表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/142

#14 追いかけた、外輪山 3

 夜は魔物を倒しながら森を移動し、昼は土魔術で開けた穴に隠れて日が落ちるのを待つ。

 そうやって予定のルートを数日かけて移動し夜半を過ぎて目的地である外輪山の麓に着いた。

 倒すか眷属化、どちらを選ぶにしても寝込みを襲った方が楽なので森が途切れる場所で一日休み、太陽が沈むのを待って巣へ向かった。


 リンからの情報によれば、幻獣の巣は切り立った外輪山の山頂付近に空いた横穴にあるそうだ。

 本来なら急な崖をクライミングしなければ辿り着けない場所だが、どうしてか横穴の最奥と麓付近が洞窟でつながっているらしい。

 地図が示す場所に行ってみると一見何も無い岩場のように見えたが、看破眼で周囲を調べてみると大きな岩でふさがれた洞窟の入口があった。

 岩を退かしてみると洞窟の幅が狭く俺は立って移動できそうだが、ガディはギリギリでバスバスは屈まなければならずダルクは匍匐前進をしてもらう羽目になりそうだ。

 本来なら土魔術辺りで洞窟を拡張しながら進むべきなのだろうが、洞窟を出た所で戦いになる確率がかなり高いので消耗を避けるためこのまま進むと皆で決めた。

 動きへの制限が少ない俺が先頭で洞窟に入り、皆も続いてくれる。

 洞窟は一本道で螺旋を描いて上を目指しており、進みやすくはあったが明らかに人が作ったものだと感じられた。

 単調な上り坂のカーブが続く洞窟を時間の感覚が怪しくなるほど歩くと、大きな岩が行く手を遮った。

 後ろにいるバルバスが岩の向こうに大きな空洞があると警告してくれる。

 どうやら目的の場所に着いたようだ。


 俺の気合いを入れ直す意味も込めて、行くぞと皆に声を掛けて大岩を押し出した。

 いきなり攻撃を受ける可能性もあったので全身に魔力を纏って空洞へ飛び出したが、溶岩湖で襲ってきた巨鳥はおろか幻獣と呼べそうな生き物さえいなかった。

 この世界に転生してから3か月近くたっているので、情報にあった幻獣がこの巣を放棄したのかもしれない。

 ホッとし同時に拍子抜けした気分の中で空洞を詳しく見回してみる。

 羽や木の枝など鳥の巣によく在りそうな物までない殺風景な空洞だが、横穴の最奥部には幾つかの魔力を感じるのでそこ向かってみた。

 魔力を放つ物が4つあり一つは50cm程の岩で、邪竜の遺体を封じていた要石とよく似ている。

 後の3つは俺の目線近くまで高さのある卵形の岩だ。看破眼を使ってこの4つの岩を調べてみると、小さい1つは風の要石であとの3つは仮死状態の幻獣の卵と見えた。


 俺のアビリティ万有看破眼:叡智・限定因果は大抵の物の素性や、魔術やスキルによる偽装の有無を見抜くことが出来る強力なアビリティだ。

 加えて占有領域下で使えば、因果を辿るように対象の発生から現在までの全てを見抜けるようになる。

 仮死状態とはいえ卵があるという事は、情報通りここは幻獣の巣だったんだろう。

 この卵が辿った変遷を調べれば、この幻獣の巣がどうして今のような状態になったか分かるだろう。


 新しい楔を作り出し、魔力を込めて起動する。

 突き刺せる場所を探してみると今、風の要石が置かれている場所と引き合った。

 これで意味があって要石が置かれている可能性が出て来たが、卵の事を調べるのが先決なので要石を退かして楔を打ち込み占有領域を展開する。

 外輪山やその周辺が占有領域化するのを実感して、もう一度卵に看破眼を向けた。

 どうやらこの卵は猛禽系の鳥型幻獣の卵で、残念ながら巣が空だった理由は卵が原因じゃなさそうで見抜けなかったが、仮死状態だった理由は分かった。

 どうやら風の要石は、地脈から力を吸い上げてこの巣を瘴気とは逆の力にあたる霊気で満たし、魔物の発生を抑える為に置かれていたらしい。

 だが要石による地脈からの力の吸い上げが弱く卵から不足分の力を強引に吸収し、それが原因で仮死状態になったようだ。

 要石による力の吸収は今も続いており、占有領域を展開するため霊泉から動かしたので吸収量が増えていて、放置すると卵が本当に死んでしまいそうだ。

 卵をどうするか考える時間が欲しいし、邪竜を封じていた要石とよく似通っているのでこの要石は溶融同化で取り込んでしまおう。


 動かした風の要石の前にしゃがみ込んで手を置き溶融同化を発動する。

 掌を通して風の要石を吸収すると、


1体の精霊を吸収しました。

契約及び分解してのポイント化が可能です


火や土の精霊とよく似た力の塊が体に入ってきた。

 早速地脈炉を通じて取り込んだ精霊と接触してみると、契約してもいいが5000ポイント必要だと反応が返ってきた。

 流石に5000もポイントの残高は無いので返答に困ってしまう。

 どうするか悩んでいると精霊の反応が沈静化していき慌てて地脈炉を使って接触してみると、ポイントが渡されるまで仮契約状態で眠って待つと意思が返ってきた。

 精霊の事はポイントが溜まるまでどうしようもなさそうなので、幻獣の卵の方に意識を戻した。


 この卵をこのまま壊してしまうのは簡単だろうが非常に勿体なく感じる。

 ただ卵を返して雛から育てるのは手間がかかりそうだから、手を借りる事になるだろう眷属のみんなの意見も聞いておこう。

 要石を吸収した姿勢から立ち上がり、幻獣の卵に触れながら周りで待機してくれていた眷属を見回した。

「この岩を俺の看破眼で調べてみたら、近くの二つと併せて3つとも鳥型幻獣の卵だと分かった。俺としてはこの卵を孵して、雛からになると思うが育てて配下に加えたいと思ってる。みんなの手も借りる事になると思うから、意見を聞かせてくれ。」

