#13 追いかけた、外輪山 2
何が上空を通ったのかと上を見上げると、翼の両端の長さが10m以上ありそうな巨鳥が旋回していた。
溶岩湖周辺に出て来るようになって2カ月経つが、一度も姿を見たことが無い奴なので様子を見上げているとドグラが警戒の念話を飛ばしてきた。
(頭、アイツは危険だ。頭の子分になる前、取り巻きが増えてきたらいつも急に現れてそいつらを一掃していくんだ。横穴に逃げこめばそれ以上手出ししてこなかったから、俺達も隠れようぜ。)
巨鳥を見上げたままドグラの念話から聞き、俺が判断を下す前に向こうが動いた。
急に俺達へ向かって降下を始めると口を大きく開き口内に魔力を集中させていく。
「迎撃!」
攻撃と気づきとっさに出した俺の指示に皆素早く反応してくれ俺も含めて迎撃に移るが、巨鳥のほうが早く見えない魔力の塊を俺達に吐き出してきた。
恐らく風系統だろう攻撃にダメージを覚悟するが、俺の指示より先に反応してくれていたバルバスが魔力を纏わせた槍でその攻撃を迎え撃ってくれる。
風の塊と槍の薙ぎ払いが激突し俺達の周囲に猛烈な風が吹き荒れるが、皆ダメージを受けずに済んだようで今度はこちらから仕掛ける。
俺とガディは火魔術でドグラとタイミングを合わせて火炎弾を撃ち込み、ダルクは榴弾を連続で撃ち出した。
三つの火炎弾は巨鳥の羽ばたきで吹き散らさせてしまうが、榴弾が幾つも至近で爆発し巨鳥は姿勢を崩す。
その隙を見逃さずバルバスが溶岩の槍による投槍を放ち片方の翼を傷付けるが、それでも巨鳥は姿勢を立て直しダルクの榴弾に追い立てられるように逃げていった。
射程一杯まで砲撃を続けてくれたダルクを労って皆に傷が大きな無い事を確かめると、楔の元へ引き上げる。
今日は眷属が揃っていたお蔭で殆ど被害なく追い払えたが、個別行動中にあの巨鳥に襲われたら被害が出るだろうから対策が必要だ。
眷属達が周りを固めてくれているので、まずはあの鳥について何か記載が無いかリンからの情報にもう一度目を通していく。
すると要注意個体の情報にこの火山の外輪山の一つに鳥型幻獣の巣があると記載があった。
この情報の幻獣が襲ってきた奴とは限らないが、可能性は高いだろう。
もし違っても空を飛べる奴を眷属に引き入れることが出来れば、対策になるだけじゃなく他にもいろいろ役に立つだろう。
空を飛ぶやつを追いかけまわしても徒労に終わるだけだろうから、情報にある巣へ乗り込んで行って待ち伏せしよう。
リンからの情報にあった地図情報を元に幻獣の巣への移動ルートを選定していった。
楔の元まで戻ってくると、眷属達にこれからの行動を説明する。
「皆聞いてくれ。あの鳥かどうかは分からないが、近くに飛行する幻獣の巣があるという情報があるんで、洞窟を出てそこへ行ってみようと思う。バルバス、ガディ、ダルク、ギャルドはついてきてくれ。グリアとドグラは交替で楔の警備と魔物の掃討を頼む。それと湧き出す魔物の強化は、返って来るまで保留にしよう。」
(頭、俺も火が吐けるどうして連れってくれないんだ。)
ドグラが不満そうに念話を送って来るので、つれて行かない訳をきちんと話しておこう。
「お前の体がデカい事は長所なんだが、同時に目立ちやすい。今回は周りに気付かれないよう移動したいからお前は不向きなんだ。体がデカい事じゃダルクも同じだが、能力的に外せないしグリアの他にもう1名残って欲しいから今回は聞き分けてくれ。」
(わかりやした、頭)
多少ドグラに元気がなくなったが納得してくれたようだ。
眷属のみんなには必要ないが、水や携帯食料を楔から実体化して格納しながら移動ルートの説明をする。
「目的地はこの火山の外輪山の一つなんだが、洞窟の出口から最短の移動経路上には獣人の里があるから、大きく迂回していく予定だ。具体的には一旦麓の森まで下りてその中を外輪山の麓まで行くつもりだ。地図を描くとこうなる。夕方この洞窟を出発して夜中はずっと移動し、1日じゃ着かないだろうから昼間は魔術で地面に穴をあけてそこに隠れてやり過ごそう。もし魔物以外に見つかったらその時どうするか考えよう。」
話が終わってもリンから貰った地図情報を地面に書き起こしていき、移動ルートまで書き入れるとバルバスから質問が来た。
(この地図は、誰に教わったのですかな?)
