#24 襲撃した、冥炎山 10
森の中は見通しがあまり利かずゴブリンやオークも出るので一度南に下って瘴鬼の森と冥炎山の境界付近の荒れ地を東へ向かって行く。
ラザは快速で飛ばしてくれ魔物も出てこず荒れ地の単調な景色が続き、何もしないと流石に退屈になってきた。
戦利品の溶融同化は揺れるラザの背中の上ではやり辛いので精霊達や眷属達に周囲の警戒は任せて、今回の奴隷狩り達の殲滅でどれ位のポイントを得たか完全記憶領域のログに目を通してみる。
ティータを捕らえた時倒した奴らの情報は目を通しているので、罠で潰した本隊の情報から見ていく。
ティータとティーエが仕留めた奴隷商人から得たポイントまでを大雑把に合計してみると4000ポイント強得ていた。
俺の周囲や占有領域内で人や魔物が倒されると倒した者が得るポイントの半分が俺にも手にはいるので大体妥当な数字だろう。
個別に得たポイントで一番多かったのはレベル22の男だが、それでも320ポイントほどなので敵対せずに済む人間は倒すより占有領域内で暮らして貰った方が得なようだ。
ただこの事に関連して気になるログも見つける。
昨日の獣人の里からのポイント収入が100程に低下していた。
考えられる原因は呪いをかけられて動けず極度の恐怖を味わった所為だろう。
ただこの事は別の可能性も示していると思う。
占有領域化にいる人間がより活発に活動し幸せを感じれば、俺もより多くのポイントを得る事が出来るんじゃないだろうか?
推論の域を出ないが里の活気がでて幸せになれば子供の数も自然と増えていくはずで、里を豊かにする試みをやってみても俺に損はないだろう。
正直里への指示は俺の存在の秘匿位しか考えていなかったので色々振興策を考えてみた。
ラザの背に揺られながら一応考えを纏め終えるともう獣人の里が視界に入る場所まで戻ってきていた。
西門の真下には出迎えに来てくれたのだろうバルバスがいて、傍まで行きラザから下りようとすると待ったがかかった。
(リク様、そのまま里へお入りください。騎乗していた方が民により畏怖を与えるでしょう。我らは魔人が力で人族の里を傘下に置くのです、無用の反乱を起こさせない演出も重要ですぞ。)
(なるほどな、だったら魔力でも纏って威圧感を上げておいた方が良いか?)
(いいですな、お願いいたします。では里長の元まで案内しますぞ。)
自分で提案した通り魔力を纏って威圧感を上げバルバスの先導に従ってラザに騎乗したまま里の中に入る。
ティータとティーエを送り出して大分時間がたっているので獣人達の解呪が進んでいるのだろう、両側の建物の中からかなりの視線を感じつつ里の中を進んで行く。
バルバスが他より少し大きめの家の前で足を止めたのでラザから下り後についてその家の玄関をくぐる。
応接室だと思う部屋の扉を開けると家具の無い大部屋の床に最初に解呪した4人の獣人達が胡座で座っており、俺達を目にすると一斉に床すれすれまで頭を下げた。
部屋の上座にあたると思う場所が開いているので中に入ってそこに俺も胡座で座りバルバスが俺の横に立つと里長のタイトスが口を開いた。
「この度は里の皆を御救い頂き誠にありがとうございます。」
「なに、俺の縄張りを荒らそうとした奴らを叩き潰しただけだ、気にするな。それより話しにくいから全員顔を上げろ。」
俺の指示に従い4人共顔を上げるのを待って次の話に移った。
「昨夜俺が言った通り今日からこの里は俺の支配下に置く。ついてはお前達に命じる。俺達の事を里の外へ漏らすな。住人を増やし里を大きくしていけ。まずはこの二つを守るように。」
「承りましたが、最初のご指示はともかく二つ目のご指示は簡単には行きません。その事をどうかご理解ください。」
「分かっている。人族が長生きしたり子供を産み育てるのが大変な事位はな。これは確認なんだがお前達が里を大きくしようと思えば、最低限防衛力の強化と食料の増産が必須だと思うんだが、間違ってるか?」
「いえ、相違ありません。」
「そうか、なら俺もただ命令するだけじゃなくて里の拡大に協力してやる。具体的な話は外でしよう。ついて来い。」
俺が立ち上がり部屋を出るとバルバスが続きその後ろに獣人達も続いて話し合いをしていた家を出る。
ラザも従えて里の広場へ向かい楔の傍まで来ると、戻って来る間考えた里への支援策を披露していく。
まずは楔に触る仕草をしてこれを起点に魔物避けの結界を展開したと告げる。
実の所はポイントを消費しないレベルで霊気を組み上げるだけなのだが、霊気が満ちていると魔物が湧かないし寄ってもこない筈なので魔物避けにはなるだろう。
次はグリアとドグラを冥炎山の楔を守って貰うため転移で帰還させ、変わりにハックを里へ呼び寄せて追加で4体のレベル3のハイドロックゴーレムを作り出しハックを長としたこの五体が里に常駐し防衛に手を貸すと紹介した。
流石に監視役を兼任している事も分かっているようで身長が3m程の人型をしているハック達に獣人達は及び腰だったが、五体とも楔を囲むように大岩に化けると多少は安堵したようだ。
ハック達には他にもやって欲しい事があるがその説明は後回しにして里への支援物資を俺の格納領域から出していく。
奴隷狩り達から奪った武器の大半に格納庫を幾つかと水生成の魔道具を一つだけ残して全部出した。
格納庫の事や使い方は獣人達も知っていたので水生成の魔道具の使い方を教え、ついでにハック達も魔石を対価に木の根や大岩の除去など開墾に必要な力仕事を請け負うともつけ加えておいた。
必要になる魔石は渡した武器で瘴鬼の森に出るゴブリンやオークを狩る事を勧め、戦いに不安があるなら戦闘の教導を俺達がやってもいいとも伝えたがこれはブルトに断られた。
最後にハック達や水生成の魔道具を上手く使って耕作地を増やし、ゆっくりでもいいから里を大きくしていけと命じると獣人達はゆっくり頭を下げた。
ブルトが声を掛け連れてきた数人と渡した物を片付けている傍ら、俺も急に呼び出して新しい仕事と部下を押し付ける事になったハックに謝り役目の確認を終えた所でティータ達が戻ってきた。
里の全員解呪が終わり確認も済んだというので引き上げる事にする。
裏の監視役をシャドウフレイム達に頼み、俺の背中から離れるのを待って獣人達に帰還を告げるとその場にいた全員が頭を下げてくれる中、冥炎山の洞窟へ転移した。
お読み頂き有難う御座います。




