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 六 反撃の狼煙

「くそっ!やられた!」


 一度自宅に戻ったキアスは、綺麗に片付けられた部屋を見て茫然とし、書き置きを読んで我にかえった。


 くしゃりと握り潰した手紙には、綺麗な字でご丁寧にも理由が書かれている。


「俺らが探しても見つからんのだ。十やそこらのガキに見つけられるわけが無いだろう!!」


 怒りに任せてそう叫ぶと、あまりの声量に部屋がぐわんと震えた。


 「どうかしたんすかっ!」


 キアスの独り言が余りにも大きすぎたため、家の外で待機していた部下の一人が何事かと部屋に駆け込んだ。


 キアスはギリギリと歯ぎしりしながら叫ぶ。


「あんのガキぃ!勝手に山賊のアジト探しに行きやがった!」


「へ!?」


 部下の度肝もを抜く話だった。


 二人とも、家族や里を一気になくした幼い少年少女は、知らない場所で二人、身を寄せあって大人しくしているものだとばかり思っていたから。


「ああ!もうどうすりゃ良いんじゃ!」


 頭をかきむしって叫ぶキアス。

 それをなだめる部下。


 キアスは馬鹿ではないが、基本的に周囲を振り回しているので、振り回されるのに慣れていなかった。


 その状態は暫く続く。


「すまん。取り乱した」


 一通り騒いで落ち着いたキアスは、これからの方針を決める。

 立ち直りは早いのである。


「取り敢えず、ガキらは探さん」


「え…!?」


 上司の言葉にひどく驚く部下。


 確かにこれが街の子供の話であれば、騎士団の皆で山じゅう探し回ったことだろう。

 だがこれは、あの、集落の子供のことなのだ。


「あれは森になれてるはずだから、下手なことでは死なないだろうし、賢かったから何かあれば帰って来るはずだ」


「はっ!」


 納得した部下の敬礼を受けて、キアスは地図を見た。


 それはこの辺りの地図で、今まで同じ山賊が襲ったところが記してあった。


「距離的にこの辺りが有力なんだがな…」


 時間帯、規模、去った方向。報告書を鑑みて思い当たる地域を指で叩くが、確固たる証拠はない。


 キアスは赴任してきたばかりでこの辺りの土地勘がない。だから分からないのだ。


「あーもう良いや!取り敢えず現地に行きゃ分かるだろ!」


 しかしその時、ヤケになって叫んだキアスを止める報告が来た。


「集落の子供二人が戻りましたっ!アジトを見つけたとのことです!」



〜・*・〜・*・〜



「風送るぞ!」


 キトの声が後方から聞こえたと思ったら、強い風圧があたしを襲った。でもそれは強すぎず、あたしが走るのを助けてくれる。


 あたしたちは今、追い風に押されて走ってる。


 なんと!キトは風を操れるのだ!


 昔からやってたことだから風に乗るのは慣れてるし、普段よりずっと早く走れる。


 でもキトの方に送ってるは風は少ないみたいだから、治癒の力で疲れちゃってるあたしへの配慮なんだと思う。


 後でお礼をいわなきゃ。


 足が泥でベチャベチャになるし、勢い良く地面を踏みつけて跳ねたどろのせいで街で貰った服も汚れちゃってるけど、仕方ない。


 疲れたせいか、いつもならキトに風を送ってもらってたら息が乱れたりなんてしないのに、肩で息をしてた。


 ようやく集落のあった場所について、息を調える。


「よく頑張ったな」


「…余裕っ!」


 キトの言葉にあたしは息を切らしながらも強がって返す。そうじゃなきゃ、やってられないよ。



 山を下ったところで、騎士に捕まった。


「きみたち!どこ行ってたんだ、所長が心配してたぞ」


 ああもう邪魔!


「邪魔だ。所長に用があるんだ」


 あたしが言おうとしたことを、代わりにキトが言ってくれた。


 でも、子供に偉そうな口を叩かれたとかで癇に触ったのか、騎士が絡んできた。


 本当にウザい。

 偉そうだけど、実力は伴わないし、それをわかってない。時と場合を弁えろよ!

 だから騎士団は嫌いなんだ。


 話が平行線で纏まらない。


 あんまりにもうんざりしたものだから、いつもは撒かない愛想を撒くことにする。


「おにいさん!お母さんがね、山賊に掴まっちゃったの!だから早く助けたいの、そうじゃないと…あたし……」


 涙をほろほろ流してか弱い女の子のふりをする。


 涙は女の武器だ。あたしのでもね!


「お、おい」


 騎士が慌てている。


 ざまあみやがれ。子供を泣かせたって言い触らしてやるから。


「だ、大丈夫か…?」


 え、ちょっと待って。キト、気がついて無いの?


