#108 儲かった、海路 13
一応海賊達が完全に牢へ収監されるまで立ち会うのが筋だと思うが、よそ者が詰め所の中をウロウロしていたら第一警備隊の騎士達もいい気がしないだろう。
だから詰め所の入り口あたりで建物へ押し込まれていく海賊達を見ていると、ほぼ全員が見えなくなった頃ランバルトさんが一人の男を連れてやってきた。
「ここに居ったか、リク殿。紹介しよう。この者が今回リク殿につける同行者で、普段は儂の下で情報を集めさせておるベイトという」
そう紹介されたランバルトさんの斜め後ろに控えている男はこの街でよく見る服装をして特徴のない顔つきをしており丁寧に頭を下げてきた。
「ベイトと言います。魔人を討ったというリクさん達の足手纏いとならぬよう務めを果たさせていただきます。どうぞよろしくお願いします」
「こっちこそよろしく頼む。持ち上げてくれてありがたいが、もし俺達が後でつけ入られそうな行動を取ろうとしたら遠慮なく意見してほしい」
隔意が無いことを示すため俺から手を出して握手もしておいた。
「さて、儂は策の結果が出るまで海賊達の口を塞がれぬようマグガムを牽制する為ここに詰めるつもりじゃが、リク殿達はこれからどうする?」
「俺達は一旦ギラン商会に戻って海賊の収監を無事終えたとエクトールさんへ報告してきます。その後は今日中にベドール商会と対立しているという件の商会へ交渉をしに行ってみようと思っています」
「了解した。ついでにエクトールへ契約書を出来るだけ早く持ってくるよう伝えてくれ。リク殿はこれからも矢面に立つのだろうから武運の祈らせてもらう」
「ありがとうございます。では、今日はこれで失礼しますが、次回お会いする時には吉報をお伝えしたいですね」
ニヤっと笑って頷くランバルトさんに一礼して第一警備隊の詰め所を後にした。
ベイト氏を連れてギラン商会へ向かうがそういえばまだ昼食を取ってなかったな。
昼はだいぶ過ぎているがちょうど行く道に屋台がいくつか出ていたんで、ベイト氏に断りを入れ適当に食事を調達して腹に収めておいた。
手早く昼食を終えた後はまっすぐギラン商会へ戻り、店先にいた従業員も俺の顔をきちんと覚えてくれていたみたいでまっすぐエクトールさんがいる部屋へ案内される。
複数の従業員を集めてエクトールさんは指示を出していたが、俺の顔を見ると人払いをして向き合ってくれた。
「お戻りになられましたね、リクさん。そのご様子だと海賊の連行は無事に終わったみたいですね?」
「ええ、問題なく第一警備隊の詰め所へほうり込めましたよ。まあ、移動中に結構野次馬が集まってきましたけど、これは俺達にとって悪くないことでしょ?」
「そうですね。ドゥルガス海賊団討伐の話が街に広がればそれだけでベドール商会も情報を集めようと躍起になるでしょうから、こちらの流す噂も連中に届きやすくなるでしょう。短期に決着をつけたい我々には有利な状況ですね。となるともう広げる予定の噂を流し始めた方がいいかもしれませんね」
確かにこの後アルトン伯爵の護衛に着く予定の俺達炎山にとっては短期決着が必須だし、それを促すエクトールさんの指示に異論はないんで頷き返した。
こっちもその考えに沿って動くと伝えておこう。
「じゃあ、俺もこの後すぐにこの話へ巻き込む予定のメリルレスト商会へ行って交渉を纏めてきますよ」
「お願いします。ただお出かけになる前にランバルト様と交わしておいた事にする契約書を書き上げてみたので内容に不満な点がないか目を通して確認していただけますか?」
「そういえばランバルト様もなるべく早く契約書を持って来いって言ってましたよ」
頷いて俺が返事をしている間に苦笑いを浮かべながら取り出した書類をエクトールさんが手渡してくれ、後で無意味に揉めないよう流し読みはせずきちんと目を通していく。
この契約には通常必ず発生するだろう前金の受け渡しがないわけで、それを無理やりねつ造せず変わりに無条件で出来る限りの便宜を図ると書いているのは後でこの契約に対するマグガムの疑念を減らす良い手だと思う。
