#17 襲撃した、冥炎山 3
いい所がなかったので内心ため息をつきながら刀を鞘に納め、奴隷狩り共に看破眼を向ける。
今この里は俺の占有領域化しているので能力の詳細まで見通せ、人間の男達は平均レベル8位で武器扱うスキルしか持っていないので枷を嵌めれば十分拘束できそうだ。
女の方は魔術と精霊使役のスキルを持ってはいるが、魔力が枯渇しその所為で生命力も削られて動けないようなのでこのままでいいだろう。
女自身にあれほどの偽装を可能にする特殊能力が見つけられなかったので、身に着けている物へ順番に看破眼を向ける。
来ている服に特別な能力は無く金属の首輪は奴隷化の首輪という魔道具で、嵌めた者が嵌められた者を奴隷に出来る首輪だったが偽装能力は無かった。
まだ何か持っていないかよく調べてみると左手の人差し指に指輪を嵌めていて、それを調べてみると偽体の指輪と見えた。
指輪の能力を詳しく見てみると、自身の体を身に着けている任意の物を含めて生体組織を登録した対象の体へ変質させるとある。
ただ制約もあって変質を維持するには常時魔力の供給が必要で、生体組織の提供者が生存していてある程度近くにいる必要があるようだ。
ついでに割れた水晶球も見てみるとこれが呪具だったようだが、どうやら使い捨てだったようでもうただの黒水晶の欠片になっていた。
隷属化の首輪と偽体の指輪にあの惹かれる感覚があるので後で溶融同化して新たな力としよう。
偽体の指輪を確保したので最低限の目標はクリア出来ているが、偽装のため誘拐された獣人の女性を助けてやればこの里の懐柔に役立つ筈だ。
恐らくここに来なかった後半分の人間達の元にいると思うで、尋問すれば聞き出せるだろう。
だがいきなり聞くとこちらに鑑定能力が在ると、人間達や周りの獣人達に疑念を持たれるかもしれない。
となるとまずこのダークエルフを尋問して指輪の事を聞きだし、その上で獣人の女性の行方を人間達に問いただせばいい。
脱力して座り込んでいるダークエルフの女の前に立ち、火傷させないよう気を付け指で顎を持ち上げて俺の方を向かせた。
「素直に俺の質問に答えるなら、取り敢えずは殺さないでおいてやる。お前の名前は何だ。」
「ティータ。」
看破眼で見える名前と同じなので素直に喋る気がありそうだ。
「もう一人引き込み役の獣人の女がいた筈だ。そいつは何処に行った。」
「あれは私よ。指に嵌めてる魔道具で変身していたの。」
「なら実際やってみせろ。」
「今は魔力が切れてて無理なの。」
多少憤慨した振りをして指輪に少しだけ魔力を注いでやり、もう一度やってみせろと命じる。
ティータは30秒程獣人の女性に変わりまたダークエルフの姿に戻った。
「嘘じゃなかったようだな。その指輪の事を知っているだけ全部話せ。」
「分かったわ。」
疲労状態のせいかティータの説明はとぎれとぎれだったが、看破したのとほぼ同じ指輪についての話をした。
「その説明が本当なら生体組織とやらを提供した獣人はどこにいる。」
「それは・・・」
続きをティータが話そうとすると人間達に関わるからか、奴隷化の首輪が閉まり苦しんで口をつぐんだ。
看破眼で理由は分かっているが、ここは知らないふりをして質問を続けよう。
「どうした早く話せ。」
「この首輪のせいで話せないんです。許してください。」
凄んだせいでかなり脅えさせたが、ティータからいい返事が返って来たので尋問を続けるためを装って奴隷化の首輪を溶融同化してしまおう。
顎を上げさせたまま反対の手で首輪に掌を当て溶融同化を始める。
特に抵抗なく同化を始められ強引に飲み込むと首を絞める事になりそうなので、一部を取り込んだ後は片方の接点を切り離しもう片方の接点から首輪を取り込んだ。
アビリティ隷属刻印を取得した
