どうやら俺のクラスに転校生が来るらしい
第2話です。お楽しみ下さい。
担任のその言葉に全員が驚きの顔をしていた。隣にいる東花も声には出さないものの、普段滅多に見ない驚きの顔をしていた。俺も驚いた顔をしているだろう。それほどこの学校に転校生が来るという事は珍しいのだ。
この東花高校の入学試験はそこまで難しくない。平均点をマーチしている奴が本気で勉強して入れるレベルだ。だから努力さえ出来れば入学出来るようになっているのだが編入試験となると話は別になる。
『校長の地獄試験』、これが編入試験に付けられた名だ。試験内容は3つ。筆記試験、面接、体力テストだ。
男女によって体力テストでは分けているものの平均的の女子では到底無理なクリア基準。筆記試験や面接でも校長の悪戯という恐ろしい引っ掛けが多数含まれているらしい。
何故知っているのかというとこの学校が設立してすぐに他の学校から転入したいという要望がかなりあったみたいで話題になった。その時に行われた試験を受けた20人が全員落ちた程だ。
そんなスパルタなのか何故なのかというと、校長曰く編入するにはそれ相応のレベルがなければ我が高校には必要がない。それに簡単に入れると思われないようにするという意図らしい。
まあ言ってることはキツいが一旦入れば卒業までしっかりと面倒を見てくれる所は良い校長だと思う。
その難関の編入試験をクリアしたというのだからこの驚きは当たり前だと思う。俺たちの驚きように予想していたといった様子で話は進んでいった。
「驚いてる途中ですが転校生を廊下に待たせているためもう呼びますね。」
「えっ!?ちょっ、先生心の準備が」
「では入ってきてください。」
男子の一人が言った言葉を無視してかけた言葉により転校生が教室に入ってきた。全員がその転校生を見て静かになった。いや、見惚れていたと思う。
一目に見て女性だというのは分かった。驚いたのは彼女の完璧過ぎる容姿だった。濃い紫の長髪に蒼瞳、そして何もかもに興味がないよなうな無表情でありながら人として整いすぎてると感じる程の容姿。
まるで等身大の精巧な人形を見ているような気分になった。
「咲野唯といいます。これからの二年間、宜しくお願いします。」
あまりにもシンプルな自己紹介にクラスメイトたちは我に帰って、皆思い思いの仕方で転校生に拍手をしていた。その拍手の渦に気にしないまま東花の横に座った。
東花も隣ということで咲野さんと言葉を交わしていた。
しかし、そんな状態で俺は皆のように拍手が出来なかった。ある一つの事が頭に引っ掛かったためである。しかし、それは言葉では表現出来ない物でしこりを残したままホームルームが終わった。
一時間目が終わって休み時間に入った時、どこから噂を手に入れたのか転校生を人目見ようと大勢の生徒が廊下から咲野さんを見ていた。けど今はうちのクラスのメンバーが咲野さんに質問をしているため中々見えない。残念だが時間を改めてくればいいんじゃないのかと思う。
「どこから来たの?」
「遠いところから」
「好きな食べ物とかある?」
「りんご」
「ねぇねぇ咲野さんは……」
しっかり受け答えはしてくれているみたいだが結構ツラいよなあの質問攻めは。頑張れよ、と心の中で咲野さんには届かないエールを送った。俺と同じことを思っているのは一人だけではなく理央も同感らしい。
「今日学校に来たばかりなのに大変そうだね咲野さん。」
「確かにな。でもこの学校に転校生が来ることが滅多にないことだしな。咲野さんにはこの質問攻めに耐えてもらうしかない。」
「そう思うんだったら、恭也が咲野さんを助けてあげればいいのに。」
俺にこの団体を止めろという言葉に無茶を言うなよと理央に苦笑いしながら言ってからも咲野さんの話をしていた。
「咲野さん綺麗だよね~、何だかお人形みたい♪」