(どのような種族であろうと幻獣は強大な力を持ちますから、手間をかけて育てる価値は十分ありますな。勿論お手伝い致しますぞ。)

 答えてくれたバルバスに同意するようにガディ達も頷いてくれた。

 俺もみんなに頷き返し、卵に触れて魔力を流し込み眷属化を試してみるが何も反応が返ってこない。

 恐らく仮死状態を解除するか、羽化させないと眷属化出来ないのだろう。

 

 もう一度卵へ看破眼を向け今度は卵の回復方法を探してみる。

 仮死状態からの明確な回復方法は見つからなかったが、羽化に大量の霊気が必要なのは分かった。

 確か楔に地脈から霊気をくみ上げる機能があったはずなので、卵から手を離し楔に触れて能力を確認する。

 覚えていた通り目的の機能が楔にあり、ポイントの消費で組み上げれる霊気の量を増やせるとあったので、体に溜まっていた300ポイントを楔に注いで霊気のくみ上げを始めた。

 楔から霊気が溢れだし始め、これで暫く様子を見る事になるかと思ったが変化はすぐに起こった。

 楔から流れ出す霊気がきっちり三等分され、それぞれの卵へ流れ込んで行く。

 霊気の吸収を始めると拳大の岩が剥がれていき、その下から白い殻が見えてきた。

 完全に岩が剥がれ白い卵が姿を現すと、パキッと3つとも内側から亀裂が入る。

 

 早速羽化が始まると期待してみていたら、バルバスの魔力の放出が急上昇しそちらに視線を振ると横穴の出口に向けて槍を構えていた。

 俺もすぐに横穴の出口方向を向くと1匹の巨鳥が下り立っていた。

 翼についている傷の位置から考えて俺達に攻撃を仕掛けて来た個体だろうが、今回はいきなり攻撃を仕掛けてはこずこちらの様子を窺っているように感じる。

 ガディ達も戦闘態勢を取り攻撃を始めようとするが、念話で待ったをかけた。

(皆、手を出すな。今ここで戦えば間違いなく卵を巻き込む。むこうも何故か手を出してこないし今回は一旦下がって仕切り直す。)

 御意と念話で答えてくれた眷属の皆と撤退の手段を相談していると、巨鳥の方から念話を送ってきた。

(どうして魔人が私の子達を殺さず、私と争いもせず去ろうとするのです。)

 女性的な響きのする念話からは確かな知性を感じられる。

 いずれ戦う可能性が高いとはいえ、交渉で無駄な戦いを避けられるならやってみる価値はあるだろう。

「今この状況で戦えば、折角配下にしようと思って羽化させたこの卵たちを巻き込むだろう。そんな勿体ない事が出来るか。お前もこの卵達が自分の子供というなら巻き込みたくないだろ。今日は俺達が消える。戦いは、場を改めてだ。」

(いいでしょう。この場では争いませんが、去る前にもう一つ私の問いに答えなさい。答えいかんによっては、お前達と不戦を約しても構いません。どうやってその子達に羽化を促したのです?)

「いいだろう、答えてやる。」

 巨鳥に向き合ってこの横穴入ってから取った行動を説明してやる。

 話のあいだじっと俺を見つめていた巨鳥が、話終わると近づいてきて俺の前に座りこんだ。

(魔人、提案があります。流石にこの子達は渡せませんが、代わりにわたしがお前の為に働きましょう。ですからこのままここを霊域として維持しなさい。どうですか?)

「提案への返答の前に教えてくれ。いきなり俺達を攻撃してきた理由は何だ?」

(それはお前が取り込んだという岩を置いて行った人族の女に脅されていたからです。岩が砕けるまで周囲の魔物を間引かないと、この子達が羽化する事は絶対にないだろうと。ですが問題の岩が無くなった以上もうお前達と戦う理由はありません。)

 看破眼で見ても嘘は言ってないようだし、現にあの要石で卵達が仮死状態になっていたのだから信じてよさそうだ。

「なるほどな、そういう事なら提案を受けるよ。今すぐ頼みたい事は無いけど、霊気の供給は請け負う。あそこに刺している杭を抜かないようにしてくれ。後俺はリクって名乗ってる、これからあんたの事をなんて呼べばいい?」

(タリンダと呼びなさい、リク。)

「分かった、そう呼ばせて貰う。最後にこれは盟約者へのサービスだ。」

 楔を起動し体内のポイントを対価にタリンダを治療する。

 残っていた傷を消してやると翼を広げてタリンダは具合を確かめ始め、丁度その時後ろからピーという声が3つ聞こえてきた。

 声の方へ振り向くと3つの卵全てから雛が顔を出していた。

 卵の羽化まで見届け予定とはだいぶ違ったがここでの用事は終わった。

 火傷させないように体表の温度を限界まで下げ雛たちを三匹とも撫でて、あるのは分かっていたが試せないでいた楔と楔を繋ぐ転移機能テストを兼ねて火山へ転移で帰還した。



お読み頂き有難う御座います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