#103 儲かった、海路 8
数が足りないため奴隷化の首輪を嵌められず魔術で作った手枷足枷を嵌め甲板に転がしているだけの海賊達を押さえるため、俺とバルバスにガディが海賊船に乗り込んで睨みを効かせる。
ただ監視の目がそれだけじゃ足りないんでケルブやラザも召喚して海賊達を見張らせ、奴隷化の首輪を嵌めた海賊達を中心にこの海賊船の操船をさせた。
ちなみにアグリスには護送している奴隷の監視に仮一番艦へ移ってもらった。
反乱なんてやらせるつもりはないが、それでも一応警戒してこっちの船をすぐに襲えないよう海賊船が先頭を走り仮一番艦、仮二番艦、アリス嬢の船の順で進んで行く。
奴隷と売り払うかパルネイラの代官や行政府に突き出して報償をもらうかはまだ決めていないが、拘束している海賊達の始末はなるべく早く済ませたいしもう近くまで来ているという事なんで夜も休みなしでパルネイラへ向かうとアリス嬢と話し合って決まっている。
風に恵まれたしザシルトが問題なく襲ってくる水棲の魔物を排除してくれたんで何とか日が沈み切る前にトロスの倍くらいはありそうな港町、パルネイラが見えてきた。
出発前の話し合いの通りに港での安全が確保されるまでアリス嬢の船と仮一番艦に仮二番艦は帆をたたみパルネイラの沖合で一旦船を停泊させる。
制圧している海賊船に乗っている俺達は、海賊のアジトを制圧するためこの船を真っ直ぐパルネイラへ向けた。
もう日は沈んでいるがパルネイラの様子を確かめてみようと思って船首に立つと暗視能力のおかげで港の様子が一望できる。
かなりの規模の防波堤や桟橋が海岸線に沿って整備され、どんなに少なく見積もっても3桁は下らない数の船が港内や桟橋にひしめきあっているその様子は中々圧巻だ。
そんな港の中をこの船はアジトがあるという場所へ船首を向けて進んでいる。
船長から聞き出した場所には大型船が楽に4,5隻は入りそうなドックが立っていて、これがアジトならこの規模の港にこれだけのものが堂々とあるんだからドゥルガス海賊団の威名は侮れないかもな。
そう考えを纏めている内にもうアジトは間近に迫っていて甲板に転がしている海賊達が騒ぎ出すかと警戒していたんだが大人しくしている。
バルバスやガディの気当りに気圧されて竦んでいるんだろうが、アジトの戦力に自信がある可能性もあるな
一応アジトの防衛体制を船長に聞いてみたんだが、ドゥルガス海賊団は結構縦割りの組織みたいで戦闘員の配置数や詳しい防備の設備は団長命令で教えられていなかった。
ただ戦利品を持ち込む関係で金品の保管庫や重要な物を納めた隠し部屋の場所なんかは知っていたんで、金品を持ち出されたり重要な書類を処分されないようその辺りはきっちり抑えよう。
まあこの船に乗っていた連中の腕前から考えて最悪海賊達を皆殺しにする覚悟を決め人化を解けばどうとでも対処できるだろう。
そうは言っても被害は少ないほうが良いんで、数が足りず奴隷化の首輪を嵌められていないまま操船をやらせている海賊達がアジトに突っ込むなんかの小細工をしないか警戒していたが、自分達の船やアジトを傷付ける気はないようで的確に減速し海賊船はドック内に停船した。
流石に拘束している海賊達が大人しくしているのはここまでみたいで、船が止まる直前から複数の奴が声を張ってアジトの連中に敵襲を警告した。
けどこの船がドックへ横付けする補助をしようと待機所のような所から何人か出てきていて、元から奇襲をかけられるとは思っていなかったんで特に問題はない。
名のある海賊団のアジトだけあって警告へすぐさま反応してドック内の他の建物からわらわらと武装したやつ等が出てくるが俺達は気負わず制圧を開始した。
ケルブやラザには海賊船の甲板に残って拘束している海賊達の監視を続けてもらい、抵抗したり逃げようとするなら死なない程度に痛めつけてもいいと許可してある。
