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#31 偵察に来た、港町トロス 5

 地上へ階段を上がりながら体を溶岩体から超人体へ換装しクライフへ話かける。

「さっき錬成の道具が持てないって言ってたけど、念動魔術じゃだめなのか?」

(どういう事でしょう?)

「いや、ここにはいないが俺の眷属の一人に念動魔術で器用に物を動かす奴がいるんだ。クライフも念動魔術を身に着ければ自由に錬成の道具を扱えるようになるんじゃないか?」

(なるほど、早速取り組んでみます。助言ありがとう御座います。)

「だったらこの家を今掃除してるから、早速念動魔術で手伝ってくれないか?はたきや雑巾を動かすのが訓練になると思うぞ。」

(確かに。やってみます。)

 階段を上がりきりクライフを紹介するため声を掛けるとティータとティーエがすぐに集まってくれる。

「さっき新しく眷属にしたゴーストのクライフだ。仲良くしてくれ。」

(よろしくお願いします。)

 クライフが頭を下げるとティータ達も順番に挨拶を返し掃除や家の番はみんなに任せて俺は花街傍のあの家を調べてみるため外へ出た。


 迷わないよう一旦宿屋まで戻り昨日の夜通った道順通りにあの家を目指す。

 昼間だけあって酒場や花街は閑散としており、ほとんど人とすれ違わすにあの路地の前までこれた。

 昨日と同じように感じ取れる魔力を頼りに路地を進んで行くが、昨夜と違って殆ど人の気配がなく物音もしない。

 不気味なほど静かな路地の奥にあるあの家の前に着くと扉に手を掛ける前に家を包む膜を看破してみる。

 どうやらこれは魔道具で発生させた瘴気を拒む中々強力な結界のようで、だから瘴気泉を元にした占有領域化は弾かれたが干渉地を霊気泉へ変更すると簡単に領域化出来たんだろう。

 この超人体が瘴気を拒む結界にどう反応するか試してみる良い機会なので、扉に触れてみると鍵は掛かっておらず看破眼で観察しながらゆっくり開いて結界に触れてみるが特に何の反応も示さなかった。

 問題無さそうなので扉を潜り中を見回してみると用途は不明だが魔道具だと感じる色々な形状をした物や、何かの薬だと思う陶器や色ガラスの瓶が値段をつけられて棚に並べあった。

 詳細を調べるため店に入る時一旦切った看破眼をもう一度起動して商品を見ていくと、陶器やガラス瓶の中身は解毒や外傷治癒に即効性のある魔法薬のようで置いてある魔道具には結界や魔物の索敵に回復魔術を発動するなどの効果があるようだ。

 商品の大体はミシェリという人の作だったが、何故か特に高性能な魔道具数点がクライフ作の物だった。


 そうやって商品を看破しながら店の中を歩いていると奥で俺の様子を窺っていた気配が近づいてくる。

「あなたのその変わった目にかなう物があるかしら?」

 超人体の時に看破眼を起動すると虹彩の色が変わるみたいなので、それを見られたから変わっていると言われたんだろう。

 近づいて来た気配の方へ向くと妖艶という言葉がぴったりな容姿をしておりローブに身を包んだ30代前半の女性がカウンターの向こうに立っていた。

「勝手に見させて貰って悪かった。俺は傭兵をしているリクって言う。あんたがこの店の店長さんか?」

「ええ、その通り。ミシェリっていうわ、よろしくね。それであなたのお眼鏡にかなう目的の物があった?」

「実は昨日この街へ来たばかりなんだ。夜の花街の様子見に表通り流していたらここから魔力を感じて、何があるか見に来ただけで特に目的の物が在るって訳じゃないんだ。」

「あら、冷やかしただけで帰るつもり?」

 わざとだと思うがミシェリさんが意味深に笑顔を深める。

 魔法薬や魔道具は少し時間を与えればクライフが作ってくれるようになるだろうが入手先は多い方が良いに決まっている。

 ミシェリさんは怒っている訳ではなく俺を値踏みしているんだろうから無難に機嫌を取って懇意にさせて貰おう。

「いやいや、傭兵が魔法薬師に喧嘩を売るつもりは無いよ。しばらくこの辺りで魔物狩りをするつもりだから懇意にして欲しい。取り敢えず今日は疲労と魔力を回復する魔法薬を見繕ってくれ。」

「お買い上げありがとうございます。」

 ミシェリさんはコロッと笑顔の質を明るいものに変えてくれる。

 良いように手玉に取られていると思うが大人しく転がされていた方が早く馴染の中になれるだろう。

「薬はすぐに用意するから、先にカードを見せてくれる?」

「あ〜俺はフリーの傭兵でギルドには登録してないからカードはないんだ。どうしても必要なのか?」

「ええ、傭兵ギルドとの契約で未登録の傭兵への魔法薬や魔道具の販売を禁止されてるの。いろいろ支援を受けている見返りだからこの契約は破れないの、ごめんなさいね。」

「そうなのか。俺としては魔法薬を手に入れる伝手は是非とも欲しいんだが、何か契約にぬけ道はないのか?」

「そうね。・・・あなた傭兵としての腕前に自信はある?」

「まあ。そこそこは。」

「だったらこうしましょう。あなたへ継続的に魔道具作成に使う特殊な金属の鉱石採取を依頼するから、その報酬を魔法薬で払うわ。どう受けてくれる?」

「俺はそれで構わないが、物々交換なら問題ないのか?」

「ええ、契約の禁止事項には触れないし、そもそも依頼の報酬なんだから問題ないわ。それにギルドが私へ満足に目的の金属を供給してくれてないから依頼しているんだし、あなたが納めてくれる鉱石で魔道具の供給量が増えれば黙認してくれる筈よ。」