「なんだ、理央は咲野さんみたいなのがタイプなのか?」
「へっ?ち、違うよ!綺麗だとは思ったけど好きとかタイプとかじゃないから!」
「へ~、じゃあ理央のタイプは誰なんだ?」
「えっ、そ、それは……」
キーンコーンカーンコーン
「あっ、チャイムが鳴ったみたい!この話はお仕舞い!」
「ん?お、おう」
またはぐらかされたな。理央とは親友なんだがそういう色恋沙汰関係では全然話してくれないんだよな。しかし、奈々にはそういう話を良くするみたいだが。……俺に彼女とかの経験がないからとかじゃないよな。
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昼前の授業が終わり昼食の時間だ。好きな所へ行って飯を食いに行くように次々と教室を出ていく。東花高校は大学並みの広さがあり広場やベンチ等が並べられている所が多くある。
そのため教室で食べる生徒はほとんどいない。誰だって狭い教室で食べるより気持ちの良い外で食べた方が良いに決まってる。
けど俺は外まで行って食べようとは思わない面倒臭がりなタチなので、昼食に付き合ってくれる理央と奈々の三人で大体は教室で弁当を食べている。隣に奈々が座り、前に理央が座っているの。
この食事風景は一年前から変わっておらず三人でのんびり食べていたのだが、この日は俺たちの以外にもう一人教室に人がいた。
言わずもがな転校生の咲野さんだった。昼食の時も女子のクラスメイトから誘われていたが全て断って一人で食事を取ろうとしていたのだ。
一緒に食べないかといえる程初めて会った女子に気軽に誘えない自分に情けなさを感じていると、隣に座っていた奈々が咲野さんに声をかけた。
「咲野さん良かったら一緒に食べない?席もこんなに近いことだし、ね?」
今日初めての転校生相手にそこまですらすら喋れるとは。こちらをむいている奈々に『流石だ!』とアイコンタクトで伝えるとウインクで返された。初めてこのウインクを見た男子は確実に落ちるだろうな、間違いない。
奈々の返事にどう反応するのかと咲野さんの方を見た瞬間に俺と目が合った。ビックリしたが金縛りにあったようにその目から目線を逸らせなかった。
(え、身体が動かない?咲野さんが俺を見ているのが原因なのか?……まさかな。)
「……そうね、それじゃあお邪魔させて貰ってもいい?」
「どうぞ♪皆で食べた方がご飯は美味しいからね!」
咲野さんが奈々の方を向いた瞬間に金縛りのようなものが解けて軽くふらついてしまった。なんだったんだ今の?
「どうかした恭也?」
「えっ?あ、いや何でもない。」
咲野さんは奈々の言葉を聞いて理央の隣に座った。座り方も椅子に座っているだけなのに言葉に出来ないような気品を感じられた。東花と同じで何処かのお嬢様なのか?
「私たち咲野さんに自己紹介してなかったよね。私は白河奈々。宜しくね咲野さん。」
「あっ、私は神崎理央。咲野さん宜しくね。」
「俺は華園恭也だ。宜しく。」
俺たちの自己紹介を聞いてから宜しくと一言咲野さんは言った。そこから昼飯も再開したのだが、咲野さんがお弁当を開けた時、奈々がいきなり声を上げた。
「わあ!咲野さんのお弁当凄く可愛い!」
気になって咲野さんの弁当を見るとそこには猫の顔をしたオムライスがあった。成る程、これは確かに可愛いな。ん?もしかして……
「あのさ、咲野さん。もしかして皆の誘いを断ったのってその弁当だったから?」
疑問に思っていたことを口にすると何も喋らず顔を林檎のように赤くなって頷いた。……これはズルい。と思うと同時に今日初めて咲野さんが無表情とは違う表現が見せてくれた。
そんな咲野さんの行動を見て奈々は可愛い!と言って咲野さんに駆け寄り抱き付いていた。理央は咲野ではなく弁当を見て欲しそうな顔をしていた。オムライス好きなのか?