船から飛び降りた俺とバルバスがアジトの海賊達の掃討を始め、同じく船を下りたガディには誰も逃がさないよう海賊船の船長から間取りを聞き出して分かった陸側に一つだけある出入り口を押さえに行かせた。
短めの剣やナイフで海賊達は襲い掛かってくるが技量や連携は稚拙で楽にかわせ、殺さないよう刃を潰す意味で魔力を纏わせた刀の一振りすれば2〜3人を纏めてなぎ倒せる。
それはバルバスも同じで見る間に海賊達の数が減っていき、海賊船の船底に張り付き隠れてついて来たザシルトが昏倒したり悶えている奴や海に吹き飛ばされた奴を水の魔術で拘束回収して邪魔にならないよう一か所に集めてくれた。
その間にウォルトには金品を持ち出されたり犯罪の証拠を隠滅されないよう水になって扉をすり抜け、保管庫や隠し部屋の制圧へ行ってもらった。
そうして思った以上にこのアジトを楽に制圧できるかと思ったんだが、やはり何か取って置きがあるみたいで俺やバルバスから少し距離を置き数人の手下に囲まれたこのアジトのボスだろう男が吼えてきた。
「手前らよくもこの俺が預かるドックで好き勝手暴れてくれたな。だがいい気になっていられるのもここまでだ」
そんなセリフを吐きながらその男は左手にはめた腕輪型の格納庫から小山になるほど幾つもの岩塊を取り出し続けて右手にはめた腕輪へ魔力を通す。
するとそれらの岩塊が一塊になってゴーレムへと変化し、まず俺を目掛けて襲い掛かってきた。
そのゴーレムの動き自体はうちのロックガーディアン達よりも遅く、難なくその拳を避け刀に纏わせた魔力の質を非殺から切れ味強化に切り替えて斬りつけるが、表面を僅かに欠かさせただけで刀は止められてしまう。
そんな俺の斬撃を気にも留めないゴーレムから繰り出される次の拳を避け、一旦間合いを取りながら看破眼を起動してこいつが何で出来ているか調べようとしたらアジトのボスが声を張って教えてくれた。
「そいつはアダマンタイトの鉱石で出来てる。お前ら程度に切れるもんかよ。それにそいつは何所までもお前らを追って行く。手も足も出せずそいつに殴り殺されるまでせいぜい必死に逃げ回れ!」
機嫌良さそうにあいつはそう吼えているが、斬りつけた手応えから判断してガロを呼び出し精霊武装で刀に纏わせ切れ味を増せば多分このゴーレムは両断できる。
ただ看破眼で見るとこいつは魔物じゃなく、恐らくアジトのボスが嵌めているあの腕輪の魔道具で作り出し動かしているみたいだから切っても再生される可能性が高い。
それよりもあの腕輪の魔道具を奪った方が話が早そうだ。
観察している間に間合いを詰めてきたゴーレムが振り下ろしてくる拳を避けながら脇をすり抜けアジトのボスと一気に距離を詰める。
ボスを取り巻く手下が前に出て俺を阻もうとするが一刀で薙ぎ払い、驚愕して硬直しているボスの腹に拳を打ち込んで動きを止め右腕から腕輪をした魔道具を剥ぎ取った。
そうしている間に追いついてきたゴーレムの気配を察知し振り返ってその拳を避け、バックステップで間合いを開け取り上げた腕輪の魔道具に魔力を流してみるが内部で空回りしているような手応えが返って来るだけで何も起きなかった。
「馬鹿が。その腕輪には使用者制限が掛かっていて俺しか使えないんだよ」
両膝を地面につけうめきながらだが薄ら笑いを浮かべてアジトのボスはそう誇っているが、魔力は通ったんだからやりようはある。
今度は隷属刻印を起動して魔力を流し込むとあっさり腕輪の魔道具は俺の支配下に入り、俺を殴ろうとしいてたゴーレムも拳を下ろして膝をつき頭を垂れてきた。
その様子を見て薄笑いを浮かべていたここのボスが驚愕に固まるのは、ざまぁな感じだがまだ戦闘中だ。
残る海賊達の掃討を再開しようと思ってドック内を見まわしたら、もうバルバスが残る連中を全て昏倒させザシルトが水の魔術で拘束していた。
