#21 襲撃した、冥炎山 7
早速ガロを左腕に乗せたまま右腕でティータを抱き上げると海蝕崖の突端へ向かう。
ギャルドがすぐに反応してくれてバルバスの背中に貼り着くとシャドウフレイムの一体もそれに続く。
別の一体が俺の背中にも張り着き、そのままバルバスやタリンダも俺に続いてくれた。
崖の突端まで来ると少し離れて横に並ぶバルバスやその後ろにいるタリンダと目配せをしてガロに合図を出す。
体を外向きに変え俺の腕をしっかり掴んでガロが羽ばたき始めると共に左腕を掲げると、僅かな浮遊感がしたと思うと海へ飛び出した。
まずは落下する事で十分に加速しそこから水平飛行に移る。
夜の空を滑るように滑空しかつ高速で目標の船目掛けて一直線に飛んでいく。
一瞬後ろを振り返るとタリンダも滑空を始めておりその足にはバルバスが取り着いていた。
視線を戻すともう船は間近でティータを衝撃から守るため体に魔力を纏い船の木製上甲板を突き破る事も覚悟したが、着地の瞬間ガロが羽ばたいて速度を完全に殺してくれほとんど衝撃なく船上に立てた。
見張りのいない一角に下り立てたがガロの羽ばたきは大きな音がしていたので見張りが騒ぎだしていた。
「ガロ、アグリスの元へ行け。」
声を掛けて左腕を空へ向かって振り上げるとガロは羽ばたいて飛び上がり崖へ引き返してく。
それを見送らずティータを船上に下ろしてこちらの戦力を追加する。
ケルブと名付けた炎の大狼にラザと名付けた岩鎧の大犀を俺の両隣りに実体化させると、ティータはまた息を呑むがすぐに表情を引き締めてくれた。
「俺が船上で暴れて注意を引くから、ティータはケルブ、あーそこの狼を連れて妹を探してこい。シャドウフレイムも戦闘を避けて船内の調査だ。行け。ラザは残って俺の援護をしてくれ。」
指示を出すと同時にシャドウフレイムは俺の背中から消え、ティータとケルブも人気のしない船倉への入口の一つに走っていく。
ラザはダルクを見て覚えた岩のライフルを背中に幾つか生やし、俺も格納領域から刀を取り出した。
なるべく早く注意を引くため俺達の方から先に仕掛けて声を上げさせようと思ったが、松明を掲げて見張りの方から近づいて来た。
誰何の声も聞こえるので驚かせ精一杯絶叫させればより注意を引けそうなので、ラザと並んでゆっくり松明の明りの中へ踏み込んで行く。
炎の明りに照らし出された俺達の姿を見て見張りは完全に硬直し、さらに俺達か近づくと硬直した表情が恐怖に染まり魔人の襲撃だー、と思惑通り絶叫してくれた。
見張りの上げた襲撃の報はきちんと周りへ伝わったようで、近づいてくる別の見張りもいれば船倉へ駆け下り行く見張りもいる。
目の前の見張りはこれで用済みなので鯉口を切ると、ラザが反応して岩石ライフル弾を数発撃ち込み止めまで刺してしまった。
次に近づいて来た見張りもラザがあっさり仕留めてしまい、床に転がった松明の炎が船へ引火しないよう炎熱支配で炎を取り込み終えると背後で大きめの音がする。
振り返るとアグリスが着地を終えた所で、ガロを肩に乗せて俺の傍まで来た。
(遅くなりました、リク様。ご指示を。)
アグリスへ頷き指示をだそうとすると船倉への出入り口の一つから幾つもの足音が聞こえてくる。
ケルブの反応はまだ下からするし先程見張りが入っていった出入り口なので、この足音は船の迎撃要員達だろう。
その出入り口へ向き直って改めて指示を出した。
「戦闘準備だ。上がってくる奴らを甲板上で迎え撃つ。」
(御意、お任せあれ。)
気合の入った念話を返してくれたアグリスは溶岩の大槌を生み出すと俺の前に出てくれる。
だんだん足音が大きくなってきて先頭の男が姿を見せると同時にラザが岩石ライフル弾を撃ち込んだ。
不意を打てたようで先頭の男はまともに岩石ライフル弾を複数発浴び入り口付近で崩れ落ちる。
その時点で足音が一斉に止み船の壁を挟んで睨み合いになるかと思ったが、今度は上半身を覆うほどの木で出来た大盾を掲げた奴が飛び出してきた。
すぐにラザが岩石ライフルを撃ち込み弾がめり込むが盾は壊れず持ち応えてみせ、その後ろを通って10人程の男達が左右に展開し俺達を半包囲した。
