槍を2連続で行い自分が押さえていた頭を二つとも串刺しにした。
俺も間髪を入れず最後に残った頭へ飛び掛かり、まだ空中でこれ程の大物を両断できる技量は無いので動きの止まっている頭を上から殴りつけて地面へ叩き付けた。
止めに首を落とそうと空中で刀を振り上げると、
「待って!!」
そう切実な悲鳴がホールに響いた。
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