なんだか最後は拍子抜けした感じだが、一応全員無事にこのアジトの制圧を終えられた。
これで朝になればアリス嬢の船をパルネイラの港へ入港させられるし、それで護衛の依頼を完了だ。
それまでの間に少しでもここの後始末を進めておこう。
ゴーレムを岩塊に戻して腕輪を格納庫へしまいバルバスに制圧した海賊達の監視を任せて俺は金品の保管庫や訳有りの物を納めているという隠し部屋の確認に向かった。
案の定戦闘のどさくさに紛れて金品なんかを持ち逃げしようとした奴らがいたみたいだが、ウォルトが叩きのめして拘束してくれていたんでそいつ等は他の捕虜の元へ運んでもらい俺は保管庫や隠し部屋の確認を始めた。
色々な金貨や銀貨に看破眼で高価だと分かる美術品を格納領域へ回収したり、何に使えるかは分からないが犯罪の証拠になりそうな書類に目を通していたら隠し部屋で大量の奴隷化の首輪を見つけた。
これを嵌めれば制圧した連中の管理が劇的に楽になるんで保管庫や隠し部屋の確認は後回しにし、ある物は取り敢えず全て格納領域へ放り込んでバルバスの元へ戻った。
軽く3桁を超える奴隷化の首輪があったんで船の連中を含めて海賊達全員に首輪を嵌め、2番船以外にもアリス嬢を狙う企みがないかアジトの連中を含めて再尋問していたらいつの間にか外の空が白んできていた。
まあ俺の懸念は取越し苦労だったようなんで、念話を使いティータを通して報告もしているが港の安全が確保できた報告と回収した2隻の誘導のためガディに伝令をたのみザシルトに乗って行ってもらった。
戻って来るまでの間は海賊達への尋問を続け、隠し部屋で見つけた書類に関して面白い話を聞き出せた所でガディを乗せたザシルトに先導され仮一番艦と仮二番艦がドックに入ってきたんで尋問は一旦ここまでにした。
仮一番艦から護送してきた奴隷を下ろしここはバルバスに任せ、アグリスとアデルファにはそのまま奴隷を連行させて一緒にドックを出た。
パルネイラの港はかなりの規模なんでアリス嬢の船が停泊した桟橋を探すのは苦労するかと思ったが、アリス嬢の側に護衛で残ったティータとの念話で案外あっさり見つけられた。
傍まで行くともうアリス嬢はティータやメリエラ女史を連れて船を下りていて、合流し最終目的地であるコランタ商会のパルネイラ支店へ向かう。
ある程度は歩くかと思ったが海運系の商会だけあって目的地は案外港の近くにあった。
結構大きな石作りの建物で念の為アリス嬢の兄の手先がいないかと護送してきた奴隷を引き取る人手を呼びにメリエラ女史がその建物中に入っていくとアリス嬢が頭を下げてきた。
「ここまで護衛して頂いてありがとうございました、リクさん。おかげで無事にここまで来られました」
「こっちも船が回収できて十分以上に儲けさせてもらえそうだし、名のある海賊を返り討ちにした手柄を丸々貰うんだ俺達の方が礼を言わないといけないくらいだ」
「そう言って頂けると助かります。ところでその船なんですが、どうでしょう我々に譲って頂けないですか?」
「あ〜懇意にしている商会があるんでそっちへ先に話を持って行かないと義理が立たないんでな。悪いが今は断らせてくれ」
「分かりました。ではそちらの商談が不調に終わったらもう一度こちらに話を持ち込んでください」
俺が頷き返しているとコランタ商会の建物から屈強な男を数人引き連れてメリエラ女史が出てくる。
その男達に護送してきた奴隷を引き渡し商会の建物の中に連れて行かれるのを見送った。
「じゃあ、これで依頼終了だな。アリスさんを狙った首謀者はまだ健在なんだからこれからも身の回りには気をつけてな」
「十分注意致します。改めてここまでありがとうございました」
メリエラ女史とそろって一礼してきたアリス嬢に手を挙げて答え俺達はその場を後にした。
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