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2-9

「ごめん、ジョー。」

 翌朝、フルネスは言った。

「あれは確かに大事な事だったと思う。だけど、僕にはとてもじゃないけどあの現実を受け止める事ができない。申し訳ないけどこの話はもうしないでくれるかな。」

 ジョーはフルネスをしばらく睨む。そして口を開く。

「あっそう。じゃあ、いいよ。」

 そういって背中を返して去るジョーを見てフルネスはズキリと心が痛む。ジョーは背が高くなって随分体格がよくなった。しかしフルネスは10歳のころから小さいままだ。ジョーは遠い人になってしまったのかなあ、とフルネスは思い悩んだ。

「フルネス・テルンデルナッハ」

 自分の名前を呼ばれたので驚いてフルネスが振り返った。

「君なんか様子が暗いけど大丈夫かい?」

 理科教師ウーラムであった。フルネスは言うかどうか迷ったが、あまりにもこの何も知らない心優しい理科教師に話すには、説明すべき事が多すぎて、その上繊細すぎる問題に思えた。とはいえ何でもないと言ってもなんだかなあと思ってボソリと言った。

「ちょっとジョーくんとトラブルを起こしました。」

「ジョーくんか・・・」ウーラム先生は一瞬暗い顔して、あわてて笑顔を取り戻す。「まあ、きっとよくなるよ。」

 そのふとした変化をみて、やはりジョーの素行について学校でも問題になってるのかな、とフルネスは思ったが、もうその事について考えるのをやめようと逃げるように廊下を走っていった。

「廊下を走るんじゃありませんよ。」

 と声が聞こえたので振り返ると副校長だ。

「ぶつかったら大変でしょう。」



 フルネスは授業中もジョーの事を気がかりに思っていた。ジョーは先生の講義がまるで意味が無いかのようにイライラして身体を揺すっていた。ジョーは今や自分の幼馴染のメラマと仲良くしている。メラマはすっかり女っ気を出してジョーとじゃれ合っている。それを見て、妙に心がモヤモヤする。タルヒもジョーと仲良くしてしまっているし、自分は一人ぼっちになってしまったなあ、と感じていた。最初は自分が中心になってみんなの仲を作っていったのに。フルネスはちょっと怒りさえ感じていた。どうしてジョーはああいう風になってしまったのだ、と。自分はジョーに置いていかれている。

「2世が王となられたのはアルゲバ暦75年、3世は113年です。」

「お見事。ベルーイ君。」

 相変わらずベルーイは優秀である。おまけに彼はレリディビウムの嫌う王国の城下町のお坊ちゃんである。そういえばベルーイはジョーにひどい事を言った奴である事をフルネスは思い出した。最近のジョーが嫌だし、敵の味方は敵だ、と思って、フルネスは昼休みに食堂でベルーイに話しかけた。

「こんにちは。」

「おお、フルネスくんか。こんにちは。」

 ところがベルーイが物腰柔らかになっている事にフルネスは驚いて、とりあえずベルーイに話しかけた。

「・・・元気?」

「何の用だい?」

 しかし何と言うか単刀直入なのは相変わらずだなとフルネスは苦笑した。

「ジョーと喧嘩してしまって一人が暇だからここで食べていいかい。」

「ああ、別にかまわないよ。」

「ありがとう。」

 フルネスは椅子に座る。

「喧嘩って大丈夫か。」ベルーイは話しかける。「お前達普通に仲良くしてたじゃないか。」

「・・・ベルーイくん、いい奴なんだね。」

「はあ?」ベルーイは半笑いで訊ね返す。ちょっと安心したような表情である。

「なんか最初会った時、随分嫌な事言ってきたじゃない。」

「嫌な事?」

「オバケが植人になったとかいう話。」

「ああ、あれね。よく覚えてないけど確か、事実と異なる噂に興じてきゃあきゃあ言ってるのがムカついただけ。」

 むしろ面白いなコイツ、とフルネスは興味を示し始めていた。ジョーよりも正直すぎる気がする。

「ベルーイくん、何か君面白いよ。」

「そうか?ありがとう。」ベルーイはすっかり安心しきっていた。

「そういえばさ、君のいつも脇にいる人は誰だい?」

「ああ、こいつ?」

 ベルーイは隣に居る小男に向いて言った。

「こいつは、ゲルマ・パーリンシンダ。同じ城下町出身。なんかコイツ田舎暮らしの奴らにひどく怯えてるみたいだから僕しか友達がいないんだ。仲良くしてやってくれよ。」

「そうなんだ。よろしく、ゲルマ。」

 ゲルマと呼ばれた男は「お、おう、よろしく。」と気さくな感じで礼を返した。


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