#136 後始末した、王都 8
地面へねじ伏せられている技師を除いて俺を含むこの場の全員がお互い顔を見合わせ、ジアトルの護衛が技師を肩にかついで全員が一斉に出口へ向かって走り出した。
坑道の分岐ごとに指示通り待機していてくれた仲間達やジアトルの護衛と合流していき、最初の分岐まで戻ってきたんだがここの残ったアグリスとジアトルの護衛はいなかった。
やっぱりこの辺りで何か非常事態があって持ち場を離れたんだろう。
となるとまずは外へ出られるか確認をするため坑道の出入り口へ向かったら完全に崩落していて、その手前には呆然とその様子を眺めているジアトルの護衛と忌々しげなアグリスがいた。
「無事みたいだな。アグリス」
「リク様。すみません、俺が居たのにしてやられました」
「いや、おまえが無事ならそれでいいんだが、その言い回しだとこの崩落は人為的なもので、犯人も見てるんだな」
「そうです。何食わぬ顔で俺の前までやってきて、ここの警備だった名乗ってましたね。そこの護衛が確かめてるんで警備だってのは間違いないと思います」
引き続きアグリスに詳しい経緯を聞いてみると出入り口を崩落させる少し前にその犯人の男がアグリスと護衛の前にやってきたみたいだ。
その男はまだジアトルは下なのか訪ねてきて、護衛の方がそうだと答えを返したら外へ伝えてくると受け答えしただけで出口へ引き返していった。
そんなやり取りを横で見ていたアグリスは犯人の男が異常に緊張しているのに気が付いて、何かあるのかと思い念の為少し距離を取って戻って行くその後をついて行ったようだ。
そのまま出入り口近くまで行ったが何もなく、自分の取り越し苦労かとアグリスが思い始めた所でつけていた男が懐から何か取り出し床に置いたそうだ。
その瞬間アグリスが声をかけると犯人の男はギョッとして振り向き、慌てて坑道を出て行った。
アグリスはそいつを追いかける前に何を置いて行ったのか確かめるため近づこうとしたら、それが爆発した。
当然アグリスは素早く反応し爆風に乗って距離を取ったのでダメージはほとんど受けていないそうだが、その爆発で坑道の出入り口は崩落。
連鎖的に坑道の天井も崩落しそうになったが、アグリスが土魔術でそれを食い止めてこれ以上崩れないよう補強もし終わった所で俺達がやってきたみたいだ。
それにしても頑強に作られている坑道の出入り口を一撃で崩落させたとなるとかなり強力な魔道具が使われた訳だ。
そんな物をすぐ手に入れられる筈はないしこの鉱山を取り巻く状況を考えると、ジアトルがこの鉱山の実情に気づくか、もしくは無条件に坑道へ入れば出入り口の爆破を実行するよう以前から仕組まれていたんだろうな。
この考えに間違いなればこれはグリシャムが仕込んでいた策謀という可能性が高い。
実行犯とグリシャムにつながりはないか、まずはどういう素性でどうやってここの警備へ紛れ込んだのか聞かせてもらおう。
「ジアトルさん。これをやった犯人はここの警備員みたいですね。そいつの素性と雇った経緯を教えてください」
「すみません、犯人の名がゾアムということ以外詳しい素性は分からないんです。この男はグリシャム様から素性を詮索せず指定された高条件で雇えと指示され押し付けられた連中の1人だったので」
「あ〜なるほど。グリシャムは最初からあなたを殺すつもりだったな。て、ちょっと待てよ。もしかしてグリシャムから雇うよう指示された連中がこれをやった犯人以外にもいるんですか?」
「そうです。ここの警備の半分は父の代から贔屓にしている傭兵団から出向してもらっていますが、残りの半分はグリシャム様が送り込んできた連中です」
それは想定外だった。
実行犯が一人だけならもうこの辺りから逃げ出しているだろうが、他にも仲間がいるならより完全な証拠隠滅のために外で待機している鉱夫達も皆殺しにして口を封じる可能性がある。
慌てて坑道の外へ気配探知を広げてみると、獣人やドワーフ達全員の気配を感じ取れた。
他の鉱夫の気配の数も減っていないみたいだが獣人やドワーフ達と一か所に集められていて、そんな彼らを取り囲んでいる気配が幾つもある。
恐らくこいつらがグリシャムの息のかかった連中だろう。
ただ単に口封じをするだけなら見つけ次第に始末した方が手間がかからない筈だし、わざわざ鉱夫達を1か所に集めたのには何か訳があるんだろう。
気配だけだとその訳までは分からないし状況もあまり良くないが、取り囲んでいる連中がすぐに鉱夫達を殺そうという感じでもない。
勿論危なくなれば飛び出して行って助けるんだが、今の状況が続いている間は相手の正確な数とその狙いを確かめるのを優先しよう。
まずはないと思うがこれがジアトルの命令じゃないのを確かめておこう。
「その連中、どうやら外の鉱夫達を1か所に集めているみたいですけど、ジアトルさんは何か指示を出してきましたか?」
「いえ、私が戻るまで警備は全員宿舎で待機しておくように命じてきました。しかしこの状況で外の様子がお分かりになるんですね。私にはピンとこなかったのですが、あなた達が皆凄腕だという皆の話に嘘はなかったみたいですね」
「まあ普段は力を押さえてるんで分からないのも仕方ないですけど、もしかして俺達全員が土系統の魔術や精霊術が使えるってのも信じてませんでした?」
「正直に言わせて頂くとその通りです。私に自分達を過大に評価させるため能力を誇張して言ってるんだと思ってました」
「信じてもらえなかったのはちょっと残念ですけど、俺の言葉が嘘じゃなかったとこれから実証してみせますよ。だからここの空気がなくなる前に外へ出られるのは保証します。でも外の状況を考えると間違いなく一戦することになると思います。外に残った警備の内でどれくらいの奴らにグリシャムの息がかかっていますかね」
「外に残った警備のほとんどにグリシャム様の息がかかっていると考えてもらって間違いありせん。2名だけ傭兵団からの出向してきている者に外から手出しができないほどの非常が起こったら王都へ連絡してもらうために残ってもらいましたが、その他は全てグリシャム様の指示で雇った者達ですね」
その2名は最低でも拘束されていて、最悪もう殺されているかもしれないな。
となると外で武装している奴は全員グリシャムの息が掛かっていると考えてよさそうだ。
その連中は俺達も坑道にいるのを承知で出入り口を爆破してきたんだ。
売られた喧嘩にはきっちりと落とし前を付けてもらうとしよう。
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