それから食事をしながら四人で世間話をしていた。すると、自分が思っている以上に咲野さんは面白く優しい人なんだと感じられた。最初に見た時の人形を見ていたような感覚はいつしか無くなっていた。
食事を終えて四人で話していると咲野さんが言った。
「私のことは唯でいい。三人には名前で呼んで欲しい。」
「分かった唯ちゃん!私も奈々って呼んでね」
「私も理央って呼んで唯さん。」
「俺も恭也でいい。」
「……恭也」
「うん?なんだ?」
俺の名前を呼んで唯はじっと俺を見ていた。唯の目を見ているとその瞳に吸い込まれそうな程黒いなと感じた。
「初めて男の子を名前で呼んだから。」
「へ~そうなのか。」
まあ、そういう子もいるよな。あんまり俺からは意識しないほうがいいかもな。その後チャイムが鳴り授業が始まった。
そして、昼食時の謎の金縛りのことはその時すでに何故か(・・・)忘れていた。
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帰りのホームルームの号令が終わり、すぐに帰っていく奴や掃除当番が仕事をしている姿がちらほら見られた。帰りはいつも奈々と帰っているが、今日は東花と買い物に行くらしい。
久し振りに一人で帰るなと思っていると、担任に引き留められた。その隣には唯がいた。どうしたんだ?
「恭也君、これから何か用事がありますか?」
「えっ?別に用事は無いですけど?」
「なら良かった、私はこれから職員会議がありまして咲野さんの学校案内が出来ないのです。ですので、咲野さんが仲が良いと言っていた君に案内をして欲しいのですが構いませんか?」
ああ、唯はまだ学校の中を知らなかったんだよな。そういうことならと喜んで受けた。
「そうですか、良かった。では咲野さんのこと、宜しくお願いしますね。」
「分かりました、唯のことは任せてください。」
頼もしいですねと笑いながら職員室へ向かっていった。まあマイペースな先生だが俺たちのクラスを持ってる先生だからな、忙しいんだと思う。俺には分かるはずの無い大変さなんだろうな。
そんなどうでもいいことは置いておき、唯の方を向いた。どうやらずっと俺のことを見ていたらしく目が合った。
「じゃあ、順番に回っていくか。」
「うん、宜しく……恭也」
「おう」
それから大まかな場所を二人で回っていった。学校がでかすぎて隅から隅まで回るのは大変なので、目に入る程度で説明していった。唯も流石編入試験を受けたこともあって俺の分かりにくい説明を聴きながらしっかりと理解してくれた。
体育館に音楽室、美術室に各学年の廊下や生徒会室等。これから用事があって行きそうな所は全て教えていった。ずっと真面目に説明するのも何だと思い唯の前の学校はどんな所だったのか聞いた。
「唯が前に通っていた学校はどんな所だったの?」
「私の?」
「ああ、ちょっと気になってな。」
「……ここより、全然設備が整ってなくて人もこんなにいなかった。」
「……そうなのか。」
前の学校の話をしている時の唯の顔は先程より暗い顔をしているように見えた。これ以上追及するのは流石にマズイと思い、うちの学校の変わった七不思議といった楽しい話題に変えて雰囲気を変えようとした。
「この学校は建って一年ぐらいしか出来てないけど七不思議があるんだ。」
「七不思議?」
「ああ、七不思議といっても怖いのじゃなくて変わってる七不思議かな?」
「……どんなのがあるの?」
「ああ、例えばな……」
そのお陰か、暗くなっていた唯の顔も少し明るさを取り戻したように見えた。唯には前の学校については極力話さないようにしないとな。
日が傾き、夕暮れが沈みかける時にようやく最後の案内場所に着いた。普段生徒が滅多に入らない屋上だ。
「……綺麗」
「ここから見える夕焼けは本当に綺麗だよな。俺のお気に入りの場所なんだ。」
「恭也のお気に入りの……場所」
「ああ、この夕焼けを唯に見せたかったんだ。」
東花高校の屋上は門が閉まる18時半まで空いている。一年の時に、俺が学校に忘れ物したついでに奈々と一緒に屋上へ来た時にこの夕焼けを見つけたのだ。
ここで見た夕焼けが本当に感動的で、その時から俺のお気に入りの場所になった。それから時々一人でもここに夕焼けを見ることがある。
あの時に見た夕焼けを見て、この学校に入って良かったと心から思ったんだ。昔のことを思い出していると、夕焼けを見ている唯が顔を動かさないままふと呟いた。
「……私もここ、お気に入りの場所にしてもいい?」
「ん?別に構わないと思うぞ?気に入ったなら。」
「うん……分かった。」
夕焼けを見ている唯の横顔を見ると初めて微笑んでいる顔を見た。その笑顔は本当に綺麗で、思わず見惚れてしまい唯の顔を見れなくなった。
「恭也?どうかしたの?」
「え?いや、何でもない!」
「ん?、そう?」
唯が俺のことを奇妙に思いながら、俺は唯の顔を見れない理由から微妙な雰囲気が続き、お互い簡単な言葉しか掛け合わせずそのまま校門まで一緒に向かった。
「じゃあ、私はこっちだから……またね」
「ああ了解。また明日な、唯。」
そういって俺は帰り道を歩こうとすると唯に腕を掴まれた。ふと唯の方を見ると腕を掴んだままその場で俯いてた。
(どうかしたのか?)
