#133 後始末した、王都 5
2〜3分程鉱石の選別場や他の宿舎の間を歩き、あそこだと指差されたダンジー達の宿舎は外からだと掘っ立て小屋に毛が生えたくらいに見えた。
それでも中に入ってみるとドワーフ達がちゃんと手を入れたみたいで、きちんと雨風を防げてある程度は快適に暮らせているようだ。
当然ダンジーがさっき言った通り中には誰もいない。
ここにただ待っているのも暇なんでみんなには夕方まで自由行動を許可して、俺は周囲の確認を兼ねてこの辺りに占有領域を作れるか調べに近くを歩いてみる事にした。
勿論掘り出した鉱石の集積場や坑道の入り口は遠目から眺めるだけに止めて、自分から俺の護衛についてくれたガディと周囲に広がる森へ入ってみた。
生えている木々を間近に見たり触ってみてもここに来るまでによく見たものと同じで、それ程旺盛に茂っているという訳でもない。
それに魔物の気配もほとんどしないんで、配下の眷属達が楔を経由してこの辺りに出入りすると悪目立ちしそうだ
加えて似たような森なら探せばもっと王都の近くにありそうなんで、無理にこの周辺へ占有領域を置く必要はないな。
それでも2〜3日は滞在する事になるだろうから地形を把握しておくのはもしもの場合に備えて重要なんで、坑道周囲の森を1周して地形を覚えておいた。
そうしている間に日が暮れてきてダンジー達の宿舎へ戻ってみると埃を全身に被り泥だらけになったドワーフや獣人達が坑道から出てきていた。
あのままの彼等と身近に接すればこっちも汚れるし、喜んでも貰えるだろうから俺やみんなの魔術や精霊術で順番に泥や汚れを落としてき乾かす事まできちんとやった。
一部の獣人やドワーフ達は水が苦手だったようでちょっと顔をしかめていたが、大多数の獣人達はきれい好きで大いに感謝してくれスムーズにお互いの自己紹介が進んだ。
丁度夕食時だったこともあり移動中に補給した食料や水を俺達から振舞って、皆で食事をしながらお互いの近況なんかを話し合った。
終始和やかなムードで会食は進んで行って、大体皆の食事の手が止まった所で本題である移住の話へ移っていく。
しっかりと最後までヴォ―ガイの説明を聞いてくれた後で、ダンジー以外の鉱夫をしている者達を代表するようにゼペットと名乗ってくれた長老格のドワーフが口を開いた。
「良い時に良い話を持ってきてくれたの。その移住話有り難く受けさせてもらうとしよう」
そんなゼペットの言葉に続いて他の鉱夫をしている獣人やドワーフ達も迷いなく同意を示して頷いたんでちょっと驚いた。
「意外だな。正直な所結論が出るのにもっと時間が掛かるんじゃないかと思ってた」
「ふむ。確かリク殿だったか。どうしてそう考えたのかの?」
「いや、あんた達ドワーフや獣人が結構義理堅いのは知ってるからな。飢え死にしそうな所であのジアトルって人にここの鉱夫の仕事を斡旋してもらったんだろ。だからその恩義を返すまではそう簡単にここの仕事を辞められないかもって思ってたんだよ」
「なるほどの。確かに普段の儂らならそう考えると思うが、今回は特別な事情があるんじゃよ。これはまだジアトル殿にも報告しておらんのだが、実は言うとここの鉱脈は枯渇しておって、もうまともに加工の出来ん屑石しかとれん。まあ儂らドワーフはここの坑道で働き始めた当初から薄々そう感じておったんじゃが、今日の作業でそれが確信できた。坑道へ入っておった者達にはそれをもう伝えておって、恩義のあるジアトル殿がこれ以上の損をせんよう明日にでも閉山を勧めるつもりじゃった。後は儂らの次の仕事をどうするかが心配だったんじゃが、本当に良い時に良い話を持ってきてくれて感謝しておるよ」
ゼペットの表情や口振りから嘘は無さそうだし、そう言う事情なら納得できる。
それにしてもここの鉱山に先がないというんなら、責任者のジアトルや実際に鉱石を掘っていたゼペット達には悪いが俺にとってはここに利用価値が出てくる。
人が出入りしなくなる坑道なんて楔を隠しておくには絶好の場所だからだ。
となれば何とかこの話に一枚噛んで一回でいいから坑道の中へ合法的に入り、転移門で出入り出来るようにしておきたい。
「いや、こっちも人手が増えればありがたいんでお互い様だよ。でも鉱山を閉めるとなればデカい損の出る話だ。俺はあのジアトルって人の事をよく知ら良いが、大金が絡む話だし無理難題を押し付けてきたり手荒な事をしてくる可能性もゼロじゃないだろう。念の為俺達も明日の話し合いに立ち会おうか?」
「そうじゃの、そうしてくれると有り難い。よろしくお願いする」
頭を下げてくるゼペット達へ頷き返し移住の話は一旦ここまでにして、格納領域に保存してあった酒を追加して振舞って全員宿舎で雑魚寝をした。
開けて翌朝皆にはそのまま宿舎で待機してもらい、俺とゼペットの二人でジアトルの宿舎を訪ねた。
対応に出てきた警備にジアトルとの面会希望を伝えに行ってもらう。
数分と経たずに戻ってきた警備は面会の許可が出たと宿舎の中へ案内してくれ、執務室と表札が掛かっている部屋へ通された。
その中でジアトルが使っているという執務机の前で待っているとしばらくして入ってきたその人が俺達と向かい合うようにその机について口を開いた。
「おはようございます、ゼペットさん。何か重要な話があるそうですね。お聞きしましょう」
「うむ、ジアトル殿。回りくどいのは苦手なので単刀直入に言わせてもらう。ここの鉱山ではもう儲けが出るような鉱石は掘り出せん。出来るだけ早く手を引くことをお勧めする」
ゼペットがそう切り出すと柔和だったジアトルの表情が一瞬で険しくなった。
「穏やかな話じゃありませんね。まずはそう判断した理由を詳しく教えてください」
「当然じゃな。では現状から話していこうかの」
1つ頷いて話し始めたゼペットの説明は俺にとっては難しかったんだが、ジアトルはきちんと理解できているようで話が終わるころには険しかった表情がますます険しくなっていった。
「話の筋は通っていますね。ですが、はいそうですかとここの閉める訳にはいきません。もっと現状を詳細に把握したいですし、商会へ報告を上げて話し合いを持たないといけませんから」
「あ〜横から口を挟ませてもらうが、だったらまずジアトルさん、あなた自身がゼペットさん達と坑道へ入って直に現状を確認してみたらどうだ。鉱石や鉱脈の目利きが出来ないって訳じゃないんだろう?」
「・・・ええ、ここを任されると決まった時に最低限の事は身に着けましたし、確かな筋で紹介された鉱山技師も雇っています。そうですね、確かにあなたの言う通りだ。これから坑道へ入る準備をします。ゼペットさん達も急いで準備をしてください。坑道の入り口前で合流して一緒に中に入りましょう」
「それだったら俺達が一緒に行くのも許可してくれないか?俺の仲間達は全員土系統の魔術や精霊術を身に着けてるから、もし崩落が起きたりしても全員無事に外へ連れ出せる」
「別に言葉を選ぶ必要はありませんよ、ゼペットさん達の護衛がしたいと訳ですね。いいでしょう。大きな額のお金が絡む話ですし許可します。なのであなたも急いで準備してきてください」
そう言い終わると同時にジアトルは椅子から立ち上がって足早に執務室を出て行き、それを見送った俺とゼペットも準備のため急いでジアトル宿舎を後にした。
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