勿論俺達にとって肝になる生け捕りにして引き渡した海賊達の資産を俺達が没収していいという条件もきちんと入っている。
他にも俺達が合法的にベドール商会の資産を差し押さえられるよう盗品を直接買い取っていた者も海賊の共犯者として同様に扱っていいという文言も入ってるようだし、特別不満な点はなかったんで内容を了承した。
契約書を返すとエクトールさんは急いでもう一枚書き上げて今日中にランバルトさんの確認を取りに行くそうで、代官館へ行って無駄足にならないようランバルトさんは第一警備隊の詰め所にいると伝えておいた。
俺も自分で言ったやるべきことを始めにエクトールさんの部屋を辞してギラン商会を出発した。
さて、これからベドール商会と敵対するメリルレスト商会へ行くわけだが、曲がりなりにも花街の一部を仕切る連中と交渉を持つ訳で場慣れした強面だけで行くべきだろう。
となるとコランタ商会からついて来てくれているティータとティーエにはドックの警備に回ってもらい、アグリスとアデルファにベイト氏と俺の4名で件の商会へ向かった。
ベイト氏がメリルレスト商会の場所を知っているそうなんで案内を頼み、日が傾き始めて人出が増えていく町中を進んでいく。
しばらく歩いていると街並みが変わっていき呑み屋や娼館が目につくようになり、どうやら花街に入ったようで人通りはさらに増えている。
ただ武器を持って鎧を着こんでいる俺達の場違いな格好おかげか、周りの連中は奇異な目線を向けてくるが距離を取ってくれるんで煩わされずに歩けた。
そうして花街の中を進んで行くとベイト氏があそこですと指さし、そこには風格はあるが多少寂れた感じもする石作りの建物があった。
当然もめ事を抱えている商会だけあって入り口には護衛が二人立ち番をしている。
俺達の格好からしてまず門前払いに合いそうだが、それでも後のことを考え一応義理を通すため護衛に話しかけた。
「すまない、確認したいんだがここはメリルレスト商会で間違いないよな?」
「だったら、何だっていうんだ」
俺達が近づくにつけ険しくなっていった護衛の表情がさらに険しくなったがここは構わず続けよう。
「ここの代表さんと会わせてほしいんだ。あんたたちにとってもおいしい話があるんで聞いてほしいだよ」
「お前ら何もんだ」
「ここだと誰が聞いてるか分からないから今名乗るのは勘弁してくれないか。もちろん代表さんにはきちんと挨拶をさせてもらう」
「話にならねぇな。とっとと失せろ」
一気に無表情になった護衛がその言葉通りに俺を突飛ばそうと腕を伸ばしてきたが、後ろからアデルファがその腕を捉え俺の前に出ながらねじり上げる。
それを見てもう1人の護衛が腰のナイフに手を掛けるが、次の瞬間にはアグリスが拳を叩き込んで意識を刈り取った。
まあ俺としての最低限の義理は通したし俺達の力を見せる意味合いもあるんでここからは少し強引に行こう。
そう二人へ伝える前に拘束していた護衛に敵襲と声を上げられてしまうが、即座にアデルファが拳を叩き込んで意識を刈り取ってくれた。
仕切り直す意味も込めて一つ息を吐き改めて声に出してベイト氏にもここからは強引に行くと伝え、後で弁償しろと言われないよう普通に扉を開けてメリルレスト商会に入った。
一応気絶させた二人の護衛も追いはぎにあったりしないよう建物の中に入れてやり、アデルファが先頭に立ち奥へ進んで行くんで任せてその後ろをついて行く。
見張りの上げた警告はちゃんと聞こえていたようで前後からナイフや短剣を手にした男達が向かってくるが、先頭と最後尾を守るアデルファにアグリスが拳の一撃で殺さず意識を刈り取ってくれ俺の出る幕はなかった。
どうやらアデルファは気配を頼りに大勢の人がいる場所を目指しているみたいで、5人以上が待ち構えていた応接室へ出て後続も部屋に入ってくる。
これは俺の出番もあるかなと思い気合を入れ直したが、相手の男達が仕掛けてこうようとした瞬間、
「待ちな!!」
と気合のこもった女性の声が部屋に響いた。
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今週の投稿はこの1本です。




