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#106 儲かった、海路 11



 執務机に移ったエクトールさんは自身の言葉の通りに5分ほどで面会の要請状を書き上げると使用人を呼び出してその手紙を届ける手配を命じ、ついでに予定の変更も指示して俺たちを促し部屋を出た。

 馬車はいつでも動かせるよう常に準備しているそうで、それに俺たちとエクトールさんやドックの管理担当候補に指名された従業員と一緒に乗り込んでギラン商会を出発した。

 ドックへの道は完全に覚えているんで俺が御者に指示を出したんだが、その御者は町の道をよく知っていて簡単なやり取りだけで正確に馬車を進めてくれる。

 迷うことなくドックに着くと見慣れないガディが入り口の警備に立っているんで何か異変があったのかと周りから少し注目されていが、そのガディが周囲に放つ威圧に気圧されて遠巻きに眺めるだけにと留まっていた。

 そんな状況のドックへ馬車を横付けしたんで俺たちやエクトールさんたちも注目されたが、気にせずガディに見張りの礼を言ってドックへ入っていった。

 詳しい内部の案内は後回しにして、まずドックの岸壁と確保している各船をエクトールさんへ見せると感嘆の声を上げてくれた。

「これは。襲って来たところを返り討ちにして拿捕したり、砂浜に打ち上げられていたのを回収したと聞いていたのでもう少し傷んでいるだろうと思っていたのですが、どの船も多少整備すればすぐに使えそうな状態ですね。ドックも戦闘があったとは思えないほど傷みがありませんし、これでほとんどの海賊達を生け捕りにしたというんだから巡り合わせとそれを生かせるリクさん達の実力は流石ですね」

 ドックを見回して最後に桟橋の一角に集めている海賊たちを一瞥したエクトールさんはそう言ってくれた。

 ドゥルガス海賊団の襲撃や2隻の船の回収は、要因がはっきりしていてほとんど必然なんだがここは話を合わせて運が良かった事にしておこう。

「ついてただけですよ。それで外観を一瞥しただけですけど、護衛が終わって戻ってくるまでの間ここの管理をできそうですかね?」

「ええ、大丈夫だと思いますよ。今は大雑把に止められている船をきちんと係留し、スペースを確保して船の修理や荷揚げに貸し出せば管理費くらいは楽に稼げそうですから、安心してお任せください」

 自信あり気な表情でエクトールさんは頷いてくれたんで、本当に大丈夫そうだ。

 それからは一応制圧してあるがエクトールさん達の安全に配慮し俺たちがついてドック内の他の場所を案内していく。

 倉庫や詰める人間が暮らす場所に金庫や隠し部屋といった所も見てもらった。

 一通りドック内を見学した後は連れてきていた担当候補の従業員へここに残って具体的な管理計画作りを任せて俺たちとエクトールさんはドックを引き上げた。


 ギラン商会のパルネイラ支店へ戻ってくると代官館からもう面会許可が返ってきたみたいでそのまま代官館へ向かう。

 街の規模に相応した中々の人手が行きかう通りを街の中心部へ向かって進み、馬車が止まった代官館は華美ではないが重厚感のある屋敷だった。

 馬車を降りて門衛に声をかけると話がちゃんと通っていたみたいですぐ中に通される。

 屋敷に入ってからも間を置かず執事が対応してくれ、応接室に通されるかと思ったんだが壮年の男性が執務をしている部屋に案内された。

「来たな、エクトール」

「この度は急な面会のお願いへ迅速に答えて頂きありがとうございます、ランバルト様」

「ふん、おいしい話があると言って急かしておいてよく言う。で、だれを連れてきたんだ?」

「こちらは傭兵団エンザンの団長をしているリクさんとその部下の方です」

「初めまして。リクといいます。見知りおきください」

 挨拶に続いて一礼するとランバルトさんは少し目を見開いて驚いてくれた。

「ほう、エンザンと言うと先日の魔物討伐で魔人を討った傭兵団だったな。なかなかの大物をこの話には引き込んでおるようだな」

「実を言いますと今回の話の肝になるものは、このリク殿が私共のもとへ持ち込んでこられたのです。それを最大限有効に活用する筋書きを考えましたので、出来るならランバルト様にも一枚噛んでいただき共に利益を享受したいと思い急ぎ面会をお願いしました」

「よかろう、まずその筋書きとやらを聞こうか」

 一礼して自身で考えた今回の策をエクトールさんが話し始めた。

 話の途中ではこの策の発端となったドゥルガス海賊団とベドール商会の盗品売買の書類もランバルトさんに示して確認もしてもらう。

 質問を差し挟まず最後までエクトールさんの話を聞いてからランバルトさんが口を開いた。

「なるほどな。つまりはこうだ、一部とはいえドゥルガス海賊団討伐の功績をリク殿に譲ってもらいそれで儂は代官交代の話を一蹴する。エクトールは目障りになり始めているベドール商会を合法的に排除し、リク殿は交わしておいた事にする契約を根拠にベドール商会を海賊の協力者としてその資産を丸ごと手に入れようという訳だ。さらにベドール商会の資産を押さえる過程で明確なマグガムの不正の証拠が出てくれば芋づる式にマグガムもこのパルネイラから排除できて、さらに儂の利益になると」

「はい、いかがでしょうか。ランバルト様」

「確かに、悪くない話だな。だがその話に乗ると決める前にいくつか確かめたい。まずリク殿に聞くがドゥルガス海賊団討伐の名声を本当に儂が取って良いのか?」

「ええ、俺たちとしては十分な実利を約束していただけるなら、文句はありません」

 淀みなく答えを返したんで嘘ではないと感じてくれたようで、納得してランバルトさんは頷いてくれる。

「もう一つ聞きたい。この書類を餌に食いついてきたベドール商会やマグガムを返り討ちにするのはいいが、もし連中が手を出してこなければどうするつもりだ?」

「これまでのベドール商会やマグガムの行動からしてまず間違いなく手を出してくると思いますが、もし連中が静観するようならこれらの書類が証拠として有効な範囲でベドール商会やマグガムの権益や権限を削っていただければと思います。そうなればリク殿の取り分が減るでしょうがそこは私共が補填するつもりでおります」

 その答えを聞いて俺に異存はないのかとランバルトさんは視線で問うてきた。

 俺としては海賊船やそのアジトを押さえて十分な益を得ているし、この策へ手を貸すのはガルゴ男爵への嫌がらせの意味合いが強いんで最低限の利益があれば十分だ。

 なのでランバルトさんが言ったような展開になってもそう困りはしないので異論はないと頷いておいた。

「落し所としては妥当なようだな。よかろう、ここからは儂もこの話に一枚噛ませてもらう」

 ランバルトさんは獰猛な笑みを浮かべ、同じような笑みを浮かべてエクトールさんが一礼した。


お読みいただきありがとうございます。

今週の投稿はこの1本です。

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