にやけそうになるのを押さえて取得したアビリティを確認してみる。
どうやらこのアビリティは魔力で作った魔法回路のようなものを撃ち込んで対象を支配下に置く事が出来るようだ。
眷属創操の下位互換かと一瞬思ったが、よく確認すると対象に眷属創操のような転生魔人の俺と同じ体質への変化は起こさずただ支配するだけのようだ。
他にも人族や魔物に限らす物や場所も支配対象に入っているようで眷属創操とはまた違った使い方がありそうだ。
アビリティの確認のため問答の間が空いてティータが怪訝な表情を浮かべているが、下手に取り繕わず質問を続けよう。
「首輪は取ってやったぞ。さっさと話せ。」
首輪が外れていく感触はあったと思うが、ティータは手で首のあたりを触り首輪が無い事を確かめてから口を開く。
「わたしはその獣人の女性とは入れ替わる時に一度会ったきりなの。そこの人族の仲間が後5人いる筈だから、たぶんそいつらと一緒に居ると思うわ。」
「いいだろう。取り敢えずは信じてやる。」
ティータが言って欲しかった事を喋ってくれたので、本命の尋問に移るとしよう。
ティータの顎から手を離してやり、アグリスが押さえ込んでいる人間の前に立った。
「お前の仲間達と獣人の女はどこにいる?」
なるべく凄んで問うてみたつもりだが、足元の男はふてぶてしい表情で横を向いて黙ってしまう。
順番に痛めつけていけば誰かが吐くと思うが手間なので、新しく覚えたアビリティ隷属刻印を早速試してみよう。
ただ普通に魔力を流し込むとバルバス達が眷属化していると誤解するかもしれないから、念話で説明し多少の演出を加える必要があるな。
周りの眷属達に首輪を取り込んで得たアビリティを試してみると念話を送り、指先に拳大の火球を生み出す。
しゃがみこんでその火球を奴隷狩りの一人の背中に押し付け、演出の火傷をつけながら同時に魔力も送り込んでいく。
この男の体内で魔力が刻印を形作るとほとんど抵抗なく支配下に置けた。
火球を消して立ち上がり男へもう一度同じ質問をすると最初はふてぶてしい表情のまま黙っていたが、先程のティータより酷くもがき苦しむとそこからは質問に対し饒舌に答え出した。
色々と質問をしてその答えを精査すると、ここにはいない他の奴隷狩り共は女の獣人を連れて本隊の誘導に向かったようだ。
本隊の規模や兵の質は正確には知らないようだが、実際に戦える兵の数は30人程で飛び抜けた強兵もいないようだからバルバスの予想通りといった感じだ。
他にも持ち込んだ大荷物について聞くとほとんど奴隷化の首輪だったようで、実際足元の荷物を調べて見ると百数十個あった。
里の獣人の総数には及ばないが、首輪をつけた者は呪いの影響下にあっても最低限の行動は可能になるそうで、首輪をつけた者に動けない者を船まで運ばせ全員に首輪をつけてから呪いを解除する予定だったようだ。
ダメ元で呪いの解除法や本隊がどちらから来ていつ頃着くかも聞いてみたが、呪いには解除薬が必要で本隊も朝までにここへ着くとしか知らなかった。
獣人達の呪いは最悪楔で取り除けると思うし、この里に陣取って奴隷狩りの本隊を迎え撃つのは決定だな。
後は呪いをかけたこいつ等をどうするかだが、獣人達の懐柔を狙う以上甘い処罰は出来ない。
それでも多少は自分達の未来を選ばせてやろうか。
俺の支配下いるやつに決めさせるのは少し卑怯な気がするので、残りの4人の内1人ふてぶてしい態度を崩さない奴の前に立った。
「お前が奴隷狩り全体を代表して答えろ。お前達の始末はどうつけて欲しい。止めを刺されたいか、それとも奴隷になってでも生き延びたいか。どっちか良い?」
問いかけた男のふてぶてしい表情が歪み何か喋り出す前に、待ってと別方向から声が掛かった。
顔だけ声の方に向けるとティータが必至の表情で訴えてきた。
