#25 後始末した、楔の間
隠れ里の懐柔も終わって本拠の洞窟に戻ったが、奴隷狩り退治の後始末はまだ残っている。
ただ後はおれが方をつければいい事なので眷属の皆には休息を許可し、一番の懸案であるダークエルフの二人に声を駆ける。
「二人とも息苦しくはないか?」
ここは火口近くにある洞窟なので火山性のガスが心配で聞いてみたが、二人とも声を揃えて問題ありませんと答えてくれる。
それでも一応ガロの保護下において話を続ける。
「早速だがティーエの処遇を決める。かなり役に立ったからある程度の希望は聞く。言ってみろ。」
「あの、私の処遇の前にティータちゃんはどうなるのか聞いてもいいですか?」
「何だ、知らなかったのか?ティータはお前の助命を条件に俺に隷属を誓っている。まだ具体的に何をさせるかは決めてないが、無下に扱うつもりは無いから安心しろ。」
「でしたら私も魔人様に隷属を誓います。ただティータちゃんと一緒にいさせてください。」
ティーエも使えそうなので俺に取っては有り難い申し出だが、ティータに取っては以外だったようで強引にティーエを自分の方へ振り向かせる。
「何言ってるの!リク様は話の分かる方だから出せれる条件をきちんと順守すれば自由にだってして貰えるかもしれないのに、どうしてそんなこと言うの?!」
「だって約束したじゃない、どんなことが起こっても二人一緒に頑張って生きていこうって。私一人自由になっても意味がないよ。」
「そうだけど、でも!・・・」
お互いを思い、相手を説得しようと二人の話し合いが始まってしまった。
最初は俺が口を出すべきじゃないと思い黙って聞いていたが10分過ぎ20分経ち、話し合いが始まって30分になると会話の内容がループし始めた。
放っておくと延々といつまでも話し合いが続きそうなので俺に有利なように仲裁させて貰おう。
「二人ともそこまでだ。ティーエの処遇はティーエ自身に希望を言う権利がある。確認の為にもう一度希望を言え。」
俺の裁定にティータは悔しそうに口を閉じ、ティーエは俺へ向き直った。
「リク様に隷属を誓います。ですからティータちゃんと一緒にいさせてください。」
「いいだろう望みどおりにしよう。ただ隷属の証に俺の前まで来て髪を上げうなじを見せ俺がいいというまで動くな」
ティーエは頷いて髪をかき上げながら俺に背を向けた。
まずは溶融同化で奴隷化の首輪を外してやり、ティータにしたのと同じように演出のため指先に小さな火の玉を作り出しそれをティーエのうなじに少し触れさせ魔力を送り込む。
火傷の痛みに耐えているティーエのためサッサと隷属刻印を打ちこんで指を離しついでに楔の機能で火傷を消しておいた。
「もういいぞ、これではティーエとティータ同じ待遇だ。無理を言うつもりは無いから二人の働きに期待している。」
はいと二人は返事をして一礼してくれた。
この体を貰ってから人間だった感覚が少し薄れているがそれでもティーエとティータには安心して休めるプライベートな部屋が必要な事位は分かる。
土魔術で洞窟の壁を掘り適当な大きさの部屋を作ってやればいいだろうが問題はどこに作るかだ。
楔から食料を調達する事になるだろうから利便性を考えると楔の部屋近くがいいんだろうが、頻繁に外の空気が吸いたいんなら出入り口の傍がいいだろう。
ただ俺が決め後で不満を持たれても損だし作り直してもいいんだからティータとティーエの好きな場所に部屋を作ってやれば良いだろう。
残ってくれていたガディと精霊達に護衛を頼み好きな場所でギャルドに部屋をつくって貰うよう告げてティータとティーエを送り出した。
ダークエルフの二人を見送ると後回しにしていた戦利品の溶融同化に取り掛かる。
奴隷狩り共から手に入れ取り込んで有益そうな物は奴隷化の首輪と格納庫に偽体の指輪や水生成の魔道具といった所で、他の物はもし取り込んでも微々たるポイントにもならないと感じるので楔の倉庫へ移して死蔵処分に後でしておこう。
10個程ある格納庫全部と20個程の奴隷化の首輪は取っておき、残り300以上ある奴隷化の首輪と偽体の指輪に水生成の魔道具を格納領域から取り出す。
数が多い上ポイントが手に入るだけの奴隷化の首輪は後に回し指輪を手に持ち魔道具の前に立つ。
両方から例の惹かれる感覚がするがより強く感じる指輪の方から取り込んでみよう。