「……恭也」
「ん?どうした?」
「もし私が………何でもない、それじゃあ。」
唯は何か話そうとしたがそのまま話さず、腕を離してそのまま帰っていった。その背中は優雅でありながら悲しくも感じる姿だった。
(唯のやつ、もし私が?って言ってたが、なんだったんだ?)
心の中にもやもやが出てきたときに唯と初めてあった時に感じたしこりが同じだと分かった。けど、それが何なのかは今の段階では俺には分からなかった。
「さて、今は何時かなっと……あっ、やべぇ」
携帯を開いてみると着信記録が15件も来ていた。その着信は親父と奈々からの交互の着信だった。やべぇ、これは早く帰らないとマズイ!
携帯を閉じて猛スピードで家に向かった。
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ガチャ
「はぁはぁ、ただいま~」
「「遅い!」」
家に帰ってきた直後に親父と奈々から責められた。これはなんとか回避しないと。
「わ、悪かったって。帰る前に先生から唯に学校を案内するように言われたんだよ。」
「えっ?そうだったんだ。後で唯ちゃんに聞いてみよ。」
「えっ?誰その唯って子?恭ちゃんの新しいお友だち」
「まあ、今日転校してきた咲野唯って子だよ。」
二人に本当のことを話してから靴を脱ぐ。上手く怒りゲージは下げれたみたいだ。奈々、お前いつの間に唯とメアド交換したんだ?
唯のことを親父に簡潔に話しながらリビングに入ると、クリームシチューの良い香りがした。その臭いに腹が鳴るとキッチンから声が聞こえた。
「あら、おかえり恭也君。お邪魔してるわよ。」
「ただいまです。美咲さんも来てたんですか?」
「ええ、奈々が恭也君の家で食べるって言って聞かないからついでに私も付いてきたのよ。」
笑いながら美咲がクリームシチューを作っている姿は珍しくもない光景だ。白河家とは週に何度か一緒に食事を取ることが多い。二つの家で唯一の男手である俺がいるため心強いし安心できるかららしい。
こそばゆい理由だけど、女性に頼られるのは悪い気分にはならない。それに、お互いの家が隣接しているのも理由だと思う。
「ありがとうございます。美咲の作ってくれた料理は美味しいんで、凄く楽しみです。」
「あらあら、それならお風呂でも入ってご飯まで待っててね。」
「はい、先に頂きます。」
「私が作ってなかったら背中ぐらい流してあげるんだけどね。」
「それは楽しみにしときます。」
「「ちょっと、二人だけの雰囲気作らないで!私達もいるんだよ!」」
美咲さんと話していると親父達から物凄い攻め詰められたので、分かってるよと二人を宥めてから風呂に入ることにした。走ってきたから早めに入りたかったから丁度よかった。
もしかして美咲さんそれを想定して言ってくれたのか?……流石奈々が目指す完璧主婦だな。美咲さんには恐れ入ります。
~入浴中~
ふぅ~、さっぱりした~。ん?入浴なんて一人なんだし何にもなかったぜ。てか、男の入浴シーンなんて誰得なんだよ。
身体を冷やすためにリビングに行くと親父と奈々が20時からのゴールデン番組を一緒に見ている。どうやらお笑い芸人がドッキリを仕掛けられる番組らしい。二人ともテレビを見て爆笑している。
(あの二人の所に行くと確実に巻き込まれるな。)
危険を察知して二人から気づかれないように遠回りに歩き、美咲さんの所に行くとクリームシチューを夕食を並べながら爆笑している二人を見て苦笑いしていた。
