#32 いろいろ見つけた、廃鉱山 1
クライフを冥炎山の眷属達に紹介した翌日、転移で借家へ戻りララナさんに魔物狩りへ向かうと挨拶をして件の廃坑へ向けてトロスを出発した。
セラの書いてくれた地図は中々優秀で昼前になると少し開けた場所に幾つかの建物が見えて来て、その奥の山肌に大きめの洞窟が口を開けていた。
「たぶんあれが教えてもらった廃坑の入口だな。クライフ、お前が人間の頃関係してた鉱山ってやっぱりあそこの事か?」
(はい、間違いありません。ここには何度も足を運んでおりますから。しかし魔物が湧いたとはいえ廃坑になったのは残念です、ここは有用な鉱石が良く取れる場所だったのですが。)
「まあ廃坑になっているから俺達が自由に入れるんだし、魔物が湧くって事は瘴気泉があるだろうからここにも楔を打ち込めば俺達だけになるけど有効利用出来るさ。」
(そうなれば私もよりお役に立てますな。)
後ろを浮遊していたクライフに頷いて建物に近づき窓から中を覗きこんでみる。
埃がたまってクモの巣が掛かり机や椅子が散乱して荒れ放題だが建物自体はレンガ造りでしっかりしているようだ。
他の建物も中を覗いたり建物の状態を調べてみるとほとんど同じようなのでどれも再利用可能だろう。
廃屋から離れ坑道の入口に近づいてみると流石に採掘をやっていただけあって、優に数人がすれ違える広さがあり木材を使って補強もされてある。
奥を覗いても入り口から見える範囲はきちんと補強されているのでここが簡単に崩れる事は無いだろう。
「じゃあ、坑道に入る前にもう一度目的を確認しておく。今回は鉱石と楔を刺せる干渉地の確保を最優先にしたい。だから坑道の詳細な探索は後回しにする。あんまり長い時間街を開けるとララナさんが家に入るかも知れないから2〜3日したら一旦トロスに戻るつもりだ。みんないいな?」
振り返って声を掛けると全員頷いてくれ、頷き返した俺を先頭に坑道へ足を踏み入れた。
奥へ行くにつれてだんだん暗くなっていきティータやティーエのために炎の毛皮を纏うケルブを召喚して戦力強化と明り代わりにする。
なだらかな下り坂になっている坑道を30m程歩くと最初の分岐点に突き当り、体を溶岩体に換装し手の中に楔を作り出して超人体に戻った。
新しい楔に魔力を通し干渉地へのナビゲート機能を起動する。
一番強く感じる干渉地と引き合うように楔を調整するとその方向へ一番近い分岐路へと進んだ。
入り口からの光が完全に届かなくなりケルブの炎だけが辺りを照らしだす坑道を歩いていると正面から魔物の気配がし同時に強烈な腐臭が漂ってくる。
どうやら匂いはこの先にある次の分岐路の先から匂って来るようで複数の足音も近づいてきた。
全員足を止め楔を格納領域に仕舞い刀に手を掛けて待ち受けていると、曲り角の向こうから動きがかなりぎこちない完全な人体骨格とあちこち腐れ落ちた個所のある腐乱死体が歩き出て来た。
「なあ、バルバス。あいつらはスケルトンやゾンビって魔物だと思うけど、人間の死体から変化した者だと思うか?」
「どうでしょうな?リク様が仰るような発生の仕方もありますが、瘴気から直接あのような姿で湧きもしますからどちらとも言えませんな。」
「そうか。まあ、どちらにしても片付けて奥へ進むとしよう。初めて戦う相手だからここは俺に任せてくれ。」
「御意、楽勝でしょうがそれでも十分ご注意くだされ。」
視線だけバルバスへ向けて頷くと俺の方からスケルトンやゾンビへ向かって走り出す。
近づくにつれ腐臭も酷くなるので溶岩体へ体を換装し炎を纏って匂いを焼くと刀にも匂いが移らないよう魔力や炎を纏わせる。
一気に間合いを詰め注意しながら先頭にいたスケルトンに切りかかるが相変わらず動きは緩慢で袈裟斬りに両断でき全ての骨が燃え上がった。
スケルトンやゾンビはタフだと勝手に思っていたのでこの脆さは意外だったがその考えは頭の隅に押し込んで2番目にいたゾンビへ切り掛かる。
このゾンビは胴薙ぎに両断して体が燃え上がると後ろに続いていた1体のスケルトンと2体のゾンビもすれ違いざまに1刀で切り捨てその体を燃え上がらせた。
5体の人型が燃え尽きるまで念のため戦闘態勢を維持し5体とも魔石に変わると刀の魔力と炎を払い鞘へ納めるとバルバス達が近づいて来た。
「始めてスケルトンやゾンビと戦ってみたけど、こいつ等動きが緩慢な上に脆いな。これなら動きが良い分ゴブリンやオークの方が強いかもな。」
「リク様がそう御感じになったのは、リク様の一撃の威力が高いからですぞ。一般の者がこやつ等を仕留めようと思えばゴブリンやオークの倍近くは剣を打ち込まねばなりませんからな。」
「なるほど、それならスケルトンやゾンビよりゴブリンやオークの方が強いとは一概には言えないな。認識間違いを指摘してくれてありがと、バルバス。」
バルバスは一礼して応えてくれティーエとティータが拾ってくれた魔石を受け取ると格納領域から楔を取り出し体を超人体へ戻して移動を再開した。
分岐路を楔のナビゲートに従って選び暫く道なりに歩いているとスケルトンやゾンビとはまた違った魔物の気配を捉えた。
俺達からは少し離れているようでケルブからの明りが届かない闇の中へ目を凝らすと岩質の毛皮を纏い大型犬を上回る大きさの土竜が坑道の壁面をかじっているようだった。
「大きな土竜のような魔物がいるんだが、誰か知ってるか。」
後ろを振り向いて問いかけるとクライフが浮き上がり実物を確かめてから答えてくれる。
(やはり、ロックモールですな。瘴気が湧く洞窟でよく見かけられる魔物です。)
「詳しく教えてくれ。」
(勿論です。ロックモールはあのように岩を食べて住処の洞窟を勝手に拡張し時には新しい坑道まで作ってしまう魔物ですが、住処が壊れるのも嫌うので洞窟の壁や天井を土魔術で強化して崩落を防ぎもするようです。一定割合以上の金属を含む岩は食べないのでよく鉱山の開発に使役されるそうで、この鉱山でも魔物使いにより使役されていましたので多分閉山時に放置され居ついてしまったのでしょう。)
「もしかしてここに湧く瘴気からロックモールが発生するようになってたら、ここの坑道は延々と拡張され続けるって事か?」
(恐らくは。)
「戦闘力や気性はどうなんだ?」
(岩の体に力も強く先程言ったように土魔術も使えるので戦闘力は高いのですが、食事の邪魔さえしなければ自ら他者を襲う事は無いと聞いています。)
「そういう気性で落盤防止にもなるならロックモールは放置だな。」
(それが良いでしょう。)
クライフは賛同してくれたのでティータやティーエにバルバスへも視線を向けると皆頷いてくれたので刺激しないようロックモールの横を通り過ぎた。
スケルトンやゾンビを皆で順番に屠りながらロックモールは無視して坑道を進んで行くと大きな立坑に行き当たった。
楔の引き合う方向は横よりずっと下向きだったので立坑の壁に螺旋状に掘られた階段を使い下層へと下った。
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