溶融同化を発動し指輪が掌に消えると
吸収した新しい因子が在来の因子に統合され変質します
先の変質により不活性状態の因子が覚醒しこれも統合されます
溶岩神造魔体は換装神造魔体に上書きされました
換装神造魔体:溶岩体を取得しました
換装神造魔体:超人体を取得しました
換装の選択は引き続き溶岩体を選択します
そうアナウンスが頭に響くが外見上の変化は特にない。
集中しステータスを確認してみると確かに溶岩神造魔体の項目が消えそこに換装神造魔体:溶岩体と出ていた。
より深くこの項目に集中して能力の詳細や使い方を調べて見ると、どうやらあの指輪を取り込んだことで変身能力が身についたようで神様から貰った溶岩の体の他に人間に近い体にも変身出来るようになったみたいだ。
変身の回数制限はないようだし体の換装方法も大体理解できたので早速溶岩体から超人体へ体を換装してみる。
身長にほとんど変化は無かったがプロテクトスーツみたいだった全身の岩石質の体表が一瞬で人肌に変わった。
久しぶりの感触に半ば放心したような感じで腕の挙動を確かめ、足の感じも確かめようと下を向いてやっと全裸だと気づく。
慌てて奴隷狩り達から奪った服の内サイズが合い幹部級が使っていた余り汚れていない物を格納領域から取り出して着込んだ。
取り敢えずズボンとTシャツのようなものだけ着て超人体の使用感を確かめていく。
腕に見覚えのある子供の頃付けた傷があるが、実際体を動かしてみるとステータスでも確認した通り能力に多少の特性の変化はあるが酷く低下はしていないようだ。
鏡が手元になく顔が見えないので断言できないが外見だけ地球にいた頃とほとんど同じで中身は溶岩体と大差ないみたいだ。
こうなると溶岩体の時も服を着るかと若干頭を過ぎったが、あの体の外見はプロテクトスーツみたいだしその上に服を着てもただ滑稽なだけだろうから気付かなかった事にしよう。
久しぶりの人間の体に気分よく水生成の魔道具に手を置き取り込もうとするが溶融同化が発動しない。
2〜3度試しても無理だったので集中しステータスの溶融同化項目を確認してみると超人体中は使用不可という情報が追加されていた。
ついでに他の項目がどうなっているか調べて見ると、炎熱支配の項目に超人体中は炎熱吸収不可能と情報が追加されておりガロと契約した時手に入れたが使えなかった風魔術スキルにも溶岩体中は使用不可と追加されているので超人体時は使えるんだろう。
この先新しい換装体にアビリティやスキルを手に入れたら使用条件の確認を必須で行おう。
新しい気付きもあり水生成の魔道具を取り込むため何気なく超人体から溶岩体に体を換装すると着ていた服が燃え上がりあっという間に灰になった。
俺自身の不注意が招いた失敗に思いっきりへこむが、換装の度に服の脱ぎ着が必要と気づけたのだからよしとしよう。
かなり面倒な事なので何かいい方法がないか考えてみると地球にいた頃読んだネット小説が閃きをくれる。
かなり不快だったが奴隷狩り達から奪った服の内で酷く汚れた物を数組犠牲にし、体の換装と同時に格納領域から直接指定した服を着脱出来るようになった。
今度は服を灰にしないよう溶岩体に変わると溶融同化で水生成の魔道具を取り込む。
スキル水魔術Lv1を取得した
先に得た教訓に従い手に入れたスキルを直ぐに試さずステータスからまず情報を確認してみると溶岩体での使用不可という情報があった。
もう一度超人体に換装し水魔術を試してみようかと思ったが後回しにすると忘れそうなので死蔵品の移動を済ませておこう。
楔に手を触れ俺の格納領域と楔の倉庫をつなげて仕舞っていた物を移しているとティータ達が戻ってきた。
不用品の死蔵処分を終え二人へ何処に部屋を作ったのか聞いてみるとまだみたいだ。
理由を聞くと二人とも一番警備が強固な場所を希望したのでギャルドに楔のあるホールの壁に穴をあけ二人の部屋を作るよう指示する。
ついでに眷属みんなの休憩室になるような部屋の制作もギャルド頼み、作業が終わるのを待ってもう一度眷属全員に楔への集合を掛けた。
俺の戦利品整理も終わっているのでポイントの許す限り料理と酒を楔で作り出し眷属みんなやティーエとティータへ振舞って祝勝会を開いた。
お読み頂き有難う御座います。