「美咲さん俺も手伝いますよ。」
「あら恭也君、お風呂からもう出たんだ。」
「はい、とっても良い湯加減でした。」
「ふふ、それは良かった。じゃあ手伝ってくれるなら、手伝ってもらおうかしら。」
「任せてください!」
美咲さんに食事をカウンターに置いてもらいテーブルに次々と並べていく。今日の夕食はクリームシチューにトーストで焼いたパンにツナサラダだ。見ているだけでお腹が減ってきた。
「二人とも、夕食が出来たわよ~」
「「は~い」」
美咲さんの声で二人はテレビを消してテーブルに着く。席はいつも親と子で別れて座っている。俺の前に親父、奈々の前に美咲さんといった感じだ。
「それでは、頂きます。」
「「「頂きます。」」」
始めにメインのクリームシチューを食べてみると野菜が食べやすいサイズで沢山入っており、しっかりと鶏肉を煮ていたのかとても柔らかくなって食べやすく美味しい。
パンもトーストで焼いたものの直前で焼いたことで手で持った時に持てる程度の暖かさがあり、口に入れるとフワッとした食感が一杯に拡がった。クリームシチューに浸けて食べればパンにクリームシチューの味が染み渡り、その美味しさは数倍に感じた。
大きめの皿に盛られたシャキシャキの野菜が入っているツナサラダを小皿に分けて好きなドレッシングで頂く。俺はいつも胡麻ドレッシングを使っている。旨いよな、胡麻ドレッシング。
親父達も美味しそうに美咲さんの料理を食べている。美咲さんは上手く出来てると小声で言って食べながら親父達の食べている姿を嬉そうに見ていた。気付けば豪華に並べられていた食事は綺麗に無くなった。
「「「ご馳走さまでした。」」」
「ふう、食べた食べた。」
「本当だね恭ちゃん、美咲の作った料理はいつも食べ過ぎちゃったよ。」
「当然だよ!だってお母さんの手作りご飯だもん!」
親父と美咲さんの料理について話していると奈々が誇らしげに言った。この中で一番美咲さんの料理を食べてるのは奈々だ。そりゃあこんだけ美味しいなら誇れるよな。まあ、うちの親父も美咲さんに負けないぐらいの料理センスがあるんだけどな。
「三人揃って誉めても何も出ないわよ。」
「お世辞とかじゃなくて、本当に美味しいから言っただけだよ美咲!」
「もう奏ったら、知ってるわよ全く。」
親父が美咲さんに直接誉めると美咲さんも満更でもないような顔をしていた。この二人は俺と奈々が物心着く前からのかなり親友だ。今まで親父達ほど仲のいい親友は見たことはない。
俺も奈々達とは何歳になってもずっと親友の仲でいたいもんだ。
今、後片付けは美咲さんと奈々がしてくれている。最初は俺と親父がすると言っていたのだが、美咲さんが家にお邪魔したお礼と言ったのでその言葉に甘えさせてもらうことにした。
「よし!食器洗い終わり!恭君、一緒にテレビ見ようよ。」
食器洗いが終わったのか後ろから奈々が飛び付いてきた。こいつ実は俺の心臓を止める気かという勢いで抱き付いてくるので恐ろしい。
「その突然の抱きつきはやめてくれ心臓に悪い。別にいいんだが時間大丈夫か?」
「へ?あっ、もう9時か~」
外を見ると辺りは暗くなっており人通りも無くなっていた。住宅街なため街灯の光が窓から微かに見えていた。すると、手を拭きながら美咲さんも俺の横から窓を覗いた。美咲さん、顔が近いって!
