#12 追いかけた、外輪山 1
マグマを穂先に纏う高速の槍撃を、魔力を纏わせた刀で撃ち落とす。
槍を受け流し今度はこちらから踏み込んで切り掛かるが、素早く引き戻された槍で受け止められてしまう。
単純な筋力はこちらが上なので刀を押し込んでみるが、上手く間合いを使われて力をそらされその隙に弾き飛ばされてしまい、またバルバスと間合いが開いた。
今のような打ち合いを数十合続けてきた所為で、体力は何ともないが精神的な疲労が貯まって来た。
気持ちを立て直す為正眼の構えを取り意識を集中していく。
自然と刀が纏う魔力が増も増えていき、バルバスも突きから払いへ構えを変え槍に纏わせる魔力を上げた。
ただ振り切る事だけを考えてこちらから間合いを詰めると、刀と槍が激突しお互い数m弾き飛ばされてしまう。
バランスを崩す事無く着地し構えを取り直そうとするが、ほどけるように集中が切れていくのを実感できた。
構えを取る事で再度集中し直そうとしたが、バルバスが槍の石突でドンと地面を叩いた。
(今日はここまでとしましょう。リク様。)
バルバスは見ただけで俺の集中が切れたと分かったんだろう。
注意力散漫で稽古を続けても意味がないという事で今の念話送って来たんだろうな。
「分かった。今日もありがとう、バルバス。まだガディ達が魔物掃討の巡回をしてるはずだから、俺達は溶岩湖にでも入って休んで待ってよう。」
(おお、それはいいですな。そういう事ならあの酒も一緒に飲ませて頂いてもよろしいですかな?)
「大吟醸か。いいよ、楔によってから山頂へ向かおう。」
立てかけておいた鞘を手に取り刀を納めると、バルバスへの制限のため稽古に使った洞窟の比較的狭い部屋からバルバスを連れて出た。
どうして溶岩湖に入る事が休む事になるかというと、前に溶岩湖周辺でバルバス対俺や眷属達という模擬戦をした時、俺がバスバスに溶岩湖へ吹き飛ばされてしまう事があった。
俺の対炎熱防御を知っているから取ったバルバスの行動で、実際俺に溶岩湖へ落ちた事でのダメージは無く、かえって今の俺には溶岩が丁度お湯のように感じると気付かせてくれた。
転生してから風呂に入れないでいた事が不満だったので、風呂の代わりに溶岩湖へ俺が入るようになると、マグマの体を持つ眷属達も続いて溶岩湖へは入るようになった。
バルバスと一緒に溶岩湖へ入っている時試しに日本酒を実体化して飲ませてみたら、いたく気に入り溶岩風呂と日本酒がバルバスのお気に入りの組み合わせになった。
ギャルドが守ってくれていた楔の部屋で、魔力をポイント化してそれを対価に日本酒を一升瓶ごと楔で実体化しそのままバルバス渡す。
楔の部屋から山頂までの洞窟は、ガディ達が魔物を綺麗に掃除してくれたようで戦闘なく溶岩湖まで出られた。
溶岩湖へ入る眷属達と整備した浅瀬に座り首まで溶岩に浸かると、精神的疲労が蒸発するように体から消えていく。
バルバスも俺の隣に座ると、人間だと口に部分に一升瓶の口を押し当て一気に中の日本酒を3分の1ほどあおった。
(やはり鍛練後の溶岩風呂に日本酒は素晴らしいですな。それにこの2か月でリク様も随分腕をあげられた。)
「バルバスはそう言ってくれるが、自分では最近強くなってる実感が薄いんだよ。今日も俺は刀術や体術に加えて魔纏術のスキルも使ってたのに、バルバスには槍を保護する魔力しか使わせる事が出来なかった。」
(ほう、お気づきでしたか。)
「まあね、一月位前にスキルの取得を終えてよく使い始めて気付いたんだけど、スキルの使用には生命力か魔力を消費するよな。なのに今日のバルバスは稽古中生命力に変動は無かったし、魔力の消費も槍の防御分だけだったからな。」
(それをお気づきになるという事が進歩なのですぞ、リク様。普通の人間が一つスキルを身につけるには半年近くかかりますし、今のリク様の域に達するには数年を要します。凄い速さで進歩しておられますぞ。)
「そうなら多少は自信を持っていいのかな。でもあの竜の遺体を取り込めるようになるには、まだまだかかりそうだ。」
(あの邪竜は世界でも屈指の個体で、深手を負っていてさえ我らは全滅しかけましたからな。遺体とはいえそれを捻じ伏せるのは簡単ではありませんぞ。それに遺体はリク様の格納領域に納めて保全は済んでいるのです、焦らず挑むのが肝要ですぞ。)
「確かに。格納領域に納めておけばあれ以上劣化しないから、じっくり挑むよ。」
バルバスはゆっくり頷いてくれて一升瓶をあおった。
あの邪竜の遺体を格納領域に納めることが出来たのは、ダメ元で試したみた結果だ。
バルバスとの訓練の間にやったアビリティの確認作業で、格納領域もすぐに大体の能力を把握できた。
人間大の大きさのものならこの体が作る空間に出し入れ可能で、格納量も普通の体育館サイズくらいあり、出し入れできる物のサイズ、格納量、共にレベルの上昇で拡大すると分かった。
この格納量なら小分けにすれば竜の遺体を納められると思い、試しに一回だけ丸ごと格納領域に納めようとするとポイントを消費するかと声が頭に響いた。
アビリティの反応した所を詳しく確認してみると、占有領域の中ならどんな大きさの物でも出し入れ毎に大きさに応じたポイントを消費すれば格納可能だった。
ただ楔が地脈内に作る特殊空間が収納場所になるようで、楔を壊されたり引き抜かれたりしたら格納した物を失うので楔の防御がより重要になった。
コンというバルバスが空の一升瓶を地面に置く音で回想やめ目を開くと、丁度ガディ、ダルクの組とドグラ、グリアの組が占有領域の巡回を追えて俺へ報告しに来てくれた。
(主、担当区画の今日の掃討を終了しました。)
(頭、俺達も終わらせてきたぜ。)
「二組ともご苦労さん。俺達のようにここに入ってもいいし、楔から何か実体化して食ってもいい、好きに休んでくれ。」
いつものように眷属のみんなを労うが、今日は散らばっていかず全員を代表するようにガディが一歩前に出た。
(主、お願いがあります。もし御出来になるなら湧いてくる魔物を強くしていただけませんか?」
「レベルを上げたお蔭で地脈炉の性能も上がって可能になってるけど、強くしてほしいのは何でだ?」
(今の巡回中に起こる魔物との戦闘が、あまりにも作業のようなのでもう少し手応えが欲しいのです。)
「なるほど、確かに俺もそれは少し感じてた。他のみんなも同じ考えか?」
俺からの問掛けに眷属達は皆頷き返してきた。
「決まりだな。バルバス、どのくらいの強さにすればいいと思う?」
(今はどれ位でどのように変更出来るのですかな?)
「今はレベルで言うと1から3位だな、次が4から6位、その次が7から9位になるな。」
(でしたら4から6位をまず試してはどうですかな。不十分ならまた強化すればよいでしょう。)
「確かにそうだな。じゃあ、楔を操作しに行こう。」
俺が溶岩湖から出るとバルバスも続いてくれ、洞窟の入口へ一歩踏み出すと急に大きな影が俺達を覆った。
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