勇者になった僕は、神様に村まで送り届けて貰う事になった。
前の話のあらすじ。
サイコロを振らないはずの神様がサイコロを振ったお陰で選ばれた僕は勇者になりました。
はじまり、はじまり。
「んで、勇者って何か注意点とかあるの?」
「ないねー」
無いのか。
「勇者だからね。そう簡単には死なないし。あ、ひとつだけあるとすると…」
「…あるとすると?」
「力を使いすぎると人間離れする事かな?」
「既に人間離れしとるわ!!」
ここで再び(※プロローグ参照)思わずぶんなぐってしまった僕に罪は無い。
多分きっと。
「あいたたたた。ほら、僕は一応神様だからこの程度じゃ死なないけど、その力で近くの少年とか殴ったら駄目だよ? 特にムカツクあいつとかね。絶対に死んじゃうからね」
頬をさすりながらそんな事を言う神様に、初めて僕は背筋が恐ろしくなるものを感じた。
今まで誰にも話したこともない、僕の中に眠る暗い感情。
確かにそういう感情はある。
思わず自分の手のひらを見てしまう。
僕に力。誰しもを屈服させるだけの力・・・。
人より成長の遅い僕が今までどれだけ努力しても追いつく事の出来ず、手に入る事の無かった力。
勉強は努力でなんとかなるけど、体力の差だけはどうする事も出来なかった。
その差を圧倒的に上回る力を手に入れた。
その力を手に入れた今、あいつに手を出さないでいられる自信が無い。それが正直な思いだった。
「どうしたの? 君の力だよ。入手した方法はちょっとチートっぽいけどね。でも君の力には変わりない。勇者として魔王の城に行ってくれるのであれば、好きに使うと良いよ」
俯く僕に神様は続けて言う。
「勇者だからって綺麗でいなければいけないなんてルールは無いよ。過去の勇者には実績そのものは十分だったけど、色々問題があって処刑された奴なんて山のようにいるしね。綺麗だったけど、人に勝手に恨まれて殺されちゃった奴も居たっけ。まぁ仕事が出来る事と、能力が高い事、それと人間性とは釣り合わないものなんだよ。所詮、人間は快楽や欲望には勝てない生物なんだからね」
いやらしいニヤニヤ笑いを浮かべながら神様は言う。
そこはこう、なんて言うのだろう。
清く正しく生きなさいと言うべきなんじゃないだろうか。
教会のトーマスさんに神様がこんな事言ってましたって言ったら卒倒して倒れるかもしれない。
「さて、晴れて勇者になった君に一応神様らしくアドバイスをしよう。基本的には人には不干渉を貫きたいんだけど、そうもいかないしね」
やっとまともな事をしゃべりだす神様。
全然敬う気なんてないけど、一応ご神託なので居住まいを正して座りなおす。
「君はしばらくそのまま村にいなさい」
は?
え?
勇者に対して村に居ろって…。ああ、あれですか。なんかとんでもない魔族が村に襲い掛かってくるから待機してなさいとかいっていうあれですか。
さすが神様。未来も見通せるのか。
「いや。そういう訳じゃないよ。魔族は今のところ内輪もめの真っ最中だからね。直ぐに大規模な侵攻を始めたりは出来ないんだ。だからその間に君は自分の村で友達と遊んだり、女の子に恋したりして自分自身を磨いていて欲しいんだよ。ついでに力の使い方も覚えると良い。一応一通りの事は出来るように創り変えたからね」
「魔族の進行が止まっている今がチャンスなのでは?」
「力の使い方もわからないのに突っ込んでいって勝てるとでも?」
確かにそれもそうか。
今のところわかっているのはぶん殴ると信じられない位人が飛ぶって事くらいだもんね。
「んじゃわかってもらえた所で元居た場所まで送り届けてあげよう。何か用事があったらふらっと遊びに行くから、それまでは気軽に今まで通り暮らしていてよ」
その言葉に僕は頷く。
勇者になったけど今までと何も変わらないのか。
それはそれでよかったというか、がっかりと言うか。
「ほんじゃいくよー。ちちんぷいぷい元居た場所に…かーえーれー!」
なんとも間抜けな台詞と共に僕の身体は光に包まれる。
視界がどんどんと光に埋め尽くされ、向こうが何も見えなくなった頃に信じられない言葉を聞いた。
「あ、言い忘れてたけど君を作り変えるのに三日程経っちゃってるけど、気にしないでね」
え?三日ですと!?
やばい!お母さんに怒られる!!!!!