表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/6

悪童を懲らしめる為に

 アネモネと別れた翌日、再び森を訪ねてみましたがアネモネに出会う事は出来ませんでした。

 あれは幻だったのだろうかと首を回してみると、そこには昨日作った即席の椅子が残っていて、彼女は夢でも幻でもないと教えておくれます。

 またね、と言って別れたのだからきっと再び会うこともあるでしょう。

 それが明日なのか、それとも一年後なのか、それとも死ぬ寸前なのかはわかりませんが。


 ひと時の夢に別れを告げて、村に戻るとそこには悲惨な現実がありました。

 近所で有名な悪童ジャニムがまた小さい子をいじめているのです。

 たいしたことはしていません。その子の持っている物を取り上げたり、無理やり高い所に登らせて飛び降りさせたり。

 子供達の力関係の上ではある意味いたし方の無い部分でもあります。

 だけども彼は少しやりすぎです。

 時折、取り上げた物を壊してしまったり、無茶をしすぎて怪我をしてしまったり、そういった悲しい出来事も起きていました。

 くだらないと唾棄すべき行為です。ジャニムには天罰が下ればいい、ずっとそう思っていました。

 しかしある時ふと気付いてしまったのです。

 自分には関係が無いからと見てみぬふりをする僕も同罪なのでは無いかと。


「なんだ? やんのか?」

 僕がじっと見つめている事に気付いたジャニムがそう声をかけてきます。

 変声期を迎えた彼の声が高くもなく、低くもありませんが少し聞き取り辛いものです。

 大人の声ほどの落ち着きはなく、子供の声ほど癒されることはありません。

 そんな中途半端な境目の上にいる声です。

「別に・・・」

 彼の言葉に僕はそう返し、一人歩き去りました。

 僕の背中には彼らの臆病者が、という嘲りの笑い声が聞こえますが今は我慢します。

 今はまだ早い。まだそんな時期ではないと、僕は拳をぎゅっと握り締めるのでした。


 翌日僕はアネモネと話した森の入り口にやってきていました。

 昨日ジャニムに行為を目にしてから決意している事。

 あの悪童を懲らしめねばなりません。

 勇者になんてなるつもりはない。だけども力を得た今ならば出来ることがあります。

 ただあの力は強過ぎる。

 先日作った椅子の断面を眺めながらそんな事を思います。

 この力を使えばジャニムを懲らしめることは出来る。

 しかしあまりにも強過ぎるこの力は、下手をすれば彼の命を奪ってしまうでしょう。

 それでは意味がありません。懲らしめるだけでよいのです。

 より強い力で押さえつける事。それが正しいかどうかはわかりませんが、今の僕に出来る精一杯だと思ったのです。


 森の奥に入り、適当な木を見つけます。

 まずは全力で一回殴ってみよう。

 以前見かけた旅の武芸者の演舞を真似て腰を落し、正面に思いっきり拳を突き出してみます。

 

 今までに聞いたこともないような轟音と鳥達が羽ばたく音、そしてどこからか獣の遠吠えが聞こえ、頭の上から木の葉がぱらぱらと舞い落ちてきました。

 想像してはいましたが・・・。まさかこれほどの威力だとは・・・。

 自分でやっておいて言うのもなんですが、いくらなんでも威力有り過ぎです。

 目の前の木は僕が拳を突き当てた場所が粉微塵に吹き飛び、切り離された上の部分は高く飛び上がって、少し離れた所に落ちました。

 こんな威力で殴られたら人間なんて血飛沫になって消し飛ぶ事でしょう。

 

 勇者の癖にスプラッタ事件に犯人になってしまった!!


 そんなタイトルの小説になりそうです。

 凶器は勿論、拳。捕まりそうになった所を徒手空拳で全員血飛沫へと変えて逃走。


----完。


 いやいや! 終わらないから! 誰も読んでなさそうだけど終わらないから!!

 一人寂しくネットの世界の片隅で小説の主人公として僕は生きる!


 そうこうしていると何処からか大人たちの声が聞こえてきて、騒々しくなってきたので木陰に隠れます。

 背後からは「なんじゃあこりゃあ!?」とか「熊・・?」「いや魔族だろ!?」「案外旅の冒険者かもしれんな」などとさっきの木っ端微塵と化した木に対する推察が聞こえます。

 今日はもう無理だと諦めた僕は力加減、学ばないとなぁと思いながら村へと急いで帰ったのでした。

 

 それからしばらくは力加減を学ぶ為にほぼ毎日のように森の中で木を殴りつけます。

 その間に軽くジャンプなどもしてみたのですが、やはり僕の身体は人間離れしているという事がよくわかり凹みました。軽く数mは飛べるジャンプ力ってなんなんですか、ホント。

 一回熊さんに出会ったのですがびっくりして蹴り倒してしまったのは内緒です。

 翌日、村で盛大な熊鍋パーティーが開かれたのは、きっと腕のいい猟師のおじさんがうまく退治したからだと思いたいです。ボクハ、カンケイ、ナイデスヨー。


 熊鍋パーティーが終わって、家に帰ると変な噂が流れているから気をつけなさいとお母さんに言われました。

 どんな噂なのかとたずねてみて、僕は背中に冷たい汗が流れるのを感じます。

 その噂は「森の中の木々が倒されていたり、熊が死んでいたりする。ひょっとしたら大きな魔物がいるかもしれないから、森へは決して近づかないように」というものだったのですから。


 こうして僕は、勇者改めスプラッタ事件の殺人犯改め、魔物になりました。


----完。


 いや、まだ終わらないからね!!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