「あら、もう暗くなってるわね。そろそろ帰ろうかしら。」
「ええ~、もう帰るの?」
「明日も学校があるんだから用意しないと駄目でしょ?」
「そうだけど~」
美咲さんが奈々に言っても家に帰るのを渋っているので、奈々に提案を出した。
「なら、今週の土曜日に泊まればいいんじゃないか?」
「え?いいの恭君!」
「今更だろ?奈々がうちに泊まりにくるのは。」
「うん、まあそうなんだけどね。」
「奈々が土曜日恭也君の方に泊まってくれるなら夕食を作るのが楽になって助かるわ。」
「もう、お母さんまたそんなこといって。」
美咲さんの嫌みに反論しながらも泊まれることが嬉しいのか顔は笑顔のままだった。いつも俺に何も言わずにいつの間にか泊まっているのに俺からしたら今更なんだよな。そんなに嬉しかったのか?
美咲さんと奈々が着替えてから二人を玄関まで見送りしに一緒に来た。
「それじゃあ恭也君、奏もお休みなさい。」
「恭君また明日!奏さんも!お休みなさい。」
「お休みなさい~♪」
「二人ともお休み」
二人に手を振って家に入るのを見送った。うちの関係を地域の方は皆知っているので変に思う人は近くにはいない。周知の上で関係を続けている。本当に地域の皆にはお世話になっていると思う。
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二人を見送った後リビングに戻りまたテレビを見始めた。親父は夜二人でいる時はよく俺に持たれたかかることが多い。
どうやら俺が近くにいると落ち着くらしい。小さい頃からずっとされ続けたせいかこのことに全然気にしなくなっている。
まあ、誰かにこのことを話すことは絶対にしないと思う。されてる時は対して何も思わないが、誰かに言っても可笑しいと思われるのは分かってるからだ。奈々から散々親父と俺は仲が良すぎると言われたからな。
「ねぇ、恭ちゃん~」
「ん?なんだよ親父。」
「……恭ちゃん大きくなったね。」
「俺も16なんだ、嫌でもでかくなるよ。」
「……うん、そうだよね♪」
本当にありふれた言葉。だけどふたりっきりの夜には親父はとてもいとおしそうに俺に語ってくる。例え俺が何歳になろうとも親父とって俺は子供なんだろう。少なくとも親父はそう思っているはずだ。
「ねぇ、恭ちゃん。」
「うん?」
「明日はね…もっと楽しくなると…いい……スゥスゥ」
どうやらそのまま親父は眠ったみたいだな。今日は仕事を早く終わらせようとして疲れたみたいだな。親父は見た目は小さな女の子なのに精神的にはしっかりとした大人なため、見た目以上に厄介ごとを全部自分で背負おうとしてしまう悪い癖がある。
俺が悩み等がないのかと聞くとたまに話してくれることもあるが、大抵ははぐらかされて話してくれることはなかった。美咲さんは何か知っているみたいだけど、悩みは親父が直接話してくれるまで深く追及しないようにしている。
今は、ほんの少しの悩みでも親父の負担を減らせれるなら全力でその悩みを解決してやるだけことが親父に対する親孝行だと思う。
親父がまだ寝ているか確かめるとどうやら熟睡しているようだ。今は親父を布団に寝かせよう。
二階に登った所の右が親父の部屋だ。その反対側は俺の部屋になっている。扉を開けるとピンク色を中心としたカーテンや壁に可愛らしいぬいぐるみ達が机やベッド等に置かれている。相変わらず親父のぬいぐるみ好きは変わらないみたいだな。
ベットに親父を寝かせて掛け布団を身体に被せた。
「ううん、恭ちゃん~……スゥスゥ」
「!?……なんだ、寝言か。脅かせないでくれよ。」
「ふふふ、もう食べられないよ美咲~」
「どんな夢見てるんだよ親父は……お休み親父。」
親父に声を掛けてから部屋を出ようとすると……
「お休み、恭ちゃん~」
「えっ?」
「スゥスゥ…スゥスゥ…」
寝言のようだったが、さっきの言葉ははっきりと聞こえた。しかし、親父を見ると先程と同じように目を瞑っていた。どうやら俺も疲れているようだな。さっさと寝るか。
2年になり転校生も来た。新しい日常に感情が昂りながら布団に入り、ゆっくりと瞼を閉じた。
現在主人公中心での視点を書いているのですが、他のキャラクター視点も必要かどうか検討しています。何かアイデアがあれば教えて頂けると幸いです。




