#3 魔人となった、火山洞窟 3
あの大蜥蜴を倒して以降は魔物との遭遇は無く、楔が引き合う方向も歩みを進めるたびに少しずつ下へ向いて行く。
完全に下を向くようになった場所は、直径10m程の半球形のホールのような場所だった。
「ここだな、楔が引き合う場所は。それでどうやってこれを地面に打ち込めばいいんだ?」
「リクオさんがご自身の手で突き刺せばいいんですよ。そのお体には十分な膂力がありますから、ハンマーなどの道具は必要ありませんよ。」
リンが俺の肩から飛び立ちながらそう説明してくれる。
リンのこれまでの説明に明らかに嘘だと感じるものは無かったので今回もその通りなのだろうが、この硬そうな地面に素手で杭のようなものを差すという行為にいまいち実感がわかない。
それでも楔が一番引き合うと感じる部屋の真ん中に先端を持って来て思いっきり押し込むと、泥の中に棒を差すように拳大の岩の部分以外を地面に差しこめた。
余りに抵抗が無かったので一瞬呆気にとられるが、楔から伝わってくる感覚がすぐにそれを塗りつぶす。
撃ち込んだ楔を通して周囲に意識が広がっていくような感覚に呆然としていると、リンの声に意識を引き戻される。
「この瘴気泉の影響下にある地域の占有領域化まで済んだみたいですね。これでその楔を触媒にして色々なことが出来るようになるんですが、勿論対価が必要です。その対価も楔が自動で地脈から吸い上げるんですが、楔を触媒にして魔力を対価に変換する事も出来るんです。次はこれをお教えしますから、楔に手で触れて下さい。」
頷いて楔についている岩の部分に右手を置くと、リンが手の甲に下りてきた。
「先に実演して見せるので、続けてリクオさんもやってみてください。」
俺を見上げてそう言ったリンは、ゆっくり目を閉じるといきなり驚くほどの魔力を放ち始める。
その魔力は面食らう俺に流れ込んで来たかと思うと、すぐに楔へと伝わり地面へ放出されていく。
その流れに意識を向け追いかけて行くと、地下深くの余りに巨大な力の奔流を感じ取れるようになり、魔力はそこへ流れ込んで行った。
すると魔力の流れを逆に辿るように力の本流から、魔力とは別質の力が立ち昇って来て楔に溜まり始める。
恐らくリンが言っていた地脈だろう力の奔流の大きさに呆然としかけるが、リンから送られてくる魔力が減少し始めたので俺の魔力を上乗せしていく。
リンからの魔力供給が途切れても俺だけで魔力を地脈に流し込んでいき、体内に残っていた魔力が半分程になるまで続けた。
流した魔力が地脈の奔流に消えるまで力の湧き上がりは続き、その力が全て楔に収まると、
217ポイント取得しました
大蜥蜴を倒した時と同じような声が頭の中に響き、ゆっくり目を開けるとリンと目があった。
「なあ、蜥蜴を倒した時と同じような声がしたんだけど?」
「ああ、それは魔物を倒す事も対価を、ここからはポイントと言いますがそれを得る主要な方法の一つですから。後つけ加えると占有領域に人族や魔物が長時間滞在すればそれでもポイントを手に出来ますから覚えておいて下さいね。」
「分かったが、魔物から得たそのポイントはレベルアップやアビリティに、あるんならスキルの強化に使うものじゃないのか?」
「勿論地脈炉で出来る事にそれらは入っていますよ。ただレベルアップは杭を打ち込んでいなくても出来ますが、リクオさん自身や眷属が誰も取得していないアビリティやスキルの取得は、たとえ杭を地脈に打ち込んでいても地脈炉の能力では不可能なので、そこは忘れないでください。」
「確認なんだが俺が思っているスキルがあるんだな?」