「俺が自我を得て直ぐ、小人みたいなのが目の前に現れてな。そいつが役に立てろってくれた情報の一つだ。他の確認が取れた情報に悪意のある嘘は無かったから、これも信用していいと思う。」
バルバスが納得したように頷いてくれ、ガディ達にも異存はないようだ。
俺用の水と食料の格納も終わったので、グリアとダルクへもう一度防衛を頼んで俺達は出発した。
ハックの元まで移動し外が十分暗くなるのを待って、ハックにも頼むと声を掛けて洞窟を出た。
周りが岩場で隠れる場所の少ない洞窟の出入り口周辺は一気に移動し、森に入ってからは周囲を警戒しながら進んで行った。
流石に元勇者のバルバスは警戒も上手く、森の中で度々遭遇した物語によく出て来て看破眼でも確認できたゴブリンやオークを、相手に気付かれずにいち早く発見してくれた。
おかげでほとんど騒がれずに、ゴブリンやオーク達を遠距離攻撃や死角からの奇襲で仕留められた。
俺の体感で大体夜半を過ぎた頃、一番警戒範囲が広いので先頭を進んでくれていたバルバスの手を上がった。
何かに気付いた合図なので確認のための念話を送る。
(今度は何がいた、バルバス。)
(人の気配です、リク様。恐らく話に出て来た獣人の里の住人でしょうな。ただこんな真夜中に一人で森の中を駆けているのは、かなり不自然ですぞ。どうされますか?)
(どこにいる?)
(あそこを駆けていますぞ。)
バルバスが指さす方向へ視線を向けると、額に小さな角が2つあり毛で覆われた長い耳をしている体型から判断すると女性が、走って俺達のはるか先を横切っている。
普通の人間ではないと分かるがどの種族かは分からないので看破眼を発動して見ると、今の姿が透け顔の部分におぼろげな別の輪郭が重なって見えた。
ここは俺の占有領域ではないのでこれ以上詳しい事は分からないが、今の姿は何かで偽っているのだろう。
姿を偽っている方法と理由が知りたいが、俺や俺が作った眷属達に尾行は無理だろう。
ダメ元でバルバスはどうか聞いておこう。
(バルバス、尾行や監視は得意か?)
(残念ながら、全くダメですな。もしかしてあの獣人に何かありますかな?)
(ああ、調べてみたいが仕方ない、ここに潜んであの獣人はこのまま見送ろう)
(そういう事なら打って付けの者達がおりますぞ。)
どういう意味かバルバスへ視線を戻すと、いつの間にか周囲に3体のフレイムファントムが浮いていた。
(そいつらは何だ?)
(この者達は、洞窟の掃討中偶然見つけた隠行に特化した者達でしてな、リク様の目や耳として必ず役に立つと思いわたしが独断で支配下に置いたのです。今回の遠出でも役に立つ場面があるかと思い、念の為連れてきておりました。試しに使ってみて頂けませんかな。後勝手をしたことをお詫びしますぞ。)
そう念話を送って来てバルバスはゆっくり頭を下げた。
情報収集役は絶対に必要なのでバルバスは本当にいい仕事をしてくれた。
ここは下手に礼を言わず黙ってこいつ等を使うのが最大の賛辞になるだろう。
(そいつらはどういう扱いにすればいい?俺の眷属にするか?それともこのままバルバスの配下にしておくか?)
(リク様の眷属となり直に命令を頂けば、この者達の励みとなりましょう。)
(そっか。後こいつ等に名前をつけてあるか?)
(個別にはつけておりませんが、纏めてシャドウフレイムと呼んでおりますな。)
バルバスに頷いてシャドウフレイム達に魔力を通して眷属化し念話で指示を出す。
(あの獣人を尾行してどんな行動を取ったか報告してくれ。後誰かに会って話をしたらその内容も伝えてくれ。)
一拍おいて行ってくれと命じるとシャドウフレイム達は、とけるように消えた。
(あの獣人が完全に離れたら移動を再開しよう。)
俺の言葉に全員頷いてくれ遠ざかっていく獣人の背中を見送った。
お読み頂き有難う御座います。