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#141 後始末した、王都 13

 さて、もう1人の壮年の男と若い男はバルバスの力を目の当たりにして震えあがり、酒の入ったグラスを持ったまま固まり青くなっていた。

 気配から推測する力量も一般人と大差ないし、逃げたり俺達に歯向かったりは出来ないだろうが、一応奴隷化の首輪を嵌めて大人しくさせておこう。

 格納庫から奴隷化の首輪を取り出したら何をされるか察してその2人がギャーギャーと喚くけど殺気をぶつけてもう一度黙らせた。

 再び震え上がって固まったその二人へ首輪を嵌め、ついでにバルバスが気絶させたここの責任者だという男にも嵌めておいた。

 

 これでこの3人は反抗も逃げることも出来ない。

 念のため口封じをされないようガディを見張りに残して、他の掃討と探索に回ろうと思ったんだが立て続けに念話が飛んできた。

 先にアデルファから報告がきて、魔術を使い地下通路への出入り口を封鎖した後で隠し部屋の制圧も完了したみたいだ。

 その部屋の中には恐らく犯罪関連のものだろう書類や金銀の硬貨に宝飾品で溢れているそうだから後で要確認だな。

 続いてアグリスからも報告があり、2階より上から従業員や用心棒がおりてくるが収まったみたいだ。

 当然下りてきた全員を気絶させて転がし、土魔術で手枷足枷を作って嵌め動けないようにも処置済みだそうだ。

 この後は一階に残敵がいないか確認に回りたいようなんで許可しておいた。

 こうなるともう後始末の段階だろうから後の事は大地の盾の面々へ引き継いでしまおう。

 俺について来ていた連絡役に内部の制圧が粗方終わったんで後はそちらに任せるとゼークンドへ報告に行ってもらう。

 ついでにジアトル達にもここへ来てくれるよう伝言を頼んでおいた。


 これで俺は役割を終えて手が空いたんだが、この3人の尋問は二度手間にならないようジアトル達と一緒にやるべきだな。

 それでもただ待っているのも暇なんで大地の盾の面々がここの内部を掌握し、ジアトル達がやってくるまでの時間を利用して俺は先に隠し部屋の中を確認させて貰おう。

 その間もガディとバルバスには首輪を嵌めた3人の見張りに残ってもらう。

 この建物の見取り図は把握しているんで迷わずアデルファ達が確保している隠し部屋のある客室へ向かい、稼働できるように細工されている飾り棚の後ろに隠されていた隠し部屋の入り口を潜った。

 中には報告の通り金貨や銀貨に宝飾品がぎっちり詰まっているが、どうやら魔道具の類は無さそうだ。

 無駄なもめ事は避けたいんでこの金品についてはジアトル達との分け前が決まるまで一旦このままにしておいて、書類の方へざっと目を通していく。

 ほとんどが奴隷の売買関連のものだが、契約書というよりは利益分配のための取引記録みたいだ。

 その中に二番船という言葉に続いて依然捕まえたドゥルガス海賊団の船長の名前が良く出てくるんで、予想通りここがあの海賊団関連の商会なのは間違いなさそうだ。

 これらの書類はここの責任者だと言っていたあいつの尋問に役立ちそうなんで、幾つか回収して格納庫へ収めておいた。

 これで取りあえずここでの用事は済んだんでアデルファ達には引き続きここの警備を頼んで俺はあの3人を捉えてある応接室へ引き返した。

 その途中で建物内を確認して回っているアグリス達に会ったんで礼を言って労い、部屋に戻ると間を置かずゼークント達に護衛されたジアトルやガルドルがやってきた。

 早速気絶させた男を起こして尋問を始めようと思ったんだが、無抵抗だった方の壮年の男と若年の男を見てジアトルにガルドルが目を見開いて驚いた。

「この2人、もしかして知り合いなのか?」

「はい、若い方がグリシャム様で、もう1人はその祖父に当たるバシム殿です」

「あ〜そういう事ならグリシャムの方だけでも首輪を外した方がいいか?」

「いいえ、丁度いい機会なので息子への行いについて洗いざらい答えてもらいましょう」

 表情の上では内心の怒りを上手く隠したガルドルが、ジアトルを貶めようとしたり殺そうとした経緯や動機を問い質していった。

 大体の所は俺達が他の者から聞いていた通りみたいだったが、1つだけ知らなかった事が出てきた。

 どうやらあのジアトルが経営させられていた鉱山は、元々潰れたバシムの商会が所有していたみたいで、不良物件の処理ついでに不当に高い金額でコランタ商会に買い取らせ金をだまし取ったみたいだ。

