#124 引き入れた、王都までの道 9
そのアビリティ転移門は空間を歪めて離れた2か所を結び、瞬時の移動を双方向で可能にする門を作りだせるというものだ。
便利な能力だけど使用には条件があって、門を繋げる先の周囲地形を知っている必要あり今の俺の魔力だと大体40キロくらい先までしか門を繋げられない。
ここまでは移動できる距離以外に元となった腕輪の機能とそう変わらないんだが、アビリティ地脈炉をリンクさせるともう一つ出来る事が増える。
それが何かというと門を繋げる先を俺の占有領域に設定した場合に限り、彼我の距離に関係なく転移門をつなげられるようになる。
これらの能力は確実に使えると移動中のステータスの確認で確かめてはいるけど、まだ実際には使ってみてはいないんで一応安全か俺が試そう。
それで本当に問題がないと確認してから、楔の転移の代わりにこの転移門で希望者を廃砦へ送ってやればいいだろう。
となればすぐにこの能力を使って問題ないのを確かめたら、さっさとザイオの要望通りに見学の希望者を送り出すとしよう。
「話は分かった。ザイオが思ってる方法とは違うが、別の俺の力で見学したいって奴をあの砦まで送ってやるよ。流石にここの全員って訳にはいかないが、10人位なら大丈夫だろうから希望者を選んでくれ」
そんな俺の答えにザイオはいぶかし気な表情を浮かべるがしっかり頷いて人選を始めてくれたんで、俺も立ち上がって車座から離れ少し開けた場所に転移門を開いてみた。
俺の魔力で空間が歪んでいき光を通さず黒く渦を巻く球形をした転移門が現れた。
一応もしもの場合に備え体を欠損しても回復しやすい精霊石体に体を換装し、まずは片手を転移門の中へ差し入れてみた。
そのまま手を動かしてみても感覚がなくなったり、球体の境界面で腕が切断されたりはしなかったんで今度は顔を突っ込んみる。
転移門の境界面を通り過ぎると周囲の景色が一瞬で廃砦の中庭に切り替わったんで、ちゃんと設定した通りに空間がつながったみたいだ。
それは良かったんだが、いきなり現れただろう転移門を警戒して獣人やエルフ達が距離を取ってこっちの様子を探っていた。
どうやら俺の実験でびっくりさせたみたいなんで周囲にいる面々へ謝っておく。
ついでにこれからこの門を使って故郷の連中を何人か連れてくる事を砦にいる他の住人達へ知らせてもらった。
ただ合わせて楔の事はまだ絶対に見学者へは明かさないよう釘も刺しておいた。
そんな風に俺が転移門の確認をしている間に見学者の選抜も終わったみたいで、転移門から顔を出したらザイオを先頭に10名ほどが俺の周りで待っていた。
見学者達の準備もできているようなんで勿体ぶらずにさっさと廃砦へ移動してもらおう。
けどその前に帰りでもたつかないよう1時間ほどしたらもう一度同じ場所へ門を開くんで、それまでに最初に出た場所へ集まっておくよう言い含めておく。
ここで俺を欺くことはないと思うが、一応ヴォ―ガイ達を付き添い兼監視役として見学希望者達を砦へ送り出し一旦転移門を閉じた。
これで見学者達が戻ってくるまで少し暇になるかと思ったんだが、今度はヘムレオンが話しかけてきた。
「リク殿、申し訳ありませんが見学者達が戻ってくるまでの間我らエルフに力を貸して頂けませんか?」
「別に構わないが、さっきの話以外で俺が役に立てるのか?」
「それは勿論です。お願いできますか?」
「分かった。取りあえず俺に何をさせたいのか言ってみてくれ」
「ではリク殿にお力を貸して頂きたいのはあの木についてです」
そう言ってヘムレオンが視線を向ける先には、里の中心に立っているかなり強い精霊の力を帯びる大木がある。
「あの木は丁度霊気泉の真上に立っており、そのせいか中には中位以上の強力な精霊を宿しています。我らエルフの多くは精霊を友としているので、あの大木の中の精霊をここに残していく事に難色を示して移住を渋っている者が少なからずいるのです」
