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家とは引きこもるためのもので、出会う場所ではない

 翌朝、タクの玄関には二人の影。もう一人より少し大きい人(といってもタクよりも小さいが)が扉をノックする。その音は、昨夜寝室にも行かずリビングにあるソファーで寝てしまったタクの耳に入った。

 (体がだるい。昨日よりしんどいくらいだ。痺れ薬は切れたはずだけど、気持ちの面もあるのかな)

 目覚めたタクは自身の不調に辟易としながらも、起き上がり玄関へと向かう。扉を開けた先には、熟女と少女がいた。

「スグル様、おはようございます。本日よりお世話になります、リンと申します。よろしくお願いいたします」

「スグル様、メイです。お願いします」

 昨日タクが奴隷商人にて買ったのは、夜の仕事ができる二人ではなくこの挨拶をしてきた二人だ。

「こちらこそ、よろしくです。とりあえず中へどうぞ。少し話しましょう」

 本当は、今は人とは話したくない気持ちでいっぱいのタクだが、今日来て貰うのは分かっていた為に家に入れ、ソファーへ通す。

 (今は人とあまり話したくない。悪いけどさっさと仕事内容決めて、関らないようにしよう)

「今日からよろしくお願いします。昨日冒険者になって名前がタク=コウジになりました。後、敬語とかは無理に使わないでください。お願いする仕事について説明します」

 タクの台詞に頷く二人。タクは仕事について適当に割り振っていく。炊事や洗濯はリン、清掃・庭管理や軽作業はメイがそれぞれ行う。メイはリンの孫というのは奴隷商人から聞いており、二人の住む小屋には一通りの物がそろえられてある。

 リンは五十代にしては若く見えるが、体力仕事は苦手。替わりに裁縫や代筆などはお願いできるようだ。

 メイは十一歳だが歳の割りにまじめで、体を動かすことは得意。文字などは理解できていないが、工作などもできるらしい。

「これぐらいかな。作業といってもそんなに量はないし、余った時間は自由に過ごしてくれていいよ。作業に問題なかったら、どっちかが残るなら昼は外に稼ぎに出てても良い。食事は保管庫から適当に食べてもらって良いよ」

「そんな好待遇で良いのかしら? 奴隷でそんな扱いとかは前代未聞ですよ?」

「かまいません。家のことをしてくれるのであれば、貯金をして将来自分を買い戻していただいて大丈夫です。その際はそのお金で次の方を買えばいいだけですから」

 タクの本心としては稼ぎに出ている間は家にいないし、買い戻しになったらお金が戻ってきていなくなるので、自分の都合が良いようにことが運ぶだけである。

「良い方に買っていただけて幸せです。精一杯努めさせていただきます」

「では、すいませんが昨日テーブルで食事をしたままなので、そこを片付けてから家の様子を確認して仕事に入ってもらえませんか? 僕はちょっと寝室で休んでいます。 あ、くれぐれも今テーブルに出てる飲み物や食事は口にしないでくださいね」

「はい。メイ、がんばりましょうね」

 リンたちが痺れ薬入りの食事を片付けに行ったのを見て、タクは二階の寝室に戻る。

 (なんでこんなに体調が悪いんだろう。異世界にまだ慣れていないのかもしれない。それに背中の怪我はポーションで治ったけど、傷跡があるのか仰向けで寝るのは寝苦しいな。)

 タクはベットの中に潜り込み、なんとなく冒険者カードを出す。嫌なことを思い出し更に憂鬱となるが、一つの項目を見て眉をしかめる。

 (魔力が七百五十になってる。疲れの原因はこれなのか? それとも疲れてるから減るのかな?)

 (……いや、いくらなんでも、魔力が減ったからってここまで疲労を感じないはず。ほぼ使い切ってそうなるならまだしも二割くらいでなんて、魔法で戦闘なんてできないよ。戦闘で魔法を使うのが想定されているこの世界で、魔力と疲労はそんな直結するような関係ではないはず)

 拠点やライアとの話から魔力の減少が疲労の原因ではないと当たりを付けたタクは、しかし両方の原因が分かっていないことに変わりは無く、他に思い当たることも無いため考えるのを辞める。

 (もういいや。とりあえず寝よ)

 冒険者カードをしまい丸まったタクは、そのまま夕刻にリンが夕飯を知らせにくるまで眠り続けていた。

 昨日までのタクであればリンたちと一緒に食事を取るつもりだったが、今は近くに人を置きたくないために二人には自分たちの小屋で食べるように促す。リンたちはもちろん了承し、逆に豪華な食事をもらえることに喜んでいた。

 昼に一日中寝ていたタクではあるが、疲労の回復は見られず、再度寝室で休むことにする。



 翌朝にリンが朝食を持ってタクを起こしにくるまで寝続けていた。体の疲労は取れず、魔力は七百になっていた。リンに水をためた桶を持ってきてもらい体を布で拭く。


 タクが寝込んで二日目。魔力は六百二十になった。タクの疲労は変わらず、リンが心配しているのをあしらう。今は誰とも話したくないようだ。


 三日目。魔力は五百五十。疲労は続く。タクが暇つぶしに見ていたカードのスキル欄をリンが見て『算術』の補正効果にある思考障害無効とはようは凡ミスしなくなることだとタクに説明する。


 四日目。魔力は五百二十。疲労は続く。ライアのことについて思考にふけったタクは食事やトイレなどを人がいない夜に行くようになった。


 五日目。魔力は四百九十。疲労は続くが、魔力の減りが少なくなった。人嫌いが悪化したタクは、できるだけリンも来ないよう伝えた。


 八日目。魔力は四百。疲労は続く。タクはライアを紹介したメリムも嫌いになった。


 十二日目。魔力は三百。タクは治った後の生活を考える。戦闘技能も武器も無いから詰んでいると考える。


 十五日目。魔力は二百。タクはあまりものを考えなくなった。


 二十日目。魔力は百。


 三十日目。魔力は十。


 三十一日目。魔力は九百。疲労は無くなった。

 (――――えっ?)

 今までずっと疲労が続き、このまま死ぬことすら考えていたタクは、毎日確認していたカードを見て驚く。脈絡無く体力も魔力も回復し、更に新しいスキルまで手に入れていた。

 (いやいやいやいやいや、なんでこんなスキルを?)

 驚きで頭が混乱して横向きに寝ていたままのタクの背後から、手が伸びてきてそのままタクの頭を抱きしめた。


 得たスキルは『譲渡(7)』  

 効果は、体力譲渡効果上昇 魔力譲渡効果上昇 肉体譲渡効果上昇である。


「効果こえーよ! リアル『僕の顔をお食べ』状態じゃんか!」


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