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1カナリア・ステラ・アルバート

幼い時からドレスを見るのも、着るのも大好きだった

繊細なレース、ヒダが美しいフリル、光沢のあるリボン、カラフルなドレスたち。

女の子なら誰でも憧れるものばかり。自分が仕立てるなら何色の生地にしようか、長さはどうするのか、形は?マーメイド?やっぱり憧れのプリンセスライン?と、夢は膨らんだ。特に姉のローズオーラは衣装持ちで幼かった私は憧れていた。姉のドレスが出来上がり、実際に着てパーティーに行くのを見る度に、早く私も素敵なドレスを着てパーティーに出たいと思っていた。


そして今、目の前に憧れた光景が広がっている。


青空をそのまま染めたような鮮やかなブルーに暖かな色味のイエロー、若草色、シルバーに、情熱的なレッドと、様々な色と形のドレスが所狭しと広がっている。そして驚くことにこのドレスの全て私のために新調された新作のドレスたちであるということだ。


カナリア・ステラ・アルバート。


アルバート王国の第二王女で今年16歳を迎える。


「ねぇ、お姉様。まだ、着るの?」

呆れ半分、疲れ半分の顔で、カナリアは新しいドレスを選んでいるローズオーラに声をかけた。

「何を言ってるの、カナリア!まだ10着しか着替えてないわよ?」

大きな瞳をさらに大きくしながら答えたローズオーラの手には大胆に胸元が開いたイブニングドレスがある。そして、10着なんてまだ序の口よと言いながら手渡してきた。

固まったままのカナリアの背を侍女たちが押しながら、また試着のため奥の部屋に連れて行かれた。


アルバート王国では、16歳で成人になる。その際、貴族の成人予定の者はみな王宮に集まり、お披露目パーティーが開催される。そのパーティーはカナリアの誕生日当日が予定された。

王宮に来れない一般の人達も街の教会や、大きなお屋敷が解放され、同じようにパーティーが開催される予定だ。


日程が発表された翌日から、街中の仕立て屋は大忙しだ。なにせ、我が子の晴れ舞台。誰もが憧れるような衣装を、と特に娘を持つ親が連日仕立て屋に通っている。

このパーティーはただ、成人をお祝いするだけでなく、将来の結婚相手も見つける場でもあるのだ。

というのも、過去にこのパーティーで出会った男女が、誰もが羨む素敵な結婚生活を送ったことから、良い結婚を求めて毎年盛り上がるようになった。

その男女というのが、カナリアの両親なのだ。この恋物語は有名で国民の憧れでもある。

もちろん、その伝統は兄と姉もしっかり受け継ぎ各自、成人の際のパーティーで良きパートナーと巡り合っている。

王族が成人する際のパーティーではもっといい出会いがつながれると噂になり今年のパーティーも注目されているのだ。


そんなパーティーは一ヶ月後。のんきに構えてたらあっという間に当日だ。

どこの仕立て屋も今年の流行を抑えたデザインプレートを何枚も書き溜め、この忙しい日々を実りあるものにしようとしている。

それほど、このパーティーにかける思いが強いのがわかる。


そんな気持ちを知ってか知らずか、このパーティーの主役でもあるカナリアは目の前に広がるドレスを興味なさげにみていた。

「カナリア、どうしたの?大好きなドレスよ!もっとわくわくしなくっちゃ!」

ローズオーラがカナリアの隣に座りながら、目を輝かせていた。

「お姉様の言いたいこともわかるし、ドレスは大好き。でも…こんなにいる??」

かれこれ3時間近くローズオーラの着せ替え人形と化しているカナリアからしてみたら、もう後半はどれも一緒だ。

あまりにも疲れきっている妹をみたため、一旦お茶にしましょうとローズオーラの一言で、見る見るうちに広げられたドレスは片付けられ、ティーセットが並んだ。代わりに運ばれてきたのは焼きたてのマフィンや、スコーン。プチサイズのタルトが今度はテーブルの上に広がった。


「はぁ、疲れた〜。それにしても、よくこの時期にこんなにたくさんのドレスを仕立てもらえたわね」

「そこは!お姉様ですもの!可愛いカナリアのために努力を惜しまなくってよ!」

「…ところで、今日こちらに来ることはお義兄様には伝えてきたのですか?」

「…あら!もうお茶が…」

突然、目が泳ぎだしたローズオーラを見て、カナリアはため息をついた。


この姉、ローズオーラは超がつくほどのシスコンだ。お嫁に行ってもう1年になるが、事あるごとにこうやって帰ってきている。カナリアが心配なのと、寂しいのとで姉も辛いらしい。

ローズオーラの夫が優しいから勝手気ままにやっているが、一国の王妃として、如何なものかと時々思う。

「お義兄様が悲しむから、今度はちゃんと話してから来てね。」

「はーい…」

しゅんとしている姉をみると、どちらが姉かわからなくなる。

「それにしても、みんな気合いが入りすぎじゃない?」

「まぁ、私も16歳の時は大変だったわね・・・」

プチタルトを頬張りながら、ローズオーラが2年前のことを思い出していた。

なにせ、ローズオーラは稀代の美女として当日はすごい人気だった。成人前に描かれた姿絵を見た若者たちはこぞって求婚の手紙を送り、アプローチしてきたそうだ。成人の日のパーティーでは、会場に現れたローズオーラを見たすべての人が羨望の眼差しを送り、女子たちからは完敗という声が聞こえてきたそうだ。

「お姉様なら大変そうね」

ローズオーラは目鼻立ちもはっきりしているし、陽の光があたるとキラキラと光って見える艶やかなハニーブロンドの髪に、トパーズを思わせるような真っ青な瞳をもっている。

同じく兄のベリルも色の濃さはあるものの、ブロンドに、アクアマリンのような瞳をもった美男子だ。

「お姉様の髪色なら、きっとどんな色のドレスでも似合うわ」

そういって、カナリアは自分の髪を一房取って、ため息をついた。

末姫のカナリアは家族の中で誰も持っていない髪色と瞳の色をしていた。

顔立ちこそ母に似ているが、その瞳の色は夕暮れの茜色に、髪色は輝く星たちのようなシルバーだ。絶妙な色味を持って生まれたカナリアの特徴はすべて、祖父から受け継いだ。

全てが儚く、淡い色合いのカナリアはドレスや宝飾品を選ぶのがとても大変なのだ。

「何言ってるの!私も、ベリル兄様もあなたの髪と瞳が大好きよ!誰も持ち合わせていないカナリアだけの色味なんて素敵じゃない!!それに、だからこそお姉様が完璧に仕立て上げてあげるのよ!」

それがお姉様の一番の楽しみよ!とカナリアを思いっきりハグした。

「あ…ありがとう、お姉様」

「それに、カナリアは私たちにはない力があるじゃない。お姉様はそっちのが羨ましいわ!」

「そうだね。この力はとても嬉しい!」


兄妹の中で唯一、特殊な力を持って生まれたカナリアは王族であるのと同時にもう一つの顔を持っている。

国家機関 占星省所属の国家占星術師であり、彼女はアルバート国内でも数少ない占星術を操れる王族なのだ。

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