「待った。そういう事なら難しい話じゃないだろう。例えばエルフの誰かがその精霊と契約して連れて行けばいいんじゃないのか?」
「確かにその通りなのですが、お恥ずかしい話多少の力は借りられてもあの精霊と契約できるほどの力量がある精霊使いが今ここで暮らすエルフ族の中にいないのです。そこで精霊石の体を持つリク殿ならあの精霊も契約してここから移せるのではと思うのです。それにあの精霊の力を借りて集落の周辺から魔物を追い払っているので、それがここから移るとなれば移住に難色を示す者はほとんどいなくなるでしょう」
「なるほど。話は良く分かった。そういう話なら絶対に成功させるとは約束できないけど契約できるか試してみよう。一応始める前にエルフ達に今の話を周知して異論はないか確認してくれ」
「その必要はありません。精霊との契約は対象の精霊と精霊使いの間でのものであり、その精霊が認めるなら他人が口を挟めるものではないからです。それでも拒みたいと願うなら先に自分の力でその精霊と契約すればいいだけなのですから、それができない以上文句を言う資格はないんです。なのですぐに始めて頂いて構いません」
最後のヘムレオンの話は俺の感覚的にちょっと釈然としないが頷き返してはおいた。
さて、やると決めた以上はさっさと済ませてしまおう。
となるとこれまで精霊とは溶融同化で体内に取り込んで契約してきたんが、ここでそれをやるのは見た目的にちょっとまずいな。
溶融同化は精霊石体で色々試してみて、もしダメな時の最後の手段だな。
転移門の検証ため体は精霊石体に換装しているんで、このまま大木の根元へ近づいた。
まずは幹に触れて溶融同化で取り込んだ時のように中の精霊の気配に収集してみたら、あっさりケルブ達と契約した時のように応答が帰ってきた。
契約してくれか問いかけると十分なポイントをくれるならいいという感じなんで、どれ位欲しいのか再度問い返したら呻き声が出そうになるほどの結構な量を提示される。
即答を躊躇う量だったんだがさっき集落の外で魔物を狩って得たポイントを使えばなんとか賄えそうなんで、大木を通して提示された量のポイントを精霊に流し込んで行く。
それが終わると今度は精霊が大木の中から俺の体の中へ移ってきて契約が無事に終了した。
精霊が俺の中に移ったんで何か大木に変化がないか確かめみたら、外観に変わりないが纏っていた精霊の気配はほとんど消えてしまっていった。
流石にエルフ達は精霊の気配に敏感みたいで、夜にも関わらずこの変化にすぐ気づいて大木の周りへ集まり始める。
ヘムレオンは大丈夫だと言っていたがそれでも無用の諍いや混乱が起きるのは嫌なんで、俺が契約に成功こと証明するため今体内に取り込んだ精霊を少し開けた場所へ召喚してみた。
近くにある大木とほぼ同じ大きさで木に手足を付けたような少し歪な巨人が現れて俺に一礼してくれる。
その姿に集まり始めていたエルフ達は一様に驚きの表情を浮かべた。
けれどそこからの反応は早く一斉に散って他のエルフ達へ今見た事を伝え、自分たちのツリーハウスに引き上げ荷物を纏めて移住の準備を始めたみたいだ。
そんなエルフ達の様子を横目に俺は他の精霊と同じくこの木の巨人にも名前を付けることにした。
ただしっくりくるオリジナルな名前がなかなか思い浮かばなかったんで、安直だがユグドと名付けた。
樹巨人の精霊も一応嫌わず受け入れてくれたんで、これで今度こそここで俺のやることは終わったと思ったんだがまたザイオが俺に近づいてきた。
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今週の投稿はこの1本です。