そこでラザも一旦砲撃を止めると少し間をおいて睨み合いになり、ついでに看破眼で能力を調べて見る。
占有領域化じゃないので分かるのはレベルと所有スキル位だが全員一通り看破してみると、盾でラザの攻撃を防いだ奴だけレベル15で盾術スキルを持っていたが後は平均10レベル程でスキルも持っていなかった。
ただ睨み合いが始まってからゆっくり出入り口を出て来た男はレベル22もありレベル5の剣術と体術のスキルも所持していた。
上等な剣と革鎧も身に着けており色々俺とかみ合うこいつを今の自分を試す試金石にさせて貰おう。
(皆聞いてくれ、最後に出て来た奴は俺がさしで片づけるから、後の奴の始末を頼む。)
(御意、ですがやばいと思ったら勝手に割り込みますからね。怒らないで下さいよ。じゃ、俺から行きます。)
そう念話を返してくれると同時にアグリスは包囲の端にいる男の前へ一瞬で踏み込み、大槌を振り抜いて目の前の男を船縁まで吹き飛ばした。
アグリスの肩から舞い上がったガロも風の球を吐き出して攻撃を始めてくれ、ラザも岩石ライフルでの攻撃を再開してくれる。
俺も魔力を全身に纏い盾の男へ向かって間合いを詰め、構えられた盾の上から殴りつけて強引に道を開けると刀に魔力を通しレベル22の男へ抜き打ちで切り掛かった。
男の方も既に剣を抜いており振り下ろされる剣と打ちこむ刀が激突する。
武器の質では圧倒的に刀の方が上のようで向こうの剣だけが刃こぼれし、男は慌てて剣を弾いて鍔迫り合いを回避した。
打ち合った感触では追加で炎を纏わせれば剣を両断出来そうだったが人との実戦経験を積むためそうはせず正面から男と打ち合う。
足を止め数合打ち合うと男は強引な薙ぎ払いを仕掛けて来てバックステップで後ろに下がると男の視線が左右に揺れた。
周りの様子を確認しているようなので俺も魔力で周囲を感じてみると、アグリス達はもう五人程倒しているようで盾の男が2人男を引きつれアグリスに対峙しているが後の者はガロとラザに追い回させていた。
どうやらレベル22の男は援護を期待していたようで舌打ちをして切りかかってくる。俺も前に出て男を迎え撃った。
正面から刀と剣を打ち合わせるが男の方が鍔迫り合いを嫌い、お互いの刃が流れる。
足を止めて武器を打ち合い相手の剣撃を交わしてくとお互いの姿勢が崩れていき、武器を打ち合わせた反動を利用して双方バックステップし間合いを開けた。
そこからは間合いを詰めて打ち合い姿勢が崩れると距離を取って体勢を立て直すとまた前に出る、といった同じような展開を繰り返しながら数十合男と打ち合う。
その過程で嫌でも感じてしまった、悔しいが俺の剣は僅かにこの男のそれに届いていないと。
その実感が自覚できないレベルで苛立ちや嫉妬を俺の中に産んだようで、それらの感情に引きずられて不用意な大振りをしてしまう。
案の定余裕で避けられその上力んでいた分刀を木の甲板へ打ちこんでしまい、男は刀を足で抑え込んで左の鎖骨目掛けて剣を振り下ろしてきた。
正直な所強引に刀を持ち上げて男の姿勢を崩し勝負を膠着状態へ戻せたが、剣術勝負での負けを認めそれでも命のやり取りを制するため魔力を纏った左腕で男の剣を受け止めた。
確かな痛みと共に外皮が僅かに引き裂かれ、男の方もここが勝負所だと感じているんだろう前のめりになって全体重を剣へかけてくる。
俺も体に纏う魔力を強化すると刀を手放し握っていた右腕を男の背中に回してさらに密着し鯖おりに近い状態で男を捕らえた。
左腕を動かして剣との接触面をずらし万力のように締め上げていくと男が吼えた。
「離せ!離しやがれ、化け物!」
男もほとんど無意識で言っているようだし無視してもいいんだろうが、俺自身へのけじめの為に一言言い返しておこう。
「正直剣術ではお前の方が強かった。敬意を表して今の俺が出せる全力の炎で始末してやる。」
俺が言葉を返すと思っていなかったのか男の顔が驚愕に染まるが気にせず火魔術で俺を中心に炎の竜巻を起こす。
併せて炎熱支配を発動し炎を最大限強化すると共に船への延焼を抑え込んだ。
男は最初の5秒間絶叫を上げていたがそこで声は止み、1分程して炎の竜巻を消すと足元の焦げた甲板に少量の灰の山と歪な金属塊が残った。
お読み頂き有難う御座います。