「わたしは首輪でその男達に従わされていただけ!一緒にしないで!」
ティータは正直に俺の質問に答えたし、多少優遇してやってもいいか。
「いいだろう。お前には後で個別に選ばせてやる。」
ティータへ答えてやり最初に問いかけた男に視線を戻すと、絞り出すような声で返事を返してきた。
「魔人の奴隷になるくらいなら殺された方が増しだ。さっさと殺せ!だがこそこそと奇襲をかけてくるような弱小魔人が本隊に勝てると思うなよ。せいぜい追い立てられて狩り殺されるがいい。」
俺が弱いと言われたせいか眷属達がいきなり殺気立つが手を挙げて制止し念話を送る。
(俺にとってこれは人間との最初の衝突だ。始末は俺の手でつける。)
きちんと俺の意思を示すと皆殺気を押さえてくれ、ついでに他の男達を見回すと押し黙って俯いており答えた男の選択自体に異論は無さそうだ。
「お前達の答えは分かった。痛めつけて楽しむつもりもない。苦しまないよう止めを刺してやる。」
刀を抜き全力で魔力を纏わせた上で火魔術も上乗せして刀身に炎も纏わせる。
首を一撃で落とすのが苦しませない殺し方なのだろうが、俺の腕では高難度なので心臓を一突きにして即死させてやろう。
刀を逆手に持ち替えて背中から心臓を一突きにすると、うめき声をあげる間もなく全身が燃え上がった。
苦しませず止めを刺せたようなので他の四人にも同じように刀を突き立てていく。
五人目から刀を抜き炎と魔力を散らして鞘に納めながら、人を殺してもそれほど動揺しない自分が逆に少し不安になる。
それでも刀を鞘に納めるとその気持ちを抑えてティータに向き合った。
少し震えていたのですぐに話をするのは無理かと思ったが、いきなりティータが土下座のような姿勢を取った。
「お願いがあります、私の問いにお答えください。」
「何だ、言ってみろ。」
何を聞いてくるか興味が出たので答えると、ティータは土下座まま顔だけを上げた。
「先程奴隷狩りを全員始末すると言われましたが、それはこれからこの里を襲う者や後方で待機する者も含まれますか?」
「ああ、この里は俺の支配下に置くつもりだから、そこに襲撃を掛けてきた以上関わった全員に落とし前をつけて貰う。」
俺の返答を聞くと、ティータはまた土下座の姿勢に戻る。
「わたしはどうなっても構いません。一人だけお見逃しください。」
「見逃すと決めた訳じゃないが、一応相手は聞いてやる。」
「わたしと同じこいつ等の奴隷で実の妹です。貴方様の奴隷になりますし、出来る事なら何でもやります。どうかお願いします。」
ティータは額で地面をこするように頭を下げて頼んできた。
奴隷を一人見逃すくらい構わないし怪しまれずに本隊の動向を探れる偵察役になる。
素養を見ても中々なので配下に加えて鍛えれば使えそうだし、この里との折衝役などをやらせてみてもいいだろう。
ただいきなり眷属化はせず、隷属刻印を打ちこんで信頼出来るか暫く様子を見よう。
「見逃してもいいが、その前にお前の言葉が嘘ではないと証明して貰う。奴隷になるというのが嘘ではないなら、いいと言うまでその姿勢でいろ。」
俺から近づくがティータは土下座を崩さず、傍まで行ってしゃがみ髪に触れた時はビクッと震えたがそれでも土下座を続けた。
指先に小さな火を灯し髪を退かして露出させたうなじに押し当てながら魔力を送り込む。ティータのうなじにほくろ大の火傷を作る事になったが隷属刻印も上手く打ちこめた。
「もういいぞ。言葉に嘘は無かった以上、約束通り妹は見逃してやるが俺達は姿が分からない。奴隷狩りの本隊から妹を探すのはティータの役目だぞ。」
「はい、ありがとうございます。」
立ち上がりながら声を掛けると、ティータも顔を上げた。
お読み頂き有難う御座います。