「はい、特定の行動をスムーズにより高度に行えるようにする恩恵として、確かに存在します。詳しい取得方法はお話しできないので色々試してみてください。では地脈炉の説明の最後として実際にポイントを使ってみましょう。使用目的は眷属創操の試しも兼ねて、眷属となる魔物を作ってみるのをお勧めしますけど、どうされますか?」
「ああ、それで構わない。説明してくれ。」
「分かりました。それでは一番簡単な楔の補助を受けて行う眷属の創造方法をお教えします。まずは楔の中のポイントを感じながら今度は眷属創操に意識を集中して下さい。」
リンに頷き楔に溜まる先程感じた力を右手で感じながら助言に従い集中していくと、ふっとリストのようなものが意識に浮かび上がってきた。
次の手順を聞く為リンに目を向けた。
「リン、なんか魔物の名前の一覧が思い浮かんで来たんだが、これでいいのか?」
「はい、後は作りたい魔物を選んで今と同じように集中すれば、名前の横に表示されているポイントを消費して魔物が作り出されます。当たり前かもしれませんがポイントが足りなければ、何も起きませんからね。」
頷いて目を閉じリストへ意識を戻す。
リストには上からマグマゴーレム200、ロックゴーレム150、ロックリザード130の3つだけのっている。
もっと選択肢があっていいと思うが、何か増やす為の条件があるのだろう。
次はどれを選ぶかだが、ロックリザードは欲しいなら作るより捕まえた方がポイントの節約になりそうなので、まず除外だな。
後はどちらのゴーレムにするかだが、単純に強そうな方で良いだろう。マグマゴーレムの項に意識を向けると、楔から大半のポイントが霧散するように消えていく。
上手く行ったかと周囲を見回すと、少し離れた地面が一気に赤色化しマグマが噴き出すように立ち昇りそのまま人型を取り始める。
マグマの湧き出しが止まり、変化が終了すると3m程のマグマでできた巨人が目の前にいた。
その威容にしばし呆然としていると、マグマゴーレムが一歩俺に向かって足を踏み出す。
慌ててとっさに身構えそうになるが、マグマゴーレムは膝をつき頭を垂れて服従の姿を取ってくれた。
その姿を見て無駄にびびったのが恥ずかしくなり、同時に疑った後ろめたさを感じていると、リンが話かけてきた。
「お見事です、リクオさん。後は先程の繰り返しになりますが、実存する魔物をポイントや魔力で眷属化できるので覚えておいて下さいね。これでアビリティ地脈炉と眷属創操の基本的な使い方の説明は終わりますが、他にも有益な活用法があるので、いろいろ試してみてください。」
そこで一旦話を区切ったリンが、手の甲から飛び立つ。
俺も続いて立ち上がると、リンは目線の高さでホバリングをして俺と向き合った。
「後はアドバイスと諸注意を。持って来ていただいた魔物の素材は、楔に吸収させる事でポイント化出来るので役立ててください。その楔もリクオさんと同様魔物に狙われるので気を付けて下さいね。引き抜かれたり破壊させると、溜まったポイントも消えてしまいますからきちんと守り役をつけて下さい。他には転生前、人だった影響で魔人には本来存在しない食欲や睡眠欲なんかが湧きますから、きちんと発散しないと精神が破綻する恐れがありますからね。」
「待った。こいつに守って貰えば眠る事は出来ると思うが、水や食料はどうやって調達すればいいんだ?」
「それはポイントを使って楔から実体化出来るようになっていますから問題ありませんよ。リクオさんが実物を見知っていれば前世の物も実体化可能ですから、日本食も食べられますよ。ただスマホなどの精密機械は膨大なポイントが対価として必要ですから、費用対効果をよく考えて下さいね。」
「確かにラーメンやカレーが食べられるってのは、有り難いな。もしかしてその機能も以前の転生者の希望で実装されたものか?」
「はい、その通りです。これで諸注意も終わりなので最後に選んでください。」
お読み頂き有難う御座います。