#102 儲かった、海路 7
ほんの数秒でふわりと海賊船の甲板に着地し、看破眼を起動して早速海賊の幹部連中を探していく。
腕利きの中にそういう連中がいる確率が高いだろうと思って腕が立つ順番に上位から調べて行くと3番目に腕が立つ奴が船長だった。
ちなみに1番目と2番目に腕が立つ奴等は第二戦闘部隊の隊長と副長だ。
この2人にも後で尋問するつもりだが、まずは船長に知っている事を洗いざらい喋ってもらうとしよう。
アデルファに戦斧を打ち込まれ甲板の上で悶えている艦長へ奴隷化の首輪を嵌め、多少は喋れるように回復魔術を使ってやると船長の男は上半身を起こしあるだけの憎悪を込めて俺を見上げてきた。
「それだけ睨む元気があるなら俺の質問にも答えられるな。洗いざらい喋ってもらうぞ」
「・・・お前ら俺達にこんなことをしてただで済むと思うなよ」
「ほう、その口ぶりだとお前らは相当名のある海賊みたいだな。でも悪いが俺達は陸での魔物相手が専門なんでな。海の事情には疎いんでその辺りから知ってる事を全部話してもらうぞ」
増々憎しみを込めて船長は俺を睨んできたが、首輪の効力には逆らえないようで渋々といった感じだが俺の質問に答え始めた。
まずどんな集団に属していてそこでの立ち位置を聞いてみるとドゥルガス海賊団の2番船の船長だと返してきた。
ドゥルガス海賊団に聞き覚えはないが、本当に名のある海賊なのかは後でアリス嬢にでも聞こう。
まあこいつがこの船で一番事情に詳しいのは間違いなさそうなんで、次は隠れて待ち伏せ追ってきたのについて聞いてみるとやっぱり俺達を狙っていたみたいだ。
それもアリス嬢の兄のグリシャムの依頼を受けて動いたようだ。
どうやらグリシャムは俺達が捕らえた護衛の暗殺の成否にかかわらず2段構えの策としてアリス嬢の船への襲撃をドゥルガス海賊団に依頼していたみたいだ。
あの護衛がアリス嬢の暗殺に成功するか機会がなくても商売が終わればトロスから王都ヘ真っ直ぐ海路を帰ると予想していたようで、その途中に待ち伏せして仕掛けさせるつもりだったようだ。
そのために海賊達はトロスの港へ独自に斥候を放っていたようで、そいつからこちらの船の出港を知ったそうだ。
けど王都へ向かって北上してくると予想していたのに南下を始めたとその斥候から報告が来たんで慌てて追跡を始めたみたいだ。
パルネイラへ向かったとこっちの動きを読んで追いかけ、パルネイラに到着してもこちらの船と遭遇しなかったんでどこかで追い抜いたと読みを修正し、パルネイラ付近で待ち伏せに最適なあそこに隠れて俺達の通過を待っていたようだ。
多分ボボス村で水を補給した時か、船を回収した時にでも追い抜かれたんだろうな。
それにしてもこいつの読みは中々で、これで2番船の船長なんだから1番船の船長も相当切れ者なんだろう。
1番船や他にも船があるならそいつ等もこの依頼に動員されてるのか聞いてみたが、これは俺の杞憂だったみたいで他の船は別の仕事に出払っているそうだ。
それは良かったんだが他にもトロスへ送り込んだ斥候のような仲間がいるのか確かめてみたら、王都近くの港やパルネイラの港にも偽装したアジトがあるらしい。
となるとパルネイラへ安全に入港するためにはそのアジトを叩いておく必要がありそうで、どうやるかをアリス嬢と相談しないとな。
取り敢えず今聞いておく事はこれ位か。
それにアリス嬢も出来るだけ早く話を聞きたいだろうから一旦報告へ行った方がいいだろうな。
丁度船内の掃討と探索を終えてバルバスとアグリスが甲板へ上がってきたんで、投降したり拘束した海賊達の監視は任せた。
ガロに掴まって飛び上がりアリス嬢の船に運んでもらってその甲板へ下り立つとメリエラ女史を従え寝間着のままのアリス嬢がもう船内から出て来ていて向こうから近づいて来た。
「リクさん。状況の説明をお願い出来ますか?」
「ああ、勿論だ」
もうティータ達から話は伝わっているかも知れないが一応昼にあの船が隠れているのを見つけた所から話を始め、敵意をむき出して近づいて来たんで接舷される前にこちらから乗り込んで制圧し、内容はまだ伏せて一通り尋問したとアリス嬢には伝えた。
「経緯はこんな所だな。あとそっちへの連絡なしに仲間達へ戦闘を許可したのは見逃してくれ。時間がなかったんでな」
「船や乗組員を守って頂いたんですから、それについて文句はありません。ただその捕らえた船長から聞き出した話の内容は教えて頂けますか?」
「ああ、相談したい事もあるから隠す気はない。まずあの海賊達の素性だが、ドゥルガス海賊団の2番船だそうだ」
続きを話そうとしたら、アリス嬢だけじゃなくメリエラ女史を含め周囲の水夫も一様に絶句していた。
「その様子だと相当悪名高い海賊なんだな。海賊の事情には詳しくないんで触りだけでも教えてくれないか?」
そう問いかけると何とかアリス嬢は表情を立て直して答えてくれた。
「・・・ドゥルガス海賊団はラルバイア王国沿岸を荒らしまわっている海賊の中でも飛び抜けて凶悪な連中です。もし襲われれば全ての積荷を奪われ皆殺しにされるか船ごと乗組員全員が外国へ奴隷として売られると聞いています」
「そこまでの連中なのか。アリス嬢の兄さんは大きな商会の跡継ぎ候補だっていうのにそんな奴等と付き合いがあるみたいだな」
俺としては報告というよう半分は独り言だったんだが、アリス嬢はハッとなって問いかけてきた。
「もしかして兄が依頼をして私達を襲わせたんですか?」
「ああ、海賊船の船長に俺達を狙った理由を尋問したらそう答えが返ってきた。他にも色々聞き出せたんだが、どうやらパルネイラの港にあいつらのアジトがあるみたいなんだ。アリスさんの安全を確保するためそのアジトをどう潰すかと押さえたあの船の連中をどう始末するかを相談したいんだ。」
「・・・分かりました。込み入った話になるでしょうから着替えてきます。続きは船内でお話しましょう」
メリエラ女史を連れて一旦引き上げるアリス嬢を見送り、俺は他の水夫の案内で船内へ下りた。
通された船室で待っていると普段着に着替えてきたアリス嬢がやってきて向き合い話を始めた。
念話をバルバスに繋いで会話を聞いてもらいながら尋問の詳細を報告する事から始め、パルネイラの港にあるという海賊のアジトの制圧の許可はアリス嬢から取れた。
だがコランタ商会としてはドゥルガス海賊団から必要以上の恨みを買いたくないそうで、アジトの制圧は押さえた海賊船を使って俺達単独で行う事になった。
合わせて拘束した海賊船の連中やアジトの海賊達をどう処分するかは俺達の勝手でコランタ商会は一切関与しないと決まった。
話し合いに結構時間が掛かったんで仮眠は取らずに出発の準備を始めて、水平線が白み始めるとパルネイラへ向けて帆を拡げた。
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