「納めるのは金属その物じゃなくていいんだな?」

「ええ、鉱石の方が私の錬成術も鍛えられるからそっちの方がありがたいのよ。」

「そういう事なら何所でその鉱石が手に入るのか教えてくれないか?さっきも言ったようにこの街には来たばかりで色々分からない事が多いんだ。」

「そうねぇ、街中で手に入れようするのは辞めておいた方が良いわよ、余所で魔法薬を買うより高くつくと思うから。お勧めはこの街の近くにある廃鉱山よ。詳しい場所はギルドで聞けば分かると思うわ。」

「廃坑で使える鉱石が採取できるのか?」

「閉山した理由が鉱脈の枯渇じゃなくて断続的に魔物が湧くようになったからだって聞いてるわ。坑道の先端部に行けば使える鉱石が転がっている筈よ。」

「なるほど、それで腕前に自信があるか聞いたのか。じゃあ試しに幾つか鉱石を拾ってくるから少し時間をくれ。」

「ええ、期待して待ってるわ。」

 ミシェリさんへ頷いて店を後にした。


 家に帰る前にギルドへより受付にいたセラに声を掛ける。

「少し時間を貰っていいか?」

「はい、何でしょう?」

「この街の近くに魔道具用の特殊金属を産出していた廃鉱山があるって聞いたんだが、そこについて教えて欲しい。」

「それなら南に半日程行った山中にありますね。もしかして鉱石の採取を考えているんですか?」

「ああ、その廃鉱山魔物が出るそうだから狩りのついでに鉱石の採取もすれば小銭稼ぎになると思ってな。やっぱり出入りの制限や採掘権とかがあるのか?」

「いえ、あの山は今ギルドが管理しているのですが入山規制や採掘料の徴収はありません。ですがもしもの時の救助も出ないので行かれるなら十分注意して下さい。」

「分かった、憶えとく。その廃鉱山までの地図を描いてくれないか?」

「承りました。」

 一礼したセラがさっとよく分かる地図を描いてくれたのでロブロ小銀貨をチップとして渡し地図を受け取ってギルドを出た。


 家に戻り中に入ると家具に掛けられた布は取られ床の埃や天井のクモの巣が大分綺麗に掃除されていた。

 ミシェリさんの店で少し気になった事があったのでそれを確かめるため気配を頼りにクライフを探して傍に行くと、まだ掃除の済んでいない部屋で幾つものはたきや雑巾が念動魔術で動き回っていた。

「少しの時間で大分念動魔術が上達したみたいだな、クライフ。」

(お戻りですか、リク様。褒めて頂きありがとう御座います。最初は上手く行かなかったのですが暫くすると急に上手く行くようになり、ティータ嬢やティーエ嬢のお役に立てて何よりです。)

 看破眼でクライフを見てみると、どういう訳かもう念動魔術のスキルが発現しレベルが2になっていた。

 どうやら瘴気がまだポイントとして体内に残っていたようでそれを消費して一気にスキルを手に入れたようだ。

「まあ上達が速いのはいい事だ。話は変わるがミシェリって言う女性に覚えがあるか?」

(はい、生前同じ名前の弟子が下りました。年若い娘でしたが非凡な子で特に魔法薬の製造に秀でておりました。どうしてリク様がご存知なのですか?)

「いや、今見に行ってきた場所でそのミシェリさんが魔法薬や魔道具を売る店をやってたんだ。そこの売り物の魔道具の中にクライフ作の物があったから何か関係があるかと思って聞いてみたんだ。」

(なるほど、そういう事でしたか。それにしてもあのミシェリが店を営んでおりますか、頑張っているようですな。私も負けずに努力致します。)

「じゃあ早速俺の役に立ってくれ。実はそのミシェリさんから魔道具に使う金属の鉱石採取を依頼されてな。鉱石が取れる場所は分かったしどんな種類の鉱石かも分かると思うが、どれが魔道具に使えるかは俺にはさっぱりでな。クライフは鉱石の見分けが出来るか?」

(勿論です。わたしはこの街の近くにある鉱山から取れる鉱石を精錬する術師としてここに招かれたのですから。ところでその鉱石私にも少し分けて頂けませんか?)

「構わないが、何に使うんだ?」

(魔道具や魔法薬制作のための機材を作りたいのです。ダメでしょうか?)

「そういう事なら納得いく機材を作れ。ただ無駄な鉱石を大量に持ち帰る気はないからクライフにも採取場所まで付いてきてもらうぞ。」

(分かりました。お供します。)

 クライフへ頷き返しているとティータとティーエが傍までやって来た。

「リク様、大まかな掃除が終わりました。」

「二人ともご苦労さん。2〜3日かかると思ってたけど大分早く終わったな。」

「私達もそう思っていたんですけど、クライフさんがかなり頑張ってくれましたから。」

(いや、お役に立てたなら幸いです。)

 ティータやティーエに感謝されると気恥ずかしいようでクライフは半透明の頭をかいて照れていた。

「じゃあ二人とも次の指示だ。ティーエはバルバスと一緒に宿へ宿泊のキャンセルを伝えて来てくれ。俺はクライフを他の眷属へ紹介しに一緒に楔の転移で冥炎山へ飛ぶから、ティータは自分とティーエの寝床の準備と留守番を頼む。」

 ティータとティーエは一礼すると直ぐに動いてくれ、俺はクライフを連れて地下への階段を下りた。



お読み頂きありがとうございます。

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