 ええい!キトには後でちゃんとネタばらししないと。女の涙は信用しちゃいけないんだよって。


 ……あたしなんかに騙されてて、キトの将来が大丈夫なのかな、って心配になる。

 悪い女の人に騙されないように注意してあげないとね。


「な、泣かないでくれよ。な?お嬢ちゃん」


 ここで一押し!


「所長さまのとこに、連れてってください……」


 上目遣いで完璧だね!


「あ、ああ。分かった。分かったから!」


 慌てて頷く騎士。

 あたしを抱き上げて―――抱き上げて!?―――言った。


「行くぞ!そこのガキ、ちゃんとついて来いよ」


 二人が走り出します。

 あたし走ってません。抱き上げられてます。


 なんで?ねえなんで?


 目茶苦茶恥ずかしいんだけど。


 なんで11歳にもなって抱っこ?


 いや、まあ楽だけど。


 もういろんな意味で目が潤んできた。この騎士、絶対許すまじ。


 でも昔なら、騎士があたしぐらいの子供を抱っこして走るなんてできなかったと思う。


 そう考えれば、キアスさんはすごくいい所長さんなのかなって、思ったり思わなかったり。


 でも、抱っこはないでしょ抱っこは!



 そうこうしてるうちに所長のところについた。


 送ってくれやがった騎士に「お兄さんありがとう!」ときらきらの笑顔で言ってやった。


 ちょっと…鼻血出さないで。


 皮肉だって気がついてよ。



 そんな煩悩も、所長の怒鳴り声で綺麗に吹き飛ばされた。


「何勝手に行動してんじゃいこのガキャ!!!」


 ものすごくお怒りのようですが、あたしたちには逆効果。


「こちとら頭に血ぃ昇ってんだ。あたしたち3日待ったんだよ!あんたを信頼して3日待った。なのにあんたはかあさん達を助けてくれなかった。それでもあんたを信頼してアジトを探すだけにしたんだ。有り難く思えよ」


 久々の長文と余りの怒りで息が切れた。これ以上誰も失いたくないんだ。


「あんたらが力を尽くしてんのは知ってる。でもオレらにも出来る事があったんだ。だからやったんだ」


 あたしとは逆にキトが冷静に言った。


 キトは、怒っても冷静だ。でも、本当に切羽詰まったりダメなことをしたりすると、すごく怒鳴って起こる。恐い。


 キトが冷静なうちは、何か考えがあるんだろう。だからあたしも怒りはしても、無謀に走らずにすむ。


 所長は酷くうろたえていた。


 多分子供に怒鳴って叱って反論されたのが初めてだったんだと思う。すごく強面だから、怒鳴られただけで怖くて泣いたり、謝ったりしたんだろう。


 でもあたし達はよくイタクおじさんに叱られてたから慣れてるんだよ。


 もう、いないけど。


 ああもう、視界がぼやけちゃったよ。


 でも泣きたくないから、シャツの袖でゴシゴシと目元を拭った。


「とにかく早く人を手配して。アジトはここ」


 机に置いてあった地図の一点を指差す。


 合ってるよねとキトを見れば、キトは頷いてくれた。


「そうだ。人数はかなり多いと思う。でも下手に大人数だと良くない。人質を取られるだろうから」


「イタクおじさんでも勝てなかったっていうぐらいだからね」


 声が暗くなったのはやっぱり仕方が無いと思う。


「一騎当千ぐらいのが好ましい、か」


 キアスさんは少し考え込んでいるようだった。隊の編成とかかな。


「そうだよ」


「分かった。すぐに手配する」


 そう頷いたキアスさんに告げる。


「あたし達も絶対に行くから?」


 所長はは?という顔をした。それに声も出てた。ドスの効いた低い声。


「足手纏いに思えるかもしれないけど、絶対に譲れない」


「駄目って言われてもついて行く」


 あたしとキトが、順に言った。


 確かにあたしたちなら騎馬にもついていけそうだと思う。


 キトも同じ気持ちみたいだ。



 ―――助けるのなら、自分の手で。



「………分かった」


 あたしたちが走ってでも着いてくるのを想像したのか、げんなりした顔でキアスさんは頷いた。


 所長さんも認めてくれた事だし、ご褒美をあげましょう。


「これ、あげます。アジトの見取り図」


「な!?どうやって!?」


 目茶苦茶驚いてる。


 確かにあたしもこんなのが手に入ると思わなかったもんね。


「親切な人が教えてくれました」


 樹だけど。


「…………ありがとう」


 所長はすごく複雑そうな顔をしていた。


 なんでこんなガキが…って顔してる。でも、ちゃんと受け取ってくれる。良かった。


「馬を2頭…いや、一頭貸して」


 キトの唐突な要求に、さっきよりも驚いた顔をしていた。


「馬にも乗れるのか?!」


「もちろん」


 うちの集落はみんな乗れると胸を張れば、所長はもう勝手にしろって言って準備を始めた。

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