 そんな答えを苦々しい表情のグリシャムが首輪の強制力に逆らえず返すたびに、ガルドルは商人らしく怒りを増しながらもどんどん無表情になっていく。

 それを見て何を勘違いしたのか、ガルドルの質問が途切れた間をついてグリシャムが吠えた。

「そんな事より、ガルドル。さっさとこの首輪を外せ!俺はコランタ商会の次期会頭なんだぞ。こんなことをしていいと思ってるのか!」

 こいつがこうも強気なのは悪事がばれてもアリスはもう死んでおり、商会の跡取りが自分一人しかいないと思ってるからだな。

 元雇い主であるアリスの不利にならないよう黙っていたが、こうなると生きている事を話してきっちりグリシャムを処分してもらった方が彼女のためになるはずだ。

「ちょっといいか?お前は妹のアリス嬢が死んだと思ってるみたいだが、ちゃんと生きてると思うぞ。お前が護衛に偽装してつけた刺客は俺がトロスで排除したし、そこからパルネイラへ逃げる途中でお前が念の為に差し向けていたドゥルガス海賊団の2番船も俺達が返り討ちにして無事に送り届けたしな」

 そんな俺の暴露に目を見開いてバシムとグリシャムは驚いているが、追い打ちを掛けるようにガルドルも口を開いた。

「実を言うと数日前に今の話と同じ内容の手紙がアリス様より会頭や私を含む数名の重役宛てに届きました。会頭は内容が本当か疑問に思って確認のための使者をパルネイラへ送っていましたが、どうやら事実ようですね」

「そういう訳だ。跡取り候補は別にちゃんと生きてるし、妹を殺そうとしただけじゃなく海賊ともつるんでる奴が海運系の商会で会頭になれるはずないだろ。刺客としてドゥルガス海賊団の2番船を雇ったようだし、そこに倒れてるここの商会の責任者だって奴も構成員みたいだしな」

 バシムとグリシャムは目を見開いたまま愕然としてしまったんで、きっちりその心を折ることが出来たみたいだ。

 そう感じたのはガルドルも同じだったみたいで、その2人から興味を失ったように俺の方へ向き直った。

「リク殿、ここにドゥルガス海賊団の息が掛かっているというのは間違いないのですか?」

「ああ、先に重要な物がありそうな隠し部屋を確認させてもらったんだが、証拠になりそうな書類があった。そこで気絶してる責任者って奴を起こして尋問すれば確認もとれると思うぞ」

「そうですか。となるとこちらから1つ提案があります。後始末はこちらが主に引き受けるという取り決めと聞いていますが、今の時点でこの件から完全に手を引いていただけませんか?勿論十分な謝礼の上乗せをさせていただきます」

 俺としもほとんど口出しや手出しをするつもりはなかったが、後始末には一切関わってくれるなっていう事か。

 ジアトルとの話し合いでは、ここに所属していた暗殺未遂犯を証人に懇意にしているこの町役人にも一枚噛ませて正式にこの商会を潰すつもりだった。

 その為には俺達炎山の面々も証言位はしないといけない筈なんで、それもいらないとなると、

「もしかしてこの街の司法には介入させず、コランタ商会で私的にここの始末をつけるつもりなのか?」

「ええ、我々の商会の名誉や評判を守るためにもこの件は絶対に外へは漏らせませんから」

 そうか、情報統制のため懇意にしている役人にさえこの件は知られたくないんだな。

「分かった。俺としてはこっちに迷惑がかからず、十分な報酬を払ってくれるなら異存はない」

「私の名に懸けてお約束します」

 これは契約書に残せない類の取引なんで代わりにガルドルとガッチリ握手をした。


お読みいただきありがとうございます。

今週の投稿はこの1本です。

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